目次

  1. 匿名組合とは
  2. 匿名組合のメリット
    1. 匿名組合のメリット:二重課税が生じない
    2. 匿名組合員のメリット:取引先への責任を負わない
    3. 営業者のメリット:低コストで運営できる
  3. 匿名組合のデメリット
    1. 経営に関する意思決定がない
    2. 持分の処分に時間がかかることが多い
    3. 出資方法が限定される
  4. 匿名組合を組成する流れ
    1. 対象事業を明確にする
    2. 利益の配分方法を決定する
    3. 匿名組合契約を締結する
    4. 終了時は清算をして匿名組合員に返還する
  5. 匿名組合の注意点
    1. 税務上の取扱いに注意する
    2. 契約内容について注意する
  6. 匿名組合の活用事例
    1. 映画の製作委員会
    2. 不動産または動産ファンド
    3. 競走馬ファンド
    4. ベンチャーファンド
  7. 匿名組合の契約は慎重に

 匿名組合とは、営業者と匿名組合員が出資や利益分配にかかる契約を締結することで成立する組合をいいます。匿名組合は商法535条に規定されており、営業者は「財産の運用や事業を行うことで資金を増やす者」、匿名組合員は「資金を拠出して、その資金を増やしたいと考える者」を指しています。

 名称に組合とついているため、労働組合や協同組合などを連想しますが、営業者と匿名組合員の二者間での契約に基づいています。二者間契約になっており、外部からは誰が出資しているかがわからない仕組みとなっていることが、匿名組合と言われる理由です。なお、匿名組合には法人格はありません。

 近年では、ソーシャルレンディングやクラウドファンディングなどが増えたことで、その投資手法として用いられるようになりました。

 なお、匿名組合員ができる出資は、金銭その他の財産に限られていて、労務や信用による出資は認められていません(参照:匿名組合員の出資及び権利義務|商法536条2項)。

匿名組合のメリットと注意点
匿名組合のメリットと注意点(デザイン:浦和ゆうすけ)

 匿名組合の主要なメリットを3つ紹介します。

 匿名組合を活用すると、二重課税が発生しないというメリットがあります。二重課税とは、税金が課される取引(お金を受け取った、支払ったなど)に、2回以上同じ種類の税金が課されることをいいます。

 例えば、株式会社などに投資した場合は、その会社で利益が生じた際に税金計算を行い、法人税などを差し引いてから、株主に配当が分配されます。そのうえで、配当を受け取った会社や投資家にも税金が発生します(株式等保有割合が100%の会社でない限り)。つまり、分配前に1回、分配後に1回と、税金が計2回課せられることになります。これが二重課税です。

 匿名組合の場合、匿名組合の事業で生じた利益のうち、匿名組合員に分配する利益に税金が課されません。営業者には課税が発生しないのです。

 一方、匿名組合員には課税が発生します。営業者から分配された利益を受け取る際に源泉徴収され、最終的には受け取った利益とその他の所得をもとに課税額が決定します。

 つまり匿名組合では、課税は分配後のみとなります。このように、同じような投資・分配の仕組みでも、二重課税が発生しないのが匿名組合のメリットです。

 匿名組合員は、営業者の活動によって生じた債務に対して責任を負いません。匿名組合として、多額の債務を負ったとしても、匿名組合員の責任の限度は出資額までです。そのため、出資する側の責任の範囲は出資額であり、自身で事業をするよりもリスクを抑えた投資が可能になります。

 ただし、自身の名前や商号を営業者の商号に使用することを許諾した場合は、営業者と連帯して債務を弁済する責任がありますので注意が必要です(参照:自己の氏名等の使用を許諾した匿名組合員の責任|商法537条)。

 匿名組合は、そもそも法人格がないため、株式会社を設立するなどのコストが必要ありません。また、決算公告や株主総会の開催などに関する費用もかからないため、低コストで運営できます。

 営業者として株式会社や合同会社を設立する場合もありますが、あまりメリットにならないため、営業者になる際には形態の確認が重要です。

 匿名組合を活用した投資にはメリットだけでなく、デメリットもありますので、主要なものを3つ紹介します。

 匿名組合として出資をしても、事業の重要な意思決定に対して議決権はありません。株式会社などで出資をすると、株主総会で議決権を行使して会社の意思決定に関与できますが、匿名組合では営業者も兼務しない限り、意思決定ができません。

 営業者になると無限責任になるため、匿名組合員としてのメリットを享受しづらくなります。

 匿名組合で出資している持分(匿名組合員が組合に対して有する権利義務)は、他者に売却することが可能です。ただし、株式市場のように売買ができる場所がないため、相対取引を行う必要があり、基本的には自分で取引相手を探す必要があります。また、営業者と二者間契約を締結しているため、営業者の許可も必要です。

 持分を売却せずに、営業者と契約を解除する方法もありますが、やむを得ない場合を除き、解除する6カ月前に営業者に予告する必要があります(参照:匿名組合契約の解除|商法540条)。そのため、早く契約解除を行いたい場合でも、法律の縛りにより、早期の契約解除はできません。

 匿名組合への出資は、金銭その他の財産に限定されており、労務や信用は出資できないため、出資方法が限定されている点はデメリットといえます。ただし、株式会社などの形態においても、労務や信用を出資しているケースは少ないため、出資方法が限定される支障はあまりないといえるでしょう。

 実際に匿名組合を組成する際の流れを説明します。

 匿名組合を組成する場合、まず出資する対象事業を明確にしましょう。出資事業を明確にしておくことで、営業者を検討しやすくなります。

 また、匿名組合への出資は金融商品取引法の有価証券となるため、営業者は出資を募る前に、一部の例外を除き、管轄する財務局などへの登録、または届出をしなければいけません。匿名組合員として出資を検討する際には、これらの登録や届出がなされたもかを確認しましょう。

 営業者と協議し、匿名組合で発生した利益の配分方法を決定します。匿名組合で発生した利益は、営業者に帰属したあと、匿名組合員に配分されます。

 出資比率に応じた配分が一般的ですが、法律上定めはないため、契約書上で配分方法を設定することが重要です。

 営業者が作成した匿名組合契約書に署名・押印をします。匿名組合契約書の記載事項は、法律上の決まりはありませんが、一般的に以下の項目が記載されます。

  • 出資
  • 計算期間
  • 営業者報酬
  • 損益分配
  • 現金分配
  • 会計報告

 契約に関する注意点は後述しますので、出資する際には必ず契約書を確認しましょう。

 計算期間を満了、または匿名組合員から終了を申し出て、匿名契約が終了する場合は、出資額が返還されます。ただし、損失によって出資が減少している場合は、その残額が返還されます(参照:匿名組合契約の終了に伴う出資の価額の返還|商法542条)。

 匿名組合に関する注意点を2つ紹介します。

 匿名組合に出資する場合、個人事業主と法人では税務処理が異なります。

 個人事業主の場合、受ける利益の分配は雑所得となります。ただし、匿名組合員が営業者の営む事業にかかる重要な決定をしているなどで、共に経営していると認められると事業所得となります(参照:組合の所得計算/任意組合等の組合員の組合事業に係る利益等の帰属|国税庁)。

 一方、法人の場合、匿名組合で発生した利益、または損失の分配を受けた事業年度の損益計算に含む必要があります(参照:第1款 組合事業による損益/匿名組合契約に係る損益|国税庁)。

 法人が特定組合員に該当する場合、自身が出資した額以上の損失を負担できません(参照:第67条の12 《組合事業等による損失がある場合の課税の特例》関係|国税庁)。特定組合員に該当するかは、責任の範囲など、いくつかの条件によって定められています。

 節税目的などを理由に、法人として匿名組合への出資をもちかけられた際は注意をして、法律の専門家に確認をしたほうが良いでしょう。

 なお、営業者は発生した利益に対する税金計算をする前に分配します。そのため、基本的に匿名組合で発生した利益は税金計算をする必要がありませんが、消費税は営業者で計算をして納付しなければいけません(参照:第3節 共同事業に係る納税義務|国税庁)。

 また、利益を分配する際には、営業者が税率20.42%で所得税を源泉徴します。匿名組合員は消費税と源泉徴収に関する手続きを忘れずする必要があります。

 匿名組合の契約書において、契約書に記載すべき事項について法律上に特段の定めはありません。そのため、契約内容をしっかり精査したうえで、契約を締結しましょう。

 契約書に記載する一般的な項目は、上記「匿名組合を組成する流れ」にて紹介していますが、そのなかでも特に重要な点は以下の3つです。

  • 計算期間
  • 損益分配
  • 会計報告

 計算期間は、匿名組合員が損益を計算するために必要な情報です。また、損益分配について契約書に定めがない場合は、出資割合に応じて配分されますが、契約書で定めておくことで明確になるため、必ず損益分配の方法が記載されているかチェックしましょう。

 また、匿名組合員は、自社の損益を計算するにあたり、営業者からの匿名組合の会計報告が自社の決算に合っているか確認します。自社が上場企業の場合は、3カ月ごとに決算をするため、匿名組合からも3カ月ごとに会計報告をもらうことが望ましいといえます。会計報告の時期に関しても、契約書に書かれた内容が自社に適したものになっているか確認しておきましょう。

 多額の資金が必要なビジネスにおいて、匿名組合を活用した投資事例を紹介します。

 映画のエンディングに、映画のタイトル名+製作委員会と表示されていることがありますが、この制作委員会が匿名組合の場合があります。映画制作には多額の資金が必要になるため、匿名組合として出資をし、映画がヒットすれば大きな利益が還元されます。

 商業用ビルなどの不動産や航空機などの動産を匿名組合で購入し、オペレーティングリースとして貸し出すことがあります。これらは、初期に多額の資金が必要になるため、匿名組合を活用して資金調達し、対象物を購入します。その後、リース料と維持費を差し引いて損益計算し、匿名組合員に利益が分配されます。

 競走馬は一頭あたり数百万円から数億円にのぼるなど非常に高額なため、匿名組合員を募り、複数名に出資をしてもらい、競走馬を購入します。競走馬がレースで獲得した賞金に対して、維持費を差し引いた利益を匿名組合員に分配します。

 ベンチャーファンドに出資する方法として、匿名組合が使われることがあります。ベンチャー企業が株式市場に上場した際や、M&Aなどで売却されて多額の売却金が入ってきた際に多額の利益が分配されます。

 匿名組合は、匿名組合員と営業者が個別に契約を締結することで成立し、低リスクで投資できるのが特徴です。匿名組合の契約は個別性が強く、それぞれ契約内容が異なるため、契約内容をしっかりと確認をして契約を結ぶのが重要です。また、税金計算も少し特徴的ですので、不安があれば専門家に相談するのがよいでしょう。