目次

  1. 出店候補をすべて視察する理由
  2. 「家賃比率5%以内」が出店基準
  3. 味や接客スキルを保つ工夫
  4. コロナ禍で一気に店舗を拡大
  5. 原材料高でもステーキを値下げ
  6. 足元を固める1年に

――出店候補はすべて義元さん自身が視察しているそうですね。

 僕は沖縄出身なのでそれ以外の土地を知りません。でも、現地の人に「ここがいいよ」と言われても却下することがあります。人はどれくらいいて、周りに何があるか、歩いてる人は何を見ているかを確認しないといけませんから。店は「どこでもいいから作ればいい」というものではありません。

 でも東京に関しては特別で、目立たないところでも大丈夫です。店にかかってくる電話は「どこにありますか?」という内容が多いのですが、東京は地方とは違い「今、混んでますか?」というのが多い。東京の人はみんな事前にネットで見て調べているからなんですね。

 東京の不動産屋さんから目立たない路地の物件を勧められた時、最初は「その場所は無理」と思いました。しかし、今はそれが正しかったのだと痛感しました。

――出店する基準の一つとして「エリア人口よりも人流・競合・雰囲気などから売り上げを予測し、家賃比率が売り上げの5%に収まること」と定めています。

 飲食店は、FL比率(売上高における食材費+人件費の割合)を60%に抑えることが良いと言われていますが、「やっぱりステーキ」は食材費が48%前後、人件費は22%前後で、60%を超えています。

 飲食店の家賃比率は一般的に10%以内で、売り上げが1千万円なら家賃は100万円以内になります。でも、うちはFL比率が高いので家賃比率が10%だと利益が出ません。家賃比率を5%に抑えることで利益を確保し、オーナーさんの負担も下げたいと考えています。

 そのため、様々な物件を探し続けています。だから都心のど真ん中ではなく、少し辺鄙なところへの出店が多いのです。東京1号店となった吉祥寺店も(駅から少し離れた)井の頭公園の横ですから。

 現地を見に行って売り上げ予測を行い、家賃比率5%を念頭に「ここなら家賃をこれくらいに抑えないといけない」という計算をします。その予測はだいたい合っていますね。

東京1号店となった吉祥寺店(やっぱりステーキ提供)

――2017年から沖縄県外への出店を加速させたのはなぜですか。

 これはフランチャイズ出店において、沖縄が早かったか、県外が早かったかの違いでしかなく、県外に進出するために動いたり、どこかに依頼したりするようなことはありません。でも、思ったより順調に店舗数が増えているとは思います。

――他の都道府県に出店する中で、「島とうがらしドレッシング」や、「シークワーサーポン酢」「A1ソース」などが用意されていますが、「沖縄らしさ」は重要な要素でしょうか?

 はい、「沖縄」というのはお客様への訴求のキーワードとして、重要な要素だと考えています。コロナ禍では、沖縄に行きたいけど行けないというお客様にご来店いただく機会が多かったです。

――経営を続ける中での困難や失敗などはありましたか。

 小さな失敗ならいくらでもありますが、大きな失敗はあまり無いですね。困難といえば、人材の確保でしょうか。新しいスタッフを集めることは、いつでも難しいです。

――飲食店の規模を急拡大させると、味や接客スキルの質を保つのが難しくなる面もあります。従業員への意思統一はどのように図ったのでしょうか。

 オペレーションの簡略化(前編参照)によって、味や接客スキルを保つことにつなげています。

 例えば、肉をさばく職人を入れる必要がないように、簡略化しています。これは、肉のさばきをマニュアル化して「仕組み化」することで、特別な技術を必要とせず、どんな方でもできるようにしました。また、各エリアに直営店を増やすことで、研修しやすい体制も整えています。

――20年からのコロナ禍で、沖縄経済は大打撃を受けました。どのように対応されましたか。

 沖縄は観光地なので、コロナの時は街がゴーストタウンみたいになってしまいました。1500万円ほどの売り上げがあったお店も300万円くらいに落ち込みました。

 でも、家賃を安く抑えていましたから、なんとか助かりました。今は徐々に復活してきています。

1号店の流れを汲む「やっぱりステーキ 1st カクテルプラザ店」(筆者撮影)

――東京初進出となる吉祥寺店をオープンしたのは、コロナ禍まっただ中の20年6月でした。

 吉祥寺店は全国51店舗目でしたが、あの時期は撤退する店舗が多く、居抜きへの出店をしている僕らとしてはある意味で追い風でした。それから一気に80店舗くらいまで増やすことができたのです。エリアによっては向かい風だった一方、全体的には追い風だったと思っています。

――2013年の創業当初は長時間労働もあったと伺っています。そこからどのように働き方改革や人材育成を進めたのでしょうか。

 創業当時、私は月に500時間以上働いていたと思います。朝から閉店まで仕事して、全店の売り上げを取りに行ってから銀行に出向き、お風呂に入って1時間寝てまた仕事に行くという生活でした。

 そんなことができたのも売り上げがあったからですが、そもそも沖縄は給与水準が低い地域です。「沖縄からトヨタのような会社を作りたい」と、みんなが燃えていましたね。

 やがて人が育ち、人員体制を整え、組織としての管理体制や店舗オペレーションの効率化を実現していくことで、働き方改革も進めることができ、創業当時のような長時間労働も無くなりました。

 人材育成で気をつけているのは、気持ちの部分です。「ドライにならないように」ということはいつも意識しています。

創業当時の義元さんと1号店の様子(やっぱりステーキ提供)

――原材料高が飲食業も直撃する中、22年10月、ミスジステーキ(150グラム)を1400円から1200円に値下げして話題を呼びました。値下げ分の売り上げや利益はどうやってカバーしたのでしょうか。

 値下げした商品も値上げした商品もありますので、全体的には据え置きという感じです。

 僕らが売りたいものはステーキで、中でもミスジは5割のお客様が注文します。主力のミスジを値下げすることでメディアに取り上げられ、お客様が増えることで、値下げ分をカバーしているのです。

 22年は、スピードワゴンの井戸田潤さんが扮する「ハンバーグ師匠」のコスプレ(カウボーイハット・チェックシャツ・ジーンズ)で来店したら「替えバーグ」が無料というキャンペーンも評判となり、お客様も増えました。そうやって値下げ分を補っています。

「ハンバーグ師匠」なりきりキャンペーンのバナー

 原油高や為替変動は予想以上に厳しいものでしたが、価格をどうするかはギリギリまで発表せず、世の中の空気を読むのも僕らの戦略です。他と同じことはやりません。

 本当は仕入れ値が上がっているので、22年は2回値上げせざるを得ませんでしたが、メインのミスジステーキを下げたので、そのインパクトが前に出たのです。

――沖縄県の県民所得は全国最低水準に置かれ、経済的に厳しい状況にあります。そんな中で、沖縄発のビジネスを大きく成長させられたのはどうしてでしょうか。

 沖縄では地元でビジネスを完結させたいという風潮が根強いのですが、僕らは逆に、できるだけ県外に出たいと思っています。小さな沖縄ではなく、もっと大きなマーケットで勝負したい。だから県外にたくさんの店舗を作りました。

 県外に出る人が少ないからこそ、僕らが出ることによって夢を感じてもらえればと思います。

――22年11月には、東京・渋谷に新業態の「黄金のポテトラド」を立ち上げました。

 何か新しい事業をしたいと考えていた時、「ポテト専門店はどう?」というアイデアが持ち上がり、東京へ視察に行きました。

 マクドナルドでポテトが不足している時に、世間で凄く騒がれました。それなら市場を作ればきっと勝算があるのではと。でもそれだけでは面白くない、それならキャラクター先行型の新しいショップを創ろうとポテトラドをオープンさせました。

 まだまだ浸透してなくて苦戦してますが、メディアからは取材が殺到しているので、いずれは新しいカタチが出来ると思います。

「黄金のポテトラド」の店舗(やっぱりステーキ提供)

 難しいけど、新しいことにチャレンジしたと思えばいいかなと。最初から何でも成功するわけではなく、試行錯誤する機会にもなりますし。始めたからには、何とかしてやろうと思っていますけど。

黄金のポテトラドの商品「⽚⼿でぱくぱく!激アツあげティーヤ」(やっぱりステーキ提供)

――全国展開や海外進出、新業態への挑戦など、今後の展望を教えて下さい。

 まずは足下を固めたいと思っています。広げたいのではなく、固めたい。

 80店舗にもなると、意識の高い店から低い店まで出てくるので、足下をしっかり固めたい。例えば、足下が固まっていないまま100店舗にしても、足下を固めてファンを増やした80店舗の方が全体の売り上げは良かったりします。

 すぐ100店舗以上にはできます。あるいは、120店舗くらいあった方が仕入れ原価が下がるなら、戦略的に店舗を増やす選択肢もあり得ます。でも、23年は足下を固める年にしたいと思います。「やっぱりステーキ」に来てくれたお客様に「こんなものか」とは思われたくないですから。

 東京にオフィスを設けたのも、広報活動で知名度を高め、新しいお客様に来て頂くという目的があります。これも足場固めのひとつだと思っています。

――物流や顧客の所得水準など、大きなハンデを抱える地方の経営者、特に飲食業の経営者に求められることは何でしょうか。

 一言で言うなら、「考えすぎるな」ということです。

 今の時代、マイナスのことを考えようと思ったらいくらでも考えつく。それによって自分の行動に制限がついてしまうんです。人の話ばかりを聞いて何も動かない。そんな人が多いと思います。

 「誰かがこう言ってたから」という話を聞くと、「それはあなたの考えではないですよね?」としか思えません。人からの情報をうのみにしていると、周りと同じことしかできなくなります。

 僕らはそんなこと無いからガンガン動くし、色んなトライをくり返してきた結果、こうなっています。自分の信じたことを貫き通した方が、人と違うことができると思いますよ。

――最後に、「やっぱりステーキ」にはたくさんの調味料がありますが、義元社長のお気に入りを教えて下さい。

 僕は「にんにく醤油」と、新しく入れたパウダーの「極」です。「極」は人気で、あっという間にボトルが空になります。

数多く用意された調味料。沖縄ステーキの定番「A1ソース」もあります(筆者撮影)

 あと、風味を大切にしたいという思いから刻みわさびを使っているのですが、原価が高くて、本当はうちみたいなステーキ1枚千円の店が使うものではないんです。でも、お客様においしいと感じてほしくて、創業時から使っています。

 「やっぱりステーキ」の味は皆さんの自由です。好きな味を見つけてほしいと思います。