目次

  1. 遊休地とは
  2. 遊休地を放置するデメリット
    1. 維持管理のためのコストが生じる
    2. 減損リスクが高まる
    3. 地域社会に外部不経済を与える
  3. 遊休地の活用方法
    1. 自社が直営で活用する
    2. 他の事業者へ賃貸する
  4. 遊休地を活用するときの注意点
    1. 自社が直営で活用する場合の注意点
    2. 他の事業者へ賃貸する場合の注意点
  5. 遊休地を売却する選択肢も
    1. 遊休地を売却するメリット
    2. 遊休地を売却するときの注意点
  6. 過剰な遊休地の保有はリスクを高める

 遊休地とは、一般的には、企業の保有する不動産のうち、企業活動にほとんど使用されていない土地を言います。

 この遊休地の概念を、広義にとらえた場合、以下に分類することができます。

個人遊休地型 個人所有の土地のうち遊休化したものであり、住居などの利用が想定される空き地と呼ばれるもの
企業遊休地型 事業使用目的として取得されたものの、何らかの理由により使用や稼働を休止されている土地のこと
公的遊休地型 地方公共団体において公共的および公益的な目的のために保有する土地のうち、遊休化しているもの

 この記事では、「企業遊休地型」に焦点をあてて、話を進めます。

 国土利用計画法(国土法)では「遊休土地制度」が定められ、第29条では、国の政策としても、遊休土地の効率的活用を推進する方向で動いています。一定規模以上の遊休土地の所有者に対して通知がなされ、遊休土地の利用または処分に関する計画の提出が求められる場合があります。

 上記のように国土法上の法律用語では、「遊休土地」として示されています。国土法関連の表記は「遊休土地」で、その他の一般的な表記は「遊休地」で使い分けをすることが正確と言えます。

 また、遊休地の類義語に、「耕作放棄地」があります。耕作放棄地は、「所有している耕地のうち、過去1年以上作付けせず、しかもこの数年の間に再び耕作する考えのない土地」と定義されています(参照:耕作放棄地の現状と課題|農林水産省)。

 遊休地は、本来の用途に利用されていない土地であると言えます。一方、耕作放棄地は、かつては農地として利用されていたものの、現状では本来の用途である農地としての利用がなされず、多くは原野状の荒地の形態をしています。このような点から、耕作放棄地も広い意味で遊休地と言えます。

遊休地とは
遊休地とは(デザイン:吉澤風香)

 遊休地を放置することには、以下のようなデメリットがあります。

  遊休地を放置した場合に、定期的に雑草を刈り取るといった維持管理などにコストを要し、企業利益にブレーキがかかります。

 また、固定資産税などの保有税も、面積や評価額に応じて税額が左右されます。さらに、都市部で面積の大きい遊休地を抱える場合には、支払うべき税額も大きいものになります。

 一般に、「遊休地であると固定資産税の税額が高くなる」と言われていますが、住宅があることを前提とした小規模住宅用地の特例(課税標準額は、200平方メートルまで価格の6分の1とする措置)が適用にならないことを指している場合が多いと考えられます。

 固定資産税の金額決定の考え方は複雑な面があり、一般の人には難しいとされています。評価替え(土地・家屋の評価を見直すこと)は3年に1回となりますので、そのタイミングに管轄自治体の固定資産税課(資産税課)に出向き、窓口で正確な説明を受けると良いでしょう。

 日本では、2006年より減損会計が本格的に導入されています。この会計処理は、中小企業においても求められています(参照:中小企業の会計に関する指針|日本税理士会連合会)。

 減損会計とは、固定資産の帳簿価額と、いわゆる時価(回収可能額)を比較して、時価が帳簿価額を下回る場合、その下回る金額を損失として損益計算書に計上することが求められる会計処理です。

出典:『ストック型社会への企業不動産分析』p.19 図1-3

 遊休地は、減損の可能性が疑われる資産に位置付けられています。仮に減損を計上した場合、固定資産の切り下げに加えて利益が減じられるため、企業業績の落ち込みや負債比率が高まることによる財務構成の悪化が懸念されます。

 このように、遊休地の保有により、減損リスクを高める可能性があることに留意しなければなりません。

 遊休地が適切に管理されない場合、安全性の低下、公衆衛生の悪化、景観の阻害などの生活環境に影響を及ぼし、管理者責任を問われる可能性もあります。

 また、事業所・工場などが閉鎖、取り壊されて遊休地になった場合は、就業機会の消失や、その地域周辺の経済活力への影響が進行します。その結果として、地域社会が衰退する懸念が生じます。

 ここでは、具体的な遊休地の活用方法を説明します。

 遊休地の活用用途は、立地や公法上の規制(都市計画法、建築基準法など)によって左右されます。

 都市部での場合、住宅系用途の賃貸物件(アパート、マンションなど)は採算上成立し、鉄道駅に近い立地や幹線道路沿いは、商業系用途の賃貸物件(事務所、店舗など)もおおむね成立します。

 地方部の場合、都市計画法の市街化区域内であれば、おおむね住宅系の賃貸物件は成立すると考えられますが、郊外部では厳しいケースがあります。

 また、地方部は高齢化と空洞化が進んでいるため、主要鉄道駅に近接している場合でも、商業系用途が成立しない可能性もあります。なお、地方部の郊外(都市計画区域外などでは、資材置き場や太陽光発電設備などの活用が適している場合もあります。 

 活用用途の方向性を絞り込んだ後は、その事業化の手法を検討します。

 活用用途の事業化は、自社が直営で活用する方法と、他の事業者に賃貸する方法に分類されます。

 遊休地の活用は、会社自ら事業計画を立案し、金融機関から融資を受けるなどをして実施します。自らおこなうため、不動産実務の知見が求められますが、軌道に乗れば、高い利益率が期待できます。

➀賃貸物件を建築する

 更地に新築物件(例えば、マンションや福祉施設など)を新築し、賃貸事業をおこなう手法です。既存物件のリノベーションなどと比べて、多額の資金調達が必要となりますが、白紙の状態から比較的自由に計画を立てることができます。

➁工場跡地を開発する

 企業の代表的な遊休地として、工場跡地があります。工場跡地は通常面積が広く、これを一つの街として開発することにより、地域社会に良好な影響を与え、会社の認知度を高め、結果的に自社の業績も向上させる可能性があります。

 ただ、工場跡地開発は、関連する多数の企業とのネットワークの構築や長期的な開発期間を要するため、大企業でも実施しているケースは少ないのが現状です。

 この代表的成功例として、パナソニックホールディングス株式会社の「Fujisawa サスティナブル・スマートタウンプロジェクト」があります(参照:明海大学不動産学部論集第32号「社会課題の解決に向けたCRE戦略が企業価値に与える影響 : 自社工場跡地を活用した遊休不動産開発の事例を対象として」)。

 このプロジェクトは、パナソニックと神奈川県藤沢市の官民一体の共同プロジェクトとなり、新たなスマートタウン像として進められています。

 遊休地を自ら活用せず、他の事業者に賃貸し、賃料を受け取る方法があります。

 会社自ら活用に関与することがないため、本業に専心できるというメリットがあります。

 ここでは、都市部で多く活用される「建設協力金方式」と「定期借地権方式」の二つの事業手法を紹介します。

➀建設協力金方式

 建設協力金方式は、以下のような仕組みとなります。

  1. テナントとなる事業者(コンビニ、ファミリーレストランなど)が、土地所有者に対して無利子または低利で、建設協力金を貸し付ける
  2. 土地所有者は、この建設協力金に基づき、事業者が指定する仕様に基づいた店舗を建築し、入居させる
  3. 土地所有者は、建設協力金の返済額と店舗の賃料を相殺した金額を受け取る

 このように、建設協力金方式は金融機関からの資金調達が不要であったり、当初から入居テナントが決まっていたりすることが利点となります。

➁定期借地権方式

 定期借地権方式は、土地所有者が土地を事業者に賃貸し、事業者が地上に建物を建築し、事業運営をする仕組みとなっています。土地所有者は、事業に関与せず、地代のみを受け取ることができます。

 定期借地権は、以下三つに分類されます。借地期間が定められていて、借地関係が終了した後の更新はありません。

一般定期借地権 ・借地期間50年以上
・期間満了時、更地返還
事業用定期借地権 ・借地期間10年以上50年未満
・期間満了時、更地返還
建物譲渡特約付き借地権 ・借地期間30年以上
・貸主が建物を買い取る特約付き

 不動産は個別性が強い資産であるため、問題を解決するための簡単な公式が存在しません。どのような選択をおこなっても、一定のリスクが存在し、それに備えるために事前の綿密な調査・検討が不可欠です。

 そのため、必要に応じて、不動産専門家のサポートを受けることもおすすめします。

 自社が賃貸物件を建築し運営する場合には、以下に注意する必要があります。

➀更地に自由な建物の建築は不可

 更地に建物の建築をする際は、自由に何でも建てて良いわけではありません。建築基準法や都市計画法などで、どのような制約(斜線制限や日影規制など)があるのか、確認が必要です。

②賃貸物件を建築する場合、入居者の需要調査が必要

 賃貸住宅を建築する際は、単身者向けかファミリー向けが良いか、競合物件はどの程度あるのかなど、入居者の需要調査が必要です。

 これらの調査を踏まえて、適切な賃料設定をおこないます。

③賃貸物件の空室率

 賃貸物件は、新築時こそ競争力がありますが、築年数が経過し、建物が劣化すると空室率が高くなります。そのため、建物の機能を大きく落とさないために、長期的な修繕計画を準備することが重要です。

 他の事業者に賃貸する方法を選択する場合の注意点は、次のとおりです。

➀テナントが破綻するリスク(建設協力金方式)

 建設協力金方式は、途中でテナントが破綻するリスクがあります。その場合、予定していたテナントの特別な仕様(個性が強い)の建物が残されるため、新たなテナントを見つけることが難しくなります。

 そのような事態に備えるため、入居する事業者の経営状況を事前に精査することがポイントになります。

➁地価上昇と地代の設定(定期借地権方式)

 定期借地権方式は、賃借期間が長期になるため、その間の地価上昇に比べて低廉な地代に甘んじざるを得なくなる可能性があります。自ら賃貸事業をすることと比較して、ローリターンになりがちです。

 遊休地を活用せず、売却することも会社の経営を安定化させるための有力な選択肢として検討する必要があります。

 不要な資産を売却して、会社の貸借対照表(バランスシート)から取り除く手法を「オフバランス」と言います。

 収益性の低い不要な資産を売却して、オフバランスすることにより、利益率を向上させて、会社の財務内容の健全化が促進する可能性があります(参照:明海大学不動産学部論集第28号「投資不動産の売却の決定要因と株価に与える影響の検証:遊休不動産をめぐる課題を視野に入れて」)。

 そして、その利益率は「総資産利益率(ROA)」として計算することで、「利益が総資産の何%生じたか」を求められ、その数値は高い方が望ましいです。

ROA(総資産利益率)%=営業利益÷資産合計×100

 ここで、不動産処分前・不動産処分後の貸借対照表を例に挙げて、比較をしてみましょう。まずは不動産処分前の貸借対照表の例です(『会計・経営分析入門テキスト』p.120をもとに作成)。

資産 金額 負債と純資産 金額
現金 2,000 借入金 1,800
土地 1,000 資本金 1,200
資産合計 3,000 負債・純資産合計 3,000

 営業利益が150であれば、公式に当てはめると以下の計算式となります。

ROA=150÷3,000×100=5.0%

 次に、この貸借対照表から遊休地を400で売却し、得た現金400で借金(借入金)を返済した場合の貸借対照表が以下です(『会計・経営分析入門テキスト』p.120をもとに作成)。

資産 金額 負債と純資産 金額
現金 2,000 借入金 1,400
土地 600 資本金 1,200
資産合計 2,600 負債・純資産合計 2,600

 営業利益が150であれば、公式に当てはめると以下の計算式となります。

ROA=150÷2,600×100=5.8%

 この計算式により、不要な資産を売却(オフバランス)し、その資金で借金を返済すると、利益率が上昇することがわかります。

 また、「売却資金を収益性の高い事業に投資して、さらに収益性を上げる」といった活用方法もできます。

 都市部の商業系や住宅系用途の標準的な遊休地であれば、比較的流動性(土地の換金がしやすいか)は高いと言えます。

 しかし、以下の場合には、十分な準備をする必要があります。

➀売却までの期間

 地方の大規模地は、市場性が乏しいため、売却まで長期間を要します。このような場合、全国的にネットワークを持つ不動産会社に相談すると良いでしょう。

➁土壌汚染

 工場跡地の場合、土壌汚染の存在が、円滑な売却を阻害することがあります。事前に土壌汚染の調査などを専門とする業者に相談すると良いでしょう。

 企業の遊休地問題は、人間のメタボ体質に起因する健康問題と類似しています。

 人間は余分な脂肪を抱えると、高血圧、糖尿病、心筋梗塞などの重大な病気を引き起こすことが知られています。企業の遊休地も同様であり、過剰な保有は、減損リスクを高めたり、財務構成を悪化させたりして、場合によっては企業の存続に赤信号が灯る事態に至ります。

 そして、中小企業においても同様のことが言えます。SDGs(持続可能な開発目標)の重要性が叫ばれている現在、地域社会における企業の役割や責任を全うするために、戦略的な企業不動産マネジメントをおこなうことが求められています。