公認会計士のラーメン店主が行列店を閉めた理由②「人口減少・働き手不足」
青森県八戸市で1日平均100人を超える来客のあったラーメン店「ドラゴンラーメン」が2022年10月閉店しました。前回記事では、公認会計士の店主が原材料や光熱費が高騰してもラーメンをなかなか値上げできない構図について紹介しました。今回は地方都市の人口減少、人手不足の現状を報告します。
青森県八戸市で1日平均100人を超える来客のあったラーメン店「ドラゴンラーメン」が2022年10月閉店しました。前回記事では、公認会計士の店主が原材料や光熱費が高騰してもラーメンをなかなか値上げできない構図について紹介しました。今回は地方都市の人口減少、人手不足の現状を報告します。
目次
飲食店は10年間で9割以上が廃業すると言われています。ドラゴンラーメンは残念ながら2年1ヵ月で閉店しました。
近所に開店した飲食店があっという間につぶれてしまったことはありませんか。小規模飲食店は運転資金が十分にないため、客足が伸びなければすぐに資金がなくなり、続けられなくなります。
2年強の間、売上は100万円前後を行ったり来たりする月が続き、赤字になることはほぼありませんでしたが、利益もあまり残りませんでした。それでも、徐々にリピーターを増やし続け、最後には行列が毎日できる店になりました。
しかし、飲食店の経営は、本当に大変です。毎月安定した収入を得られることはありません。
雨が降るなどの理由で来客が前日の半分になることもあります。難しいのは、天候が悪いなど、来客が少なそうな日でも、通常と変わらない人数が来ることもあることです。
せっかく足を運んだのに品切れになっていると、悪い印象を与えてしまい、リピーターを失う可能性があります。そのため、多めに食材を用意することになりますが、来客が少なければ腐ってしまい、損失が出ます。
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ラーメンはすぐに競合店ができてしまうので、人気店であり続けるには継続した努力が必要です。特に、大規模資本のチェーン店は商品開発力があり、人材も豊富なため、個人では厳しい戦いになります。
また、コンビニの弁当や冷凍食品も年々レベルが上がっており、飲食店の強力なライバルになっています。コンビニの普及により食事ができる店舗は飽和状態であり、空白地帯もほとんどありません。
もう一つ、飲食店を悩ませる課題として人手不足があります。
人手不足は、ラーメン店を経営するうえで精神的な負担が重かった原因の一つです。常に悩んでいました。
ドラゴンラーメンのある青森県八戸市は少子高齢化が進んでいます。2022年3月末時点での65歳以上が人口の3割を超えます。また、給与水準が都心部に比べて低いため、若者は東京を中心とした都市部に移住することが多いです。
40代前半である私の年代では、数年前に開催された高校の同窓会で確認したところ、同級生約300人のうち、地元に残っているのは100人ほどでした。3分の2が地域外に流出したことになり、不景気が続く現状では、より若者の都会志向は強まっているように感じます。
多くの業種で人手不足の傾向が顕著です。特に飲食店などのサービス業や建設業、介護職など、肉体的負担が大きい業種については、募集しても応募がかなり少なく、人集めがとても大変です。おそらく、他の地方都市も似た状況ではないでしょうか。
帝国データバンクが全国の1万社あまりにアンケートした「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」によると、非正社員について「不足」していると回答した企業は31.0%に上りました。
非正社員の人手不足割合を業種別にみると、「飲食店」が76.3%で最も高かったといいます。
ドラゴンラーメンは2年1ヵ月の間に20人ほどを雇用しました。
このうち5人ほどは、シフトの当日に来なくなったり、音信不通になったりして、突然やめてしまい、穴埋めに苦労しました。
何度かそのような経験をすると、面接の段階で危険な兆候に気付きますが、そもそもの応募が少ないため、人手不足が続く中では採用せざるを得ません。気になる点も目をつむって採用するしかありません。
もちろん、給与水準を上げれば人材の質は高くなるはずです。
ドラゴンラーメンは近隣より少し高めに給与を設定しましたが、利益が少ないため、大幅に上げる余裕はありません。結局、恒常的な人手不足に苦しむことになります。
幸い、最後に残ってくれたスタッフは一生懸命働いてくれる人ばかりで、忙しい店を切り盛りしてくれ、とても助かりました。
振り返ると、ラーメン店を経営していた期間は、集客やシフト管理に悩まされ、心が休まりませんでした。
来客が少なければ売上が心配になり、予想より多ければ品切れしないか不安になります。私が店に出ていない日でも、券売機が詰まれば、すぐに店に行って修理します。
税理士などの本業があり、開店から半年が経過した2021年4月以降の営業はスタッフを中心に行っていましたが、webカメラを通して、営業中は断続的に店の風景を見ていました。
混雑状況を確認してスタッフに指示を出していたため、11時から14時までは仕事がはかどらず、しわ寄せで夜間に一人で作業をすることもしばしばありました。仕入や支払い、メニューの設計や味のチェック、SNSの発信など、現場以外の作業はすべて自分で行っていたため、最後まで負担は減らず、どことなく疲労が抜けませんでした。
こうした結果として、個人で経営する飲食店が収入を安定させるのはとても難しいです。ラーメン店経営の日々は楽しさもありましたが、経済的安定を得られる確率が低く、負担の大きさを感じました。このままでは小規模のサービス業はどんどん減っていく未来が来るように思います。
それが、2年間の経営で私が感じた、飲食店の現実です。
青森県八戸市では、人気のある飲食店でも行列ができることはほとんどありません。
ラーメン店を経営していた間、時間があれば東京の行列店を食べ歩き、最新のトレンドと人気店のレベルをチェックするようにしていました。賞を受賞した店も、SNSで広く人気を集める店にも足を運びました。
もちろんどの店もおいしいのですが、食べて感動するような、特別な店はごく一部です。ストレートに言えば、トップオブトップの店を除けば、八戸の人気店のレベルは、東京の人気店に引けを取りません。
それなのに、八戸ではほとんどの店に待たずに入れます。すぐ食べられることは消費者にとってメリットですが、経営者には苦しいものです。来客が少ないということであり、売り上げも伸び悩むからです。
どうしてこのような差が生まれるでしょうか。
理由は極めてシンプルで、人が少ないからです。八戸市の人口は約23万人で、近隣市町村をあわせた商圏人口は30万人ほどです。
それに対し、都内の新宿駅の利用者数は一日で200万人以上と言われています。
もちろん、都内は賃料が高いうえに、ライバル店も多くなるので、同じ条件で比較はできませんが、周辺人口が多いことによるメリットは大きいです。店舗前を通る人が多いので、広告費をかけずに店を知ってもらえる可能性が高く、天候の悪い日も一定数の人が通るので、売上が安定しやすいです。
飲食店は1店舗だけでは売り上げに限界があります。成功するセオリーは、1店舗目が繁盛したら近隣の管理できる地域に2店舗目を出し、売上を拡大する戦略です。店舗を任せられる人材を育てながら店を増やすことで、グループを大きくしていきます。
人気店が2店目を出したり、看板を変えたセカンドブランド店を近くで始めたりすることが多いのは、飲食店は営業時間と席数が限られたビジネスであり、集客に上限があるため、売上を増やす方法が限られているからです。
地方都市では少子高齢化が進んでおり、主要な消費者が若者であるラーメン店は、上記のセオリーがとりづらくなっています。現在は、ラーメン店など一部の業種に傾向が顕著に表れていますが、少子高齢化により経済規模が縮小する影響は、いずれ全業種に及びます。
お金を使う人が減るわけですから、食品や消耗品の購入は減り、スーパーなど消費者向けの商売は縮小していきます。
そうすると、企業の投資余力がなくなり、店舗の工事を担う建設会社や、コピー機を納入していた会社も売り上げが減ります。地元資本でない会社は撤退を検討するでしょう。税収も減りますから、公共工事も減少するはずです。
地方の経営者は、さらに進んでいくことが確実な少子高齢化を乗り越えるため、圏域外からの収入を得る方法を確立することが求められます。人口が減っていくため、同じようにやっていては売り上げが確実に減少するでしょう。
20年前まで、地方の若者が都会を目指す大きな理由は情報格差でした。
テレビや雑誌を通して見る東京などの大都会は、地方の若者にとっては憧れでした。通販もこれほど普及していなかったため、流行の洋服を買うために都会へ行った人も多いです。
インターネットが普及した現在、地方と東京の情報格差はとても小さくなりました。Amazonや楽天の恩恵で、地方でも東京と変わりないものがライムラグなく手に入ります。
それでも、多くの若者が都会を目指す状況に変わりはありません。
給与格差、就職先の選択肢が少ないこと、少子高齢化が進んで遊べるスポットの採算が合わなくなり、楽しめる場所が減っていることなど、多様な理由がありますが、何もしなければ苦しい状況がさらに悪くなるのは確実でしょう。
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