繰越欠損金とは?期限や注意点、繰戻し還付との関係を税理士が解説
会社を経営していると、赤字になることがあります。税務上でも赤字であればそれは欠損金と呼ばれ、要件を満たすと繰越欠損金として翌年度以降の所得(利益)と相殺することになります。本記事では、繰越欠損金の期限や仕訳について、繰戻し還付との関係もあわせて税理士が解説します。
会社を経営していると、赤字になることがあります。税務上でも赤字であればそれは欠損金と呼ばれ、要件を満たすと繰越欠損金として翌年度以降の所得(利益)と相殺することになります。本記事では、繰越欠損金の期限や仕訳について、繰戻し還付との関係もあわせて税理士が解説します。
目次
繰越欠損金とは、前事業年度以前に発生した欠損金が当事業年度に繰り越されてきたものです。欠損金とは税務会計上の赤字のことで、それを繰り越したものを繰越欠損金と呼びます。繰越欠損金のことを実務では、「繰欠(くりけつ)」と略して呼称しています。
繰越欠損金は、当事業年度の税務会計上、損金となります。つまり、税務上の黒字(所得)になった金額と繰越欠損金とが相殺されることとなります。この制度を「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」と言います。繰越欠損金があると、課税所得が減るので税額も減少します。
税務上の大法人に該当すると、繰越欠損金および繰戻し還付の取り扱いが異なってきます。それらを解説すると煩雑となるため、本記事では中小法人等を前提として解説します。
欠損金の繰越控除をする場合、以下の条件をいずれも満たす必要があります。
欠損金の繰越控除の適用条件 |
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①欠損金額が生じた事業年度において、青色申告書の確定申告書を提出している ②その後の各事業年度について、連続して確定申告書を提出している |
したがって、欠損金が生じた事業年度が青色申告ではない場合、その欠損金は翌事業年度以降に繰り越せません。つまりこの場合、繰越欠損金に該当しないと言えます。
一方、あまり発生しないケースですが、欠損金が生じた事業年度が青色申告であればよいので、その後、何らかの事情で青色申告でなくなったとしても、連続して確定申告書を提出していれば欠損金の繰越控除はできます。そして、この申告書は申告期限内に出すという条件とはなっていません。
繰越欠損金には有効期限があります。
現在(2018年4月1日以降開始事業年度)は、各事業年度開始前の10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額が、各事業年度の所得金額における計算上損金の額に算入されます。
一方、2018年4月1日前に開始する事業年度において生じた欠損金額については、繰越期間が9年以内となっています。
これは、2023年4月1日開始・2024年3月31日終了事業年度の法人の場合、最も古い繰越欠損金は、9年前の2014年4月1日開始・2015年3月31日終了事業年度に発生したものとなります。それ以前の事業年度に発生した繰越欠損金があったとしても、切り捨てられます。
また、2024年3月31日終了事業年度にて欠損金が生じた場合、2034年3月31日終了事業年度まで、繰越欠損金として繰り越せます。
繰越欠損金の控除限度額は中小法人等の場合、繰越欠損金控除前所得の100%です。100万円の繰越欠損金があり、150万円の所得があれば、所得の金額150万×100%=150万円が控除限度額となるため、繰越欠損金100万円全額が控除限度額です。
中小法人等以外の場合、100%ではなく所得の金額150万×50%=75万円が控除限度額となります。ただし、繰越欠損金が発生した事業年度によって割合は異なります。
繰越欠損金は税務上の概念であるため、中小企業であれば特に、繰越欠損金が生じたからと言って、ただちに会計処理をしなければならないものではありません。
一方、税効果会計を適用している場合、繰越欠損金は繰延税金資産となるものであり、その仕訳をすることとなります。
具体的には、欠損金額が生じた事業年度において以下の仕訳をします。
借方 | 貸方 | ||
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繰延税金資産 | XXX | 法人税等調整額 | XXX |
繰延税金資産は、その名のとおり貸借対照表上の資産であり、法人税等調整額は損益計算書上の、税引前当期純利益の下にくる科目です。この場合は貸方なので、当期純利益は増加します。
繰越欠損金には、将来の法人税等の支払いを減らす効果があります。つまり、キャッシュのマイナスを減らすもの=利益であり、会計上の資産となるわけです。
繰越欠損金の記載は決算書にはなく、法人税申告書に載っています。法人税申告書別表1の右下の28の欄に繰越欠損金の総額(「翌期へ繰り越す欠損金又は災害損失金」)があります。また、法人税申告書別表7(1)が「欠損金又は災害損失金の損金算入等に関する明細書」となっています。
なお、創業以来3期連続で赤字である場合などは、決算書の貸借対照表の純資産の部にある繰越利益剰余金は△(マイナス)の残高になりますが、この額と繰越欠損金の額は合致しません。通常は、繰越欠損金のほうが(絶対値として)小さくなります。地方税の均等割は、所得がマイナスであっても発生します。均等割は財務会計上は費用ですが、税務会計上は損金にはならないためです。
繰越欠損金を利用するうえでの注意点を紹介します。
繰越欠損金が断続的に発生した場合、最も古い事業年度から順次行っていきます。
例えば、5年前に100万円、3年前に500万円、前年に300万円の繰越欠損金が発生し、当事業年度に200万円の所得が発生した場合、前年の300万円を充てたり、3年前の500万円を充てたりすることはできません。
この場合、5年前の100万円をまず充てて、3年前の500万円のうちから100万円(=200万-100万)を充てることとなります。
中小法人であれば、法人税率は課税所得800万円までは15%で、それを超える額は23.2%です。2期通算の課税所得が1,000万円の場合、以下のようにあえて所得を分散することで節税になります。
所得分散による節税例 ※単位万円。簡略化のため法人税のみを考慮 |
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所得(1期、2期)が(0、1,000)の場合 法人税は通算で166.4(0+800×15%+(1,000-800)×23.2%)となる |
所得(1期、2期)が(500、500)の場合 法人税は通算で150.0(500×15%+500×15%)となる |
そこで、過年度に発生した繰越欠損金がある状態で、当事業年度に所得が発生し、あえて当事業年度では、繰越欠損金を利用せずに来期にスキップすることにすれば節税になるのではないかと検討するかもしれません。
具体的には、繰越欠損金が500万円あって、当事業年度の繰越欠損金控除前の所得が500万円、次の事業年度はさらに業績が伸びて1,000万円になる見込み(上記例のように、繰越欠損金控除後の2期通算の課税所得は1,000万円)がある場合に、あえて当事業年度は所得を500万円のままで繰越欠損金を温存し、次の事業年度の所得に繰越欠損金を充てて、500万円(=1,000万-500万)の課税所得にすれば、2期あわせての税額は少なくなるでしょう。
しかし、このように繰越欠損金を温存するような節税はできません。なぜなら、法律の規定上「…損金の額に算入する」とあり、「…損金の額に算入することができる」とはなっていないため、繰越欠損金は所得が発生した事業年度に損金となるからです。
この例の場合、当事業年度の課税所得は0円(=500万-500万)で、次の事業年度の課税所得は1,000万円です。
繰越欠損金は所得と相殺されるものなので、そこに目を付け、所得が多い法人が繰越欠損金を多く抱えている法人と合併すればよいのではないかと検討するかもしれません。しかし、税務上、そのような場合に無条件に繰越欠損金を利用することは認められていません。
繰越欠損金の利用が認められるための条件は複雑なので詳細は省略しますが、簡単に言うと、所得の多い法人が繰越欠損金を抱える零細法人と合併しても、真に事業目的でない限りは繰越欠損金は使えないこととなっています。
税務上の赤字である欠損金が発生した場合、繰越欠損金として翌期以降に繰り越すほか、その事業年度開始日前1年以内に開始した、いずれかの事業年度に繰戻して法人税額の還付を請求できます。
つまり、当事業年度に欠損金が発生して納税はなかったものの、前事業年度に法人税を支払っていた場合、その法人税の還付を受けられるというものです。
現在、欠損金の繰戻しによる還付は、基本的に中小企業者等にのみ適用されています。
繰戻し還付金額の計算式は、以下のとおりです。
繰戻し還付金額の計算式 |
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前期法人税額×(当期欠損金額(※)÷前期所得金額) (※)前期所得金額が限度となる |
繰り戻し還付を以下の具体例を用いて説明します。なお、実際には法人税のほか、地方法人税の分も還付されますが、簡略化のため地方法人税は省略します。
前事業年度所得<当事業年度の欠損金の場合 |
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・前事業年度に500万円の所得が発生し、75万円の法人税を支払った ・当事業年度は600万円の欠損金が発生した |
この場合、75万×500万(※)/500万=75万円の法人税が還付されます。なお、600万−500万=100万円の欠損金は、繰越欠損金として翌事業年度以降に繰り越されます。
(※)前期所得金額500万円<当期欠損金額600万円の場合、前期所得金額500万円が限度です。そうしないと、75万×600万/500万=90万円と支払った以上の法人税額が還付されることになってしまうためです。
前事業年度所得>当事業年度の欠損金の場合 |
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・前事業年度に500万円の所得が発生し、75万円の法人税を支払った ・当事業年度は300万円の欠損金が発生した |
この場合、75万×300万/500万=45万円の法人税が還付されます。
欠損金の繰戻し還付は、国税である法人税、地方法人税に設けられた制度であり、地方税である事業税、住民税には適用されません(繰越欠損金は事業税にも適用されます)。
また、繰戻し還付については、申告期限内の申告が必要となります。そして、確定申告書と同時に「欠損金の繰戻しによる還付請求書」を提出しなければなりません。
中小法人であると、当事業年度に欠損金が発生した場合、繰戻し還付の請求をするか、繰越欠損金とするかを選べます。そうすると、どちらが有利なのかという判断が必要です。税率が一定であると仮定すると、翌事業年度以降に着実に所得が発生することが見込まれるのであれば、どちらが有利ということは基本的にはありません。
一方、繰越欠損金には10年間という比較的長期ではあるものの期限があるため、翌事業年度以降の所得が不透明であれば、繰越欠損金を使いきれない可能性はあります。また、繰戻し還付の場合、より早い段階でキャッシュそのものが返ってくるという魅力があります。これを重視するのであれば、繰戻し還付のほうが得と言えます。
なお、繰戻し還付請求をすると税務調査が来やすくなるという話を耳にします。たしかに、法人税の条文上に「…還付請求書の提出があった場合には、その請求の基礎となった欠損金額その他必要な事項について調査し、…」とあります。ただし、ここでの調査は、想像されるような税務調査(調査官が訪問する調査)に限ったものではなく、机上調査も含まれるものです。
欠損金が出るというのは通常、好ましいことではありません。ただし、中小法人にとって、欠損金は翌期以降の税額が減る効果のあるものなので、資産とも言えます。欠損金と繰越欠損金について正しく理解し、経営に役立ててください。
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