組織再編税制とは 税理士が適格要件や欠損金、対象について解説
組織再編税制とは、合併や分割など会社法上の組織再編をした場合の各種の税制措置のことをいいます。この記事では、組織再編税制の仕組みや適格要件、欠損金の扱いなどについて税理士が解説します。
組織再編税制とは、合併や分割など会社法上の組織再編をした場合の各種の税制措置のことをいいます。この記事では、組織再編税制の仕組みや適格要件、欠損金の扱いなどについて税理士が解説します。
目次
組織再編税制とは、会社法における組織再編行為(合併、分割、株式交換、株式移転など)を行った場合に、税に関してどういった措置をするか定めた制度のことです。組織再編は大企業だけが行うものではなく、後継者不足問題を抱えた中小企業においてもしばしば行われます。その際、資本移転(株式、株主の異動)などに伴って生じる課税について定められた税制のひとつが組織再編税制です。
原則として、企業が組織再編等によって資本を移転させる場合、時価で譲渡損益を計上することになり、課税が生じます。たとえば、合併を行った場合、被合併法人は合併法人へ資本を移転する処理を行います。その場合、移転した資本の簿価が1,000万円であっても、時価が2,000万円であれば「譲渡した資産は2,000万円である」として法人税などが課税されます。
しかし組織再編では、法律における組織間の関係性に変化があったとしても、実質的・経済的な関係性の変化が生じないケースがあります。たとえば、企業グループ内で組織再編を行った場合、法律上の資本移転があったとしても実質的な経営・経済活動に変化があったとはいえません。そのようなケースにおいても上記のように原則的な課税ルールが適用されると、自由な経済活動を阻害する恐れがあります。
そのような問題点や実務上の煩雑さを鑑み、組織再編税制では一定の条件(税制適格要件)を満たした組織再編に対する課税を「例外」として処理します。具体的には、特定の組織再編における資本移転の際に「時価」ではなく「簿価」で譲渡損益を計上し、課税を繰り延べできる(課税を将来的に処理できる)ようにします。たとえば、組織再編によって移転した資本の時価が2,000万円であっても、簿価が1,000万円である場合、「譲渡した資産は1,000万円である」とみなされ、含み益は発生しません。このように組織再編税制は、組織再編における企業の成長を阻害しないように実施されている制度なのです。
組織再編税制では、一定の要件を満たした組織再編に対する課税を「例外」として処理を行います。このときの「一定の要件」を「税制適格要件」といい、また税制適格要件を満たしていない組織再編を「非適格組織再編成」、税制適格要件を満たした組織再編を「適格組織再編成」といいます。それぞれの場合の課税関係は下記の表のとおりです。
譲渡損益の処理 | 移転資産の評価軸 | みなし配当の有無 | |
---|---|---|---|
非適格組織再編成 | 譲渡損益を計上する | 時価によって取得する | みなし配当あり(※) |
適格組織再編成 | 譲渡損益が繰り延べになる | 簿価によって取得する | みなし配当なし |
原則的な課税ルールが課される非適格組織再編成では、移転資本の譲渡損益が時価で計上され、場合によっては所得が増加し、法人税などが増加します。しかし、例外とみなされる適格組織再編成では、移転資本が簿価によって評価され、譲渡益に対する課税が将来に繰り延べになります。
※組織再編においてみなし配当が生じるのは「非適格組織再編成」における「合併」と「分割型分割」のみになります。
組織再編税制の対象となる組織再編には7つの種類があります。以下ではそれぞれの種類について解説します。
1つ目の対象は会社の「合併」です。合併とは、複数の会社が合体し、形式的にも実質的にも1 個の会社となる組織法上の行為です。
合併には、新設合併と吸収合併という2つの種類があります。新設合併の場合、合併によって消滅する権利義務のすべては、合併に際して新たに設立する会社に承継されます。また、吸収合併の場合、合併によって消滅する会社の権利・義務のすべては、存続する会社に継承されることになります(会社法第2条27号、28号)。
2つ目の対象は「会社分割」です。会社分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割し、他の会社に承継させることを目的とする組織法上の行為です。
分割には、新設分割と吸収分割という2つの種類があります。新設分割とは、1または2以上の分割された会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割に際して新たに設立する会社(新設会社)に承継させるものをいいます。また、吸収分割とは、既存の会社に分割した事業を承継させるものをいいます(会社法第2条29号、30号)。
3つ目の対象は「株式交換」です。株式交換とは、買収対象企業がその発行済株式の全部を買収会社(既存会社)に取得させ、買収対象企業の株主にはその対価として買収会社の株式を取得させるというものです(会社法2条31号)。
4つ目の対象は「株式移転」です。株式移転とは、1または2以上の会社がその発行済株式の全部を、新たに設立する株式会社に取得させることをいいます(会社法第2条32号)。
5つ目の対象は「現物出資」です。会社を設立する場合、何かしらの財産を資本金として出資しなければなりませんが、その際、金銭以外の財産を出資することを現物出資といいます。
6つ目の対象は「現物分配」です。現物分配とは、ある法人がその株主などに対して剰余金の配当などを金銭以外の資産によって交付することをいいます(法人税法第2条12の5の2)。
7つ目の対象は「株式分配」です。株式分配とは、ある法人がその株主などに対して余剰金の配当として100%子会社株式を交付することをいいます。株式分配は現物分配の一種です。(法人税法第2条12の15の2)。
上記で説明した通り、組織再編税制によって課税が繰り延べになる「適格組織再編成」とみなされるためには一定の要件(税制適格要件)を満たす必要があります。各要件の詳細は下記の表のとおりになります。
適格要件 | 詳細内容 |
---|---|
①金銭等の不交付要件 | 組織再編時に株式以外の資産が対価として交付されないこと |
②従業者引継要件 | 組織再編後も、組織再編の対象となった会社の従業員のおおよそ80%以上の人数が引き続き従事することが見込まれていること |
③事業継続要件 | 組織再編後も、組織再編の対象になる会社の主要事業の引継ぎが見込まれていること |
④事業関連性要件 | 組織再編の対象となる双方の会社の主要事業に関連性があること |
⑤事業規模要件 | 組織再編の対象となる双方の会社の売上金額と従業員数、資本金の額のうち、いずれかがおおむね5倍を超えないこと |
⑥特定役員引継要件 | 組織再編の対象となる会社の特定役員(社長や副社長、代表取締役、専務取締役、常務取締役などの経営に携わる者)が、再編後も特定役員となる見込みがある |
⑦株式継続保有要件 | 組織再編時に交付される株式が継続して元の支配株主に保有される見込みがあること |
⑧主要資産等移転要件 | 組織再編の対象となる会社の主要な資産や負債が移転していること |
⑨株式のみ案分交付要件 | 株式以外の資産が交付されず、かつ交付は株主の株式保有割合に応じて行われること |
⑩非支配要件 | 組織再編の対象となる会社が、再編時直前に他者と支配関係になく、再編後も他者と支配関係を持つことが見込まれないこと |
また、税制適格要件は組織再編の種類によって異なるので、以下では大きく3つの種類別に詳しく解説します。
組織再編税制において、企業グループ内の組織再編は2つのパターンに分類されます。1つ目のパターンは組織再編の対象となる会社の株式の保有割合が100%となる「完全支配関係がある場合」です。2つ目のパターンは組織再編の対象となる会社の株式の保有割合が50%超となる「支配関係がある場合」です。企業グループ内の組織再編成が組織再編税制の対象とみなされるためには、以下の要件を満たす必要があります。
合併の場合 | 分割の場合 | |
---|---|---|
完全支配関係がある場合(株式の保有割合が100%) | ①金銭等の不交付要件 | ①金銭等の不交付要件 ⑨株式のみ案分交付要件 |
支配関係がある場合(株式の保有割合が50%超) | ①金銭等の不交付要件 ②従業者引継要件 ③事業継続要件 |
①金銭等の不交付要件 ②従業者引継要件 ③事業継続要件 ⑧主要資産等移転要件 ⑨株式のみ案分交付要件 |
共同事業を行うための組織再編が組織再編税制の対象とみなされるためには、以下の要件を満たす必要があります。共同事業を行うための組織再編は、上記で説明した「完全支配関係」や「支配関係」がありません。資本関係が強くないため、共同事業を行うための組織再編成の満たすべき要件は多くなっています。
合併の場合 | 分割の場合 |
---|---|
①金銭等の不交付要件 ②従業者引継要件 ③事業継続要件 ④事業関連要件 ⑤事業規模要件あるいは⑥特定役員引継要件のいずれかを満たす ⑦株式継続保有要件 |
①金銭等の不交付要件 ②従業者引継要件 ③事業継続要件 ④事業関連要件 ⑤事業規模要件あるいは⑥特定役員引継要件のいずれかを満たす ⑦株式継続保有要件 ⑧主要資産等移転要件 ⑨株式のみ案分交付要件 |
スピンオフのための組織再編が組織再編税制の対象とみなされるためには、以下の要件を満たす必要があります。スピンオフのための組織再編とは、特定の事業を独立させたり、株式分配などによって子会社を新たに設立したりする組織再編成です。なお、中小企業の実務ではスピンオフのための組織再編が行われることはほとんどありません。
分割の場合 | 株主分配を行う場合 |
---|---|
②従業者引継要件 ③事業継続要件 ⑥特定役員引継要件 ⑧主要資産等移転要件 ⑨株式のみ案分交付要件 ⑩非支配要件 |
②従業者引継要件 ③事業継続要件 ⑥特定役員引継要件 ⑨株式のみ案分交付要件 ⑩非支配要件 |
最後に組織再編税制でよくある疑問について解説いたします。
繰越欠損金とは、税務上の赤字といわれる「欠損金」(決算書の赤字ではなく申告書の赤字のイメージです)を、翌事業年度以降の黒字から控除できる制度です。繰越欠損金の制度を利用すると、翌期以降の課税所得と相殺し、税負担を軽減することができます。
組織再編税制の例でいうと、例えば一定の要件を満たした合併の場合、被合併法人の繰越欠損金を合併法人が引継ぐことができます。つまり、繰越欠損金の制度を利用すると、組織再編を通じて税負担を軽減できる場合があるのです。
しかし、税負担軽減の狙いで吸収合併などが行われないよう、繰越欠損金の扱いは一定の要件によって制限されています。ケース別の繰越欠損金の継承制限は以下の通りになります。
共同事業を行うための合併 | 企業グループ内の合併 |
---|---|
税制適格要件を満たしていれば引き継ぎ可能 | 支配関係が5年以上継続(合併した日の属する事業年度開始の日の5年前から継続)していれば引継ぎ可能 |
なお、企業グループ内の合併において、支配関係の継続期間が足りない場合、以下のみなし共同事業要件を満たせば繰越欠損金の継承を行うことができます。
グループ法人税制とは、同族特殊関係者などの出資者(主に株主。法人に限らず、個人であっても当てはまる)だけで構成されている一連の会社グループがある場合、その一連の会社グループ間で行った取引については原則として課税を繰り延べする制度です。
上掲の組織再編税制との違いは、組織再編は「合併」や「株式交換」といった自らアクションを起こして初めて課税関係が生じるという行為であるのに対して、このグループ法人税制は一定の要件を満たした時はすべてその取扱いが強制適用されるという点です。
両者は全く別物ですが、実務では違いを意識することは(一部を除いて)ありません。
組織再編税制は、上手に活用できればさまざまなニーズに応えられる非常に使い勝手のよい制度です。基本的なところをまず抑え、組織再編を検討する際などにあらためて組織再編税制が利用できないか確認するとよいでしょう。
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