目次

  1. 解雇理由証明書とは 会社側に交付義務
  2. 解雇理由証明書の記載例 厚生労働省がひな型
  3. 法によって定められた解雇理由証明書のルール
  4. 従業員が解雇理由証明書を請求する2つのパターン
    1. 解雇理由を書面で残しておきたい
    2. 弁護士などに事前に相談しており、解雇に関して争うつもりがある
    3. ※訴えられた場合、どういうリスクがある?
  5. 解雇理由証明書の記載事項
    1. 解雇理由の根拠
    2. 事実関係
  6. 解雇理由証明書の作成時の注意点
    1. 労働者の請求のみに応答すること
    2. 可能な限り情報を網羅した記載を行うこと
    3. 客観的かつ合理的な記載を行うこと
    4. 就業規則など解雇の根拠を示すこと
    5. 不安な場合は弁護士に相談すること
  7. 解雇理由証明書を甘く見ない

 解雇理由証明書とは、労働者がどのような理由で会社から解雇されたか記載されている書類のことです。解雇予告日から退職日までの間に労働者が会社に対して解雇理由を請求する場合に発行されます。解雇理由証明書を請求された場合、会社は遅滞なくこれを交付する必要があります。

解雇理由証明書が請求される理由や作成時の注意点
解雇理由証明書が請求される理由や作成時の注意点(デザイン:吉田咲雪)

 解雇理由証明書は、会社が労働者に対して解雇を通知することで足りる解雇通知書とは異なり、解雇の理由を具体的に示す必要があります。具体的には、就業規則の一定の条項にあたることを理由に解雇した場合には、就業規則の内容や、その事実関係を記載する必要があります(平成11年3月31日基発第45号)。また、解雇理由証明書は、労働者が失業給付をする際に必要な離職票とも異なる書類にあたります。

 なお、退職証明書と解雇理由証明書も趣旨が異なります。退職証明書は、労働者が退職する際、在職中の契約内容等について請求を行った場合に会社から交付される書類です。労働者が解雇された場合だけでなく、自己都合で退職した場合においても、会社側に交付する義務が発生します。

 解雇理由証明書は、書式が決まっていないことも特徴ですが、厚生労働省にひな型があります。

解雇理由証明書テンプレ(東京労働局ver)

出典:解雇理由証明書|厚生労働省東京労働局

 解雇理由証明書のルールは、以下のとおり定められています。

①労働者からの請求があれば発行しなければならない
・労働者から請求があった場合には、遅滞なく解雇理由証明書を交付しなければならない(労働基準法第22条第1項)
・解雇予告期間中に労働者から請求があった場合も、遅滞なく交付しなければならない(労働基準法第22条第2項)
②記載する内容が定められている
・解雇の理由については、具体的に示す必要があり、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、就業規則の当該条項の内容や、当該条項に該当するに至った事実関係を証明書に記入しなければならない(平成11年3月31日基発第45号)
※なお、解雇された労働者が、解雇の事実のみについて証明書を請求した場合には、会社は、解雇の理由を証明書に記載してはならず、解雇の事実のみを証明書に記載する義務がある
・解雇理由証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない(同法第3項)
③発行しなかった場合は罰則がある
労働者から会社に解雇理由証明書の請求があったにもかかわらず、解雇理由証明書を発行しなかった場合には、労働基準監督署から是正勧告をされたり、「30万円以下の罰金」を課される可能性がある(同法第120条第1号)
④発行しなくてもいい場合がある
・解雇理由証明書は、労働者に解雇を予告した日から退職日までに交付するものである。ただし、労働者が解雇日以降に解雇の理由の開示を求めた場合も、解雇理由を記載した退職証明書を交付して、労働者の要求に応じなければならない。なお、労働者を解雇した時から2年が経過した場合、会社は、労働者の請求に応じる必要はない(同法第115条、平成11年3月31日基発169号)
・解雇を予告した後、会社が示す解雇事由以外の理由で労働者が退職した場合には、その労働者の退職後に解雇理由証明書を請求をされても、解雇理由証明書を発行する必要はない(同法22条2項ただし書き)

 なぜ、従業員は解雇理由証明書を請求するのでしょうか。大きく分けて2つのパターンがあるので、それぞれ以下で詳しく説明します。

 まず、従業員が解雇理由証明書を請求する場合の一つ目のパターンとしては、会社は解雇理由を口頭で伝えているものの、労働者が解雇理由を覚えていないなどの理由から、会社に対して、解雇理由証明書を請求する場合が考えられます。

 また、もう一つのパターンとしては、従業員が解雇理由に納得しておらず、事前に労働基準監督署、労働組合や弁護士に相談しており、会社が解雇した理由の証拠を残すために、労働者が解雇理由証明書を請求することが考えられます。筆者が労務相談を受けてきた過去の経験を踏まえると、①のパターンよりも、②のパターンが多い印象です。

 では、解雇理由証明書を用いて訴えられた場合、どういうリスクがあるのでしょうか。以下では、解雇理由証明書をめぐる5つのリスクについて解説します。

①訴訟が長期化してしまう

 労働者が、会社が行った解雇が無効であるとして、訴訟などの法的手続きを行ってきた場合では、終了するまでに、最短でも半年程度はかかってしまい、長期化した場合には、最大1年半から2年程度かかってしまいます。そのため、訴訟を提起された場合、解雇紛争が解決するまでには、相当の時間を要する可能性があります。

②訴訟で敗訴した場合は解雇が無効になってしまう

 会社が解雇無効の訴訟で敗訴した場合には、解雇が無効となってしまいます。解雇が無効となった場合には、解雇した労働者と会社との間の雇用契約は、引き続き継続することとなります。そのため、会社には、解雇した労働者を引き続き働かせる義務が生じることとなります。

③訴訟で敗訴した場合は解雇日の翌日以降の給与の支払いが認められてしまう

 また、(2)記載のとおり、解雇が無効となった場合には、解雇した労働者と会社との雇用契約が続いていることから、会社は、労働者に対し、解雇日の翌日以降の給与の支払義務が生じることとなります。

④金銭的な解決を求められてしまう

 もし、仮に、訴訟に至らなくとも、労働組合との団体交渉や、弁護士との間で交渉を行うようになった際には、相手方が提示してきた金銭を支払わなければ、本件解雇の交渉を解決できないこともあります。

⑤労働組合から団体交渉を求められてしまう

 会社と労働者との間の解雇の紛争に労働組合が介入してきた場合、労働組合から団体交渉を求められます。また、会社が労働組合からの団体交渉を拒否した場合には、「不当労働行為」(労働組合法第7条第2号)に該当するなどと主張され、かえって訴訟よりも紛争が長期化するおそれもありますので、より慎重な対応が求められます。

 上記のとおり、解雇理由証明書は労働者から請求があった場合に交付しなければならず、訴訟につながる恐れもあるため慎重な作成が求められます。具体的には、どんなことを記載するのでしょうか。

 解雇理由証書には、解雇の根拠を具体的に記載をしなければなりません。例えば、就業規則の一定の条項に該当することを理由として解雇した場合には、「貴殿の行為は、当社就業規則の第●条第●項に該当した」との記載(会社の就業規則のどの条文に該当したとの記載)をする必要があります。

 また、解雇理由証明書には、事実関係も具体的に記載しなければなりません。例えば、解雇を行う前に従業員に対して注意指導を行ったか否かなどの解雇に至るまでの経緯はもとより、複数の問題行為に基づいて解雇を行う場合には、一つ一つの問題行動を掘り下げ、かつ、どの事実を重視した結果、解雇の判断をしたかとの判断過程も記載することが望ましいといえます。

 解雇理由証明書は、それを基に訴訟や団体交渉に発展するリスクをはらんだ重要な書類です。作成時に気をつけなければならないポイントは5つあります。

 解雇理由証明書には、労働者が請求しない事項を記載してはならないと定められており、過剰な記載をした場合、労働者に対して余分な情報を与えてしまう危険性があります。さきほど解説したとおり、訴訟や団体交渉につながる可能性があるため、過剰な記載は避けましょう。労働者が解雇の事実のみを開示しているのか、それとも、解雇の理由を開示しているのかといった事項を把握したうえで、その情報のみを記載する必要があります。

 普通解雇の場合、解雇理由を事後的に追加することも認められている裁判例((東京地方裁判所八王子支部判決平成16年9月30日判決)もあります。しかし、原則として、解雇理由証明書に記載の事実が解雇理由と判断されることが多いことから、解雇理由証明書には、可能な限り、従業員を解雇と判断したことを基礎とする事実を漏れなく網羅的に記載することが必要となります。

 上記のとおり、解雇理由証明書には、解雇を基礎づける事情を網羅して記載することが必要ですが、解雇理由証明書記載の事情が、書面や従業員の証言などから客観的に裏付けられており、解雇の理由となる合理的なものであることも必要です。

 会社が何ら調査を行わずに、社長の独断などで解雇理由証明書を記載した場合には、労働者の感情を逆撫でしてしまい、かえって訴訟や団体交渉に発展する場合もままあります。

 そのため、解雇理由証明書に記載する事実は、会社で十分に調査を行い、事実の重大性を吟味することが不可欠となります。

 また、就業規則などの何条に基づいて、解雇を行ったかを記載する必要があります。特に、懲戒解雇の場合には、解雇理由証明書に記載していない事実や根拠を後から追加することができません。そのため、解雇に該当する事実が、就業規則などのどの条文に該当しているかという点は、明示のうえ記載することが重要となります。

 このように、解雇理由証明書を作成する際には、解雇の基礎となっている事実の有無や、当該事実が就業規則などの条文に該当する理由、解雇に至るまでの説明の過程を記載しなければなりません。したがって、会社としては、従業員の解雇を検討しており、解雇理由証明書を作成する前には、弁護士に相談したうえで、解雇理由証明書を作成することをおすすめします。

 解雇の訴訟などでは、ほぼ解雇理由証明書が提出されており、同記載に沿って解雇理由が審理されています。そのため、解雇理由証明書の記載は、従業員を解雇する場面において、解雇紛争に発展するか否かを決定付けるものといっても過言ではありません。

 したがって、解雇理由証明書を作成する際、または、従業員の解雇を検討する際には、ぜひ一度弁護士と協議のうえ、対応を協議することをおすすめします。