目次

  1. デザイナーの「もやもや」が借りパク企画へ
  2. 和紙は「気持ちが介在するツール」
  3. 感謝と謝罪を伝える
  4. 売れるかどうか分からない それでも事業化する理由
  5. 大上さんの借りパクも解消へ

 借りパク専用商品をつくるきっかけは、3年前のことでした。上質和紙にシュールなデザインをほどこしたオオウエの和紙プロダクト・ブランド「和紙田大學」の企画会議で、デザイナーがふと口にしたことが始まりでした。

 おしゃれな自室を映した友人のFacebook投稿が、たまたまデザイナーの目に留まったといいます。写真をよく見ると、かなり前に貸したはずのアートブックがセンス良く飾られていました。

 「いや、それ、私の……」とも言い出せず、もやもやした気持ちが残ったといいます。会議のなかで、借りパクのエピソードで盛り上がるなか、大上さんら会議のメンバーたちは「借りパクはみんなの身近な社会問題」であることに気づいたといいます。

 借りパクしたり、されたりすると、人間関係がギクシャクしがちです。そこで、和紙としてどう解決を手伝うことができるかを話し合いました。

コレッポチやフトッパラなど和紙田大學の商品

 オオウエの和紙プロダクト・ブランド「和紙田大學」は、小さな祝儀袋であるポチ袋にユルい絵柄を添えてコミュニケーションのきっかけをつくる「コレッポチ」や、祝儀袋一面に少女漫画が描かれた「フトッパラ 少女漫画」などメディアでも話題となる商品を作り続けてきました。

 そんななかで、大上さんは和紙の特徴に気づいたといいます。

 「和紙は機能としての紙だけでなく、お祝いや、感謝、謝罪など気持ちを介在させるツールだったんです」

 では、どんなデザインにすれば、「借りパク」した人の気持ちを伝えられるでしょうか。

 大上さんたちが周囲の70人にインタビューしたところ、借りパクしてしまっている理由の中で最も多かったのが「返すタイミングを逃して返しにくい」という回答でした。中でも特に「怒られないか」が気になっていたといいます。

 そんな意見をもとに、商品開発のポイントを次の4つに定めます。

  1. 郵送タイプにすることで直接顔を合わせることなく返せる
  2. ユーモアのパワーで怒る気をなくさせる
  3. 手軽に書けて、しっかりと感謝・謝罪の気持ちを伝える手紙を用意
  4. ギフトカードを同梱し許す空気を後押し

 そこで返却する商品を梱包する箱のデザインのコンセプトは「帰巣本能」としてサケや旅人、イヌなどを描き、気持ちを伝えるための便箋・封筒(文例つき)、ギフトカードホルダー、外箱にも貼れる感謝・謝罪のシールセットなどをセットにしました。

かりパックセットのイメージ

 借りパクを返したいという人の気持ちにどれだけ応えられるかを確かめようとクラウドファンディングの「CAMPFIRE」で5月11日まで支援を募っています。

 創業75年を迎えたオオウエはカレンダーや便箋、和菓子など食品包装、御朱印帳などに使われる和紙の卸売りを続けてきました。ただし、需要は縮小するなか、商社を介さないビジネスも増えて、売り上げは平成元年(1989年)から比べると、5分の1に減りました。

オオウエが取り扱っている和紙商品

 そんななか、事業承継して4代目社長に就任した大上さんは「商社だからこそできること」を模索し続けてきました。

 そのなかで、見いだしたのが、既存の商品とは違う自社ブランド商品開発でした。

 「かりパック」で大幅に売り上げが伸ばせるとは限りません。それでも商品化を進める理由について大上さんは「商品企画力、ブランド力に注目してもらい、今後のOEMなどにつなげたい」と考えているといいます。

 かりパックは夏ごろから自社ECなどで販売を始める予定です。

 商品化を進める大上さんにも、実は借りパクしてしまった経験がありました。新卒で入社した前職の上司から読むように渡された京セラ創業者の稲盛和夫さんの著書がまだ返せていないといいます。

 家業に戻ろうと退職準備を進めるとき、職場のデスクの中から見つかり、読んでみると当時の上司が伝えたかったこと、どんな人物に成長して欲しかったのかなどが少し見えた気がしたといいます。

 「もちろん送り先を調べる必要はあるのですが、このかりパックを使ってお礼とお詫びだけでなく、本を読んだ感想も添えて送れればと考えています」