目次

  1. プロボクサーに憧れた少年時代
  2. 夢を断たれて新潟へ
  3. 「バレル研磨」を知らないまま妻の家業に
  4. 売り上げが急減したリーマン・ショック
  5. 作業手順の「当たり前」を見直し
  6. 足と試作品で取引先を開拓
  7. 「美顔ローラーの敗北」から技術を追求
  8. メインバンクの訪問で知らされた危機

 「バレル研磨」とは 、バレル(barrel=樽)と呼ばれるタンクの中に、磨きたいもの(ワーク)と研磨石(メディア)、洗剤(コンパウンド)、水を入れて、バレルを回転させたり振動させたりすることで起きる摩擦で研磨する、金属加工の手法です。ブラシ状の道具でひとつひとつ磨く「バフ研磨」と比べると、一度に大量の加工ができるためコストが安く、品質のばらつきも少なくてすむのがメリットです。

 東商技研工業(以下、東商技研)は1970年に新潟県燕市でバレル研磨業を創業。携帯電話や医療機器、自動車に使われる部品の仕上げを担ってきました。2023年2月時点での従業員は24人 、バレル研磨業としては大手に入ります。

バレル研磨のタンク
バレル研磨で磨かれ、光沢が出た金属 (同社提供)

 今野さんは大人になるまで、新潟には縁もゆかりもありませんでした。千葉の内陸部で生まれ育ち、豊かな自然のなかで体を動かすことが得意だった今野さん。プロボクシングの元世界王者・辰吉丈一郎さんの試合を見てあこがれ、ボクシングの選手を目指します。ボクシングの強豪校、習志野高校で腕を磨き、卒業後はボクシングの特待生として帝京大学に進学しました。

ボクシング選手に憧れていたころの今野さん(同社提供)

 大学入学後の今野さんは、2年連続でアマチュアボクシングの 全日本ランキング(ライト級)のトップ10入り をし、順調な選手生活を送っていました。ところが大学2年の冬、思わぬ試練が起きました。

 「ケガです。網膜に破れ目が生じる『網膜裂孔(れっこう)』でした。治療を受けるも、『このままボクシングを続けたら失明する可能性が高い』と、ドクターストップがかかってしまいました」

順調な選手生活を送っていた今野さんでしたが…(同社提供)

 やむなくボクシング部を退部した今野さん。せめて大学は卒業したいと望むも、特待生ではなくなったため学費を工面しなければなりません。父から「うちは私立大学の学費が払えない」と打ち明けられた今野さんは、退学せざるを得ませんでした。

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