スピンオフとは スピンアウトとの違いや方法、税制措置、事例を紹介
スピンオフとは、自社事業の一部や子会社を切り出して別会社として独立させることです。事業再編や新規事業の立ち上げなどで活用されており、税制が改正されたことで注目度が高まっています。本記事では、スピンオフの仕組みやスピンアウトとの違い、税制措置について経営コンサルタントが解説します。
スピンオフとは、自社事業の一部や子会社を切り出して別会社として独立させることです。事業再編や新規事業の立ち上げなどで活用されており、税制が改正されたことで注目度が高まっています。本記事では、スピンオフの仕組みやスピンアウトとの違い、税制措置について経営コンサルタントが解説します。
目次
スピンオフとは、自社事業の一部門や子会社を切り出して、独立させることです。単独新設分割型分割と呼ばれています。
スピンオフという言葉には、漫画や映画などの続編を指したり、特定の技術を他の分野に応用するという意味などで用いられたりしますが、本記事ではビジネス用語としてのスピンオフについて解説します。
スピンオフは、事業部を複数抱える大企業の事業再編によるスリム化や、新規事業の立ち上げをスピンオフによって設立した新会社で行うことで、企業全体の経営リスクを分散させるといった目的で行われます。
スピンオフは新設分割による新会社設立や、子会社への現物配当によって行われますが、新会社の株式は元の会社も保有するため、会社としては独立していても資本関係は継続します。
日本ではスピンオフによる譲渡損益や配当が課税対象となっていましたが、2017年度の税制改正によってコーポレートガバナンス改革と事業再編の環境整備が進められ、適格組織再編に該当するスピンオフについては、譲渡損益や配当への課税が繰り延べられることになりました。
これにより、スピンオフは企業の事業再編の手段の1つとして注目されています。
スピンアウトやカーブアウトは、どちらも自社の一部門を切り離して独立させることです。
どちらもスピンオフと意味合いは似ていますが、スピンアウトは両社に資本関係がない点が大きく違います。また、カーブアウトはあくまで事業戦略の一環として自社事業の一部を切り離し、ベンチャー企業を創設する際に用いられる言葉で、こちらも両社には資本関係がありません。
スピンオフを行うことによって、元の会社や新設会社にはさまざまなメリットやデメリットがあります。
メリット | デメリット |
---|---|
元の会社は自社の中核事業に専念できる | スピンオフされた従業員のモチベーションが下がる恐れがある |
企業価値を下げずに事業や子会社を切り離せる | 不採算事業として切り離された場合、収益化が難しい可能性がある |
新設会社は元の会社に縛られずに、迅速かつ柔軟な意思決定ができる | 元の会社との資本関係が継続するため、重大な意思決定において、元の会社の意向が反映されることもある |
企業の事業全体ではなく、スピンオフした事業のみに興味がある投資家を惹きつけられる | 経営者にとってスピンアウトにかかる手間への対価が低く、事業譲渡やカーブアウトの方が効率的な場合がある |
スピンオフの最大のメリットは、元の会社が企業価値を下げずに事業再編を行い、中核事業に専念できるようになることです。新設された会社にとっても、元の会社からの独立によって意思決定がスピーディーになるのはもちろん、新しい投資家の興味を惹くチャンスが生まれるというメリットがあります。
スピンオフのデメリットは、分離された事業部門の従業員のモチベーションが下がる、不採算事業の切り離しならば収益化が難しい、などが考えられます。また、スピンオフの事例自体が少ないこともあって、経営者にとっては事業譲渡やカーブアウトの方が効率的な事業再編と捉えられる可能性が高いという点も挙げられるでしょう。
課税の繰り延べが受けられる「適格組織再編」に該当するスピンオフを行うには、「分割型分割」と「株式分配」のどちらかの手法を選ぶ必要があります。ここでは、それぞれの手法の内容と注意点について解説します。
分割型分割とは、事業部門を切り離して別会社に移転させる際に、新設会社に割り当てられる株式をスピンオフ元の会社の株主に配当する分割方法のことです。なお、三角分割のように3社で行われるものではなく、単独新設分割でなければ適格組織再編とは認められません。
適格分割型分割の要件には、スピンオフされる事業に関わっていた従業員の80%以上が新設会社に所属する「従業者引継要件」や、スピンオフ後も事業を継続する「事業継続要件」、分割される事業の主要な資産や負債を新設会社移転する「主要資産等移転要件」などを満たす必要があります。
株式分配とは、自社の完全子会社をスピンオフする際に、新設会社の発行済株式をスピンオフ元の会社の株主にすべて分配する方法のことです。
分割型分割と同じように、スピンオフ後も子会社に在籍していた従業員の80%以上が継続して勤務する「従業者継続要件」や、子会社として行なっていた事業を継続して実施する「事業継続要件」などを満たさなければ、適格株式分配とは認められない点に注意が必要です。
スピンオフの税制措置は、分割型分割と株式分配のどちらを実施したかによって異なります。
分割型分割 | 株式分配 |
---|---|
・譲渡損益課税 新設された会社に移転する資産の損益に対して発生する ・みなし配当課税 スピンオフ元の会社の株主が得た利益に対して発生する |
・譲渡損益課税 新設された会社の株式に対して発生する ・配当課税 スピンオフ元の会社の株主に分配する完全子会社の株式に対して発生する |
スピンオフを行う際には、当事者だけでなく株主も譲渡損益などに対して課税されるという課題がありましたが、2017年度の税制改正によって適格組織再編と認められれば、税制優遇によって課税は繰り延べられることになりました。
さらに、2018年度の税制改正によって適格要件の範囲が拡大され、スピンオフの積極的な実施のための法整備が行われています。ただし、スピンオフで税制優遇を受けるためには、「株式のみ按分交付要件」や「従業者継続要件」、「役員引継要件」などのさまざまな要件をクリアする必要があるので、制度の理解や事前準備が欠かせません。
また、スピンオフは事業承継にも活用できるため、大企業だけでなく経営者の高齢化や後継者不足に悩む中小企業経営者にとっても、事業存続課題の解決に有効な手段となるでしょう。
日本でのスピンオフ事例は少ないですが、2017年の税制改正後に初の税制優遇が適用されたスピンオフが行われるなど、これからスピンオフの事例は増えていくでしょう。
ここでは、日本でのスピンオフの事例を2つ紹介します。
カラオケ事業として「まねきねこ」などの事業展開を行なっているコシダカHDは、自社の子会社でフィットネス事業を行うカーブスHDに対して、株式分配によるスピンオフを実施しました。2017年の税制改正以降、日本では初となるスピンオフです。
コシダカHDは、経営資源をカラオケ事業に集中し、首都圏や東南アジア圏などへの出店強化を図っています。一方、スピンアウトされたカーブスHDは東証プライムに上場し、こちらも日本企業では初となるスピンオフIPO(スピンオフした会社を新規上場させること)を行っています。
カラオケ事業とフィットネス事業ではシナジー効果が低く、スピンオフによって双方の企業価値の向上を目指しています(参考:第1回事業再編研究会 p.39丨経済産業省)。
世界的な自動車メーカーであるトヨタHDでも2000年10月6日にスピンオフが行われ、トヨタでは異色のインターネット事業を行なっていたGAZOO事業部が新会社を設立しました。
設立されたガズーメディアサービス株式会社の初代社長には豊田章男氏が就任し、トヨタと富士通株式会社、富士通サポートアンドサービス株式会社が出資しています。
当時はインターネット自体の普及が進んでおらず、インターネット上で商品を販売するEコマースの発展についても不確実な状況でした。しかし、設立当初から自動車ビジネスでインターネット決済が将来的に必要になると考え、マルチメディアキオスク端末「e-Tower」のコンビニ導入をはじめとして、現在のトヨタコネクティッドにつながるさまざまな製品開発を行いました(参考:トヨタコネクティッド20周年記念連載 虹を架ける仲間達 第1章 1.トヨタの中ではできないことをトヨタの外でやる | TOYOTA) 。
自動車という絶対的な中核事業があるなかで、まったく別の事業をスピンオフによって育て上げ、モビリティ・サービス・プラットフォーマーとして新たなサービスの創出を目指す礎を築いた事例です。
スピンオフは、自社事業の一部門や子会社を切り出して独立させることで、事業再編や新規事業立ち上げにおけるリスク分散などを目的として行われます。
平成29年度の税制改正によって、条件を満たせばスピンオフによる譲渡損益や配当益に対する課税が繰り越されるため、経営者はもちろん株主にもメリットが感じられるようになりました。
スピンオフは大企業が行うものと思われがちですが、スピンオフの税制優遇によって中小企業でも事業承継の手段の1つとして利用できる可能性が広がりました。自社の事業再編や新規事業の立ち上げに、スピンオフの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。