目次

  1. 外国税額控除とは?
    1. 制度の目的
    2. 制度の仕組み
  2. 外国税額控除の対象
    1. 対象になるもの
    2. 対象にならないもの
  3. 外国税額控除とあわせて知っておきたい2つの制度
    1. みなし外国税額控除
    2. 外国税額控除の繰越控除
  4. 外国税額控除の手続き
    1. 必要な書類
    2. 申告書の記載方法
  5. 外国税額控除で二重課税を回避 

 外国税額控除とは、海外で支払った税金を日本の税金計算のルールに則って控除することです。 

 外国税額控除について聞き馴染みのない人が多いかと思いますので、まずは制度の目的、制度の仕組みについて解説します。

外国税額控除の概要
外国税額控除の概要(デザイン:吉田咲雪)

 外国税額控除の目的は、国際的な二重課税を調整することです。

 日本の税制では、日本に住んでいる人(居住者)や内国法人が獲得した所得(儲け)は、国内で稼いだものと、国外で稼いだもの、すべての所得に対して日本で税金が発生します。これを全世界所得課税方式といいます。

 しかしながら、国外で獲得した所得は、獲得した国の税制にて納税する義務が生じることがあります。そのため、たとえば国外で100円の所得が生じたら、国外で20円の税金を納め、さらに日本でも30円の税金を納めることになります。これが国際的な二重課税です。

 外国税額控除は、この二重課税の問題を解消させることを目的としています。

 国際的な二重課税の問題がある場合、その国に居住して事業をやろうと思われなくなります。そういった人材や企業の国外への流出を避けるために設けられています。

 外国税額控除の仕組みでは、日本で計算した税額から、以下のいずれか少ない金額を直接差し引くことができます。

  1. その年の外国法人税額
  2. その年分の法人税額 ×(その年分の調整国外所得金額 ÷ その年分の所得総額)

 実際に数値を使って計算をします。仮に、その年に得た所得総額が700万円、そのうち国外で得た所得が300万円、外国法人税額50万円だった場合は、以下の通りです。なお、資本金の額が1億円以下の普通法人であることを想定します。

その年の法人税額 = 700万円 × 15%(中小法人の特例税率)= 105万円
105万円 ×(300万円 ÷ 700万円)= 45万円
その年の外国法人税額50万円>45万円

 以上より、外国税額控除は45万円になり、105万円 - 45万円の60万円が納税額になります。

 結果としては、日本で稼いだ400万円(700万円 - 300万円)に対して15%を乗じた金額となりました。

 外国税額控除では、全ての外国で生じた法人税を対象としているわけではありません。ここでは対象となるもの、ならないものを確認していきます。なお、法人税の規定をベースに記載をしていますが、個人の所得税でも同じように適用がありますので、法人税と記載のところは所得税、法人と記載されている箇所は個人、と読み換えてください。

 外国税額控除の対象となる外国法人税は法人税法施行令(以下、施行令といいます。)の141条1項で、「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税」(引用:法人税法施行令(昭和四十年政令第九十七号)丨e-Gov 法令検索)と定められています。

 その他、施行令141条2項では、以下のように計算される税金についても外国法人税として認められています。

1. 超過利潤税その他法人の所得の特定の部分を課税標準として課される税 2. 法人の所得又はその特定の部分を課税標準として課される税の附加税 3. 法人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、法人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの 4. 法人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、法人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税

引用:法人税法施行令(昭和四十年政令第九十七号)丨e-Gov 法令検索

 基本的には、所得に対して発生するものが該当します。また、一部の国では収入金額を課税標準とするものがあり、それも控除の対象となります。

 外国税額控除の対象にならないものは法人税法施行令141条3項に定められています。

1. 税を納付する者が、当該税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税 2. 税の納付が猶予される期間を、その税の納付をすることとなる者が任意に定めることができる税 3. 複数の税率の中から税の納付をすることとなる者と外国若しくはその地方公共団体又はこれらの者により税率の合意をする権限を付与された者との合意により税率が決定された税(当該複数の税率のうち最も低い税率(当該最も低い税率が当該合意がない物とした場合に適用されるべき税率を上回る場合には当該適用されるべき税率)を上回る部分に限る。) 4. 外国法人税に附帯して課される附帯税に相当する税その他これに類する税

引用:法人税法施行令(昭和四十年政令第九十七号)丨e-Gov 法令検索

 上記を見てわかるように、日本に該当するような税は想定されていません。このような特殊な税金が対象外となります。

 対象となるもの、対象とならないものの区分けは税理士に確認した方が良いでしょう。

 外国税額控除には、関連する制度が2つあります。

 みなし外国税額控除とは、日本企業が開発途上国への投資を抑えないようにする制度です。

 開発途上国では、自国に投資をしてもらえるように優遇税制を設定していることがあります。優遇税制とは、日本よりも低い税率を設定するなどの措置をとることです。しかし、外国税額控除を優遇税制された外国法人税にそのまま適用してしまうと、実質的な所得税負担率で課税されてしまうことから、本来の優遇税制の目的が果たせません。その課題を解決するために、みなし外国税額控除が設定されています。

 対象となる国は2022年7月1日現在、ザンビア、スリランカ、タイ、中国、バングラデシュ、ブラジルの6カ国です。日本はこれらの国と租税条約を締結しています。

 外国で獲得した所得と、その所得に基づいて支払う税金は、日本での事業年度と一致しないことがあります。例えば、初年度に所得が発生していたとしても、納税は翌年度になることがあります。このような年度のズレに対応するために繰越控除の制度があります。 

 このような差額は、外国所得税の額が控除限度額を超える場合と、外国所得税の額が控除限度額に満たない場合と、いずれにも発生する可能性があります。そのため、どちらの場合であっても、それぞれ3年間の繰越控除を行うことが可能です。

 申告書に適切に記載することで、繰越することが可能になりますので、忘れずに実施しましょう。

 外国税額控除を受けるためには、法人税の申告書を提出する際に、必要な書類を添付したり、申告書に適切に記載することが求められます。

 所得税の場合、外国税額控除を適用するために、必要な書類は以下の通りです。

  1. 確定申告書
  2. 外国税額控除に関する明細書
  3. 外国所得税を課されたことを証明する書類等
  4. 国外所得総額の計算に関する明細書
  5. 各年の控除限度額や納付した外国所得税の記載した書類

 このうち、必ず必要な書類は確定申告書と外国税額控除に関する明細書になります。それ以外の書類は必要に応じて、年間取引報告書を入手することで代用することができます。外国で株式投資をしている場合は、証券会社から届く書類は大切に保管をしましょう。

 法人税の場合、外国税額控除を適用するために、必要な申告書の記載箇所は以下の通りです。

  1. 別表六(二)及び付表
  2. 別表六(二の二)
  3. 別表六(三)及び付表
  4. 別表六(四)
  5. 別表六(五)

 これらの別表に適切に記載をして、法人税の申告書を作成します。書式等の詳細は国税庁の法人税のページをご覧ください。

 また、これらの根拠となる資料は、別途保管をしておくようにしましょう。

 所得税の場合、「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」を作成する必要があります。

 「外国税額控除に関する明細書(居住者用)」の記載方法の詳細は国税庁の「No.1240 居住者に係る外国税額控除」のページより確認することができます。

 5ページ目以降に記載方法が説明されており、計算式に関しても申告書に記載された通りに進めていくと、正しい値を導き出せます。この書類を作成すると、控除限度額などが計算でき、その結果をもとに確定申告書を作成すると、外国税額控除を適用することができます。

 法人税の場合は、国税庁がホームページ上で公開している記載要領を参照しながら、作成しましょう。また、顧問税理士がいる場合は、必要に応じて問い合わせをすると良いでしょう。

 外国でも事業を展開していたり、株式投資を行っていたりする場合は、それぞれの国で税金が生じます。その税額を適切に処理することで、二重課税にならずに日本で納税できます。しかし、この制度は自ら必要書類を収集し、申告書を作成しないと受けることはできません。

 しかも、作成すべき書類は多く、また書き方も少し難しいのが特徴です。そのため、実際に作成する際には税理士に頼るのをおすすめします。

 納税者にとっては有利な税制になるため、外国で利益が発生し、税金が生じた場合には忘れずに活用しましょう。