目次

  1. 空飛ぶクルマ(eVTOL)とは 特徴から見た3つのメリット
  2. 空飛ぶクルマ、タイプで変わる航続距離と速度
  3. 空飛ぶクルマの用途 まずは都市部から
  4. 国内では安全性審査の第一歩
  5. 参入できる産業、「空の駅」など地上でも幅広く

-そもそも、空飛ぶクルマとはどんな特徴がありますか?

 空飛ぶクルマは、海外では、eVTOL(Electric Vertical Take-Off and Landing aircraft:電動垂直離着陸機)と呼ばれています。日本では、「クルマ」と名前が付いていますが、必ずしも道路を走行できるわけではなく、電池が動力源の電動モーター小型航空機というイメージに近いかもしれません。

ティルトローターの機体(Joby Aviation提供)

 すべてが当てはまるわけではありませんが、空飛ぶクルマには、3つの特徴があります。

  1. 電動……部品が少なく整備コストを抑えられる。騒音も小さい
  2. 自動(操縦)……操縦士が不要となり軽く、人件費も減らせる
  3. 垂直離着陸……大きな滑走路を必要としない

 こうした特徴から都市部でも飛行できるのではないかと期待が高まっています。

-米Uber Technologies(ウーバー・テクノロジーズ)が2016年、都市部での空の移動サービス構想を発表して以来、注目が集まっています。ここ数年、事業として現実味が増しているのはなぜですか?

 大きな要因として挙げられるのは、バッテリーの性能が大幅に上がったことです。プロペラを複数搭載できるようになったため、機体の冗長性が向上し、トラブルに強くなり、垂直離着陸もできるようになりました。

-世界でいろんな企業が開発を進めている空飛ぶクルマ、どんなタイプがありますか?

空飛ぶクルマには、大きく分けてドローンを大型化したタイプと小型飛行機を電動化したタイプに分けられる(ANAホールディングス提供)

 たとえば、マルチコプターは、複数の回転翼があるドローンに近い形状で、構造がシンプルですが、航続距離が短く速度も比較的遅くなります。

 一方で、ティルトローターは、固定翼のほか、回転方向を変えることで離着陸にも推進にも使える回転翼を持ちます。航続距離は比較的長く、速度も速いのですが、構造が複雑になります。

 世界の開発動向を見ていると、当初はマルチコプターのタイプが多かったのですが、最近では、ティルトローターも増えています。

-空飛ぶクルマが社会で実現すると、どのような活用方法がありますか?

空の移動革命に向けた官民協議会が作成した「空の移動革命に向けたロードマップ」(https://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk2_000007.html)

 政府の空の移動革命に向けたロードマップによると、ビジネス面では、観光地や空港、地方都市への旅客輸送のほか、輸送などが想定されています。オンデマンドの富裕層向けだけではなく、身近なサービスにするには、頻度高く飛ばせて搭乗率が高い移動から広まる可能性が高いでしょう。

 たとえば、都市部と空港やレジャーランドなどをつなぐ移動が考えられます。ほかにも、東京でいえば、箱根や軽井沢などの観光地を結ぶこともできるかもしれません。移動手段として時間の節約だけでなく、移動を楽しむというエンターテインメント性という付加価値をつけたサービスになります。

 コストがある程度下がれば、地方都市にも展開できるでしょう。

-2025年開催予定の大阪・関西万博で空飛ぶクルマを実現させようという動きがあります。実現に向けてどの程度進んでいるのでしょうか?たとえば、米国の空飛ぶクルマの設計製造者で、トヨタ自動車から出資を受けてANAとも連携しているJoby Aviationが2022年10月、開発中の機体について、国土交通省に対し航空法に基づく型式証明を申請しました。

米連邦航空局(FAA)から2022年5月に小型飛行機のチャーター運航による民間航空タクシー事業などに必要な「Part 135 Air Carrier Certificate」を取得したJoby Aviation(同社提供)

 空飛ぶクルマは、国の安全性の認証が必要です。製造国の当局に申請してから少なくとも5年ほどはかかる見通しです。認証を受けるまでに、設計、製造などさまざま工程で安全性をチェックします。

 Joby Aviationが申請したのは、この手続きの第一歩となる申請です。型式証明の申請は、国ごとに必要です。アメリカではすでに型式証明の取得に向けて審査プロセスを進めています。日米同時に飛ばせられるよう、今後は情報共有を進めながら審査を進めることになるのではないでしょうか。

-eVTOLが実際に空を飛ぶまでにクリアすべき課題を教えてください。

 機体、運航体制、離着陸場、管制ルールなどこれから決めなければならないことはたくさんありますが、よく受ける質問は安全性についてです。航空機に求められる安全性は、10億飛行時間に1回という故障確率です。交通事故に遭うよりもはるかに低い確率です。不安や懸念に対しては、きちんと情報を開示していく必要があります。

 社会受容性は大切な要素です。空の移動革命社会実装に向けた「大阪版ロードマップ」では、利便性が上がり街の魅力が高まるといったメリットを訴求し、デメリットが許容可能な範囲であることを積極的に情報発信する必要性がまとめられています。

-国内製造業や自治体も、eVTOLを産業面から注目することが増えそうです。欧米中心に導入が進むなかで、日本の中小企業は参入できそうでしょうか?

 様々な企業が海外を拠点にすでに機体開発を進めています。航空機の部品には、航空機と同じ程度の高い安全性が求められますし、すでに航空機の部品を納入している競合企業も多くいます。

 ただし、国内でもスタートアップのSkyDriveが開発中です。また、関連産業は製造業だけにとどまりません。

Uberのエアモビリティ部門であるUber Elevateが公表した空の駅のイメージ図(Joby Aviationが2020年にUber Elevateを買収:イラストはUber Elevateのサイトから)

 空飛ぶクルマが離着陸できるバスターミナルのような「空の駅」を街中につくるので、人の流れが変わり、空の駅までの移動手段も必要になります。空飛ぶクルマの整備やその教育訓練も欠かせません。損害保険も必要でしょう。

 空飛ぶクルマの産業のすそ野は広く、ほかにもまだ目をつけるべき産業はあるのではないでしょうか。