注意すべきM&Aアドバイザーを見分けるには? 3つの事例で解説
後継者不在などを理由とした中小企業のM&Aが増えています。M&Aの成否を分ける要因の一つがM&Aアドバイザーです。そこで、M&Aアドバイザーの経験を持ち、事業課題の解決プラットフォーム「KnowHows(ノウハウズ)」を運営する錦織康之さんが、M&Aを検討している買い手や売り手に向け、M&Aアドバイザーの見極め方について解説します。
後継者不在などを理由とした中小企業のM&Aが増えています。M&Aの成否を分ける要因の一つがM&Aアドバイザーです。そこで、M&Aアドバイザーの経験を持ち、事業課題の解決プラットフォーム「KnowHows(ノウハウズ)」を運営する錦織康之さんが、M&Aを検討している買い手や売り手に向け、M&Aアドバイザーの見極め方について解説します。
目次
M&Aアドバイザーとは、M&A(買収、増資など)を行う際に専門的知識をもって、売り手(買収、出資される企業)と買い手(買収、出資する企業または個人)の株式、価格、付帯条件などに対するアドバイスを行い、契約までをサポートする専門家をいいます。
また、M&Aアドバイザーの中でも、「仲介」と「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」という2つの立場が存在します。それぞれ以下のような特徴を持ちます。
売り手、買い手双方と契約し、双方の中立的立場としてアドバイスを行います。
利益相反にならないよう、売り手または買い手のどちらか一方の代理人として、アドバイスを行います。M&Aアドバイザー=FAのことを指す、とするところもありますが、一般的にはM&Aアドバイザーは上記2つの両方の立場を含みます。
また、仲介を「双務型」、FAを「片務型」と分類するところもあるようです。
M&Aにおいて、アドバイザーは売り手・買い手の双方とコミュニケーションを行います。その際に最も重要となるのが、アドバイザーの「当事者意識」です。
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では、当事者意識の高いアドバイザーと、そうでないアドバイザーはどう違うのでしょうか?
たとえば、買収金額を上げるために企業のネガティブな情報を買い手に知らせないというケースがあります。
売り手側からすると、買収額を少しでも上げようとしてくれているように見えますが、「伝えなかった事実」が買収後明るみに出た際に、損害賠償請求といった大きな問題となって返ってくるリスクがあります。
もちろん「情報を知らせなかった」のではなく、「情報を知らなかった」ケースもあるので一概に論じることはできません。しかし問題を知りながらあえて伝えないアドバイザーがいると聞きます。
「聞かれなかったから伝えなかった」というスタンスは、売り手側のリスクをわかっていながら放置するという点で、倫理的には大きな問題です。
では、良いアドバイザーとはどのようなアドバイザーでしょうか。事実を伝える、という点は当たり前として、それで買い手が見つからなければどうしようもありません。
良いアドバイザーとは、売り手側の事情について潜在的なリスクまで把握したうえで、「買収に値する価値」を自ら見出し、売り手側に示すことができるアドバイザーです。
「買収額を上げる努力」という点では前述のアドバイザーと同じですが、両者のスタンスは大きく異なります。大切なのは、売り手/買い手の問題を「自分ごと」としてとらえる意識、すなわち当事者意識を持っているかという点です。
一つの参考例として、交渉にあたり、会計資料以外の資料を用意しているかを見る、というものがあります。
会計上の数字だけでなく、企業の経営実態や人事まで深く知ろうとするアドバイザーは、当事者意識が高いと言えるでしょう。
アドバイザーによっては、売り手側企業が抱える経営上の問題やリスクなど、「耳の痛い」ことをハッキリと言ってくる人もいるでしょう。
前章でお伝えした通り、リスクを事前に伝えることは重要なことです。しかし一方で、ハッキリと問題を指摘することを逆手に取るケースもまたあります。
たとえば、「このままでは買い手がつかない」とリスクを過大に伝えることで、事業再生などを促すケースです。
本来の企業価値よりも低く見積もって事業を買収させ、事業再生を行うことが目的です。
売り手側が納得したうえで売却しているのであれば良いとはいえ、倫理的にはやはり問題があるケースと言えます。
いっぽうで良いアドバイザーは、売り手側にリスクを伝えるところまでは同じですが、そのハードルひとつひとつをいかに解決していくか? というスタンスを取ります。
買収後、売却後に問題になる点をしっかり捉え、買収契約実行の際にハードルとなる事項や事象をひとつひとつ解決していく………。
そうした誠実な対応を取るアドバイザーが、本来の良いアドバイザーだと言えます。
M&Aでは、ケースによって売り手/買い手の事情が異なるため、売り手/買い手の目標もまたケースによって異なります。アドバイザーは双方の目標に寄り添いつつ、M&Aの契約内容を調整していかなければなりません。
良いアドバイザーの場合は、以下の2点をきっちり押さえます。
特に売り手側にとって「お金を得ること」がゴールとは限りません。
たとえば、何十年も経営を行ってきた経営者が、病気や高齢、後継者不足といった問題を抱え、「M&Aを行って自分の連帯保証を外したい」と考えているケースがあるとしましょう。
その際、M&Aが成立し、買い手に株式を渡して経営権を移動させるのに伴い、売り手は連帯保証を外すことができます。連帯保証を外すことは交渉における一般的な権利です。
こういったM&Aにおけるわかりにくい部分について、クライアントへしっかり説明しつつ、売り手側の意図も汲んだ交渉や契約をアレンジしていくことが、アドバイザーの仕事の重要な一部です。
いっぽうで、こうした意図を汲んだうえで、「連帯保証人が外れるのだから」として、自分の利益を最大化しようとするパターンもあります。
そのスタンスが浮き彫りになる例のひとつが「報酬の算出方式」です。
M&Aアドバイザーの報酬算定には、一般的に「レーマン(リーマン)方式」と呼ばれる算出方式が用いられます。
これは、M&Aの取引額に一定の割合をかけたものを報酬とする方法ですが、一口に「レーマン方式」と言っても、算出のベースとなる金額の定義には複数のパターンがあります。
ひとつは、「買収額」ベースで算出する方式。もうひとつは、売却する企業の「総資産額」ベースで算出する方式です。
注意しておきたいのは後者の「総資産額」をベースにした方式の場合についてです。
総資産額には、企業の資本だけでなく、借入金などの負債も含まれます。そのため、赤字が大きな企業の場合、買収金額に見合わないフィーが計算されてしまうことがあります。
もちろん、売り手側の「連帯保証を外す」という目的は達成されてはいます。
しかし、長年にわたり会社と共に人生を歩んできた経営者が、連帯保証人を外せるからという理由で会社を手放し、手元には何も残らない……。
そんなケースが、果たして売り手にとって本当に幸福と言えるのでしょうか?
報酬を考えるのか、買い手や売り手のことを考えるのか。報酬額の算定方式ひとつからも、報酬額の説明にもアドバイザーのスタンスが表れます。
以上3つのテーマを例に、アドバイザーのスタンスを見る方法について紹介してきました。最後に、アドバイザーに頼む前に聞いておきたい質問を3つ紹介します。
「意向表明書」とは、買い手側から売り手側に対して提出する書類で、M&Aを望む理由やM&A後の経営方針、あるいはM&A後の役員・従業員等の処遇などが記載されています。
M&Aにおいて必須となる書類ではないものの、制作にはアドバイザーの当事者意識(案件に対する情報、検討量、過去のノウハウを動員利用するスタンス)が必要となります。
そのため、意向表明書に関する質問や、記載予定の内容を質問することによって、そのアドバイザーの過去の実績や経験に基づいた具体的な提案のストーリーを垣間見ることができます。
売り手/買い手に対する理解度が高ければ、あるいはアドバイザーの当事者意識が高ければ、意向表明書に関する質問に対し、現実的かつ具体的に答えることができる可能性が高いと言えるでしょう。
M&Aアドバイザーにとって、案件の破談は成功報酬を失うことを意味します。
それでもなお、「やむを得ない理由で破談にさせた」という経験を持つアドバイザーは、自身が報酬が得られるかどうか、という理由以外の基準を持っている可能性が高いと言えます。
自らの報酬が減ってでも、買い手/売り手のためにあえて破談させる。
もちろん破談の理由にもよりますが、そういう判断を行えるアドバイザーは、一定の誠実さを持っていると考えられます。
「テール条項」とは、M&A交渉が破断後、一定期間内に再び同一の売り手と買い手が増資・買収を行った際に、当時のアドバイザーに対して報酬を支払う条項のことです。
売り手や買い手が、アドバイザーの成功報酬の支払いを逃れるため、あえて一度破談させる……というケースを防ぐために設けられた条項ですが、このテール条項の期間や条件が長すぎる(広すぎる)ことが近年問題となっています。
というのも、テール条項の適用期間中は、再度同じ相手とM&Aを行う場合にアドバイザーに手数料を支払わなくてはならず、企業の経営判断を制約してしまうためです。
中小企業庁の『中小M&Aガイドライン』においても、テール条項の期間について注意喚起を行っており、「最長でも2~3年以内を目安にすることが望ましい」としています。
参考:中小M&Aガイドライン-第三者への円滑な事業引継ぎに向けて-(中小企業庁、PDF方式)
アドバイザーとの契約の際に、こうした条項についてもあらかじめ聞いたり、契約書をチェックしたりすることからも、アドバイザーのことを判断することができます。
重要なのはアドバイザーのスキルではなくスタンス。倫理観と当事者意識を持ったアドバイザーを見極めてM&Aの交渉において開示すべき情報を知らせてくれなかったり、契約や交渉で、アドバイザーの報酬優先の進め方をされてしまったり……。
こうした事例を回避するために求められるのは、アドバイザーのスキルではなくスタンスです。
売り手や買い手との相性もあるものの、複数のアドバイザーに相談し、高い当事者意識と倫理観を持ったアドバイザーを選ぶことが、最終的に納得できるM&Aを行うことにつながると言えるでしょう。
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