目次

  1. 自律分散型組織(DAO)とは
    1. 自律分散型組織が求められる背景
    2. 自律分散型組織の3つの種類
  2. 自律分散型組織のメリット
    1. 従業員の「心理的安全性」を担保できる
    2. 全社員の「知」や「アイデア」を集積・活用できる
    3. 従業員が会社に貢献しているという実感を強く感じられる
  3. 自律分散型組織のデメリット
    1. 個人に高いセルフマネジメント能力が求められる
    2. 組織としてリスク管理がむずかしくなる
    3. 組織としての意思決定時に時間がかかる
  4. 自律分散型組織の導入事例
    1. ビットコイン
    2. 専門商社(総員80人)
    3. 国内自動車メーカー系自動車ディーラー(総員56人)
  5. 自律分散型組織を導入する際のポイント
    1. 必ずしも全社的に組織を改変し導入しなくてもよい
    2. パイロット部署で先行導入していく
    3. 全体組織の設計とルールの整備が必要
  6. 自社の在り方を振り返り、導入を検討すること

 「自律分散型組織(Decentralized Autonomous Organization :DAO)」とは、管理職層による指示がなく、従業員たちの自律的な活動によって運営される組織のことです。「自律分散型組織」の目的は、変化する内外環境や働き方の中で、常に「生産性」を維持向上させていくことにあります。

 「自律分散型組織」は、現在のような中央集権型組織のようにヒエラルキー構造で上意下達式の組織とは根本的に異なります。基本的に管理職層が廃止されフラット化した組織です。「自律分散型組織」自体については、新しい発想の組織形態ではなく、2000年頃は「自走型組織」と呼ばれたこともありました。つまり、「自律分散型組織」というのは、これまでもずっと企業や組織にとっての目標といえる組織形態なのです。

 ほんの一瞬でさまざまな情報が世界へゆきわたる現代社会では、現時点で価値の高いビジネスモデルや知識の優位性が瞬時に入れ替わってしまいます。そうした時代はかつて経済学者のジョン・K・ガルプレイスが「不確実性の時代」と呼び、今ではVUCAワールドと呼ばれています。先の見えないVUCAワールドはパンデミックや戦争勃発などでさらに加速したといわれています。

 「自律分散型組織」は、そのような時代・環境を背景として注目を集めています。従業員の一人ひとりが権限を持ち、自ら考え、自ら行動することができる「自律分散型組織」は、環境の変化に強く、よりスピーディな企業運営に適しているためです。また、近年到来したWeb3.0時代のなかで、新たにブロックチェーン技術の活用が可能になったことや、コロナ禍におけるリモートワークの普及といった働き方の変化も挙げられます。

 すなわち、このような不透明な時代を生き抜くための、変化に強い組織として「自律分散型組織」が大きな注目を集めているのです。

 自律分散型組織には「アジャイル型組織」「ティール組織」「ホラクラシー組織」という3つの種類があります。それぞれ以下で詳しく解説します。

①アジャイル型組織

 1つ目の種類として挙げられる「アジャイル型組織」とは、業務を実行しながら同時平行で改善を続けていく組織形態のことです。アジャイル組織は、それぞれ権限を持つ小規模チームの集合体として形成されます。小規模チームの意思決定の速さと問題解決の迅速性が特徴であり、チームに課せられた業務を遂行していく問題解決主導型の組織です。

 アジャイル型組織は、元はソフトウェアやシステムの開発手法であるアジャイル開発から名づけられたものです。アジャイル(agile=素早い)開発とは、反復する度に機能追加を継続していく開発手法です。変化の激しい今日の環境のなかで、ソフトウェア開発を迅速に進めていくための手法であり、まさにその目的が「自律分散型組織」の目的と同じであることがわかります。

②ティール組織

 2つ目の種類として挙げられるティール組織とは、経営学者のフレデリック・ラルーが唱えた、5段階に変化する組織モデルにおける最終的な組織形態のことです。

 ラルーによると、組織は恐怖や力によって支配される段階から始まり、次第に進化を遂げ、最終的には上下関係のないフラットな組織形態となります。ティール組織は中央集権型組織のような管理職と部下という階層がなく、全員の立場がフラットな状態にあります。そのなかで一人ひとりが企業や組織、自部署の目的をどのようにすれば達成できるのか考え、自ら行動を行います。

 このように成員が意思決定権を持ち、環境に合わせて適切な変化をし続けるティール組織は、ラルーによると組織進化における最終形態なのです。

③ホラクラシー組織

 ホラクラシー組織とは、管理職と部下という階層がないティール組織と同じく企業内の上下関係をすべてフラット化した組織です。

 ホラクラシー組織では、成員はグループに属し、それぞれのグループは「ホラクラシー憲法」と呼ばれる明確なルールにしたがって業務を遂行していきます。働く従業員はこのルールがあることによって「自由」と「規律」のバランスをうまくとっていくことができます。

 ホラクラシー組織では、中央集権型組織のようにヒエラルキー構造はありませんが、それぞれのグループにはリーダー的管理者が存在し、グループ活動における「まとめ役」をしている点が特徴です。

 では、そうした自律分散型組織を企業に導入することによってどのようなメリットがあるのでしょうか。以下では3つのメリットを解説します。

 現在の中央集権型組織では、上司と部下の関係が人事権を含む職場の決定のすべてに影響を及ぼします。したがって、部下はややもすると上司に忖度し、本音の意見もなかなかいうこともできず、上司の指示命令には従うといった実情があります。

 これに対して「自律分散型組織」では、基本的にフラット化した組織なので管理職のプレッシャーから解放されています。個人の心理的安全性が担保されたうえで、一人ひとりの発想や考え方を業務に反映させていくことが可能になります。したがって、従業員個々人の働きがいやモチベーションが大きく改善し、業務パフォーマンス向上にもつながっていきます。

 「自律分散型組織」では、一人ひとりのアイデアや感性を業務に反映させていくことが可能になります。現在の中央集権型組織では、経営会議の決定や、企画部署が立案し展開した戦術・施策内容を、各部署でそのとおりに実行することが求められます。展開された時点では、それぞれの部署や現場での個人の意見はとおりません。

 これに対して「自律分散型組織」では、戦術施策の企画立案段階から、自分の考えや意見を反映させていくことが可能です。職場において心理的安全性が確保されているため遠慮することがなく、自らのアイデアや意見を発案・反映することが可能になります。

 また、過去の成功体験や知識が通用せず、何がヒットするのか経営者もわからない現代において、自律分散型組織を導入し、若い社員の新鮮な意見や感性を意思決定に反映できることも極めて重要なメリットです。若い世代の社員は現場や消費者に近いことから情報が得やすく、時代の空気を敏感に感じとることができます。企業の新商品や新サービス開発において、新たな気づきや発見につながる若い感性は、企業にとって極めて重要なことです。

 「自律分散型組織」では、基本的に一人ひとりの能力やスキルに応じて業務が与えられます。したがって自分の業務範囲内であれば、誰もが意思決定権を持つことができます。そのことは、自分は会社にとってなくてはならない存在であることを意識させます。

 従業員一人ひとりが、自分の会社や組織に対して貢献しているという実感を日々の業務を通じて強く感じることができれば、従業員のエンゲージメント(企業に対する愛着)の向上につながり、ますます「貢献したい」という意欲につながるのです。結果、一人ひとりが自己肯定感と自己有用感を持ち、主体的に行動し業務を進めていくことができます。

 一方、自律分散型組織にはデメリットもあるので注意が必要です。以下では3つのデメリットを挙げ、それぞれ解説します。

 「自律分散型組織」には、中央集権型組織とは異なり従業員を管理する上司はいません。従業員一人ひとりが自ら業務の進捗管理を行い、自らの行動について責任を持つ必要があります。つまり、自分自身を管理するセルフマネジメント能力が必須となります。したがって万一、従業員個人がセルフマネジメントができない状態にあると、やがて組織全体に影響が及んでしまう可能性もあります。

 「自立分散型組織」には上司・経営者による「承認の過程」が存在しません。例えば中央集権型組織では、提案書を上申した際、提案者から直属の上司へ、そして上司から部長へ、部長から役員へ、役員から経営者へと提案書が回覧され承認されていきます。しかし、「自律分散型組織」では、このような承認の過程はありません。全社に関係する新たな提案や案件など、必要があれば従業員が全員で話し合うことで決定していきます。

 そのため、「自律分散型組織」では、その検討段階において経験不足や認識不足などから誤った判断がなされてしまっても、そのまま実行されていってしまうという可能性があります。また、個々人がそれぞれの担当業務を持って進行しているため、個人のミスがあった場合も、周囲に気がつかれないままに時間が経過してしまうことも起こり得ます。

 自律分散型組織では、権限が各人に分散されているため、組織全体としての意思決定をする際に時間がかかります。中央集権型組織であれば、社長が意思決定することによって即断できるようなことも、自律分散型組織においては投票という形を取らないと決まりません。

 例えば、何らかのトラブルが発生した場合、どんな状況にあるのか情報共有する必要がありますが、自律分散型組織では、全員で事態に関する認識を同じくすることに時間がかかり、結果として意思決定までの時間もかかってしまいます。

 では、そうした特徴を持つ自律分散型組織は、どのように導入されているのでしょうか。以下では筆者が支援した組織を含む3つの具体的な事例を紹介します。

 世界で初めて「自律分散型組織」を導入したのはビットコインだといわれています。「サトシ・ナカモト」という発案者によってつくられたビットコインは、web3.0によるブロックチェーン技術によって運営されています。

 ブロックチェーンとは、簡単にいうと、個々の取引内容を記載する履歴を保存することができるデータベースのことです。ブロックチェーンは、①「取引履歴を消すことができない」②「改ざんすることが不可能である」③「発生した取引のすべてを記録し共有できる」という3つの特徴を持った、安定性の高いシステムであるといわれています。

 ビットコインには管理者はいません。管理運営はブロックチェーン上のルールにしたがって運営されています。また、ビットコインを構成しているのは暗号資産に投資している投資家の人々です。ブロックチェーン技術が可能になったことで、組織運用面においても「自律分散型組織」という組織形態を選択することが可能になったといえます。

 2つ目の事例は、実際に筆者が「自律分散型組織」への移行を支援し参画した専門商社です。

 この専門商社は、業績は順調に伸ばしていましたが、中堅社員や新人管理職が退社を申し出るケースが多発していました。その後、コロナ禍のなかでテレワークが主体になったため、一層、全社的にまとまり感が低下してしまったと経営層は感じていました。そこで筆者が「自律分散型組織」への移行を支援し始めることになりました。

 主な取り組みとしては、最初に全従業員を対象として個別面談・個別コーチングを実施することでした。従業員一人ひとりの考え方や思いを丁寧にヒアリングし、会社として共有しました。

 そして、従業員の「心理的安全性」を向上させる方法について、全従業員からアイデアを募りました。その過程で、具体的な人事評価項目・評価基準をもとにした人事評価制度が必要であると判断し、新しく人事評価制度を構築・導入しました。

 その後、時期を置き、再度個別面談を実施し、「心理的安全性」の進展度を検証・確認しました。また、従業員のモチベーションアップのために全従業員の評価も公開しました。すると、部署別に評価の濃淡があることが判明したので、評価者にあたる管理職の「評価能力」を向上させるために評価者訓練を実施しました。これによって管理職の評価時における判断基準のレベリングを図りました。この専門商社は現在もなお「自律分散型組織」への移行期にあり、今はパイロット部署に対してフラット化の先行導入を検討しています。

 3つ目の事例も実際に筆者が支援し参画した事例で、業種は国内自動車メーカー系の自動車ディーラーです。

 「自律分散型組織」の導入を図った営業所は長期間にわたり業績が低迷しており、全55店舗中49位の業績でした。筆者はまず営業所の全員に対して個別にコーチング面談を実施し、経営層に対して面談結果を共有すると共に、「心理的安全性の確保」を第一優先として組織改革を進めていく方針を確認しました。

 具体的には、管理職チーム、新車営業マンチーム、アフターサービスチームそれぞれに対して、週一回のチームコーチングと個別コーチングを継続的に実施しました。

 自律分散型組織のシステムを導入し始めて半年間は、職場の雰囲気や業績に一切変化が現れませんでした。その理由は、職場の全員が「様子見状態」(どうせ、そのうちに元にもどるだろうと思っていた状態)だったためです。そこで筆者は、継続してチームコーチングと個別コーチングを実施していったのですが、徐々に、まるで一人ひとりの凝り固まっていたものが「雪解け」していくように、職場の空気が変化していったのです。

 結果として10カ月後にいきなり業績が「ベスト8」に浮上しました。その翌月には「ベスト5」、さらに、その翌月には「ベスト3」へと大躍進を遂げました。

 はじめは「様子見状態」だった従業員たちは「本当に会社も変わろうとしている」ということを少しずつ理解し、また心理的安全性を感じ始めました。そのことが一気に業績として現れたのだと考えています。

 このように自律分散型組織を上手く導入するためには、以下の3つのポイントを解説します。

 1つ目のポイントは、必ずしも全社的に自律分散型組織のシステムを導入する必要はないということです。自律分散型組織の目的とは、あくまでも従業員が自律的に、生き生きとやりがいを持って行動するようになっていくことだからです。すなわち、全社で管理職を廃止しフラット化組織を実現することが目的ではなく、「結果として効率を向上させること」が最終目的にあたります。

 全社フラット化まで必要とする企業もあれば、他方で、部分的なフラット化でも十分に目的が果たされる組織もあります。それぞれの時代やそれぞれの企業によって適切な組織の形態は異なるため、経営者は自社にとって本当に取り入れるべきであるか考える時間を持つことが大切です。

 2つ目のポイントはパイロット部署で先行導入していくことです。最終的に全社に「自律分散型組織」を導入していく予定だとしても、一気に全社へ導入・展開するのはリスクが高くなります。まずは「導入すれば80%は成功するだろう」と思われる部署を選定し先行導入を図ることをおすすめします。

 例えば、スタートアップ企業において数名のチームから導入していったり、職務経験や能力レベルが同等のマネージャークラスだけのチームを編成し導入したり、あるいはコントローラータイプ(自己主張が強く冷静なタイプ)やプロモータータイプ(自己主張が強く感情的なタイプ)のコミュケーションスタイルを持つ人材だけで編成したチームから導入したりするなど、初めて「自律分散型組織」を自社に導入する際には、リスク低減などを念頭に置いて「必ず成功させる」ことを第一に考えていくべきです。

 全社的にフラット化に移行していくのであれば、事前にフラット化後の組織全体の在り方やルールの整備を検討しておくことが必要です。私たちは中央集権型組織の中では当たり前の規律やルールに慣れ親しんでいますが、組織がフラット化すると、個々の従業員がそれぞれの判断で行動するようになり、働き方に関する悩みなどが発生します。

 例えば、「働きやすさ」という側面で考えてみましょう。フラット化を導入することになった場合、例えばコントローラータイプ(自己主張が強く冷静なタイプ)は「やった! ついに俺の時代が来た!」と感じ、プロモータータイプ(自己主張が強く感情的なタイプ)は「OK。俺なりのやり方でゴールを目指すぞ!」とモチベーションが上がるでしょう。しかし、アナライザータイプ(自己主張が弱く冷静なタイプ)は「フラット化になると、あれはどうするのか? これはどうしていくのか? やることが多すぎる」と感じ、サポータータイプ(自己主張が弱く感情的なタイプ)は「いつも上司と逐次、進捗度をすり合わせながら丁寧に仕事をしてきたのに、一人でやっていけるだろうか」と感じるかもしれません。

 このように組織にはさまざまなタイプの従業員がおり、場合によっては不安を感じるタイプの従業員もいます。そのため、あらかじめ最低限のルールを検討しておく必要があります。細かなルールの修正などについては、組織運営をしながらアジャイル方式で追加していくやり方がいいでしょう。

 ここ数年、web3.0によってブロックチェーン技術が可能になったことで「自律分散型組織」が注目されていますが、本当に大切なことは、働く従業員の皆さんが、職場で生き生きとワクワクしながら日々やりがいを感じて仕事ができる状態です。

 「自律分散型組織」が注目されているからといって前のめりになるのではなく、自社の組織の在り方として、「本当に現在の組織形態を進展させていくことではいけないのか」「そもそも従業員が何を考えてどう感じているのか」を、会社としてしっかりと把握しているのかを振り返りつつ、全社でディスカッションを重ねていくことが大変重要であると思います。

 そのうえで、現組織形態のなかで可能な限り課題を解決し、業績も好調で従業員のやる気も十分感じられるようになった段階で、会社としてさらなる「生産性向上」を目指していきたいという時こそ、「自律分散型組織」への移行を考えていかれればいいと思います。

 組織のなかで個々の人材が能力を十分に発揮しながら効率的に活動することのできる組織は、わたしたちにとっては、ある意味で永遠の目標です。ただ、実際に企業現場において「自律分散型組織」の導入を支援してきた筆者としては、正に「言うは易し、行うは難し」そのものであると感じます。