目次

  1. 環境整備とは
    1. モノの環境整備
    2. 人の環境整備
    3. 情報の環境整備
  2. 環境整備が必要な理由
  3. 環境整備の事前準備
    1. 現状の把握
    2. 目標設定
    3. 役割分担を決める
  4. 環境整備の実施方法
    1. モノの環境整備の実施方法
    2. 人の環境整備の実施方法
    3. 情報の環境整備の実施方法
  5. 環境整備に取り組む際のポイント
    1. 従業員の参加と意見の尊重
    2. 定期的なチェックとフィードバックができる場をつくる
  6. 変化を恐れず、まずやってみる

 環境整備とは、働く環境を整え、組織の生産性を向上させる活動のことです。

 職場の環境整備には、「モノ」「人」「情報」の三つの側面があります。

 モノの環境整備とは、モノを整理整頓することでモノを探す時間を減らす行動です。主に、製造現場での職場環境改善のためにおこなわれている「5S活動」が、それにあたります。

 5S活動とは、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「躾(しつけ)」を指し、五つの頭文字を取った用語です。職場には、必要なモノだけを、いつも決まった場所に配置して、清掃が行き届いているという状態をつくる活動です。

 製造現場でない、事務処理をおこなうオフィスの場合でも同じです。書類を置く場所が定まっていなければ、その書類を使う度に探す手間と時間が発生します。

 モノの環境整備をおこなう活動により、製造現場やオフィスでは作業効率が上がるほか、事故を防ぐといった効果が期待できます。

 人の環境整備とは、従業員がモチベーション高く、気持ち良く働くための環境をつくることです。

 具体的な取り組みとしては、従業員間のコミュニケーションの改善、勤務時間や労働環境の改善などが挙げられます。近年注目を浴びている、自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態である「心理的安全性」の向上も、人の環境整備のひとつです。

 コミュニケーションが円滑でない職場環境の場合、コミュニケーションの齟齬により業務が滞るほか、顧客へ間違った回答をしてしまうなど、企業の信頼低下にもつながります。

 人の環境整備とは、従業員間で生まれるコミュニケーション上の障害を取り除き、生産性向上につなげる取り組みと言えます。

 情報の環境整備とは、企業で保有している情報を見える化・体系化することです。

 中小企業では、人数が少ないがゆえに、特定の従業員に業務が属人化しやすい傾向があります。

 長く勤務している従業員しか知らない情報がある、または特定の従業員しか知らない情報があると、その従業員が不在のときに、情報が保管されている場所や、内容がわからず、業務が滞ってしまいます。

 別の側面では、事務手順だけでなく、営業成績が優秀な従業員の提案ノウハウを社内で共有するといった取り組みも、情報の環境整備にあたります。

 企業で保有する情報やノウハウを共有することで、情報を探す時間を減らせるほか、有効な情報を社内で共有することで、より効率的に業務をおこなえるようになるのです。

 職場の環境整備によって、組織の一体感が向上してイノベーションが生まれやすくなります。

 中小企業では、従業員数が少ないため、一人でも辞めると事業の継続上、大きな痛手になってしまいます。したがって、中小企業にとっては、「今いる従業員にいかに長く働いてもらうか」が課題になります。

 人や情報の職場環境が整備された職場では、社内のコミュニケーション環境が整備され、従業員間のコミュニケーションがスムーズになります。

 あわせて、人の環境整備は、「心理的安全性」も高めることにつながります。

 組織の心理的安全性が高まると、従業員が質問やアイディアの提案をしても、組織に受け止めてもらえると感じることができます。

 これにより、従業員から積極的に質問やアイディアがでることにつながり、組織の一体感やイノベーションが生まれる土台になるのです。

 一体感の高め方については、筆者が執筆した下記記事も参照してください。

 職場の環境整備をスムーズに進めるためには、事前の準備が必要です。事前準備の流れについて解説します。

 まず、現状の職場環境がどのような状態にあるかを把握するために、環境整備を実施する場所のマップをつくり、設備や置いてあるモノの状態を確認します。

 この作業をすると、なぜこの場所にあるのかわからないモノ、さらに、使わない不要なモノが置かれていることに気がつくでしょう。

 情報の環境整備であれば、「社内の共有フォルダにどのような情報が格納されているのか」「誰がどのような情報を持っているのか」を確認します。

 現状把握が終わったら、次に職場をどのような状態にするか、目標を設定します。

 目標設定では、「どのような職場を目指しているのか」「それを達成するためにはどのような改善が必要なのか」を明確にします。さらに、設定した目標を経営者だけに留めず、従業員全体にも共有することが必要です。

 しかし、どのように目標を設定すれば良いかわからない場合も多いものです。特に、情報の環境整備では、社内にノウハウがないために「ごちゃごちゃな情報をどのように整理すれば良いのかわからない」となることがよくあります。

 このような場合は、さまざまな中小企業の現場を見ている中小企業診断士に相談し、他の企業の好事例を参考にすると良いでしょう。

 特に、情報の環境整備では、IT分野に詳しい中小企業診断士からのアドバイスが有効です。

 環境整備は、一度実施して終わりではありません。環境整備を継続する仕組みづくりが必要です。

 これまでの過程ででた改善項目に対して、責任者や担当者を決めます。そして、改善にあたって当番表を作成し、「誰が・いつ・どこを環境整備するのか」を明確にします。

 そして、環境整備を実施しながら、定期的に社内で進捗を共有する機会をつくり、必要に応じて改善策を見直すなど、柔軟な体制をとることも必要です。

 では、環境整備はどのように進めていけば良いのでしょうか。ここでは、具体的な方法について解説します。

 モノの観点からの職場の環境整備では、次のような活動が考えられます。

①5S活動に取り組む

 前述のとおり、5S活動とは、整理・整頓・清掃・清潔・躾を指します。

 職場には必要なモノだけ、そしてモノはいつも決まった場所にあり、清掃が行き届いているという状態をつくる活動です(参照:マンガでわかる「5S活動」丨ミラサポplus)。

整理 必要と不要を区別する
整頓 置き場所を明確にする
清掃 掃除とともに点検する
清潔 きれいな状態をキープする
ルールを守り習慣にする

 整理では、必要なモノと不要なモノを区別し、不要なモノは処分します。不用品を処分することで作業スペースが広がり、作業効率の改善につながります。

 整頓では、モノをしまっておく場所を明確にして、必要なモノを探す時間を減らすことが目的です。

 清掃は掃除をすることですが、「道具や設備に異常がないか」を点検することも含まれています。

 清潔は、これまでの「整理」「整頓」「清掃」した状態を維持することです。

 最後の、躾は、「整理」「整頓」「清掃」「清潔」それぞれの段階で決めたルールを守り、習慣化させることです。

②システム化や設備投資をする

 5S活動のほかには、設備更新をしたり、ITを使ったシステム化を図ったりすることで、効率的な作業環境の整備につながります。

 例えば、金属製品製造業I社では、多様な金属加工をおこなうための切削工具をたくさん扱っていました。

 それぞれの切削工具の保管場所は決められていましたが、従業員が使っている間はどこにあるかわからないなど、作業工程に無駄が生じていました。

 そこで、I社の二代目の社長は、切削工具にQRコードをつけ、「今どの工具がどこの保管場所にあるのか」をシステム上で見てすぐわかるようにしました。

 さらにI社では、補助金を活用し、積極的な設備投資をおこなっています。

 I社では試作品づくりをしているため、常に最新技術の提供が求められます。そこで、自治体の補助金を活用し、当時日本にまだ数台しかなかったマシニングセンター(自動工具交換機能を備えて、穴あけやねじ立てなどの切削加工を一台でできる機械)を導入しました。

 新しい設備の導入で顧客の難しい要望にも応えられる環境を整備でき、業務の生産性も上がったほか、当社がこれまで扱ったことのない金属加工の受注も可能になったと言います。

 人の観点からの職場環境整備では、「風通しの良い職場」をつくることが挙げられます。

 職場の風通しを改善する具体的な取り組みとしては、次のようなものが挙げられます。

あいさつの励行 朝出社したときに、お互い目をあわせて「おはよう」と言い合うことを習慣としたもの。ついついパソコン作業に熱中していると、相手の目を見ることがおろそかになってしまうための対策
従業員同士の交流を生むイベントの開催 イベントの例としては、運動会・飲み会・誕生日会・取引先や地域住民も含めた交流会など。従業員同士の価値観や人となりを知るために、公式・非公式でイベントを開催する企業もある
雑談しやすい場の提供 仕事が忙しいと、従業員同士はついつい業務だけの関わりになってしまう。そこで、従業員の雑談が生まれる場を提供するために、カフェスペースや、おやつの時間を設けるなどの施策がある
チャットツールの活用 業務コミュニケーションツールをチャットツールに切り替える。さらにチャットツール上に雑談ができる仕組みをつくることも効果的

 情報の観点からの職場環境整備では、社内で不統一となっている情報を一元化し、共有できるような仕組みづくりが挙げられます。

①情報共有の体制づくり

 社内ポータルの活用など、社内の情報を共有できる体制を整えます。

 例えば、建設業のJ社では、アナログで非効率な業務のやり方により、従業員の長時間の残業が常態化していました。

 そのため、子育てや家族の介護が必要な従業員がそれらと仕事が両立できない、新しい従業員を採用しても辞めてしまうという経営課題がありました。

 そこで、クラウドツールを使って社内ポータルサイトをつくり、「どの書類がどこのフォルダに格納されているのか」を整理しました。

 事業部ごとに不統一であった顧客管理方法なども統一することにより、企業で保有する情報の一元管理が可能になったのです。

 この仕組み化により、それまで営業社員は書類のコピーを取りに会社まで戻っていたものの、インターネットを通じて遠隔地からでも書類のデータを見ることができるようになり、会社まで戻らずとも顧客へスピーディーな提案が可能になりました。

②文書化と標準化

 一定の従業員規模になると、それまで属人化されていた業務フロー、手順、ルールなどを文書化し、標準化することが必要になります。これにより業務手順が統一化され、人による手順違いや間違いを防ぐことができます。

 また、新入社員・中途社員の教育や、他のメンバーが業務を引き継ぐ際の手間を減らすことにもつながります。

 しかし、それまでルールがなかった業務にルールができると、必ずルールから逸脱する事例がでてきます。

 ルールは一回つくって終わりではありません。文書化と標準化を進めて、より効率的にできる作業フローの構築につなげていくほか、状況に応じてバージョンアップさせて、「つくったものの使われないルール」になることを防ぎましょう。

 環境整備を進めるうえでの重要なポイントは、次のとおりです。

 環境整備はトップダウンだけでなく、ボトムアップの取り組みも重要です。

 従業員一人ひとりが環境整備に参加し、自分の意見やアイディアを出しやすい文化を経営者が率先してつくることが大切です。

 そのような文化をつくるにあたって、ボトムアップの取り組みが多くなった企業の事例を紹介します。

 製造業のA社は、現在の代表が経営を引き継いだ当時、創業者の厳しいトップダウンスタイルが顕著であった社風でした。

 現社長は経営を引き継いでから、従業員一人ひとりが自分の役割や価値を自覚し、自身の居場所を感じながら仕事に誇りを持つことができる組織づくりに取り組みました。

 具体的には、社長自ら「現場で困っていることはないか」と積極的に従業員に話しかけたり、良い提案にはすぐリアクションし、可能な限り即座に形にしたりすることを続けました。

 その結果、従業員は働きがいを感じるようになったほか、従業員数が事業を引き継いだ12年前から、約10倍に増えました。

 このように、従業員の参加を促し意見を尊重するためには、経営者自ら従業員とコミュニケーションを取るほか、上がった提案を実現できる仕組みをつくることが重要です。

 環境整備は、一度おこなって終わりではありません。効果を得るためには、環境整備を習慣化させることが重要です。

 「環境整備の仕組みはできているのか」「できていない場合は課題がどこにあるのか」、定期的なチェックとフィードバックができる仕組みを取り入れましょう。

 職場の環境整備では、今まで実施していた方法を変えることになります。したがって、変化を嫌う人からの反発もあるかもしれません。

 環境整備は変化を恐れず、まず「やってみる」、そして、「やってみた結果の方が楽に仕事ができる」と従業員に感じてもらうことが必要です。

 環境整備をうまく進めている会社ほど、変化を嫌う従業員とコミュニケーションを積極的に取っています。

 経営者の方は、ぜひ一人ひとりの従業員と会話をすることから、始めてみてはいかがでしょうか。