公認会計士のラーメン店主が行列店を閉めた理由③「ネットの口コミ」
青森県八戸市で1日平均100人を超える来客のあったラーメン店「ドラゴンラーメン」が2022年10月閉店しました。原価高騰による採算悪化、人手不足が大きな理由ですが、閉店したもう一つの理由にインターネットの口コミがありました。高評価に混じって投稿される「行く価値がない店」「毎回腹を壊す」など一方的な批判に心を痛めていました。店主自身が口コミで感じていたことをつづります。
青森県八戸市で1日平均100人を超える来客のあったラーメン店「ドラゴンラーメン」が2022年10月閉店しました。原価高騰による採算悪化、人手不足が大きな理由ですが、閉店したもう一つの理由にインターネットの口コミがありました。高評価に混じって投稿される「行く価値がない店」「毎回腹を壊す」など一方的な批判に心を痛めていました。店主自身が口コミで感じていたことをつづります。
目次
新しく外食に行く店を探すとき、皆さんはどうするでしょうか。
多くの人Googleレビューなど、グルメサイトの評価を調べると思います。私もそうです。
気軽に見ている人が多いと思いますが、飲食店経営者にとっては、頭を悩ませる種です。ラーメン店を経営している間、金銭面以外で、大きくストレスになるものが、投稿されるインターネット上のレビューでした。
ドラゴンラーメンは「顧客にも従業員にも、地域で一番優しい店を目指す」をコンセプトにサービスを提供していました。そうしたのは、外食は特別な時間であるという思いがあるからです。
私自身、子どものころを思い返すと、家族そろってたまにファミリーレストランに行くのは心がワクワクして嬉しい経験でした。「一人800円まで!」などと母に言われながらメニューを決めたのも、今となっては笑い話です。外食は、私にとっては家族の幸せを実感できるイベントでした。
私の店も、訪れる人にとって幸せな時間を感じられる場所にしたいと思いました。
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そのため、ラーメンを食べる人が不快にならないよう、接客にはとても気を付けていました。
漫画「孤独のグルメ」に店を訪れた主人公が、店主が店員を大声で叱っているのを目撃し、店主に文句を言ってケンカになるというエピソードがあります。
せっかく訪れた店で、店員がイライラしていたり、言い争いをしたりしているのを見ると、食事を楽しめなくなります。私自身も、店員の対応がいまいちで、がっかりした経験が何度かあるので、常に笑顔、大声で挨拶することを心がけ、来てくれた人が楽しめるようスタッフにも伝えていました。
また、青森県八戸市は都会に比べると給与水準が高くないので、消費者が使えるお金も限られます。インフレ傾向の続く昨今も、近隣企業の給与が上がったという実感はありません。
集客面もありますが、安くおいしいものを提供したいと考え、メニューの価格もなるべく値上げしませんでした。2年間で食材やエネルギーの価格が大きく上昇しましたが、看板メニューの「濃厚煮干」と「トマニボ」の価格は780円から変更せず、安めに設定していた商品の価格を少し値上げしただけでした。
化学調味料は使用せず、肉もスープの素材も質の良い国産を使用しており、客観的に見ても、コストパフォーマンスの良い店だったと思います。
そのような思いで経営していても、辛辣な批判を浴びせられ、時に深く傷つくことがありました。
印象的な出来事があります。
開店から2ヵ月ほど経ったある日の夜、妻が今までで一番ひどく書かれているね、と悲しそうにスマートフォンを持ってきました。画面を見ると、Instagramの画面には、自分の作ったラーメンの写真があり、平均レベルにまったく達していない。行く価値がない店、など、店を罵倒する内容が長文で書き込まれていました。
それを見たときの気持ちは、悲しい、の一言でした。
固まる私を見て、息子や娘も心配そうに寄り添ってきました。後で周囲の店主に聞いてみると、書き込んだのは近隣のラーメン店を訪れてはひどい投稿をすることで有名な人なのだそうです。
投稿者は名誉棄損にならないラインを狙った書き込みをするようで、ほかの店主が弁護士に相談した際も、法的な追及は難しい旨の返答があり、泣き寝入りしたそうです。
学生時代から総合格闘技やブラジリアン柔術で、プロ選手とともに苦しい練習を乗り越えました。新聞記者として事件取材に従事した経験もあり、士業になってからは、日々、各種の業務で様々な機関と話をすることが日常で、主張をぶつけ合うことを恐れることもありません。
そのような私でも、一方的に批判を受けるのはとても苦しい経験でした。
たとえば、Google レビューは星とともに個人の意見が掲載され、誤解によって悪い評価をつけられることもあります。最終的には星4.0の評価を受け、トータルでは悪い店という印象を与えることはなかったかもしれませんが、毎日のように悪い評価を付けられていないか心配になり、自分の店を検索することが続きました。
傷つけられる内容の投稿はごく一部で、その10倍以上、店を褒める内容の投稿があります。店に立っていても、批判されることはなく、「おいしい」などと声をかけてくれる人が多いです。それでも、印象に残るのは、ネガティブな評価でした。
もちろん、仕事のミスを叱られた経験はたくさんあります。
それは自分に原因があって起こることで、受け入れがたいものではありません。恥ずかしい話ですが、正当な評価だと感じられるものが多かったです。また、納得いかない理由であれば、反論する機会もあります。
それに対し、インターネットで悪い評価をつけられる際に、納得いく理由があることは多くありませんでした。一生懸命、心を込めて作ったものが悪く言われると、とても悲しい気持ちになります。
また、インターネットを介して攻撃を受けると、反論する方法がなく、気持ちのやり場がなくなり、苦しい思いを内側で消化しなければなりません。
InstagramやTwitterなどのSNSであれば、数日で投稿が目に触れられなくなりますが、Googleレビューは店を検索すると悪い評価が長く目立つ位置にありました。書き込まれた場合、事実に反する内容や、フェアでない内容については、Googleに削除請求をすることができるものの、実際に削除される確率はとても低いです。
「食べると毎回腹を壊す」という書き込みがされたことがあり、こちらについては警察に相談もしましたが、結果として削除はできませんでした。そのほかにも、低加水のパツパツした食感の麺にこだわり、ホームページやメニューにも記載し周知しても、麺の食感が口に合わないことを理由に低い評価をされたりしたこともありました。
評価の内容を細かく読んでもらえれば、全体的な評価をわかってもらえるかもしれませんが、私も含め、多くの人は投稿の内容にはあまり目を通さず、星の数を参考にします。低い評価を受けてしまうと、店は実際にダメージを受けます。
以前、低い評価を投稿する人の考えを聞く機会がありました。店の悪い点を指摘し、改善を促すために「良かれと思って」投稿しているそうでしたが、これはまったくの的外れです。
インターネットに悪い投稿をすることは、一般的な仕事の環境でいえば、ミスを晒し上げにするようなものです。そうされた場合に感謝する人はいません。
本当に店のために改善を促すならば、まずはメールやDM(ダイレクトメッセージ)を使って指摘することもできます。
口コミへの有効な対策はないため、サービス業には口コミ対策業者から毎日のように営業の電話やメールが来ます。内容は、一定額を支払えば、高評価の口コミを投稿してくれるというものです。
一部のオーナーはサービスを利用し、評価を買っています。そのような店は、見ればすぐにわかります。同じような名前で高評価の投稿が続き、ライバル店に比べて異常に評価件数が多くなります。
適切な評価システムが崩れることは、店にとっても消費者にとっても不幸ですが、現在の仕組みはフェアとは言えません。
店を閉めた原因の一つには、批評されることのストレスもありました。
「おいしいものを安く提供したい」と考えて頑張っているのに、見えないところから石を投げられているようだ、という思いが日に日に強くなっていきました。
2年前、女子プロレスラーの木村花さんはインターネットで誹謗中傷を受け、死を選びました。私はラーメン屋を経営しているだけで傷ついたので、日常的に批評をされる有名人の苦しみは想像もつきません。忘れてほしくないのは、有名人も飲食店の店主も、普通の人間で、ひどいことを言われたら当たり前のように傷つくということです。
Yahoo!ニュースでコメントをする際に電話番号の登録が必須になるなど、悪意のある投稿を制限する流れもあります。気軽に投稿できる世の中ですが、画面の向こうに生身の人間がいることを忘れないでほしいと思います。
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