シナジー効果とは 生み出す方法から注意点・実際の事例を紹介
シナジー効果は経営用語としてよく耳にする言葉であり、自社の事業統合や企業間の提携などによって、単独で事業活動を行う以上の効果を生み出すことです。本記事では、シナジー効果の意味や種類、生み出すための方法や効果を高めるためのポイントなどについて、製造業界の専門家が解説します。
シナジー効果は経営用語としてよく耳にする言葉であり、自社の事業統合や企業間の提携などによって、単独で事業活動を行う以上の効果を生み出すことです。本記事では、シナジー効果の意味や種類、生み出すための方法や効果を高めるためのポイントなどについて、製造業界の専門家が解説します。
目次
シナジー効果とは、複数の人や組織、企業同士などがお互いに協力して事業活動に取り組み、単独での活動以上に効果を生むことです。
シナジー(Synergy)とは、「相乗効果」という意味があり、生理学や薬学の分野で主に用いられています。2つ以上の要素がお互いに作用し合い、単体で得られる以上のプラスの効果を生むことを指します。
シナジー効果は、経営においてはM&A(Mergers and Acquisitions:買収と合併)でよく使われる言葉です。買収や合併では、事業が統合されることで、M&Aをした側の技術力の向上や販路拡大、人的リソースの増加などにつながり、結果的に「1+1=2」を超える収益の拡大といった相乗効果を得られることが期待されています。
もちろん、M&Aに限らず自社内の部署間連携や業務提携などの場合も、単純な足し算を超える効果を生めば、シナジー効果が得られたと判断されます。
シナジー効果が求められるのは、企業価値の向上や競合優位性の継続的な確保のためです。
市場のグローバル化によって競合企業の数は増加しており、またインターネットの普及やSNSによる情報シェアが一般的になるなかで、消費者の価値観や消費行動も変化しています。さらに、企業は利益追求のみではなく、企業の信頼性を高めて社会的価値を向上させる必要もあり、そのためにはSDGsを意識した取り組みが求められています。
このような激しく、スピードが速い市場の変化に対応しながら、競合優位性を築いて事業を存続させるためには、M&Aや業務提携などによってシナジー効果を発揮することが戦略の一つとして注目されています。
アナジー効果とは、シナジーとは反対の意味で使われる言葉で、相乗効果によってプラスの効果が得られるどころか、逆に相互にマイナスの相乗効果を生んでしまうことです。
アナジー(Anergy)はアネルギーとも呼ばれ、抗原に対する抗体反応が起こらない免疫不応答という意味で用いられる医学用語です。ビジネスシーンでは、「負のシナジー」「ネガティブシナジー」「ディスシナジー」などとも呼ばれています。
例えば、コスト削減のシナジー効果を期待して、自社で異なる部署同士が連携したとします。本来ならば「1+1=2」を超えるシナジー効果が得られることを期待するでしょう。
しかし、社員同士のコミュニケーションがうまくいかず、不満を感じた優秀な社員が退職するなどして一人ひとりへの業務負荷が増え、結果的に期待を下回る結果となれば、アナジー効果と判断されます。
シナジー効果は、シナジーを生み出す対象によって、さまざまな種類に分類されます。ここでは経営に関わる代表的なシナジーを紹介します。
事業シナジーは、経営資源の共用による収益向上など、自社事業の推進に直接的に関わるシナジー効果のことです。
コスト面に着目すると、業務提携による規模の拡大で経営資源の共用ができることにより、コスト削減を図れるようになります。例えば、下記のような事例があります。
コスト面以外でも、下記のように企業同士が販売提携をして、売上の増加につなげることもできます。
また、M&Aによる人材獲得や技術提携で得たノウハウの共有などによって、新しい製品・サービスの開発などが生まれ、さらなる高付加価値化を目指すこともできます。
財務シナジーは、企業の財務や税務活動に関わるシナジーで、資金調達による資本増強や資金流出を防ぐ目的が挙げられます。
自社内で成長可能性の高い事業に資金を投入するために、資金力はあるものの新規に事業投資を行う可能性が低く余剰資金を持つ事業と統合することで、成長分野への投資ができます。
また、M&Aにより買収する側の企業が繰越欠損金や債務を引き継ぐこととなれば、事業収益を圧縮して節税効果を高められるというメリットもあります。
組織シナジーは、組織同士の強みをかけ合わせて、生産性の向上や業務効率化などを果たすことを指します。
組織の統合によって、異なる新しい価値観を持った社員同士の関わりが増えれば、これまでの固定観念に縛られない新しいアイデアが生まれたり、既存の業務課題の改善につながったりするシナジー効果が期待できます。また、業務の統合にもなり、システムも統合されて分散を防いだり、コスト削減にも関係したりするでしょう。
さらに、生産性の向上や業務効率化によって事業活動がスムーズに進むことで、社員の働きやすさの改善につながり、結果的にモチベーション向上によって定着率が上がるといったメリットもあります。
シナジー効果を生み出すためにはさまざまな方法がありますが、ここでは代表的な4つの方法を紹介します。
多角化戦略とは、自社の既存事業と関連性の高い別の業界や、全く新しい市場に参入することで、事業の拡大や成長を目指す戦略です。
多角化戦略は以下の4つに分類されています。
多角化戦略 | 概要 | 備考 |
---|---|---|
水平的多角化 | 自社の顧客と類似性の高い層に対して、新しい製品・サービスを提供すること | 既存のノウハウや販売チャネルなどを応用して事業を拡大させる。そのため、多角化戦略のなかでは最も取り組みやすく、シナジー効果を得やすい |
垂直的多角化 | 自社が参入している市場の上流や下流の事業にも新規進出すること | 例えば、小売販売が主体だった企業が卸売を行うこと。これまでの販売チャネルを効果的に活用できるメリットがある |
集中的多角化 | 自社の既存事業で培ってきた技術力や販路などを活用して、新しい市場に参入すること | 例えば、化学製品の開発経験が豊富な化粧品メーカーが、開発力や生産力を軸に医薬品業界に参入すること |
集成的多角化 | 自社でこれまで蓄積してきた技術や販売チャネルとは異なる市場領域に進出すること | コングロマリット化とも呼ばれる。他の多角化戦略に比べてリスクが高く、実施にあたってM&Aが選択される場合がある |
例えば、BtoB向けに樹脂原料のトレーディングを専門的に行っている商社が、水平的多角化戦略によって添加剤などの関連性の深い材料を扱えば、添加剤メーカへ顧客獲得に向けたアプローチもでき、商社とメーカ双方にとってシェア拡大というシナジー効果が期待できます。
種類によっては、自社リソースだけでの取り組みが難しい多角化戦略もあり、参入する市場の規模や競合となる企業の強さによっては、業務提携やM&Aなどを検討する必要もあります。
グループ一体経営は、同じグループ会社内でノウハウや情報などを共有することで事業活動の効率化を図る経営手法で、ホールディングス形式などで事業活動をしている大企業で行われるのが一般的です。
自社内のリソースを活用することで、例えば、下記のようなシナジー効果を得ることが期待できます。
業務提携はアライアンスの一つで、企業同士で経営資源を共有しながら、事業活動を行うことです。
具体的に、業務提携には下記のような方法があります。
これらは、アライアンスパートナー(業務提携先)同士でお互いの弱みを補完し、両社にとってコスト低減や販路拡大などといった明確なメリットがあることが重要です。
M&Aは、事業再編を目的に、他社を買収したり、他社と合併をしたりすることで、買収・合併先が保有している技術やノウハウ、設備やシステム、特許、人材、販売チャネルなどを自社に取り込むメリットがあります。
そのため、下記のような点で、最もシナジー効果の恩恵を受けやすいという特徴があります。
また、財務シナジーで説明したように、意図的に繰越欠損金や債務などを損金参入することで、節税効果を高めることもできます。
シナジー効果を高めて事業の成長や拡大を目指す際には、以下のポイントを意識しましょう。
シナジー効果は偶然得られるものではありません。そのため、自社内での事業や組織の統合、M&Aなどによる外部リソースの取り込みなどを行う際には、事前に得られるメリットを想定して効果検証をすることが大切です。
例えば、M&Aによって販路拡大を目標とするならば、事前に想定される顧客獲得数や売上高を具体的に試算するのはもちろん、買収に関わるコストも見積もったうえでメリットがあるかを検証する必要があります。
事業統合によってコスト削減を目指すならば、低減できる可能性のある費用項目の抽出はもちろん、実際に数値化して想定されるシナジー効果を「見える化」することが肝要です。
シナジー効果を狙って行動したつもりが、マイナスの相乗効果であるアナジー効果につながってしまう恐れもあります。
そのため、シナジー効果を狙って行動する前に、発生しうるリスクを抽出し、事前に対策も検討しておきましょう。
例えば、M&Aを行う場合は、期待されるシナジー効果を事前に明確化するのはもちろん、財務や法務の安全性を調査するデューデリジェンスを行うことが欠かせません。
また、社内組織を統合した結果、従業員が大量に退職してしまうリスクもあるため、社員と面談したりアンケートを取ったりすることで意見を取集し、段階的な統合を行うといったリスク対策への対応が必要になるでしょう。
いずれにせよ、アナジー効果につながるようなリスクの発生率が高い場合は、より安全性の高い方策を検討することが大切です。
シナジー効果の検証やリスクの抽出ができたら、確実な実行を目指すために経営計画に落とし込みましょう。
試算結果をもとに、シナジー効果によって達成したい数値目標は中長期経営計画に、具体的な行動計画は短期経営計画に落とし込みましょう。
経営計画があることで、シナジー効果を高めるために社員が取るべき行動指針も明確になり、何よりも自社が目指している方向と具体的な取り組み内容を社内で共有できます。
経営計画と聞くと難しく感じるかもしれませんが、「目標値」「行動内容」「達成までの期間」を一つにまとめて考えると良いでしょう。
シナジー効果の成功例は数多くありますが、ここでは代表的な事例を2つ紹介します。
情報通信分野の代表的な企業である楽天グループは、M&Aによって事業規模の拡大を行ってきました。
M&A先の業種は多岐にわたっており、Eコマース事業に加えて、インターネットバンキングや電子マネー、生命保険や損害保険などの金融・保険業界へも参入し、ついには携帯キャリア事業を開始するなど、インターネットとの親和性が高い業界に積極的に参入を行っています。
楽天はグループ内の連携も強化しており、グループシナジーによってサービスの多角化を進めているという特徴もあります(参照:楽天の歴史丨楽天グループ株式会社コーポレートサイト)。
ファストファッションの代表的なブランドである「ユニクロ」と、合成繊維や樹脂をはじめとする化学製品メーカー「東レ」は、2006年に戦略的パートナーシップを結び、シナジー効果を発揮しています。
具体的には、東レの高機能繊維の開発力とユニクロが持つ衣服の開発・製造ノウハウを組み合わせることで、「ヒートテック」や「エアリズム」などの機能性インナーを生み出し、年間1億枚を超える世界的なヒット商品となっています。
両社の協業は2023年現在も続いており、さらなる新製品の開発・販売が期待されています(参照:東レ×ユニクロ イノベーションの源泉となるパートナーシップ丨東レ株式会社コーポレートサイト)。
シナジー効果とは、事業統合や企業間の提携など、複数の組織や企業が協業することによって単独での活動以上の効果を生み出すことです。
シナジー効果を生むためには、多角化戦略や業務提携、M&Aといった手法を取るのが一般的です。しかし、シナジー効果はいつでも発揮できるわけではなく、アナジー化によってマイナスの相乗効果を生んでしまうことも少なくありません。
そのため、社内での組織・事業の統合や他社との業務提携、M&Aなどを行う際には、シナジー効果を具体的に数値化することを意識し、経営戦略に落とし込んで行動計画を立てるようにしましょう。
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