落選のショック……事業磨いて Makuakeで目標400%達成
大分の老舗の生姜せんべい職人が地元の有機生姜を使い、別府温泉で24時間じっくり蒸した「地獄蒸し」製法でつくった生姜エナジードリンク「生姜百景-GINGER SHOT-」をアタラシイものや体験の応援購入サイト「Makuake」で先行販売したところ、目標額の4倍超となる121万円の支援が寄せられました。
企画したのは、伝統銘菓「臼杵煎餅」を製造する創業100年超の「後藤製菓」(大分県)5代目の後藤亮馬さんです。
生姜百景の事業アイデアの原型は、前回の第2回「アトツギ甲子園」にエントリーした内容です。
第1回「アトツギ甲子園」では、最終審査に進むファイナリストに選ばれ、その経験を生かして第2回に臨んだのに、予選で敗退しました。舞台にも立てず、書類審査で落とされてしまいました。「本当にショックでした……」と振り返ります。
しかし、後藤さんはそこで歩みを止めませんでした。なぜなら第1回「アトツギ甲子園」で心に付いた火が消えていなかったから。
エントリーをきっかけに、一般社団法人ベンチャー型事業承継が運営し、全国のアトツギが集うオンラインコミュニティ「アトツギU34(現・アトツギファースト)」に参加したところ、全国の後継者が家業の未来を真剣に語り合う姿を目の当たりにし、後藤さんの心にもその“熱”がうつったといいます。
生姜百景の落選後は、第二創業を目指す中小企業の将来の経営者候補らの事業成長を支援する大分県の事業に応募して採択されます。
さらに、Makuake出品手数料(最大100万円)をかけた「〜自社ブランドデビューは誰だ〜マクアケ挑戦権 獲得アトツギピッチ」(一般社団法人ベンチャー型事業承継主催、マクアケ共催、エヌエヌ生命保険協賛)にもエントリーし、ファイナリストまで進出しました。
こうした機会を生かし「生姜百景-GINGER SHOT-」のコンセプトを磨き続けました。「生姜百景-GINGER SHOT-」は、毎日を頑張る女性のための「エナジードリンク」として、ノンカフェインで食品添加物を一切使わない有機素材だけで作りました。
「生姜百景 GINGER SHOT」以外でも、菓子原料として使えず年間最大2t廃棄していた生姜の搾りかすを再生した生姜粉末を活用した商品を開発するなど、環境への配慮にまで目を向けています。
こうしたポイントをアピールしたMakuakeで先行行販売では121万円が集まるなど、幸先のよいスタートを切ることができました。
「お前、変わったよな」
昔を知る地元の知人から最近、そう声をかけられたといいます。以前は人前に出るだけで顔が真っ赤になるぐらい人見知りだった後藤さん。いまでは、「一歩踏み出したら世界が変わる」を実感しています。
第2回「アトツギ甲子園」優秀賞、ウレヒーローの販路拡大を後押し
柔軟で伸縮性があり撥水性にも優れた新塗料「ウレヒーロー」。今や各地のホビーショップなど全国約90カ所で販売され、製造開発元の「斎藤塗料」(大阪市)が取り扱う2000種の塗料でも上位10位にランクインする売れ筋商品となりました。
販路拡大のきっかけの一つは、5代目の菅彰浩さんがエントリーし、優秀賞に選ばれた 第2回「アトツギ甲子園」でした。
ファイナリストとして登壇した最終審査会。実際にウレヒーローで銀色に塗装したゴム手袋をはめて「これまでにない柔らかいメッキ塗料」という独自性をアピールしたところ、注目を集めて、メディア取材が相次ぎました。
販売店向けの資料に「アトツギ甲子園優秀賞」と書き込むと、問屋を通じて「すごい賞をもらったんですね」と評価してもらっていることを耳にしています。
もう一つ、菅さんにとって、うれしかったことがあります。アトツギ甲子園で思いを語る姿を、社員の人たちがオンライン上で応援してくれていたと知ったことでした。
「会社帰ってくると、『おめでとう』と打ち上げ会を開いてくれ、これからウレヒーローを売り出すのに向けて一致団結できたように感じます」
ウレヒーローは発売から7ヵ月で3万本が売れ、1500万円を売り上げています。
先代も驚く「目に見える説得力」につながった
薄さ3㎝の壁掛け折りたたみデスク「タナプラス」。細田木工所(東京都)の3代目アトツギ細田真之介さんがコロナ禍でヒットさせた新商品です。
賃貸アパート・マンションなどでスペースを取らない机や棚に早変わりするとして、ほかの部屋との差別化にもなるとデベロッパーから注目されるようになり、今も継続して受注しています。
細田木工所は元々、大手住宅メーカーからデザイン家具の設計で事業を広げていましたが、時代とともに利益が出にくくなっていたといいます。
「一生懸命働いているのに赤字、という状況を変えたい」
細田さんは新規事業に取り組みますが、ベテラン職人でもある父親の目には「遊んでいる」と映っていたそうです。
転機となったのは、第1回「アトツギ甲子園」。コロナ禍のリモートワークに最適というトレンドをとらえたタナプラスにより、優秀賞を受賞することができました。すると、TVなどの取材が相次ぎ、大手住宅メーカーのショールームにもタナプラスが展示されるようになりました。
さらに、波及効果でオーダー家具の受注にもつながるようになり、決して褒めることのなかった父親が「すごいな」とつぶやいたといいます。
「目に見える成果を出したことで、事業に説得力が生まれました」
細田さんは元々、家業である細田木工所の事務所で新規事業に取り組んでいましたが、仕事が増えるにつれて手狭になってきました。
そこであらたに「細田製作所」という新会社を立ち上げて商品開発やデザインに力を入れています。2023年には新たに工場を借りてさらに事業を拡大する予定です。
事業アイデア磨くうちに「事業撤退」消えた 新ブランドは3年目へ
「マスクのある生活を、心地よいものにしたい」。そんな思いから、女性向けアパレル製品の商品企画・製造・販売などを手がける「パレ・フタバ」(大阪府)のアトツギで副社長の藤井篤彦さんがマスク特化型ライフスタイルブランド「We’ll」を立ち上げて2周年を迎えました。
新型コロナの流行が始まると、世の中はマスク不足に陥りました。すると、社員からストレッチパンツの素材をマスクに生かしたサンプルを見せられました。これが、25~34歳のミレニアル世代に向けたマスクブランド「We'll」へとつながります。
ストレッチ素材から立体的に縫製されたマスクは、フェースラインにフィットし、長時間つけていても耳が痛くなりません。豊富なカラーバリエーションも特徴です。
強みが見えてきた一方、経営に携わる立場として、売り上げが伸びなかったとき、マスクが市場に飽和してしまったときに備えて「撤退ライン」も頭の中では考えていました。いまは不足しているマスクでも、いつかは飽和してしまうのではないか……。
そんな迷いが第1回「アトツギ甲子園」へのエントリーで消えました。最終審査会に向けて、事業アイデアを磨いていくうちに、コロナ禍でマスクをつける習慣がある程度定着すると、布マスクの市場規模のポテンシャルは500億円ほど継続する可能性が見えてきました。
「これならいける」
撤退の2文字は頭の中から消えていました。
それならば、着け心地の良いマスクといえば「We’ll」と発想してもらえるようトップランナーを目指すだけです。
「マスクのある生活を心地いいものにしたい」という思いは時流もとらえ、第1回「アトツギ甲子園」で優秀賞に選ばれました。
TVや雑誌など20本以上に継続して登場でき、ブランドの立ち上げから2年を迎えても、週あたりの新規顧客が3割という状況が続いているといいます。
さらに、トータルビューティーアドバイザーの亜耶バネッサさんによるマスクに合わせたメイクのコツの情報発信や、ヨガスタジオとのコラボなど新しい取り組みも続けています。
事業は3年目を迎えます。藤井さんは「自分たちはどんな社会に向けて何をしたいのか。問い続ける作業を続けたいと思います」と話しています。
第3回「アトツギ甲子園」エントリー特典
新規事業に挑戦するアトツギたちを応援してきた第3回「アトツギ甲子園」は公式サイトで、エントリーを受け付けています。締め切りは、2023年1月6日です。
39歳以下の中小企業後継者(1983年4月以降生まれ、代表権があっても参加可)にエントリー資格があります。最優秀賞者、ファイナリスト、エントリー者の特典はそれぞれ次の通りです。
最優秀賞者への特典
「中小企業庁長官賞」を贈呈します。公式サイトの特設ページの他にも、複数のメディアに掲載される可能性があります。2022年度優勝者はForbesJAPAN、BSフジ、 ABEMA、日本経済新聞などで取り上げられました。
ファイナリストへの特典
審査の結果、最優秀賞・優秀賞など、計5人に賞が授与されます。
「アトツギ甲子園」公式サイトの特設ページで、取材させていただきます。2023年3月3日に開催される決勝大会で、多数のオーディエンスの前で プレゼンテーションできます。
決勝大会までに事業ブラッシュアップのメンタリング機会を提供します。豪華審査員からアドバイスももらえます。
エントリー者への特典
中小企業庁が運営する後継者コミュニティに参加できます。(任意)
「アトツギ甲子園」公式サイトの特設ページに、事業プラン名と会社名などが掲載されます。
アトツギ甲子園の問い合わせ先
問い合わせ先は、土日祝日を除き9時から17時まで、第3回「アトツギ甲子園」運営事務局(03-6899-3413、メール:info@atotsugi-koshien.go.jp)へ。