稼ぐ力、沖縄の文化継承につながる okicom2代目の伴走型DX
ソフトウェア開発などで40年以上の歴史を持つokicom(沖縄県宜野湾市)の後継ぎであり、常務取締役の小渡晋治さん。現在は新規事業開発担当として、泡盛の排水処理や、かりゆしウェアの在庫管理システムなどのDX化に取り組んでいます。「事業として成立させることが、文化の継承につながる」と話す小渡さんに、その真意を聞きました。
ソフトウェア開発などで40年以上の歴史を持つokicom(沖縄県宜野湾市)の後継ぎであり、常務取締役の小渡晋治さん。現在は新規事業開発担当として、泡盛の排水処理や、かりゆしウェアの在庫管理システムなどのDX化に取り組んでいます。「事業として成立させることが、文化の継承につながる」と話す小渡さんに、その真意を聞きました。
小渡さんが新規事業に取り組む上で心掛けているのは、沖縄の地域性を最大限に活かし、テクノロジーの力で循環型経済を実現すること。その一例が、科学技術を活用した、泡盛の製造過程で生まれる廃水を処理する装置のDX化です。
沖縄特産の蒸留酒、泡盛の年間生産量は12000キロリットル以上(2020年、沖縄県酒造組合)。泡盛は米を原料に、黒麹菌と酵母で発酵させたもろみを蒸留して製造します。製造工程で大量に発生する廃水やもろみはサトウキビ畑に撒くなどして処理していましたが、人件費の高騰などの課題がありました。
琉球王朝から続く歴史と、地理や気象条件が合わさって独自の文化を築いてきた沖縄。北部の恩納村には、沖縄科学技術大学院大学(OIST)があります。
OISTは、2012年に開設された博士課程のみの5年生大学院で、2019年には質の高い論文を発表した研究機関ランキングで、東京大学(40位)、京都大学(59位)を上回る9位に選ばれました(英科学誌「ネイチャーインデックス2019」)。
そこで小渡さんは、okicomとして初発のスタートアップ「Watasumi(わたすみ)」との連携をスタート。Watasumiは2021年に、OISTで研究者をしていた米国人研究者のデヴィッド・シンプソン氏が創業しました。食品や飲料系の企業廃水を微生物によって浄化する廃水処理装置を開発しています。
創業者のシンプソン氏は「飲食産業は、文化や伝統を次の世代に繋いでいく役割を担っています。我々の技術で、沖縄の中小飲食料メーカーが持続可能なビジネスを実現できるように貢献したい」と意気込みを語ります。
↓ここから続き
廃水設備は従来、大企業向けの製品が殆どで、投資コストが抑えられた中小企業向けの設備が少なかったため、中小企業には導入が難しいケースがほとんどでした。
しかし、Watasumiはこの廃水処理システムをサブスク型で展開することを検討。初期コストを押さえつつ、ランニングコストも従量課金制とすることで、中小の泡盛メーカーでも導入し易い仕組みの開発に取り組んでいます。2023年1月現在、読谷村の比嘉酒造の協力のもと、実地での装置の検証を重ねています。小渡さんは現状を次のように紹介しました。
「サブスク方式で比較的安価に使っていただき、使用されたデータを蓄積していって今後に活かすというビジネスモデルを取っています。微生物によって廃水を浄化できますし、循環型経済の観点でも、ビジネスモデルとして優れています。現在、okicomとの連携で廃水処理装置のIoT化を進めています。また、外国人経営者が英語で直接酒造と商談することは簡単ではないため、地域に根差したokicomと連携し、地元と円滑なコミュニケーションを取れるようにするのが自分たちの存在意義だと思います」
IT技術を活かした小渡さんの取り組みは、琉球びんがたや、かりゆしウェアといった沖縄ならではの産業にも広がりを見せています。
たとえば、13世紀に起源をもつといわれる沖縄の染め物「琉球びんがた」は、沖縄の人々にとって宝物のような伝統工芸品。しかし着物市場が縮小するにつれ、職人の数も減少する中で、次の展開に対する模索が続いています。
「びんがたをデザイン(知財)として生活に取り入れ、伝統工芸を活性化していくことができるのではないか」と考えた小渡さんは、慶應義塾大学大学院のメディアデザイン研究科・工芸みらいプロジェクトとの産学連携を開始。2019年には一般社団法人琉球びんかた普及伝承コンソーシアムを設立しました。
「沖縄県の補助金・助成金などもあるのですが、1年ごとに内容が変わったり、担当者が変わったりして、安定的に続けていくことが難しい。そのため、県内の有力企業にコンソーシアムとして参加してもらうことで、安定的な事業の運営ができるように考えました」
びんがたのパターンを使ったせっけんやティーバックのパッケージ化や、エプロン、タンブラーなどの新商品開発だけでなく、びんがたのパターン自体を素材としてライセンス販売し、知財としてモニタリングしていくことも目的としています。
2020年1月からは、日本トランスオーシャン航空のクラスJシートのヘッドレストカバーに、工芸みらいプロジェクトでプロデュース したびんがたのパターンが使われるようになりました。パターン自体をライセンス管理することで、近年、多くの伝統工芸で問題視されている、粗悪なコピー品の普及を防ぐ効果もあるといいます。
かりゆしウェアについては、2021年4月、サトウキビの搾りかすである「バガス」を使った衣料品を販売するSHIMA DENIM WORKS(沖縄県浦添市)と共同で、かりゆしウェアのシェアリングサービスを開始しました。
観光客やビジネスパーソンに好まれるかりゆしウェアですが、買って持ち帰ったあとも活用している人は少ないのではないでしょうか。
「無駄に作られ、使われない衣類となってしまうことは環境への負担になってしまいます。そのため、シェアリングサービスにして再利用するだけでなく、バガスの繊維を糸にしてかりゆしウェアを作っています。シェアリングサービスにし、一着一着にICタグをつけることで、効率的な製品管理を実現させている他、利用者のスマホでICタグを読み込むことで、バリューチェーンの情報にアクセスが出来ます。製品寿命が終わり、廃棄されるウェアは、炭化の技術を用いて、土壌改良材となり、再びサトウキビ畑で活用されることで、資源が循環する仕組みを構築しています」
このプロジェクトは「バガスアップサイクル」と名付けました。これを機に、かりゆしウェアの在庫管理システムをokicomで受注するなどの相乗効果も生んでいるといいます。
小渡さんは早稲田大学商学部を卒業後、メリルリンチ日本証券の投資銀行部門に入社し、約10年ほど勤務。シンガポール経営大学でMBAも取得しました。海外でも、東京でも通用するキャリア。実際に現地で就職することも考えたといいます。しかし「若いうちに家業を継いで、故郷のためにチャレンジしたい」と30代のうちに家族を連れて沖縄に戻りました。
1607年に明の皇帝によって沖縄に派遣されたのが小渡さんの一族。生まれ育った沖縄に対する、愛情と危機感がうかがえます。
もともと、okicomの主力事業は各種システムの開発・運用や土木・自治体向け地理情報システム、県内外メーカーのITソフト導入サポートなど、昨今注目されるDX化の下地作りと呼べるようなものでした。
ややもすると「バズワード」と化している「DX」ですが、沖縄の中小企業や団体に導入する際に大切なのは、まず経営者のマインド改革だと小渡さんは指摘します。
「今後、企業経営にITを使っていくことは当然の帰結です。しかし、DXのためのDXではなく、デジタルを活用して何をどう変革するかが本筋です。そもそものところで、変革マインドを経営者自身が持っていないと、単にデジタルツールを入れてもトランスフォーメーションができません。そのために、伴走しながらマインドも改革していくことがほとんどです」
こと伝統工芸においては、後継者の不在や、安価な海外製品の台頭で事業の存続に苦しんでいる事業者が多いはずです。さらにコロナ禍が直撃したことで、日本各地で存続の危機に瀕している産業も少なくないでしょう。政府や自治体による補助金もあるものの、永遠に続くものではありません。
「文化の継承やさらなる発展には、持続可能である必要があります。そのためには適正な利益が確保されている、つまりビジネスとして回っていることが不可欠です」
こと新規事業は、なかなかすぐに芽が出ないものもあります。それを踏まえた上で、今後はびんがたや、かりゆしウェアといったプロジェクトでも「稼ぐ力」をつけていきたい、という小渡さん。
「本来価値があるのに顕在化できていなかったり、サービスとして提供するまでに至っていなかったりするものをDXで顕在化させ、伴走しながら事業として成立するように展開していきます」
ビジネスとして自走できるようになることが、沖縄の文化や伝統を守ることにつながると信じています。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。