「駐車場を足元から安全に」 車止め開発に込めた高田製作所のこだわり
富山県高岡市の高田製作所3代目・高田晃一さん(49)は、長年主力だった仏具の需要低迷に危機を感じ、デザイン性の高い花瓶などのアルミニウム製品の開発で世界から評価を得ました。後編では仏具に代わる原動力となった車止め(カーストッパー)に込めたこだわりやプロモーション、技術継承への対応などに迫ります。
富山県高岡市の高田製作所3代目・高田晃一さん(49)は、長年主力だった仏具の需要低迷に危機を感じ、デザイン性の高い花瓶などのアルミニウム製品の開発で世界から評価を得ました。後編では仏具に代わる原動力となった車止め(カーストッパー)に込めたこだわりやプロモーション、技術継承への対応などに迫ります。
高田製作所3代目の高田さんは、主力だった仏具の行く末を案じ、反対した職人の大量退職なども経験しながら、アルミニウム製品に活路を見いだしました。開発した花瓶などが、ミラノサローネといった国際見本市で評価されて家業の名を広め、2014年からはオリジナルの車止め「アルデコール」の開発に乗り出します。
無類の車好きである高田さんは、いつか自動車に関わる製品を作りたいという夢を持っていました。
コンビニや施設の駐車場で見る車止めは、どこか割れているか抜けているところがあることが多いといいます。加えて高齢者の踏み間違い事故が問題視され始めたころでした。
「全ての問題を解決する車止めがあったらいいのにと思っていました。自分がやるなら、高級で世の中で一番美しいものを作り、日本の駐車場を足元から安全に美しくするという開発目標が出発点でした」
同社の仏具はきれいな鋳物を作る技術に加え、衝撃にも強く壊れない品質を保つ技術もあります。「恒久的な製品である仏具のように、壊れない車止めを開発するというところに、使命を感じました」
車止めは鋳物で純度の高いアルミに特化し、高耐食性に優れ長持ちする製品にしました。タイヤの力を地面に受け流す形状を考案し、工業技術センターで試験を行い、特許も取得しています。「コンクリート製に比べ高価ですが、半永久的に使える製品開発はやりがいがありました」
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「アルデコール」の中で特徴的なのは「フルート」という車止めです。その開発には三つのこだわりがありました。
一つ目は安全性にこだわった造形です。空車時に車止めの周りを通る歩行者がつまずかないように、なめらかな形にするなど工夫しました。車が乗り越えられない設計にして高齢ドライバーに配慮するとともに、壊れる原因を徹底的に排除。雨や枯れ葉がたまらないように高足式で空間を作ることで、腐食しにくくしています。
二つ目のこだわりはデザイン性です。筒状の車止めの両端に取り付けられたエンドキャップまでデザインを意識しました。高田さんの座右の銘でもある「(デザインの)魂は細部に宿る」は、出身大学の恩師だった逆井宏教授の言葉でした。
エンドキャップのカーブは、ヘッドライトやテールランプに反射して視認性を高め、夜間の安全確保に一役買っています。アルミニウムの質感が表現されるよう、ローレット加工によるアヤメ模様のデザインに落ち着きました。
高級感を出すため、設置先のロゴマークはペイントではなくレーザーで刻印を施しています。
高額なレーザー機械を導入する際に余計な費用はかけられないと、レーザー加工を独学でマスター。試行錯誤を重ねる中で、レーザーを焼く温度や角度、時間によって、色味が変わってくることに気づきます。アルミニウムが白くさびる性質を利用した名入れが可能になり、経年によって退色することもありませんでした。
安全性が高くデザインが良くても、施工の難易度が高ければ現場に敬遠されます。三つ目のこだわりは施工のしやすさでした。
地面にドリルで穴をあけ、接着剤を入れてボルトを差し込む。これだけで、3トンの強度に対応する車止めの設置が可能になりました。こうして「軽くて、丈夫で、美しく、施工しやすい、カーストッパー!」がうたい文句の車止めが完成したのです。
アルデコールは自社でデザインと独自開発を手がけ、特許と商標を持っていることが強みです。しかしながら、仏具を手がけてきた同社にとって車業界は未知の世界で、販路を持っていませんでした。
そこで販路拡大のために、表札やポストなどのエクステリア商品を扱うオンリーワンクラブという企業のカタログ掲載を目指し、営業を重ねます。
すると、同社の出資企業の一つであるワンデックスの南史朗代表から、今までのビジネスを覆すようなアドバイスを受けたといいます。
「メーカーと商社とエンドユーザーはウィンウィンでなければならない。一緒に課題解決をして良い製品を作っていきましょう」
例えば、売価1万円の商品を2500円の原価で作り、メーカー、商社、(施工先の)大工が等分となる2500円の利益を得るとします。しかし、それまではメーカーの取り分となる25%の中に原価ともうけが含まれていたのが一般的だったので、十分な費用をかけた開発が困難でした。
高田製作所はオンリーワンクラブから「利益をちゃんと25%取って物作りしなさい」と言われたことで、しっかりとコストをかけて高級品に見えるものを作ることが可能になりました。
この出会いがなければ、アルデコール事業の発展は到底無理でした。高田さんは製造とデザイン、新規製品開発に集中。オンリーワンクラブが販売を手がけることで理想的な関係が構築できました。
高田さんは、カタログ内容の伝わりやすさには特に注力しました。営業マンが売りたくなる商品、大工の施工のしやすさ、エンドユーザーがわかりやすいベネフィットを訴求しました。
オンリーワンクラブのカタログは、他社製の車止めも多数掲載されるため、差別化が明確な紙面構成が必須でした。気がつけば、高田さんが新製品開発、デザイン、営業、経営、権利関係、コンペ参加と、何でも自身でやってきた強さと、それをバックアップしてくれる信頼が置けるチームができあがっていたのです。
18年にはアルデコールの「フルート」がグッドデザイン賞を受賞しました。高田さんにとって、新製品の発明に取り組んできたことがやっと報われたと感じられた瞬間でした。
高田さんは20年8月、代表取締役に就任しました。「お客様の会社が代替わりしたので、うちもそろそろ交代しようか」という父の発案でした。
社長就任後は親子で事業承継セミナーに参加。自身で事業方針を固めて金融機関に説明してまわりました。セミナーに通い「事業承継はその会社の強みを理解し、新しい製品開発を繰り返して発展させていくこと」と理解できたといいます。
昨今の円安や資源高は、高田製作所の製造原価にも大きな影響を与えました。22年10月現在、アルミ・真鍮がともに2.1倍、電気代は1.7倍、ガス代が1.5倍高騰し、経営を大きく圧迫しています。
高田さんは製品を値上げし、不採算部門の縮小で仕入れを減らしました。祖業の仏具などは整理縮小して、不良在庫を少しずつ削減していきました。
それでも高田製作所は車止めで得た技術を生かし、新たな自社製品も製作しています。玄関先に取り付けるサインプレートの売れ行きが好調で、不採算部門を補いました。
和風にも洋風にも合うデザインのサインプレートは、シンプルな四角の表札から、カリフォルニア風のカラフルなデザインまでバリエーション豊か。吹き付けでカラーリングし、凹面に番地や名前を入れ、凸部を研磨してアルミをむき出しにすることで、きらりと輝かせているのが特徴です。軽くて丈夫でしゃれたデザインによってヒット商品になりました。
同社の製品は現在、OEM72%、自社28%の割合で製造しています。ヒット商品のアルデコールを毎年刷新することで、売り上げを伸ばし続けています。リーマン・ショックの影響を受けた09年は8400万円だった年商は、現在2億9千万円に伸びました。
車止めの売り上げは、初年度(15年)の80万円から60倍となる5千万円にまで成長しています。
現在、車止めの研究開発費に2千万円を充て、公益財団法人富山県新世紀産業機構の補助金も活用しています。
高田さんは自社の商品開発について「仏具という日本の伝統工芸に、最新のレーザー技術をミックスしたことが重要だった」と振り返ります。
祖業とは別分野の素材や技術を多数試したこともありましたが、結局は身の丈にあった自社の範囲で開発し、継承していくことが基本であると考えます。
技術を継承するため、社内の仕組みも整えました。地元の工芸高校や造形大学とインターンシップ制度を提携し、毎年生徒の採用へとつなげています。併せてハローワークを通じて新卒を採用し、鋳物業界では異例の平均年齢35歳を実現。若手の職人集団と製品を開発できるようになりました。
2014年にアルデコール開発のきっかけになった講演(前編参照)で語った浜松のレクサスディーラーへの納品も実現しました。
高田さんは「人・技術・製品・協力関係などのネットワークを含めた承継ができて、初めて事業の成功と考えています」といいます。将来にわたって若い職人が食べていけるタネを今からまき続け、名刺には「ものを作ることは人を愛すること」と記載しています。
高田さんには8歳の長女と6歳の次女がいます。
「事業を承継するには、次世代に向けてやりたいことをやれるだけの環境を整え、相応の開発資金を用意してあげるのが大切です。自由な発想を育てて事業に生かせるように子育てしたい」と語りました。
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