コロナ禍の逆風を好機に 吉村味噌糀店3代目が進めた改装とスイーツ販売
1936年創業の吉村味噌糀店(山梨県大月市)は、国産大豆を使った無添加で手作りの甲州味噌にこだわっています。大手化粧品会社の美容部員として働いた経験を持つ3代目の上田由美さん(55)が、2017年に父から事業を譲り受けて法人化。夫の雄幸さん(63)とともに、手作りみそ教室の開催などで発信力を強化。コロナ禍の打開策として、蔵や店舗の改装、みそを使ったスイーツ販売などで、家業の成長に汗をかいています。
1936年創業の吉村味噌糀店(山梨県大月市)は、国産大豆を使った無添加で手作りの甲州味噌にこだわっています。大手化粧品会社の美容部員として働いた経験を持つ3代目の上田由美さん(55)が、2017年に父から事業を譲り受けて法人化。夫の雄幸さん(63)とともに、手作りみそ教室の開催などで発信力を強化。コロナ禍の打開策として、蔵や店舗の改装、みそを使ったスイーツ販売などで、家業の成長に汗をかいています。
吉村味噌糀店は、上田さんの祖父で初代の吉村義一さんが1936年、故郷の大月市で創業しました。そして1975年、上田さんの父で2代目の吉村定義さんが店と工場を現在の場所に移転し、みその製造を本格的に始めました。
上田さんは「地味でキツそうな仕事。両親が苦労している姿を見てきたこともあって、家業に対してはネガティブなイメージしか持っていませんでした」と振り返ります。
地元の県立高校を卒業後に大手化粧品会社の美容部員として都内の百貨店などで勤務。結婚を機に退職後は、「子育てのかたわら、繁忙期の冬場にパートの1人としてお手伝いをする程度」ではあったものの、家業とは一定の距離を置いていたそうです。
それでも、時が経つにつれ、徐々に店の今後について漠然と考えるようになったそうです。「だんだん年老いていく両親の姿を見ていて、『どうしようかな』とは思っていました。両親は『誰かに事業を譲ってもいいかな』とも考えていたみたいなんですけど…」
上田さんの背中を後押ししたのは、夫の雄幸さんが発した「やってみたい」の一言だったそうです。
雄幸さんは、それまで勤務していた県内の宿泊施設を退職。10年ほど本格的にみそ作りを学んだ後、2017年に、娘の上田さんを社長とする株式会社として、新たなスタートを切ることになります。
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吉村味噌糀店は、日本各地で作られている米こうじのみそと、盆地で斜面が多く、あまり稲作に適していなかった山梨に古くから伝わる米と麦のこうじを混ぜ合わせた「甲州味噌」を取り扱っています。
市場に流通している一般的なみそは、一定のところで発酵を止める醸造剤が使われていたり、1〜2カ月程度で仕上げられたりすることも多いなか、吉村味噌糀店は添加物を一切使わず、天然の大豆を1年以上寝かせた商品を展開しています。
同店のみそは県内の土産店やふるさと納税の返礼品としても人気を博し、山梨の郷土料理・ほうとうにも使われています。無添加のみそを順番に蔵から取り出すため、10月から6月にかけて時期をずらしながら作っています。
気象状況による微妙な味の変化や、長期にわたる品質管理の難しさには頭を悩ませているとのことですが、「同じ条件で作っているのに、その年のコンディションによってわずかな違いが出てしまうのは“生きたみそ”の魅力でもあります。その味わいの違いを楽しんでいただけたら」と上田さんは言います。
扱っている商品アイテムは37種類で、みその年間生産量は約60トン。従業員数は3人です。
2017年に社長に就任した上田さんは、伝統の味を大切にしながらもさまざまな社内改革で、事業を成長させてきました。その一つが、これまでは個人事業主として運営してきた店の株式会社化です。
「事業を維持するための経費が増えたので不安もあった」としつつ、個人との取引に積極的ではない企業との縁が生まれ「これまでよりも取引の幅は広がった」と言います。後のコロナ禍では、事業再生補助金の採択につながるなど、会社化によって得られた信頼が、事業を進める上での長所となっているそうです。
「先代はみそ作りには真摯に取り組んではいたものの職人気質なところがあり、自社製品の魅力を伝えられていないように感じていた」という上田さんは、こうじに関する情報発信にも力を入れるようになりました。特に店や県内外で開く「みそづくり教室」は、テーブルと手洗い場だけあれば実施できる手軽さもあって、認知度アップに一役買っているそうです。
「知人から健康志向の人が集うイベントに誘われたことがきっかけでした。ゲストとして呼ばれた私は、知人の勧めでみそ作り教室をやってみたら、意外に好評で。徐々に口コミで広がって、色々なところから声をかけていただけるようになりました」
上田さんはイベントで健康に対する熱い思いや、こうじへの期待の高さを知り、「天然醸造のみその魅力や、自分でみそをつくる楽しみを知ってもらいたい」という思いでみそづくり教室(1人3500円~)を始めました。
圧力蒸気釜で2日間煮込んだ大豆と、こうじと天日塩を混ぜ合わせるだけで手作りのみそが楽しめるとあって、子どもから大人まで楽しめる人気のプログラムになっています。週に1回ほど店内で開催しているほか、県内の幼稚園や学校や都内への出張なども合わせると、月5〜6回ほど実施しています。
「最初は不安もありましたが、皆さんとお話しさせていただくことで、お店の未来が見えてきたように感じることがあります。手の常在菌は人によってそれぞれ違うので、作り手によって味が変わるのも、天然素材を使ったみその魅力の一つです。その味の違いも楽しんでいただけたらうれしい」と手ごたえを語ります。
「私たちが扱っている天然こうじを使ったみその魅力をお客様に直接伝えることができましたし、県外にお住まいの方にも私たちのことを知っていただくきっかけになりました」
事業継承後はイベントの開催や、「最初は趣味で作ったお菓子を投稿するつもりで始めた」というSNSを駆使して認知を広めましたが、2020年のコロナ禍の到来で売り上げは減少。思わぬ形で危機に直面することとなりました。
「お店を訪れるお客様がめっきり減り、観光客などの流入も見込めない状況だったので、どうすれば売り上げを伸ばせるのかを真剣に悩みました」
一方で、コロナ禍を落ち着いて事業の立て直しに取り組める時期として捉え、「いつか手をつけなければならないと思っていた」というみそ蔵や店舗の改装に着手します。
「売り上げが落ち込む中での投資には不安もあった」そうですが、事業再構築補助金を使って、コロナ禍収束後の事業の成長を見据えて、設備の投資を進めていきました。
そして同時期から「これまではイベント限定で取り扱っていた」というみそを使ったケーキやプリンの販売も開始。スイーツ作りが趣味だったという上田社長のレシピに管理栄養士の姉・浜本千恵さん、フードコーディネーターの妹・石塚正恵さんがアレンジを加えて完成させました。
「長らくイベントが開催されず販売できていなかった」というスイーツは、口コミやインスタグラムなどを使った拡散により人気を博し、女性を中心に集客を伸ばし、売り上げは約40%増加しました。
「手作りなので、売り上げには限りがある」としながらも、SNSなどでお店のことを新たな方に知っていただくきっかけになっているそうです。
「小さいころは長時間の肉体労働をしなければならない家業に、良くない印象を抱いていたこともありました。でも、今は自社のこうじが多くの人に必要とされていると感じますし、大好きだったお菓子作りの事業にも取り組めている。家業があるおかげで、とても楽しく過ごせています」
「将来は自社のみそを使った食堂を経営して、こうじの魅力を発信していきたい」と語る上田さん。夫婦で糀の魅力を広げていくことに希望を感じながら、日々の業務に邁進しています。
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