目次

  1. 自動点呼とは 国交省が実施要領を公表
    1. 認定機器の準備
    2. 運輸支局長などへ事前の届出
  2. 自動点呼はいつから始まる?
  3. 自動点呼の条件・要件 導入は「乗務後」のみ
    1. 使用機器・システムが満たすべき要件
    2. 実施場所が満たすべき施設・環境要件
    3. 運用上の遵守事項
  4. 国交省が実施した実証実験とは 点呼ロボ「ユニボ」を活用
  5. 今後の検討方針 「乗務前」点呼の自動化も議論
  6. 全日本トラック協会、会員向けに導入費用の一部を助成

 自動点呼とは、運送業の安全確保のため、原則対面での実施が義務付けられているドライバーの点呼に、ロボットなどの点呼支援機器を活用することです。

 道路運送法と貨物自動車運送事業法では、旅客や貨物を輸送する運送事業者に対し、国家資格を持った運行管理者を営業所ごとに一定数以上選任しなければならないと定めています。

 運行管理者は、乗務前後のドライバーに対し、酒気・疾病・疲労の確認や必要な指示をするための点呼を対面で実施しなければなりません。

 近年、運送業界では、労働環境の改善や人手不足の解消に向けた対策が必要になってきており、その手段としてICT機器の活用が注目されていました。

 そこで国交省が2021年3月、専門家による「運行管理高度化検討会」を立ち上げ、原則対面だったドライバーの点呼の自動化について検討してきました。

2023年1月から開始する運送ドライバーの自動点呼の制度概要

 検討会で、機器に求められる性能を議論したり、実証実験を重ねたりした結果、条件付きでの自動化を認める方針を決めました。

 国交省は2022年12月20日、乗務後自動点呼実施要領(PDF方式)を公表しました。実施要領の概要は次の通りです。

 事業者は、国交省の公式サイトで公表された認定機器のうち、有効期間内のものを用いることで乗務後自動点呼ができます。

 乗務後自動点呼要領に基づき、自動点呼を始める予定日の10日前までに運輸支局長などへ事前届出を出す必要があります。届け出用紙は国交省の公式サイトでWORD,PDF方式により公表されています。

 国交省は乗務後自動点呼のベースとなる点呼機器の認証制度創設に向けた準備を進めており、2022年中に制度を構築し、2023年1月から運用を始める計画を、運行管理高度化委員会の中で示しました。

 乗務後の運転者に対する点呼の実施要領を公表し、点呼機器の認定が始まりました。自動車運送事業者は、認定された機器を用いることで、乗務後自動点呼を実施できることになりました。

条件付き乗務後自動点呼の導入スケジュール(2022年9月28日、国交省「運行管理高度化検討会」の資料から)https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001489305.pdf

 今回の制度改正では、これまで原則対面だった点呼の自動化が全面的に認められるようになるわけではありません。一定の要件を満たした状況でのみ、認められるようになります。

 これについて国交省は「点呼は輸送の安全を担う運行管理の要であって、その確実性が損なわれるものであってはならない」と指摘しています。(2022年3月23日、国交省「運行管理高度化検討会」での資料「乗務後自動点呼の制度化に向けた最終とりまとめ」<PDF方式>から)

 自動化はまず「乗務後」の点呼でのみ認められるようになります。「乗務前」の点呼はまだ認められず、これまで通り運行管理者が対面で実施しなければなりません。

 国交省は「運行の可否について総合的な判断が必要となる乗務前点呼と比較し、実施項目が少なく実現が容易な乗務後点呼から自動点呼の導入を進めることとする」としています。(2022年3月23日、国交省「運行管理高度化検討会」の資料「乗務後自動点呼の制度化に向けた最終とりまとめ」<PDF方式>から)

 また、国交省は今回認める自動点呼を「条件付き点呼自動化」と位置付けています。点呼で必要な内容はすべて機器が確認・指示するものの、非常時には運行管理者が対応できるような体制を整えることが求められています。

乗務後自動点呼の概要(国交省の公式サイトから引用 https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000535.html)

 その上で国交省は、自動点呼の確実性を確保するための3つの条件を設定しました。

  1. 乗務後自動点呼に使用する機器・システムが満たすべき要件
  2. 乗務後自動点呼を実施する場所が満たすべき施設・環境要件
  3. 運用上の遵守事項

 各条件の主な内容は次の通りです。

 自動点呼に使う機器・システムには、内容の記録やなりすましの防止対策、非常時の通知ができる機能を備えなければならないとされています。

  • 酒気帯びの状況に関する測定結果の記録・保存ができる
  • 運転者が測定を行っている様子の静止画または動画の記録・保存ができる
  • 運行管理者が伝えるべき指示事項を、運転者ごとに伝達する機能を備える
  • 事前に登録された運転者以外の者が点呼を受けられないように個人を確実に識別できる生体認証機能(顔認証、静脈認証、虹彩認証など)を有する
  • 運転者の酒気帯びが検知された場合には、運行管理者が気付くように警報・通知を発した上で、点呼を完了させない
  • 運転者ごとに点呼を実施する予定時刻を設定することができ、予定時刻から一定時間を経過しても点呼が完了しない場合には、運行管理者が気付くように警報・通知を発する
  • 点呼を受けた運転者ごとの結果の記録を1年間保持できる

 自動点呼の実施場所については、不正な点呼がなされないような環境を整える必要があるとされています。

  • なりすましやアルコール検知器の不正使用、所定の場所以外での点呼実施を防ぐため、運行管理者が随時確認できるよう監視カメラを設置する

 事業者や運行管理者には、必要な情報を運転者に周知したり、適切な点呼ができる体制を整えておいたりすることが求められています。

  • 事業者は、自動点呼に用いる機器が正常に作動する状態を常に保持する
  • 事業者は、所定の場所以外で自動点呼が行われるのを防ぐため、使用機器を持ち出されないように措置を講じる
  • 運行管理者は、各運転者の自動点呼の予定・結果を適切に確認し、点呼の未実施を防止する
  • 酒気帯びが検知された場合には、運行管理者が適切な措置を講じることができる体制を整備する
  • 機器の故障などで自動点呼の実施が困難になった場合には、運行管理者に申し出ることを運転者に指導する
  • 運転者の認証機能に必要な生体情報・個人情報を扱う場合には、事業者が対象者から同意を得る

 国交省は自動点呼の導入にあたって、使用する機器の性能要件を見極める目的から実証実験を実施しました。

 実証実験には、ナブアシスト社の「Tenko de Unibo」(ユニボ)というロボットを活用しました。ユニボは、免許証リーダーやアルコール検知器といった他の機器と連携させることにより、本人確認や酒気帯び状態のチェック、予め設定した指示事項の表示ができる装置です。

ユニボを活用した実証実験の概要(2021年9月28日、国交省「運行管理高度化検討会」の資料から)https://www.mlit.go.jp/common/001412131.pdf

 実験には全国各地のバス、タクシー、トラックの19事業者が参加し、2021年9~11月にかけて実施されました。国交省は、参加した各事業者へのヒアリング結果として次のような意見を公表しています。

  • 点呼を「補助」するという点では役に立ち、負荷も減ると思われる
  • 点呼支援機器に定型的な点呼を任せることで、運行管理者は運転者との会話の量を増やしたり、携行品の確認など別の仕事をしたりできる
  • 点呼記録が自動で保存されることで、確実性の向上、業務負荷の低減を感じる
  • 機器異常時やトラブルへの対応は無人では不可能
  • 完全に無人化することでコミュニケーションが無くなってしまうことに懸念がある
  • アルコール検知器のなりすまし防止機能は強化が必要
  • 乗務後点呼を無人にすることで運転者に対する指導の機会を失う
  • 完全無人で点呼を行った際に事故が発生した場合の責任の所在を示す必要がある

 以上の実験結果を踏まえ、国交省は「条件付き点呼自動化」を認める方針を決めました。

 国交省は今後、「乗務前」の点呼でも自動化を進める方針で検討を始めています。

乗務前自動点呼の導入に向けた検討方針(2022年9月28日、国交省「運行管理高度化検討会」の資料から)https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001489305.pdf

 2022年12月の第3回 「運行管理高度化検討会」で示された計画は次の通りです。

  • 2022年度後期:点呼項目のうち、乗務員の健康状態の把握の手法につき、調査を実施。実証実験の検討開始
  • 2023年度前期:調査結果をもとに検証項目を精査したうえで、乗務前自動点呼における実証実験の開始

 実証実験の結果を受けて、導入に向けた準備が進んでいくと見込まれます。

 全日本トラック協会の公式サイトによると、会員企業が自動点呼機器を導入する場合、導入費用の一部を助成するといいます。

 助成するのは、自動点呼機器の導入費用(周辺機器、セットアップ費用及び契約期間中のサービス利用料を含む)で上限は10万円です。年度内の申請台数は、各協会1事業者あたり1台が上限です。

 ただし、所属する協会の域内に安全性優良事業所(Gマーク事業所)を有する場合は2台分まで助成を受けられます。