礼金の勘定科目とは?具体的な仕訳方法をシーン別にわかりやすく解説
礼金の支払時の仕訳は支払った金額によって、使用する勘定科目が変わります。この記事では、支払った金額によってどのように仕訳が変わるかや、償却期間の考え方、仕訳を行う際の注意点を解説します。不動産を借りるときの参考にしてください。
礼金の支払時の仕訳は支払った金額によって、使用する勘定科目が変わります。この記事では、支払った金額によってどのように仕訳が変わるかや、償却期間の考え方、仕訳を行う際の注意点を解説します。不動産を借りるときの参考にしてください。
目次
礼金に用いる勘定科目は20万円未満であれば「支払家賃」を用いて費用計上し、20万円以上であれば「長期前払費用」を用いて資産計上をした後に、「支払家賃」や「支払手数料」として費用計上します。
礼金とは、賃貸物件に入居する際に、不動産所有者に対して支払う御礼金のことです。支払うと返金されることはなく、支払は入居時の一度のみです。
賃貸物件に入居するとき、礼金以外に敷金や仲介手数料を支払うことがあります。
敷金とは、賃貸物件に入居する際に支払う保証金です。敷金は、賃貸物件から退去するときに、未払家賃や使用に伴う傷の修繕が発生していると、支払った金額から差し引かれます。そのうえで、残額がある場合は返金されます。この返金がされるという点が礼金と異なります。
仲介手数料とは、賃貸物件を紹介(仲介)してくれた不動産屋に支払う手数料です。仲介手数料は1回支払うと返金はされません。礼金との違いとしては、支払い先が不動産会社になるという点が異なります。また、本来は権利金としての性質もありますが、国税庁のタックスアンサーNo.5460「建物を賃借するための権利金等」でも言及されているように、繰延資産として償却する必要はありません(権利金、繰延資産、償却については詳細後述)。勘定科目も支払手数料を使うことが多いです。
敷金や仲介手数料は、物件の入居時に発行される請求書にて分けられていることが一般的です。内容をしっかり把握し、それぞれに適切な会計処理ができるようにしましょう。
礼金を支払ったときは、金額や契約期間によって会計処理が変わります。具体的に解説します。
礼金は、不動産を賃貸する際に御礼として不動産所有者に支払うものです。しかし、税法上は、礼金は権利金といわれます。賃貸する権利を入手するためのお金ということです。
権利金は、繰延資産というものに該当します。繰延資産とは、「法人が支出する費用(資産の取得に要した金額とされるべき費用及び前払費用は除く。)のうち、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの」と法人税法第2条の24で定められています。
そのため、本来、礼金は繰延資産として一旦資産に計上し、毎期の決算処理で償却計算(時間の経過によって減少した資産を費用にする処置)を行うことで費用になります。
しかし、20万円未満の繰延資産は、支払時に費用として会計処理を行えば、税務でもそのまま損金として計上して問題ありません。これは法人税法施行令134条にて定められています。
そのため、20万円未満であれば、支出時に費用処理をすることが一般的です。
【支払時】
オフィスビルに入居した。礼金15万円を支払った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
支払家賃 | 150,000 | 普通預金 | 150,000 |
礼金の支払金額が20万円以上の場合は、繰延資産として償却を行わないといけません。償却期間は、5年か契約年数のいずれか短い方です。そのため、契約年数が5年未満なのか5年以上なのか、契約書を見て必ず確認しましょう。
契約年数が5年未満の場合、礼金の償却期間を契約年数と同じにするには、契約更新料が発生することが条件になります(繰延資産の償却期間8-2-3)。
そのため、更新料が生じない場合、契約年数が4年だったとしても償却期間は5年にする必要があります。
【支払時】
オフィスビルに入居し、礼金30万円を支払った。契約期間は3年で更新料が定められている。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
長期前払費用 | 300,000 | 普通預金 | 300,000 |
【期末時】
期末になり、決算処理を実施した。償却額は300,000円÷3年で10万円である。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
支払家賃 | 100,000 | 普通預金 | 100,000 |
契約期間が5年以上の場合、償却期間は5年となります。たとえば、礼金50万円で、契約期間が10年の場合、50万円を5年で償却します。
【支払時】
オフィスビルに入居した。礼金50万円を支払った。契約期間は10年である。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
長期前払費用 | 500,000 | 普通預金 | 500,000 |
【期末時】
決算処理を実施し、礼金の償却を行った。償却額は500,000円÷10年=50,000円である。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
支払家賃 | 50,000 | 長期前払費用 | 50,000 |
次に、不動産所有者として、礼金を受け取った場合の仕訳方法をご紹介します。
【受取時】
自己が所有する物件に申し込みがあり、礼金10万円を受け取った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 100,000 | 礼金・更新料 | 100,000 |
礼金を受け取った際には、受け取った年に一括で収入とします。支払ったときのように金額によって繰延べをして収益計上するわけではありません。
また、勘定科目については、すでに自社の会計システムで使われている勘定科目を使いましょう。礼金・更新料という科目がなければ、「受取家賃」なども考えられます。また、不動産の賃貸が本業でない場合は、経常外収益の勘定科目、たとえば「受取家賃」などを使用します。
礼金を仕訳するときの注意点を3つ紹介します。
礼金は支払家賃の消費税区分によって課税仕入、非課税仕入に分類されます。支払家賃の消費税区分は、居住を目的に賃貸借契約を締結すれば「非課税仕入」になります。そのため、礼金も「非課税仕入」になります。これは、社会政策的配慮に基づく非課税の一例です。
一方、事業用として賃貸借契約を締結すると「課税仕入」になります。そのため、礼金も「課税仕入」になります。
中小企業においては、事業所などを借りる際には、契約書上も事業用としての賃貸借契約になるでしょう。一方、社員などの社宅を会社が手配する場合には、居住用として「非課税仕入」になりますので、消費税区分を誤ることがないようにしましょう。
繰延資産は償却をすることになりますが、償却は支払った日から開始されます。
例えば、4月に賃貸借契約開始となる場合、通常、開始日より前の3月に礼金を支払うことが一般的です。この場合、償却開始日は支払った日の3月からになり、支払った日をもとに、月数按分をする必要があります。
もし、12月決算の会社で20万円以上の礼金を2023年3月15日に支払ったとしたら、2023年の決算では3月も含めて10カ月分を償却します。
【期末時】
当社は12月決算の会社で3月に100万円の礼金を支払った。契約期間は4年である。この場合の償却額は、以下の通り。
1,000,000÷4=250,000円(年間償却額)
250,000×10÷12=208,333円(2023年の償却額)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
支払家賃 | 208,333 | 長期前払費用 | 208,333 |
礼金を支払った日は仕訳に大きく関わってくるので、しっかり管理をしておきましょう。
法人の決算書を作成する際に、勘定科目内訳明細書を作成します。支払家賃も明細を作らなければならず、必要な情報の一つに礼金があります。
支払家賃で計上したもののうち、礼金に該当する分は区別する必要がありますので、仕訳をする際には、摘要欄に記載するなどして、わかるようにしておきましょう。
企業の礼金の仕訳方法と基本的には変わらないのですが、個人事業主の特徴を踏まえた礼金の仕訳方法についてご紹介します。
自宅に関しても事業にて使用している部分に関しては、事業用経費にすることができます。その場合は、礼金を家事費按分をしたうえで経費にします。家事費按分の割合は、建物全体の面積と事業用の使用面積で計算するのが一般的です。
まずは支払額全額を「地代家賃」の勘定科目を用いて仕訳し、期末時に家事費按分した金額を「事業主貸」の勘定科目を用いて計上します。「事業主貸」とは、事業主の生活にかかる費用に用いる勘定科目です。
これは、確定申告書に支払った総額と、そのうちの費用がいくらだったかを記載する必要があるため、支払時には、まず総額を仕訳します。
【支払時】
自宅兼事務所の賃貸借契約をし、礼金を10万円支払った。なお、事務所部分は30%使用する。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
地代家賃 | 100,000 | 現預金 | 100,000 |
【期末時】
礼金の家事費按分を行った。事務所部分は30%であるため、100,000×(100%-30%)が事業主の生活費にあたる。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
事業主貸 | 70,000 | 地代家賃 | 70,000 |
個人の確定申告において、事業所得では決算書を作成します。その際に支払家賃の明細の作成も必要です。礼金を総額でいくら払い、家事費按分がいくらだったかを、適切に仕訳をすることで把握できるとよいでしょう。
礼金は支払金額により、その後の会計処理が変わります。金額だけでなく、繰延資産として計上する場合(礼金20万円以上)は、支払った日も重要な情報です。礼金の支払いは契約時の一度のみですが、期末時の償却の仕訳も忘れずに行うようにしましょう。
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