前編 企業の環境対策を支援する異業種協業の背景 企業の未来を左右する オフィスの環境対策を支援
(最終更新:)
世界中で脱炭素社会の実現に向けた動きが加速する中、企業にも環境に対する取り組みが求められるようになってきています。環境に配慮したものづくりを続けるエプソン販売は、昨年11月から環境経営支援サービスを手掛けるキャプランと協業を開始しました。両社のサービスと製品を組み合わせ、企業のオフィスにおける環境対策の促進を支援するのがその目的です。オフィスの脱炭素化を着実に進めるために必要な考え方と具体的な対策について、キャプラン代表取締役社長の石田正則氏とエプソン販売 DX推進部・部長の子田吉之氏にお聞きしました。
キャプラン株式会社
代表取締役社長
石田正則さん
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エプソン販売株式会社
DX推進部(グリーンモデル推進)・部長
子田吉之さん
環境より経営を優先する企業がまだまだ多い
子田 最近、CO2排出量の削減やグリーンエネルギーの活用など、環境関連のニュースを見ない日はありません。脱炭素社会の実現に向けた動きが、加速してきているのを感じますね。日本の企業にも、CO2排出量削減につながる対策が、今後ますます求められるようになると思います。
石田 環境対策の大切さは誰もがわかっていることですが、問題は頭で理解していることと日々の行動が伴わないことだと思います。多くの企業の方にお話を伺うと、何をどうしたらいいかわからず戸惑っている会社がまだまだ多いようです。地球環境を守るよりも日々の事業の発展を重んじる会社も少なくありません。それなのに、企業に環境に対する取り組みを求める社会や行政からの要請が高まってきているため、企業側に “やらされ感”が強くなっているように感じています。
子田 私は二極化が進んだように思います。環境課題に対する認識が進んでいる企業とそうでない企業の差が激しくなってきている。例えば、グローバルなビジネスを展開する大企業や、そこと繋がっているサプライヤーでは、既にさまざまな環境対策や先進的な取り組みが実行されていますが、それ以外の企業では手付かずのまま。企業にも環境対策は必要だと考える会社は増えていますが、どう取り組めばよいのかわからない会社もまた増えてきているようです。
石田 私達のようなサービス業やメーカーではない企業には、これから取り組みたいと考えているところが多いと思います。ただ、自社ビルではないビルにテナントとして入っている企業の場合、オフィスで使用する電気をグリーンエネルギーに変えたいと思っても、自分達だけではコントロールできない。そうなると、次に何ができるのかがわからず、行き詰まってしまう企業が少なくないようです。特に環境対策に関するノウハウや人材が不足する中小企業にはその傾向が強いように感じています。
子田 エプソンでは、企業のさまざまな困り事に応える「環境/DX(デジタル・トラスフォーメーション)に関するアセスメント」(※注釈1)というサービスを行っているのですが、具体的な環境対策がわからず困っている企業からの相談が多く寄せられています。オフィスの脱炭素化支援につながるこのサービスを強化するには、弊社だけでなくさまざまなパートナー企業と力を合わせることが必要だと考え、御社との協業に至ったわけです。
異業種がタッグを組むことで生まれる相乗効果
石田 人材育成と人事システムの設計・導入支援事業をメインに取り組んできたキャプランですが、最近は環境問題に関する社員教育やCO2排出量可視化支援など環境経営支援サービスにも注力しています。企業の環境対策を推進するには、経営層を含めた社員一人ひとりが環境問題に対する正しい知識と理解が必須です。また、導入した脱炭素対策に本気で取り組んでもらうには、まずは自分達がどれくらい電気を使用しているか、どれくらいの量のCO2を排出しているか、その実態を知ることが、はじめの一歩だと思っているからです。
子田 確かに家の電気代は気にしても、会社の電気代を気にしたことはないという社員が多いでしょうからね。私も消費電力量やCO2排出量を数値として“見える化”することは、企業の脱炭素化を進めていく上ではとても大事だと思います。
石田 ただ、私達が提供している支援サービスはCO2排出量を可視化するところまで。問題点を見つけ出すことはできますが、その先のソリューションを持ち合わせていません。そこで、環境に対する取り組みに定評があり、具体的な脱炭素対策をお持ちの御社と協力できないだろうかと考えました。
子田 弊社のインクジェットプリンター・複合機への置き換えは、オフィスの脱炭素対策の一つになると思います。一般的なオフィスでは、空調や照明などに最も多くの電力を使っていますが、実はプリンターや複合機の消費電力も意外に多いんですよね。その点、私達のインクジェットプリンター・複合機は、オフィスでよく使われている従来のレーザー方式のものに比べて、消費電力が少なく、排出するCO2も少ない仕様になっています。
石田 オフィスにあるプリンターや複合機を全てインクジェットに置き換えられればもちろん理想的ですが、それが難しい場合もありますよね。レーザーにはレーザーの良さがあるでしょうから。
子田 そうですよね。実は、プリンターのメーカーでもある私達は「出力環境アセスメント」(※注釈2)というサービスも行っています。これは、機器の稼働状況や印刷業務に関わるCO2排出量を詳細まで明らかにし、脱炭素化に向けたCO2排出量削減のシミュレーション結果と最適な印刷環境を提案するというもの。これを使っていただければ、どこのプリンター・複合機をどう置き換えればいいかがわかるようになっています。
石田 置き換えるだけなら投資も小さく、検討する期間も短くて済みますよね。脱炭素対策として何をやっていいか悩んでいる企業に、「まだまだやれることがありますよ」とお伝えするのが私達の役割。異なる業種である御社との協業できっと相乗効果が生まれると思っています。それによって企業はもちろん、世の中全体をいい方向へ変えていきたいですね。
企業ブランディングにも影響する環境対策
子田 日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すことを宣言しましたよね。この目標達成のためにも、これからますます企業に対してCO2排出量の削減に向けた取り組みが求められるようになると思います。環境対策よりも経営を優先したいと考える企業がまだまだ多いというお話でしたが、オフィスの電気使用量を下げることはCO2排出量を削減するだけでなく、電気代も抑えられるということ。燃料費が高騰する今、電気使用量を下げることは環境対策としてだけでなく、経営対策としても欠かせないものになっていると思います。
石田 私は環境対策をツールとして利用すればいいと思っています。経営戦略の切り口のツールとして。そのメリットは5つあります。一つは、環境対策を実行しているということは信用度を上げることになり、金融機関やクライアントに対しての企業価値が高められます。二つ目は、企業がCO2排出量を見直すためには、業務や作業工程の見直しが必要になってくるため、生産性の向上やデジタル化につながります。三つ目は、それらの行動そのものが社員の人材育成になります。四つ目は、何かをやろうとする時にはパートナー企業と一緒に取り組む機会が増えるため、新しいイノベーションにつながる可能性が高まります。そして五つ目は、環境に対する取り組みをしているということが強いブランディングになるということです。ブランディングは売上げに貢献できるだけでなく、優秀な人材を獲得するためにも有効になってきます。
子田 確かに面接時に環境に対する取り組みの有無を、学生から問われるケースが増えていると聞きますよね。若い人ほど環境意識は高いので、環境問題に真摯に取り組んでいない企業は選ばなくなるかもしれません。優秀な人材を獲得するためにも、企業にとって環境対策が必要だと言えますね。
石田 この5つのメリットを、経営陣やマネジメント層の人達にしっかり議論してほしいと思っています。特に、価格競争に必死になっている企業には是非取り組んでもらいたい。こんなにたくさんのメリットがあるのだから、環境をツールに使わないのはもったいないと思います。“やらされ感”で取り組むのではなく、いかに事業の発展に繋げていけるかを考えながら、前向きに取り組んだ方が、次代につながる経営にもきっと役立つはずです。
子田 おっしゃる通りだと思います。もう一つ、加えさせていただくとしたら、将来に向けた節税対策になるということでしょうか。今、日本の地球温暖化対策税は諸外国、特にヨーロッパ諸国に比べると低い状態に抑えられていると思います。2050年の目標を達成するには、今後このあたりの負担も増えてくるのではないでしょうか。そういう意味でも、企業はCO2排出量削減の対策を模索し、確実にオフィスの脱炭素化を進めておくことが必要だと思います。
オフィスから社会を変えていく後押しを
子田 それにしても、CO2排出量可視化のノウハウやそれを担える人材は不足していると感じますね。規模の大きな企業であれば、SDGs推進部や環境推進部を持っていますが、中小企業の場合はそこまで人材を割けない。総務の方が総務の仕事をしながら環境対策もやっているという会社も少なくありません。不足しているノウハウやリソースを、私達の協業によって支援していきたいですね。
石田 一社ではできないことも、他社と組むことでできることがあると思います。環境対策も、みんなで工夫して進めていった方がいい。そうすれば、意外と自分達が想像していたよりも効果を上げられたりするものです。ただ、世の中の仕組みそのものも、変わっていかなければならないと思います。補助金の見直しや税制のあり方も検討が必要です。脱炭素化に努力している企業により厚くするなど、そういうバックアップを国や自治体にも期待したいところです。
子田 脱炭素社会の実現に向けて、企業にはこれからますますGX(グリーン・トランスフォーメーション)(※注釈3)が必要になっていくと思います。現在、多くの企業ではDXも進められています。勘違いされている方も多いようですが、この言葉は単なるデジタル化という意味ではなく、デジタル技術を活用して新しい働き方やビジネスモデルに変えましょう、という意味。GXも同様です。実はDX を推進していくと、必ずGXが含まれてきます。企業の環境対策がこれからますます問われる中、GXとDXはより密接につながっていく。それがSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)(※注釈4)、持続性のある企業を実現することになると思います。
石田 子田さんがおっしゃったように、GXもDXも大事なのは「その先」なんですよね。長い目で見た時に、今自分達がやっていることにはどんな意味があるのだろうか、と考えることが大切です。「どれだけCO2排出量を減らせるか」と、数字だけ考えていては、思考が停止しガマン大会になってしまう。それでは辛くて続けられません。「CO2排出量を減らしましょう」ではなく、「GXで社会を変えていきましょう」という、前向きな発想がこれからの私達には必要だと思います。
子田 地球環境を守るため、一人ひとりの社員、一つひとつの企業が取り組めることはきっと何かあると思います。私達が協業することで、一社でも多くの企業のGXが推進できればと願っています。
(※注釈1)「環境/DX(デジタル・トラスフォーメーション)に関するアセスメント」…詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.epson.jp/b_solution/office/workplace_assessment/
(※注釈2)「出力環境アセスメント」…詳しくはこちらをご覧ください。https://pd.epson.jp/greenmodel/lp_form/shutsuryoku_kankyou_assessment
(※注釈3)「 GX(グリーン・トランスフォーメーション)」…脱炭素社会の実現に向けて、クリーンなエネルギー中心の経済・社会、産業構造へと変革を図る取り組み
(※注釈4) 「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」…不確実性が高まる環境下で、企業が「持続可能性」を重視し、企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図り、経営の在り方や投資家との対話の在り方を変革するための戦略指針
石田 正則
いしだ・まさのり
1989年、株式会社パソナ入社。専門職・デジタル人材の育成など、新領域の事業拡大に従事。同社取締役専務執行役員を経て、2018年より現職。教育研修事業やHRテック支援事業を通して、人材の開発・育成を支援。環境教育やCO2排出量可視化支援も行っている。
子田 吉之
こだ・よしゆき
1999年、エプソン販売株式会社入社。法人営業に従事。2019年から販売推進本部にてビジネスプリンター、ペーパーラボのマーケティングを担当。22年 より現職。企業の脱炭素化への取り組みや働き方改革を支援し、環境貢献活動を推進している。
ラインアップ大幅拡充で脱炭素社会の実現を加速!「エプソンのスマートチャージ」対応〈LM〉シリーズ3機種新登場
- 優れた低消費電力設計で消費電力量とCO2を削減 -
エプソンは、プリントやコピーの使用状況に合わせてプランや機器を選べる「エプソンのスマートチャージ」の新商品として、A3カラーインクジェット複合機『LM-C6000』『LM-C5000』『LM-C4000』の3機種を2023年2月10日より発売。
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