目次

  1. 株主総会資料の電子提供制度とは
  2. 中小企業が電子提供制度に対応するメリット
    1. 郵送作業の手間を減らすことができる
    2. 印刷・郵送コストを減らすことができる
    3. 株主に経営への関心をもってもらえる
  3. 電子提供制度の採用に必要な手続き
  4. 電子提供制度の運用方法
    1. 株主総会開催の3週間前までに株主総会資料をウェブサイトに掲載
    2. 株主総会開催の2週間前までにウェブサイトのURLを通知
    3. 書面交付請求があった場合は、株主総会開催の2週間前までに資料を提供
  5. 電子提供制度を採用・運用するときの留意点
    1. 電子提供措置をするウェブサイトの不具合に注意
    2. 株主に事前に知らせる
    3. 動画の説明のみはNG
  6. 電子提供措置を導入して株主総会をDX

 株主総会資料の電子提供制度とは、定款の定めに基づき、株主総会参考資料等を自社のホームページなどのウェブサイトに掲載したうえで、株主に対し、そのウェブサイトのアドレスなどの通知をもって、株主総会資料を提供をしたとみなす制度です(会社法325条の2以下)。

 株主総会参考資料等には、株主総会参考資料のほか、議決権行使書面、事業報告および(連結)計算書類が含まれます。

 株主総会参考資料と議決権行使書面は、株主総会に出席しない株主が書面や電磁的方法によって議決権を行使できる旨を事前に決めていた場合、株主総会の招集通知の際に交付する必要がある書類です。前者の資料には株主の議決権の行使について参考となるべき事項(定款の変更や取締役の専任など)、後者の資料には実際に議決権を行使する内容が記載されます(会301条1項)。

 事業報告とは、その名の通り事業に関する報告であり、取締役が定時株主総会で行わなければならないとされています(会社法438条3項)。

 また、計算書類とは、貸借対照表や損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表をいいます(会435条第2項、計規59条第1項)。計算書類については、定時株主総会の承認を受けなければなりません(会社法438条2項)。

 株主総会資料の電子提供制度は、2019年に行われた会社法の改正(「会社法の一部を改正する法律」および「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の成立・公布)に伴い、新たに創設された制度です。

 改正法によって決められた他の制度や決まりの多くは2021年3月から施行されていますが、本制度については2022年9月1日から施行となります。具体的には、2023年3月以降に開催される株主総会から電子提供制度を利用することができます。

株主総会資料の電子提供制度とは
株主総会資料の電子提供制度とは(デザイン:増渕舞)

 会社法改正によって創設された株主総会資料の電子提供制度ですが、上場会社はその利用が義務化されています。一方、非上場会社は任意であり、それゆえか中小企業経営者から採用したほうがよいのか判断しかねている、という声を聞きます。

 非上場会社である中小企業が電子提供制度に対応した場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。一般的に言われているのは、次の3つです。

  1. 郵送作業の手間を減らすことができる
  2. 印刷・郵送コストを減らすことができる
  3. 株主に経営への関心をもってもらえる

 株主の人数分の株主総会参考資料等を印刷する、袋詰をする、郵送する作業は、人手不足に悩む中小企業にとっては大変な負担となる作業です。また、株主総会参考資料等を作成して郵送することは必須のことだと理解していても、利益に直結しない仕事に人手を割いて行うことにためらいを感じている経営者も多いのではないでしょうか。

 電子提供制度に対応すれば、自社のウェブサイトに掲載し、そのアドレスを通知するだけで済むので、郵送作業の手間を大幅に減らすことができ、人員不足でも対応が容易になります。

 株主総会参考資料等を作成して郵送することで無視できないのが、印刷・郵送コストです。分厚く、ときには100ページにもおよぶこともあります。このような書類を印刷するだけでも費用がかかりますし、郵送費も考えると、中小企業にとっては無視できないコストになっています。

 電子提供制度に対応すれば、これらの悩みからもすぐに解放されます。

 株主の中には、会社の現状を理解しておらず、コスト削減のような抽象的な要求ばかりしてくる人もいます。電子提供制度に対応すれば、会社はコストを気にせずに充実した資料を提供できるので、株主に会社の現状を理解してもらい、会社の経営に協力してもらいやすくなるメリットもあります。

 電子提供制度を採用するには、定款で電子提供制度を採用する旨を定めておかなければいけません(会社法325条の2)。定款を変更する場合は、株主総会の特別決議が必要です。

 どのような定めが必要となるのかについては、会社法自体に、定款には電子提供措置をとる旨を定めれば足りる(会社法325条の2)と簡単に規定しているだけですので、シンプルに以下のような定款とすれば足りるでしょう。

定款の例
【例①】会社は、株主総会の招集に関して、電子提供措置をとるものとする。
【例②】会社は、株主総会の招集に関して、会社法325条の2の電子提供措置をとるものとする。

 定款における電子提供措置は登記事項ですので、定款に定めるだけではなく、登記も必要となります。取締役の登記などをいつも依頼している司法書士に確認すると安心です。

 電子提供制度を実際に運用するときは、以下のような手続きを行うことになります。

 株主総会参考資料等の電子提供は、株主総会の日の3週間前(または招集通知の発送日のいずれか早い日)までに行います。この提供は、株主総会の日後3カ月を経過する日までの間、継続して行う必要があります(会社法325条の3第1項)。

 簡単にいえば、インターネット上の会社のウェブサイトに掲載し続けなければなりません(会社法施行規則95条の2)。

 ウェブサイトのどこに掲載すればよいのかについては決まりはありせんが、株主が閲覧しやすい場所に掲載しておく必要があります。

 株主総会を開催するときは、開催の2週間前までに日時・場所・議題が記載された招集通知を行う必要があります。電子提供制度を採用した場合は、その通知書面に電子提供措置をとっている旨とウェブサイトのアドレスなどもあわせて記載します(会社法325条の4)。

 電子提供制度を採用していても、株主から書面交付請求が来ることがあります。その場合は、株主総会開催の2週間前までに、電子提供している株主参考資料等を書面で交付しなければなりません(会社法325条の5)。

 最後に、電子提供制度を採用・運用するときに、一緒におさえておきたいポイントをご紹介します。

 ウェブサイトのサーバーの不具合などで、電子提供措置ができなくなった場合(電子提供措置の中断といいます)、以下の4つの要件を満たさないと、電子提供がされていなかったとみなされます(会社法325条の6)。

 この場合、株主総会決議が無効(不存在)になるリスクがあるため、自前サーバーでウェブサイトを運用している場合には要注意です。

「電子提供制度がされていなかった」とみなされないための4つの要件
1. 電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること。
2. 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の十分の一を超えないこと。
3. 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の十分の一を超えないこと。
4. 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと。

 株主からすれば、いままで株主総会参考資料等が郵送されてきたのに、突然廃止されれば困惑します。電子提供制度を採用する前に、電子提供措置を講じることになったことやウェブサイトのアドレスなどを株主に周知する必要があります。

 ウェブサイトに掲載する株主総会参考資料については、ダウンロードできるようにすることが必要です。そのため、例えば株主総会参考資料等の説明する動画をアップロードしただけでは電子提供になりません。

 上場企業で義務化された電子提供措置も、中小企業も運用のチェックポイントを守って運用すれば、コストや事務作業の手間の軽減につながります。

 世の流れはDXです。電子提供措置を導入して、株主総会のDXを検討してみてはいかがでしょうか。