AIを活用するための組織づくり 中小企業に求められるジョブローテ
ChatGPTをはじめ、昨今は次々と革新的なAIが登場しています。AIは人手不足を解決し、効率的な企業経営を可能にする手段として大きな注目を集めており、導入を検討している経営者も多いでしょう。ただ、何も考えずにAIを導入しようとすると「こんなはずではなかった」と後悔してしまうかもしれません。コンサルティング会社・識学の上席コンサルタント畠中光成さんが、中小企業がAIを活用するための前提条件となる組織づくりのあり方を解説します。
ChatGPTをはじめ、昨今は次々と革新的なAIが登場しています。AIは人手不足を解決し、効率的な企業経営を可能にする手段として大きな注目を集めており、導入を検討している経営者も多いでしょう。ただ、何も考えずにAIを導入しようとすると「こんなはずではなかった」と後悔してしまうかもしれません。コンサルティング会社・識学の上席コンサルタント畠中光成さんが、中小企業がAIを活用するための前提条件となる組織づくりのあり方を解説します。
大企業を中心にAIの活用が進んでいます。外食チェーン大手の吉野家ホールディングスは2019年、アルバイト店員の面接にAIを導入しました。クレジットカード大手のJCBは加盟店の審査及び登録にAIを活用しています。米国のマクドナルドでは、ドライブスルー注文にAIが対応する店舗もあります。
人手不足に歯止めがかからないなか、業務の一部をAIに置き換えていこうとする動きは、今後中小企業にも波及していくでしょう。経済産業省は22年4月、AIの活用を検討している中小企業向けに「AI導入ガイドブック」を公開しました。「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」など、AIを取り入れる際に申請可能な補助金も複数あり、中小企業にとってAIの導入に踏み出しやすい環境が整いつつあります。
とはいえ、AIを使わずに会社をうまく運営できている実感があるならば、AIの導入に躍起になる必要はありません。AIはあくまで手段であり、目的ではないからです。
ただし、会社は成長し続けなければなりません。今はまだ不要としても、いずれAIに頼るべきタイミングが来きます。そのときがいつ来ても困らないように、今のうちから準備を進めておきましょう。
AIを導入するか、人の手で仕事を続けるか判断するために、経営者は双方の実力を比較できるように情報を整理してください。これがAI採用に向けた第一歩です。
コンビニエンスストアの店員を例に考えてみましょう。
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市場がコンビニに求める価値は、その名の通り便利さだと考えられます。24時間利用可能で必要なものがそろっている状態を満たすための業務を遂行するにあたり、人間とAIのどちらが当事者になるべきかが焦点です。
そこで、経営者がコンビニ店員に求める能力をリストアップします。正確性、仕事の早さ、費用、トラブルへの対応力など、経営者の主観で構いません。
そして、それらを可能な限り数値化して比較してください。総合点を比べるもよし、譲れないポイントを重く見るもよしです。
例えば「人間が接客した方がお客さまに喜ばれる」という考えの経営者であれば、AIの導入は見送った方がよいでしょう。無論、顧客満足度の差は別途確認すべきです。一方、徹底した効率性を考えればAIに軍配が上がるかもしれません。実際、JR山手線の高輪ゲートウェイ駅にある無人コンビニのような店舗も登場しています。
コンビニ店員に限った話ではありません。AIに仕事を任せようとする際には「何となく」で決めるのではなく、根拠を持って判断を下すようにしましょう。
そして、両者を比べた段階で人間の方が勝っていたとしても、一概に「AIは駄目だ」という結論を下さず、その技術動向を注視するようにしてください。AIはすさまじい速度で進化しているので、今あるミスもすぐに是正される可能性があるからです。
仮に仕事の大部分をAIに置き換えていくと、今までその業務を担っていた人材の役割がなくなってしまうかもしれません。それを恐れてAIの導入をためらっていたら本末転倒ですが、「今後AIに仕事をしてもらうためあなたを解雇します」とはもちろん言えないでしょう。
このような悩みを抱えないためにも、経営者はジョブローテーションの仕組みを社内に設けておくといいでしょう。そして、社員一人ひとりに環境や役割が変わっても対応できる心構えを持たせてください。
なぜなら、市場環境は常に変化しています。それに適応できない個人や会社は生き残れないからです。新しい仕事に取りかかるとき、「自分は経験がないから無理だ」とすぐにあきらめてしまう社員は、自分で自分の可能性をつぶしてしまうようなものです。
昨日までの当たり前が突然通用しなくなる事態は往々にして起こり得ます。そうなったときに大事なのは、うろたえることなく現状を受け入れ、自分が果たすべき役割を認識し、そのゴールに向かうための行動にどれだけ早く移れるかです。
経営者はどんな環境にも適応できる人材を育てるつもりで社員に接してください。たとえ厳しい人と思われようと、後になって「あの経験があるから今があります」と感謝されるような経営者になりましょう。
ジョブローテを機能させるポイントは、部署に関係なく社内で共通の仕組みを作っておくことです。マニュアルが整っている部署と、未整備でOJTによる指導が中心の部署が混在し、会議のやり方がそれぞれで違うような会社だと、ジョブローテが社員にとって負担になってしまいます。これらを一つずつ共通化していきましょう。
AIは非常に優れた技術であるゆえ、人間はその力を何も疑おうとしません。しかし、AIが導き出す結果が全て正しいという考えは持たないでください。
ChatGPTも現状では誤りを真実のように提示してくることが多々あります。細部にあるAIの隙を見破れないままでいると、気付かぬうちに大きな損害を被る恐れがあるのです。
どんな仕事がAIに奪われるのか、はっきりとしたことは誰にも分かりません。それこそ、コンサルタントはすぐに無くなるとも最後まで残り続けるとも言われている仕事です。
人間には無限大の可能性が眠っていて、経験から得てきたものは、非常に価値があります。経営者は最後までAIが立ち入れない領域を探りつつ、社員を成長させてあげてください。
識学上席コンサルタント・コンサルティング部 課長
関西学院大学法学部を卒業。松下政経塾を経て、衆議院議員を経験。議院運営委員会理事、憲法審査会幹事、国家安全保障に関する特別委員会委員などを歴任。おもに議員の身分に関わるルールや、安全保障政策を策定。民間企業では明治安田生命、リクルートに在籍。会社経営も経験。
(※構成・平沢元嗣)
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