カーボンニュートラルとは 製造業に関係するルール・取り組み事例を解説
気候変動を抑えるため、カーボンニュートラルに向けた取り組みが世界中で加速しています。世界単位で共通目標が定められ、各国がそれに則った取り組みに本腰を入れ始めるなか、民間の製造業にも対応が求められつつあります。経済産業省の「2023年版ものづくり白書」をベースに、記事前半でカーボンニュートラルの実現に向けた世界・日本の対応状況について、記事後半で国内製造業を取り巻く環境や実践例についてまとめました。
気候変動を抑えるため、カーボンニュートラルに向けた取り組みが世界中で加速しています。世界単位で共通目標が定められ、各国がそれに則った取り組みに本腰を入れ始めるなか、民間の製造業にも対応が求められつつあります。経済産業省の「2023年版ものづくり白書」をベースに、記事前半でカーボンニュートラルの実現に向けた世界・日本の対応状況について、記事後半で国内製造業を取り巻く環境や実践例についてまとめました。
目次
環境省の脱炭素ポータルサイトによると、カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにすることです。
人為的に出された温室効果ガスの「排出量」から、植林や森林管理などによる「吸収量」を差し引き、全体でゼロにすることを意味します。
世界の環境問題について協議する2015年のCOP21で採択された「パリ協定」では、以下の長期目標が定められました。
各国の間で合意されたこの目標に向け、カーボンニュートラルの取り組みが世界規模で進められています。
COP21で長期目標が採択されたことを受け、近年、各国政府は気候変動対策が喫緊の課題であるとの認識を強めています。
欧米の主要国はこぞって対応に本腰を入れ始めており、以下のように、大規模な政府支援を決めています。
足元では、途上国でも取り組みへの意識が高まりつつあります。
インドのモディ首相は、2021年のCOP26において「2070年までにネット・ゼロ達成を目指す」と表明しました。
経済産業省のまとめでは、COP26の終了時点(2021年11月)で、G20のすべての国を含む世界154か国が年限付きのカーボンニュートラル目標を掲げるに至っています。
世界・国単位の長期目標が定められるなか、その実現に向けて民間事業者の取り組みを促す具体的な市場ルールが形成されるようになってきました。
製造業に関わる主要なルールの一つが「カーボンフットプリント」です。
カーボンフットプリント(CFP)とは、ある商品が作られてから捨てられるまで(原材料調達から廃棄・リサイクルまで)に排出される二酸化炭素の総量を表示する仕組みのことをいいます。
ものづくり白書では、カーボンニュートラル実現のためには、個々の企業の取り組みのみならず、サプライチェーン全体での温室効果ガスの排出量削減を進めていく必要があると指摘されています。
脱炭素・低炭素製品が選ばれる市場を創出することが目標実現において不可欠であり、その仕組みとしてCFPが重要視されています。
カーボンフットプリントに関連し、欧州ではさらに踏み込んだルール形成も進んできました。「欧州バッテリー規則」です。
欧州バッテリー規則とは、EU市場で取引される電池について、カーボンフットプリントの申告や上限を定めるルールのことです。
製造から廃棄・リサイクルまでバッテリーのライフサイクル全体を規制することにより、電池の安全性・持続可能性・競争力を確保することを目指しています。
規則は今後、段階的に施行されていく予定です。主な施行内容と時期は次の通りです。
バッテリーは自動車やスマホなど、幅広い製品で使われています。こうしたルール形成が進むことにより、各製造業者に対応が求められることになりそうです。
日本では2020年10月、菅義偉首相(当時)が、2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指すことを宣言しました。
2022年6月には、岸田内閣が、温室効果ガス排出削減と産業競争力向上との両立を目指すグリーントランスフォーメーション(GX)の実現に向け「今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現する」との方針を示しました。
こうした大きな方針に基づき、政府は経済産業省を中心に「GX推進会議」「GXリーグ」といった具体的な取り組みに着手しています。
また経済産業省は、上記のカーボンフットプリントに関する取り組みも加速させています。
2022年9月に「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントの算定・検証等に関する検討会」を設け、2023年3月にレポート・ガイドラインをまとめました。
製造業に特に関連した部分では、重視すべき取り組みの方向性を各産業ごとに分けて示している点が挙げられます。
またレポートでは、鉄鋼業、化学⼯業、窯業、紙パルプ製造業といったサプライチェーン上流に位置する多排出産業について「ステークホルダーからは、排出量可視化や削減が強く要請されており、特に下流企業からのCFP情報や排出削減のニーズが⾼まっている」と指摘しています。
ものづくり白書に引用された三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、日本の製造業のうち大企業では約9割が、中小企業で約5割が脱炭素への取り組みに着手しています。
取り組み内容をさらに分析すると、自社が直接排出する温室効果ガスの削減・見える化は比較的進んでいる一方で、原材料製造時や製品輸送時などに発生する温室効果ガスについてはまだ取り組みが進んでいないことが明らかになりました。
以下では、ものづくり白書で示された国内製造業の取り組み事例を紹介します。
トヨタ自動車の1次サプライヤーである旭鉄工は、生産プロセスの効率化を進めるためのIoTシステム「iXacs(アイザックス)」を開発。これを用いて、電力消費量のモニタリングとCO₂排出量の削減に着手しました。
その結果、付加価値を生み出さない無駄な電力が、いつ、どの設備から、どれくらい消費されているかを可視化し、具体的な対策を明らかにすることに成功しました。結果として、工場内のエネルギー効率性の大幅な向上を実現しました。
旭鉄工はiXacsを、脱炭素のためのツールとして販売を試みると、具体的な商談に進むケースが増加。脱炭素に向けた取組が、自社のビジネスの幅を拡大するきっかけとなりました。
日立製作所大みか事業所では、生産現場全体の「ヒト」と「モノ」の動態をリアルタイムに俯瞰できる進捗・稼働監視システムが構築されており、こうしたデータを活用して仮想空間に現実世界を再現する「デジタルツイン」と呼ばれる技術を実現しています。
現実世界と対になる仮想空間を駆使し、CO2排出量実質ゼロに向けた様々なシミュレーションを実施しています。そこで得られたデータから、最適な設備導入やオペレーション制御、再生可能エネルギー設備への投資といった実践にまで結び付けています。
取り組みにより、大みか事業所を含む4事業所で年間CO2排出量の約15%に相当する約4500tの排出削減を見込んでいます。さらに2022年6月には「大みかグリーンネットワーク」構想を立ち上げ、日立製作所に関わる様々なパートナーと連携した取り組みを始めています。
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