2年前の2020年11月12日、ソニーグループのソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が家庭用ゲーム機の「プレイステーション(PS)5」を発売しました。

プレイステーション5と人気ソフトのスパイダーマン=getty images

プレイステーションの新機種は、2013年発売のPS4以来、7年ぶりのことでした。

この日は日本やアメリカ、韓国、オーストラリアなど7カ国で同日発売。その後、ヨーロッパや中国、東南アジアでも発売し、全世界での販売台数は2021年7月に1000万台を超えました。

PS5の販売台数が1000万題を超えたことを伝える2021年8月5日付の朝日新聞朝刊

8カ月での1000万台達成は、PS4の実績より1カ月早いペースでした。PS4はその後、7年間の間に世界で1億1000万台以上売れました。

PS5の販売台数は2021年9月末までに、1330万台まで伸びました。

 

PS5の販売が好調だったのは、新型コロナウイルスの感染が世界中で拡大したことと無縁ではありません。

多くの人たちが外出を控え、「巣ごもり」を余儀なくされるなど、コロナ禍で人びとの暮らしは一変しました。ですが、ゲーム市場にとっては追い風になりました。

ゲームを稼ぎ頭にソニーの純利益が初めて1兆円を超えたことを伝える2021年4月29日付の朝日新聞朝刊

ソニーの2021年3月期の売上高はグループ全体で9%増え、8兆9993億円に。営業利益も15%膨らんで9718億円となり、いずれも過去最高を記録するという好決算でした。ゲーム事業が利益の3分の1を占め、ソニーの稼ぎ頭になりました。

 

PS5ではディスク型ゲームソフトの挿入口がないダウンロード専用機も投入しました。PSでは初の試みです。

PS4を発売した2013年からの7年間でネットワーク環境が大きくかわり、大容量のデータを手軽にやりとりできるようになりました。

このため、ディスクを買って挿入しなくても、ネット経由でダウンロードする方法でゲームソフトを購入できるようになりました。

実は、PSでは2006年発売の「PS3」からダウンロードでゲームソフトを購入できたのですが、しばらくはディスクが主流でした。

ところが、ダウンロード方式が次第にゲームファンの間に浸透するようになり、2019年には初めて全体の5割を超えて51%まで増えました。

コロナ禍で「巣ごもり」が増えた影響で、2020年4-6月期には一気に74%まで上昇しました。

 

PS5では、ディスク方式のゲーム機の価格が4万9980円(税別)であるのに対し、ダウンロード専用機は1万円安い3万9980円(税別)。値ごろ感を強調し、ダウンロード専用機の普及を進めていくことがソニーの考えです。

 

ゲームの楽しみ方も7年間でぐんと進化しました。オンラインで世界中の人とつながって同じ舞台で対戦ゲームを楽しめるソフトが増えてきたうえ、テレビも高精細な「4K」が主流となり、映像はよりリアルに、音響機能も充実するようになってきました。

プレイステーション5と人気ソフトのスパイダーマン=getty images

こうして、より臨場感があるゲームを楽しむことができるようになったことも、ゲームブームに火をつけました。

PS5では、より高精細を追求した次世代テレビの「8K」映像にも対応しています。コントローラーの振動機能を充実させたり映像処理能力を高めたりして、さらに臨場感を楽しめるようにもなりました。ゲームの登場人物が砂を踏んだり、水の中に飛び込んだりした感覚も体感できるそうです。

 

SIEでは今後、ネットワークを使ったサービスを充実させていく考えです。有料で加入できる「プレイステーション・プラス」という会員サービスを全世界で手がけており(日本では月850円から)、加入者は2021年9月段階で4720万人に到達しました。新作を含むゲームを追加料金なしで遊べるサービスやオンラインの対戦ゲームが人気になっており、今後も、PSファンの囲い込みを強化していく考えです。

 

PS5の発売はコロナ禍のまっただ中でした。発売日恒例の長蛇の列を避けるため、店頭での先着順という販売をやめ、すべて事前予約にしました。

PS5の発売初日なのに品切れで空き箱が並んでいるビックカメラ有楽町店のゲーム売り場=2020年11月12日、東京都千代田区、朝日新聞社

予約の受付直後に完売となる量販店が相次ぐなど、人気は過熱しました。東京都心にあるビックカメラ有楽町店でも販売がないため行列はできませんでした。

店頭には模型が展示されるだけで、「今回は異例」(売り場担当者)という静かな幕開けとなりました。

 

ただ、PS5が品薄だったのは、スマートフォンやパソコン向けなども含む世界的な半導体の供給不足も大きな要因でした。

半導体の供給不足が日本企業に影響するのを避けるため、日本政府はPSシリーズの半導体の受託生産先でもある「台湾積体電路製造」(TSMC)の工場を熊本県に誘致することを決めました。

TSMCの日本工場建設が決まったソニーグループの半導体工場(後方)の隣接地=熊本県菊陽町、朝日新聞社

これにソニーも出資し、TSMCの工場建設に協力していく方針を発表しています。工場の稼働は2024年の予定ですが、中長期的には安定供給が期待できそうです。

 

PSは1994年12月に初代機が発売されたのが始まりです。SIEによると、初代PSは全世界で1億200万台、2000年発売のPS2は1億5500万台売れました。

2019年12月、PSシリーズは「世界で最も売れた家庭用ゲーム機」としてギネス世界記録に認定されました。

初代のPSから当時のPS4まで、この段階で全世界で4億5019万台売れたことが、同じメーカーから発売された家庭用ゲーム機の販売台数としては世界トップだと認められた形です。

 

半導体不足のなかでも、PS5の販売の出足はPS4の実績より好調です。今後、どこまで伸びるのか。SIEはさらなる記録更新を狙っており、PS5からはまだまだ目が離せません。

 

(朝日新聞社の経済メディア「bizble」で2021年11月12日に公開した記事を転載しました)