目次

  1. 一体感とは
    1. 一体感が重要な理由① 従業員の価値観が多様化している
    2. 一体感が重要な理由② 従業員が同じ空間と時間を共有しなくなっている
    3. 一体感が重要な理由③ 従業員の主体性が企業存続には不可欠
  2. 一体感のない組織によくある特徴
    1. 特徴① 従業員がバラバラな方向性を向いている
    2. 特徴② ミスや顧客からのクレームが多い
    3. 特徴③ 生産性が低いため、利益も低い
  3. 組織の一体感をつくり高める方法
    1. 方法① 従業員間のコミュニケーション促進を図るイベントをする
    2. 方法② コミュニケーションチャットツールを導入する
    3. 方法③ 経営理念の策定や見直しを実施する
  4. 一体感は、トップダウンでつくるものではない

 一体感とは、人やチームが同じ目標や考えのもと、一つにまとまっている状態のことです。

 特に会社であれば、所属する従業員一人ひとりが同じ方向性を向いて仕事をしている状態を指します。今の時代、この一体感がますます重要となってきています。それは主に次の理由からです。

  1. 従業員の価値観が多様化している
  2. 従業員が同じ空間と時間を共有しなくなっている
  3. 従業員の主体性が企業存続には不可欠

 近年はダイバーシティの推進により、従業員が持つバックグラウンドや価値観がこれまで以上に多様化しています。

 中小企業においても、事業の海外展開を機に、日本だけでなく様々な国籍を持つ従業員が増えています。

 これまで生きてきた中でのバックグラウンドが大きく異なるため、あなたが大事だと思っていた価値観が、相手のバックグラウンドから見れば異なるかもしれません。

 また、従業員を取り巻く環境も多様化しています。

 仕事に打ち込みたい人もいれば、介護・育児等と仕事の両立をしている人、プライベートを重視したい人など、様々な従業員が一緒に仕事をしている場が、会社です。

 したがって、会社として目指す方向性を提示しないと、多様な価値観を持つ従業員が、それぞれが持つ価値観を元に、バラバラな方向を向いて仕事を進めてしまう可能性があります。

 コロナ前は、従業員が同じ時間に出社し、「会社」という空間と時間を共有しやすい状態にありましたが、コロナ禍によりテレワークが浸透した結果、それが少なくなってきています。

 これまでは隣の席で仕事をしていた部下が、在宅勤務で出社していないと、部下がちゃんと仕事をしているのか、不安に感じる人もいるかもしれません。

 時差出勤制度を設けていれば、従業員が出社する時間もバラバラです。これからは全ての従業員が同じ場所、同じ時間で働くことは、日常ではなくなります。

 一体感があれば、従業員が同じ空間や時間を共有していなくても意思疎通が可能となります。そのためには、後ほど詳しく説明するように、新たなコミュニケーション施策を打つ必要があります。 

 一体感がある会社は、従業員が同じ方向を向き、お互いに助け合うことで、会社をもっとよくしていきたい、と前向きなマインドを持っています。

 会社から「仕事をやらされている」のではなく、組織の一員として、自らの役割とやるべきことをしっかりと把握しています。

 私がこれまで見てきた中小企業では、「従業員の主体性が高い」ことが共通項としてありました。一体感があることで、いずれの中小企業も着実に成長し続けているのです。

 また、従業員の主体性に基づいた仕事ぶりも評価される仕組みが整っていることで、結果会社に所属することへの満足度が高まり、離職率も低くなっている傾向も見受けられます。 

 では、逆に一体感のない組織によくある特徴には、何があるのでしょうか。

  1. 従業員がバラバラな方向性を向いている
  2. ミスや顧客からのクレームが多い
  3. 生産性が低いため、利益も低い

 会社に一体感がない場合、従業員はみなバラバラな方向を向いて仕事をしています。

 また、会社として目指す方向性も浸透していませんので、従業員が何を大事にして仕事をすればよいか、軸が定まっていません。

 例えば、営業が顧客の要望について製造現場の職人に伝えたところ「そんなめんどうなことはできない」と断られるといったことが、あなたの会社では起きていないでしょうか。

 これは、会社として目指すべき方向性や価値観が、従業員の中で統一できていないことから起こります。

 この場合、営業は「顧客のニーズに対応する」、製造現場は「早く正確につくる」ことを大事にしているため、このような衝突が起きてしまうのです。

 次に、ミスや顧客からのクレームが多くなります。これは、従業員のコミュニケーション不足に起因します。

 一体感がない組織では、従業員間のコミュニケーションも不足しています。ちょっとした言った言わないでトラブルになったり、連携不足で顧客に対してミスが発生することもあります。

 多様な価値観を持つ従業員が増えているため、「あの人は何を考えているかわからない」と一度認識してしまうと、お互いの価値観を理解できず、コミュニケーションもなくなってしまいます。

 さらに、従業員がバラバラな方向性を向いていて、従業員間のコミュニケーション不足から起こるミスや顧客からのクレームが増加していると、組織の生産性も低くなります。

 会社に一体感があり、従業員間のコミュニケーションが十分に取れている会社は、お互いの業務のムダをなくし、効率よくできる方法を考えあっています。

 しかし、コミュニケーションが不足して従業員それぞれがやりたいようにやっている会社では、業務のムダやダブリが発生するため、生産性が低くなります。それと同時に、会社の利益も下がっていきます。

 では、どうすれば組織の一体感をつくり、高めることができるのでしょうか。私がこれまで見てきた中小企業の事例をご紹介しながら、組織の一体感を高める方法を解説します。

  1. 従業員間のコミュニケーション促進を図るイベントをする
  2. コミュニケーションチャットツールを導入する
  3. 経営理念の策定や見直しを実施する

 一体感を高めるには、従業員同士がいかにコミュニケーションを取りやすい環境を作れるか、が鍵を握ります。

 有効な手段のひとつがイベントの開催です。イベントの開催には、部署や世代を超えた従業員の交流促進や、プライベートも含めたコミュニケーションの活性化というメリットがあります。

 金属加工業のA社は、高卒から80代まで、日本だけでなく様々な国籍とバックグラウンドを持つ人材の宝庫です。

 このような多様な人材をまとめている施策の一つとして、A社は創業以来、社員旅行や季節行事を積極的に行っていました。

 これには従業員だけでなく、家族も連れてきていいということにしていたようです。従業員たちは家族ぐるみで、プライベートも含めた付き合いをしており、ちょっとした体調の変化や、プライベートの悩みも含めたコミュニケーションが常にあったとのこと。

 コロナ以降、社員旅行や季節行事が難しくなり、従業員同士のコミュニケーション不足が目立つようになると、同社は次に、その月に誕生日を迎える従業員の氏名を社員食堂に掲示し、社長からプレゼントを渡すという取り組みを始めました。

 ある人の誕生日が今日だと知ると、「今日誕生日なんだね、おめでとう!」と言いやすくなるものです。その一言をきっかけに会話もしやすくなるでしょう。

 同社では、コロナ前と同じように、従業員同士がまた積極的にコミュニケーションを取り合うようになっています。

 コミュニケーションを促進するイベントを開催するときは、何よりも従業員が楽しめるものにすることや、イベントを開催することを目的にするのではなく、そのイベントでどのような社内環境を実現することが目的なのか、方向性を決めてから実施しましょう。

 コロナで少なくなってしまった従業員間のコミュニケーションを活性化する施策として、チャットツールを導入する会社も増えています。

 チャットツールには、SlackやChatWork、Microsoft Teamsなどがあります。これらのチャットツールのメリットは、文字情報だけでなく「感情」もあわせて送れることです。

 メールでは文字情報だけになってしまい、感情が読み取れません。

 しかし、チャットツールであれば「いいね!」などといった反応を返すことができる機能がついているので、会話をしている感覚に近いコミュニケーションを、非対面で実現することができます。

 建設業のB社は、チャットツールを活用することで、プライベートも含めたコミュニケーションにつなげています。

 チャットツールを導入する際は、誰もが自由に発言できる、お互いを尊重し批判しあわないといった「心理的安全性」を保つことを、ルールとして設けるといった工夫もあわせて検討してください。

 一体感がない会社の共通項として、「会社に経営理念がない」、または「経営理念があっても、社員に浸透していない」ことが挙げられます。

 会社に経営理念がないときには、まず経営者自らが、企業として社会にどのように貢献していきたいのか、思いを整理する必要があるでしょう。

 その上で、その思いを表現できるキーワードを探したり、他社の経営理念を参考にしたりして、自社オリジナルの経営理念を策定する必要があります。

 経営理念の策定をサポートする専門家もいますので、外部の力を得ながら策定する方法もあります。しかし、外部に丸投げをするのではなく、経営者自ら考えることが必要不可欠です。

 経営理念があっても社員に浸透していないときには、そもそも従業員が経営理念を知っているのかどうか、知る機会があるのかどうか見直すことが最優先事項です。

 従業員が毎日見る掲示板に掲示したり、従業員が持ち歩くことができる小さなカード等を作ったりしている企業もありますので、参考にしてください。

 経営理念が会社の目指すべき方向性と違っていることもあるかもしれません。その場合は、経営理念の見直しをすることも有効な手段になります。

 アルミ加工会社のC社でも、業歴100年を超すものの、経営理念と呼べるものがなかったため、現社長の息子が、会社が目指すべき「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)」を新たに策定するプロジェクトを立ち上げました。

 「ミッション」とは、その会社が果たすべき社会的使命を示したものです。「ビジョン」は、その会社が社会のなかであるべき姿を示したもの、「バリュー」は従業員の行動指針や価値観にあたります。

 同社では、ミッションとビジョンは現社長の息子が大枠の案をつくり、バリューは社内で構成したプロジェクトチームのなかで話し合いながら策定しました。

 それにより、従業員のなかで「ミッション・ビジョン・バリューに照らして考えれば、何が最善なのか」という判断軸ができ、従業員が主体的に動くようになったそうです。

 会社の一体感は、一朝一夕でできるものではありません。また、経営者のトップダウンで従業員に押し付けるものでもありません。

 経営者のトップダウンで押し付けてしまっても、多様な価値観をもつ従業員はそれに従うことはありませんし、仮に従っているように見えても、腹の中では納得していないでしょう。

 一体感をつくるためには、会社で働く従業員がそれぞれ大事にしている価値観を尊重しながら、会社として目指すべき方向性に沿って、どのような行動が求められるのか、「従業員一人ひとりが考える」必要があります。

 本記事でご紹介した一体感をつくるための方法は、あくまでその考える場を用意するものにすぎません。

 ある中小企業の経営者は「社長の役割は、従業員が思いきり動くことができるフィールドを整えることだ」と話しています。

 従業員に思うように「動かす」のではなく、「動いてもらうにはどうすればよいか」を考え、行動できる経営者が率いる組織には、社員の自主性から生まれた「一体感」が醸成されているのでしょう。