KAPOK KNOTとは、インドネシアに原生する植物「カポック」の木の実由来の素材を中綿に使用したサステナブルジャケットを製造販売するアパレルブランドです。カポックの繊維は中が空洞になっており、コットンの1/8程度の軽さで、吸湿発熱機能もあり、鳥の羽毛を使わずに暖かいダウンを作ることができます。
コンセプトは、「つくる」と「つかう」をつなぐ店舗。素材や服が出来上がるまでの工程の一部を体験でき、生産者と消費者の境界線を曖昧にしようとしています。その目的について、深井さんは「来店数ではなく、ブランドのコンセプトにいかに共感してくれたのかが購買につながると考えているからです」と話します。
ブランド立ち上げ時に後押しとなったのは、クラウドファンディングでの販売でした。3年で集まった支援は5000万円弱。この経験をもとに、深井さんは「クラウドファンディングには成功パターンがあり、再現性があるのですが、ほとんどの人がやらない」手法を明らかにしました。
それは、まず目の前で「欲しいと思う人」を見つけることでした。もし、目の前で買いたい人を100人見つけることができれば、少なくともその3倍は売れるというのが深井さんの実感だといいます。
GOOD LIFEフェアで講演する深井喜翔さん(右)
では、目の前で欲しいと言ってくれる人はどれだけいるのでしょうか。それを確かめるために「足で稼ぐこと」から始めたといいます。最初にサンプルとして、メンズ・レディースで各2色、合計4着のカポックのコートをスーツケースに持ち歩き、毎日、知人を訪ね、フィードバックをもらい続けました。
「知り合いに面と向かってフィードバックはなかなか聞けないですし、こわいと感じます」。それでも、続けるうちに、仲間になってくれる人、応援したいという人が少しずつ増えてきました。
深井さんは「知人に勧める延長線にクラウドファンディングがある」と考えているといいます。壁打ち、フィードバックを何回も繰り返し、興味を持ってくれない場合はなぜかを突き詰めて、ようやく商品に熱量が伝わるのだといいます。
KAPOK KNOT MIYASHITA PARKに展示されているカポックを使ったアウター
フィードバックを受けるなかで、KAPOK KNOTの見込み顧客を年代、性別などで絞り込む「セグメント」はしないという方針を立てることもできました。
「コートだからといって、40代サラリーマン男性向けのマーケティング戦略では成り立たなかったでしょう。性別や年齢ではなく、Farm to Fashionで裏付けられた、本気の熱量で作ったものを着たいと思ってくださる人が世の中にはいる、ということを事前に知ることができました」
会社の「格」ではない時代 コラボするためのPR戦術
KAPOK KNOTは、PR手法としてコラボにも力を入れています。深井さんは「これまでは売上規模や上場の有無など会社の”格”が重視されてきました。しかし、今はSDGsという同じ目標に向かっていればコミュニケーションが取れる社会にシフトしつつあります」と話します。
その一例が、米Time誌に「世界一快適な靴」と紹介されたこともあるサステナブルなシューズを取り扱う、アメリカ・サンフランシスコ発のスタートアップ「Allbirds(オールバーズ)」とのコラボイベントです。
オールバーズは、脱炭素社会を実現する取り組みとして、商品のカーボンフットプリントやライフサイクルアセスメント(LCA)ツールの公開などに取り組んでいます。
KAPOK KNOTは、オールバーズが公開したLCAツールを活用して自社アウター全製品のカーボンフットプリント(CO2・温室効果ガス排出量)を算出し、コラボイベントも開催しました。
KAPOK KNOTのカーボンフットプリント(KAPOK JAPAN提供)
勢いある海外ブランドとどうやってコラボを実現させたのでしょうか。深井さんは「何のためにLCAツールを公開しているのか」を考え、オールバーズ自身が「本気で世界を変えたい。だからこそ、このツールを公開し、共感してくれる仲間を探そう、という意思表示なのだ」と考えたといいます。
そこで、LCAツールをKAPOK KNOTで活用することを決め、「発表に協力いただけませんか?」と声をかけてコラボイベントが実現したといいます。
ほかにも、2022年10月25日から、動物愛護に関する発信や活動を行いながら、ファッションへの強い興味、関心を持つ俳優・二階堂ふみさんとコラボして、オリジナルのアウターを開発し、数量限定で受注生産を始めました。
KAPOK KNOTは、俳優・二階堂ふみさんと共同制作したアウターを数量限定で受注販売する。Animal Free Down: TRENCH / ベージュ / Women Price: 88,000円(税込)
深井さんは「SDGsは1社だけでは実現することができません。SDGsに真摯に向き合えば、コミュニケーションが取れることを証明できたのではないでしょうか」と話します。
KAPOK KNOTが目指す「質素倹約」ではないサステナブル
ブランド立ち上げから3年。こうした事例を積み重ねてメディアにも多数紹介され、KAPOK KNOTの知名度は上がってきました。
GOOD LIFEフェアで講演する深井喜翔さん
トークイベントでは、深井さんは最後に今後の向かう方向について明らかにしました。「質素倹約ではなく、あたらしいラグジュアリーを作らなくてはと考えています」。心が豊かになるラグジュアリーとサステナを両立し、世界に向けてさらに発信していく予定です。
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