目次

  1. 圧縮記帳とは 補助金活用時の弊害なくす
  2. 圧縮記帳が適用となる要件と具体例
    1. 国庫補助金等
    2. 保険金等(保険差益)
    3. 交換
    4. 収用等
  3. 圧縮記帳の仕訳方法 接減額方式か積立金方式か
    1. 直接減額方式
    2. 積立金方式
    3. 直接減額方式と積立金方式の比較
  4. 圧縮記帳の注意点
    1. 法人税申告書で圧縮記帳の別表が必要になる
    2. 償却資産税の申告に圧縮記帳の制度はない
    3. 少額減価償却資産の特例は圧縮後の価額となる
  5. 圧縮記帳の効果的な活用方法
  6. 圧縮記帳をうまく活用して最適な税務戦略を

 圧縮記帳とは、税法上で認められた、課税の繰り延べをする会計処理のことです。一定の要件を満たす場合に、本来は利益(益金)となるものを、その益金が発生した事業年度のものとせず、翌年度以降に繰り延べることで、補助金などを活用する際に政策上の弊害をなくそうとするものです。

圧縮記帳の仕組みと注意点
圧縮記帳の仕組みと注意点(デザイン:吉田咲雪)

 最近では、コロナ対策での設備投資をした場合に補助金の交付を受けるという例がよくあります。このとき、補助金による収入も法人税の対象となるのが原則です。しかしそうすると、補助金を受給した年度に多くの所得が発生し、税負担も増加するため補助金の効果が薄れてしまうことになります。

 そこで、税務上、補助金を充てて取得した固定資産の取得価額から補助金の額を減額させることで、補助金を受給した年度の所得から除く処理をします。これが圧縮記帳の仕組みです。

 補助金の額が受給された年度の所得から除かれるのですが、全体的な所得が減るわけではありません。固定資産の取得価額が減額されているので、減価償却資産であれば、その分減価償却費が少なく計上されることになります。

 そのため、トータルで見ると所得は同じとなり、圧縮記帳は税の免除ではなく、課税の繰り延べという結果となります。

 個人事業主(所得税)も圧縮記帳と同じような仕組みがありますが、今回は法人を対象に解説します。

 法人が圧縮記帳を適用する場合、後に示す、帳簿価額を損金経理により減額する方法、または積立金として積み立てる方法による経理処理を行い、確定申告書(法人税法別表)に明細の記載をする必要があります。

 圧縮記帳を利用する例として、補助金の交付を受けた場合を取り上げましたが、圧縮記帳が適用となるのは補助金に限らず、いくつかあり、そのうち一般的なものを示します。なお、より細かな要件がありますので、詳細は国税庁のHPを参照してください。

 国庫補助金等の交付を受けたときは、原則的に収入となり課税対象となりますが、そうすると補助金の政策目的が果たされないことになります。そこで、圧縮記帳が認められています。

 国庫補助金等とありますが、国庫に限らず地方自治体の補助金も対象です。身近なところでは、市町村が産業政策やコロナ対策といった名目で各種補助金を設けていますが、これら市町村からの補助金は圧縮記帳の対象となります。

 さらに、ものづくり補助金、IT導入補助金、事業再構築補助金といった補助金については、補助金を交付している団体こそ国や地方公共団体ではないものの、補助金の原資が国からの補助金であるため、この国庫補助金等として扱われます。

 ただし、補助金とあればすべてが対象となるわけではないため、補助金の税法上の取扱いについては、補助金交付団体の案内でよく確認してください。

 また、国庫補助金等の場合、圧縮記帳の限度額は補助金の額以下となります。限度額なので、補助金の額すべてを圧縮記帳とせず、一部のみ対象とする、あるいは全く対象としないことも可能です。

 所有していた固定資産が滅失、損壊等によって保険金等の支払いを受けた場合、その固定資産の帳簿価額よりも受け取った保険金等の額が多いと、保険差益が発生します。この保険差益は法人の意思に反して発生したものであり、一時に課税すると被害の回復をするうえで弊害があります。そこで、滅失、損壊した固定資産の代わりとなる同一種類の固定資産(代替資産)を取得した場合には、圧縮記帳の対象となります(参照:No.5608 保険金等で取得した固定資産等の圧縮記帳|国税庁)。

 交換は、交換譲渡資産(従前に持っていた交換する資産)の時価が、交換譲受資産(交換後に持つことになる資産)の時価と同じ場合に行われます。資産に同じ価値があるからこそ、交換は成立するといえます。ただし、簿価よりも時価が高い場合、金銭的な授受があったわけではありませんが、原則的な税法の考え方からすると差益が発生して課税されることになります。そうすると、金銭的裏付けがなく担税力がないものに課税することとなり、一時の課税を避けるため、圧縮記帳が認められています(参照:No.5600 土地や建物を交換したときの圧縮記帳|国税庁)。

 公共事業で収用があった場合、補償金等の交付を受けることとなります。強制的ではありますが譲渡する場合と同様であるため、通常は譲渡益が発生します。収用という強制的な譲渡に対する利益へ課税すると弊害が出てくるため、収用を円滑に進めるための措置として、圧縮記帳の対象となります(参照:No.5650 収用等があったときの課税の特例|国税庁)。

 圧縮記帳の方法として、大きく分けると直接減額方式と積立金方式があります。

 以下のような具体例を元に、それぞれの方式と仕訳方法を説明します。なお、税効果会計(企業会計の税金と実際の税金との差異を調整する会計処理)は考慮しません。

(具体例)
機械装置300万円の購入に際し、その2/3にあたる200万円の国庫補助金等の交付を受けた。機械装置は期首に事業のために用いるとみなされて、耐用年数5年の定額法で償却する。また、交付を受けた全額の200万円の全額を圧縮記帳の対象とする。

 国庫補助金等の交付と機械装置の取得までは同じ仕訳になります。

【国庫補助金等の交付】
借方 貸方 摘要
預金 200万円 補助金収入 200万円 〇〇補助金の交付

 補助金収入は、営業外収益または特別利益項目にします。

【機械装置の取得】
借方 貸方 摘要
機械装置 300万円 預金 300万円 機械装置△△取得

 直接減額方式とは、固定資産の帳簿価額を直接減額する方式のことです。圧縮記帳の名のとおり、帳簿価額が圧縮されるため、感覚的にわかりやすいかと思います。特に中小企業の実務で多く使われている方式です。

【圧縮損の計上】
借方 貸方 摘要
機械装置圧縮損 200万円 機械装置 200万円 圧縮損計上

 機械装置圧縮損は、営業外損失または特別損失項目です。

【減価償却費の計上】
借方 貸方 摘要
減価償却費 20万円 機械装置 20万円 減価償却費計上

 機械装置の取得価額は300万円-200万円=100万円となります。これを定額法5年(償却率は0.200)で償却していくので、100万円×0.200=20万円が毎年の減価償却額となります。

 直接減額方式の場合、交付を受けた補助金200万円はいったん利益として計上されますが、圧縮する額(この場合200万円)を損失として計上しますので、補助金の交付を受けた額そのものによる当期の損益の影響はありません。

 積立金方式とは、圧縮積立金を計上していき、法人税の申告書で調整(申告調整)をしていく方式のことです。総額主義を採る企業会計では原則的な方法とされていますが、申告調整が必要なため、若干理解しづらい方式といえます。

【圧縮積立金の積立】
借方 貸方 摘要
繰越利益剰余金 200万円 圧縮積立金 200万円 圧縮積立金の計上

 繰越利益剰余金、圧縮積立金とも純資産の項目ですので、損益には影響しません。

【減価償却費の計上】
借方 貸方 摘要
減価償却費 60万円 機械装置 60万円 減価償却費計上

 減価償却費は、当初の取得価額300万円×0.200=60万円が計上されます。

【圧縮積立金の取り崩し】
借方 貸方 摘要
圧縮積立金 40万円 繰越利益剰余金 40万円 圧縮積立金の取り崩し

 圧縮積立金200万円を定額法5年で取り崩すため、200万円×0.200=40万円を取り崩していきます。ここで、圧縮積立金、繰越利益剰余金とも純資産の項目ですので、会計上の損益には影響しません。

 積立金方式は、会計上は、補助金収入200万円が計上されたままとなっています。そこで、法人税の申告書では以下のように取り扱います。

 【別表4】
 ・圧縮積立金認定損 △200万円
 ・圧縮積立金取崩額   40万円

 圧縮記帳した場合、直接減額方式と積立金方式とで、税務上の所得は変わりません。表で示すと以下のようになります。

 ※補助金収入後、機械装置圧縮損と減価償却費計上前の利益(圧縮記帳前利益)を4,000,000とする

圧縮記帳なし 直接減額方式 積立金方式
①補助金収入 2,000,000 2,000,000 2,000,000
②機械装置取得価額 3,000,000 3,000,000 3,000,000
③圧縮記帳前利益 4,000,000 4,000,000 4,000,000
④機械装置圧縮損 なし 2,000,000 なし
⑤償却の基礎(②-④) 3,000,000 1,000,000 3,000,000
⑥減価償却費(⑤×0.200) 600,000 200,000 600,000
⑦当期利益(③-④-⑥) 3,400,000 1,800,000 3,400,000
⑧申告書別表4加算 なし なし 400,000
⑨申告書別表4減算 なし なし 2,000,000
⑩課税所得(⑦+⑧-⑨) 3,400,000 1,800,000 1,800,000

 圧縮記帳をしなかった場合と比べ、直接減額方式では当期利益が減少するのに対し、積立金方式では当期利益は同じです。ですが、課税所得は直接減額方式と積立金方式で同額となります。

 ここでは、圧縮記帳の注意点を解説します。

 圧縮記帳は税法上の措置ですので、圧縮記帳を適用していることを税務署に伝える必要があります。それを示すのが圧縮記帳の別表です。具体的には法人税申告書別表13で、国庫補助金等、保険差益……と圧縮記帳の種類ごとに、さらに別表13(1)、13(2)と別表が分かれています。

 圧縮記帳をするのに会計上の経理処理をしているものの、この別表を作成し忘れているということは、往々にして発生します。本来、この別表がないと圧縮記帳の適用は受けられません。

 機械装置といった減価償却資産には、償却資産税が課税されます。1月末が申告期限で、償却資産税の申告をします。標準税率は減価償却資産の簿価×1.4%です。

 償却資産税には圧縮記帳の制度はありません。そのため、300万円で減価償却資産を取得していれば、たとえ補助金の交付を受けて2/3の200万円を圧縮記帳していても、100万円ではなく、300万円が償却資産税上の当初取得価額となります。固定資産システムが対応していれば問題ないですが、手書きで償却資産税の申告をしている場合は注意してください。

 総額年間300万円を限度に、取得価額が30万円未満の減価償却資産を事業年度の損金に計上できる、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例があります。この減価償却資産の取得価額は、国庫補助金等の圧縮記帳を適用した場合、圧縮後の価額となります。

 そのため、たとえば50万円で減価償却資産を取得し、1/2の補助金を受けたという場合、25万円が取得価額となり30万円未満となるため、少額減価償却資産の特例を使えることとなります。

 なお、租税特別措置法上の圧縮記帳の場合(上記にあげた例のなかでは交換等が該当する)には、重複適用できません。

 圧縮記帳をするかしないかは、法人の任意となっています。圧縮記帳をしなかった場合、当期の所得が増える一方、翌期以降の所得は減り、反対に圧縮記帳をした場合、当期の所得が減る一方、翌期以降の所得は増えます。そして、トータルでは所得に与える影響は変わりません。

 圧縮記帳すべきかどうかは、当期と翌期以降の利益を考慮する必要があります。特に、法人税も将来的に増税と言われている状況なので、例えば5年間の所得合計は同じでも、増税前の所得より、増税後の将来の所得が少ないほうが有利となる可能性もあります。

 一方、当期に出来るだけ所得を少なくしたいという場合は、圧縮記帳をし、さらに少額減価償却資産の特例を重複して使うと効果が増します。

 補助金等の利益が発生しても、発生した期の所得とするのではなく、翌期以降に繰り延べるのが圧縮記帳です。トータルの所得は変わりませんが、うまく使うと資金繰りを改善することや、節税にもつながります。正しく圧縮記帳を理解して、制度を活用できるとよいでしょう。

 なお、適用にあたっては、各種の条件がありますので税理士によく相談してください。