【プロフィール】

蕪木登(かぶらき・のぼる)

1973年10月生まれ。埼玉県出身。98年システムマネージメント入社。2001年ケーソフトに入社。03年にインターファクトリーを設立、代表取締役に就任(現任)。06年に株式会社に組織変更。

中小事業者も簡単に商品販売ができるECシステムを開発

コロナ禍による外出自粛が引き金となり、EC市場が大きく拡大しています。生産者やメーカーがインターネットを活用して直接、お客様に商品を販売する取り組みが急速に広がりました。このような新トレンドは「D2C」と呼ばれており、ますます盛り上がりが期待されています。

2022年、中小事業者のD2C参入ニーズに応えるツールとしてリリースされたのが、クラウドECサイト構築ツール「ebisumart zero」です。大企業・自治体など大規模組織に実績を多数持つ「ebisumart」のノウハウや高いセキュリティ環境を生かし、より簡単に使い始められるように開発されました。

気軽なスモールスタートを可能にするため、初心者でも扱いやすい操作性にこだわっています。また、クラウドベースで作られていることから初期費用は10万円〜と手頃な金額に抑えられています。

サービスにも力を入れており、各顧客を専任チームがサポートしています。運用後も、サイト運営で困ったことがあれば、すぐに専任担当者となるECコンシェルジュやエンジニアに相談することができます。そのため、優れた機能を余すことなく活用できます。蕪木登社長は次のように想いを語ります。

「D2Cサイトに必要な機能を提供し、お客様のEC事業成長を支援することがコンセプトです。ターゲットにしている中小事業者の方は、他業務を兼務しながら不慣れなD2Cに取り組んでいることが少なくありません。せっかくの機能を使いこなしていただけない可能性がありました。これがプロダクトそのものに加えて、サポートサービスにも力を入れている理由です」

インターファクトリーは2003年に創業されたIT企業です。当初からECサイト構築システムの開発に注力してきました。2020年には東証マザーズ上場を果たしています。従業員規模は143名にのぼり、2022年の売上は5年前に比べると1.7倍に伸びました。

蕪木社長によると、理念を重視する経営が、成長を続ける会社作りの基礎となりました。インターファクトリーの経営理念は「私たちは関わる従業員、お客様、取引先様の幸せを実現します」と表現されています。

「会社に対する高い評価を頂いていることに心から感謝しています。しかし思い返せば、私自身は経営者として心底恥じた機会がたくさんありました。過去の挫折が現在の礎になっています」と振り返りました。

雇用を維持できなかった「恥」の経験

インターファクトリー創業のきっかけは「自分たちの力を試したい」という20代らしい素朴な野心だったと蕪木社長は振り返ります。良いプロダクトの開発を通じて成果を挙げることに没頭する日々でした。がむしゃらに数字を追い求めた結果、会社は順調に成長していきました。

設立当初は3人でスタートした会社でしたが、売上の増加とともに、従業員数は10数名にまで増えました。 

しかし、2008年9月、リーマンショックが発生。たちまち経営難に陥りました。当時について「たくさんの仕事が消滅しました。雇用を維持することさえもできなくなり、仲間の半数に退職をお願いしました」とつらそうに話しました。

当時の挫折について、蕪木社長は「恥」を感じたそうです。「経営者としてやるべきことができていない自分を責めました。歩んできた人生そのものに問題があるのではないかと思い詰めました」

「理念経営」が再起のヒントに

どん底の心境に落ちた蕪木社長に“救いの光”となったのが、先輩経営者たちの言葉でした。

「挫折を味わう以前は、他人のアドバイスを素直に受け入れられない自分がいました。我流で成果を挙げてきたので強烈なプライドがありましたからね。しかし心底恥じてからは、砂漠に水が染みこむように先輩たちの言葉が私のなかに入ってきました」。

再起を図るためにもがいた蕪木社長は、「理念経営」という経営コンセプトに関心を持ちました。売上や利益など財務諸表に現れるKPIだけを追求するのではなく、理念やビジョンなど共有された価値観にもとづいて組織運営を進める点に特徴があります。

理念経営との出会いは、蕪木社長が経営者として尊敬する先輩が漏らした本音でした。「豪腕経営者として大きな成果を挙げてきた方ですが、『もう一度、経営者人生をやり直すなら理念経営をしたい』とおっしゃったんですね。その思いを託されたような気持ちになりました」。

蕪木社長が理念経営を学んでいくと、「人を動かす」という経営者の役割を果たすうえで、モチベーションの力が重視されている点に目を引かれました。

「人を動かすには、その人を好きになること。私は従業員でもクライアントでも仕事の仲間には、すぐ好意を抱いてしまうんです。絶対に好きになる。だから、いつも全力で働くことができる。理念経営を学んでいくと、好意とはモチベーションの一種と知りました」。いままで意識することなく、自然体で培われていた成功体験の源がわかりました。

「権限委譲」と「情報公開」で社員を巻き込む

2009年、インターファクトリーの経営理念を策定しました。経営で一番大事なことを突き詰めて考えたら、「幸せ」だと気づきました。「愛がすべてですよ。人にとって一番大切なことは、幸せを実現すること。会社も従業員も同じです」と笑顔で語ります。

さらに経営理念の社内浸透を進めるため、「8つの行動指針」を社員主導のグループワークで策定しました。蕪木社長はファシリテーターに徹して、イニシアチブを従業員に明け渡したそうです。

「行動指針は会社全員で守っていくべきルールです。自分で決めたことに対しては“守ろう”という意識が働きやすいことを期待して、行動指針策定のプロセスを従業員に権限委譲しました」

権限委譲と併せて、蕪木社長が意識したのが「情報公開」です。

「権限委譲と情報公開は“セット”です。上場を志向していたので役員報酬など経営の数字をオープンにしていたことが助けとなりました。会社の台所事情が社内によく伝わるため、労使間の争いが解消されます。一体感のある組織運営を実現できていたので、行動指針策定の権限委譲に不安はありませんでした」

「ユニークな社内制度」で幸せを追求

経営理念はどのように実践されているのか——インターファクトリーでは、主要項目だけでも6種ある社内制度に経営理念の影響が色濃く表れていると蕪木社長は説明します。福利厚生・人事制度・社内行事など、職場環境をより良いものにする取り組みを通じて、理念に掲げられた「従業員の幸せ」を追求しています。

コロナ禍では、全社員を対象としたテレワークの迅速な拡充という側面から、職場環境の改善を進めてきました。場所と時間に縛られないテレワークのメリットを最大化するため、「フレックスタイム制度のコアタイム撤廃」や「時間単位の年次有給休暇制度」をいちはやく実現しています。一連の取り組みが国から評価され、2021年度の「テレワーク先駆者百選」に選ばれました。

コロナ禍が尾を引いている現在、蕪木社長によると「オフライン・コミュニケーション」の重要性が増しています。「私たちの働き方を語るうえで、仕事仲間に抱く好意が重要です。しかし、好意を育むにはオフライン・コミュニケーションがカギになっていたとコロナ禍の数年で痛感しました。直に顔を合わせたときに得られる情報量は侮れません」と語ります。

話し相手の状況や雰囲気といった抽象度の高い情報が、職場の人間関係には欠かせません。そのため、3密回避と感染対策を万全にする一方で、限られた人数による社内食事会を催して、費用を補助しています。オフライン・コミュニケーションが促されるように工夫しています。

「社内コミュニケーションの9割はリモートに置き換えることが可能です。しかし残る1割の直接会って話すコミュニケーションは死守したい。失われれば会社が衰弱します」

社内制度の拡充は「ボトムアップが大事」

従業員のニーズにあわせて社内制度のアップデートが継続されてきました。蕪木社長は制度拡充の方針を次のように語ります。

「社内の制度改革も権限委譲しています。提案されたアイデアは必要性を確認できれば、ほぼほぼ採用してきました。ボトムアップをとても重視しています」

意外なアイデアも出てきました。例えば、1日2回まで昼寝ができる「シエスタ制度」。没頭して働くほうが得意な蕪木社長にとっては思いも寄らない視点だったそうです。「社内制度は当事者である従業員自身に作ってもらったほうが絶対に良くなります」と語ります。

インターファクトリーの福利厚生制度の一部

中小事業者のDX時代の難題解決を支援

上場以降、着実な成長を成し遂げてきたインターファクトリーは「ebisumart zero」のリリースにより、スタートアップや中小事業者の「幸せ」をさらに追求しています。

「コロナ禍による外出自粛で流通の構造が激変しています。小売店に頼れなくなったメーカーにとってはD2Cの実現が死活問題でしょう。リソースに限りのある中小事業者の皆様の中には困っている方が大勢いらっしゃるようです。D2Cサイト構築という市場において、事業者に寄り添う私たちのやり方には大きな意義があります」

「ebisumart zero」はリリース後、アパレルや家電業界等に導入されており、普及を着々と進めています。既に数多くの機能が実装済みですが、今後は2022年7月に開始したパートナー制度の強化を推進しているところです。「ebisumart zero」に関して高い技術と知識を持ち合わせたパートナー企業が自社でカスタマイズし、販売することで、さらにお客様のご要望に合わせたサービスを提供していきます。

「DXの進展が目覚ましい昨今、以前とは比べものにならないほど多くのデータがリアルタイムで集計できるようになりました。膨大なデータをタイムリーに生かすことができれば、D2Cでも大きな武器となります。データの活用にあたっては、様々な他社プラットフォームとの連携が重要です。また、システムに不慣れな方が直感的に理解できるようにするため、ビジュアライゼーションも外せません。時代は目まぐるしい変化を遂げていますが、理念経営のもと一丸となって期待に応えていきます」と蕪木社長は語りました。

株式会社インターファクトリー https://www.interfactory.co.jp/

設立:2003年6月

事業内容:クラウドソリューション事業

クラウドコマースプラットフォーム「ebisumart」「ebisumart zero」を提供。

EC事業規模に合わせてサービスを選択することができ、

スタートアップや中・大規模事業者様のECサイト構築・運用を支援いたします。