目次

  1. ポジショニングとは
    1. STP分析との関係
  2. ポジショニングの重要性
    1. ターゲットに自社の優位性を理解してもらいやすくなる
    2. 戦術を考えやすくなる
  3. ポジショニングの具体例
    1. 【成功例】スターバックス
    2. 【失敗例】スシローの高級寿司店
  4. ポジショニングの手順
    1. セグメンテーションとターゲティングを行う
    2. ポジショニングマップを作る
    3. 必要に応じて見直しを行う
  5. ポジショニングを成功させるためのポイント
    1. 自社ならではの勝ち筋が見えるポジションを選ぶ
    2. ポジショニングに沿ったマーケティング戦略を実行する
    3. ポジショニング戦略を成功させるためのチェックリスト
  6. ポジショニングはマーケティング戦略の重要な柱

 ポジショニングとは、マーケティング戦略の一環で、自社が市場においてどのような立ち位置(ポジション)を取るかを決めることです。具体的には、自社がターゲットに対してどのように差別化された価値を創造するかを決めるプロセスになります。

 より端的にいえば、「お客さんに、どう優れていると思われたいか」を決めることで、そのために消費者の心のなかで「競合製品と比較してどのように認識されることを目指すのか」を検討していくことがポジショニングです。

 そのポジションが、自社にとって売上や利益の向上にとって有利なものになるよう戦略を立てるのがポジショニング戦略になります。

 ポジショニングを効果的に行うためには、あらかじめ市場を正しく理解し、ターゲットとなる顧客を定めることが重要になります。それらのプロセス全体のフレームワークとして有名なのが、STP分析です。ポジショニングは「STP分析」の「P」にあたり、一番最後に行われるプロセスになります。

 STP分析は、以下の三つの工程からなる顧客主導型マーケティングのフレームワークです。

1.セグメンテーション(Segmentation)
2.ターゲティング(Targeting)
3.ポジショニング(Positioning)

 昨今、多くの企業にとって、あらゆる消費者を対象に等しくビジネスを展開することは困難です。そこで、自社が効率的に利益を上げられる市場・ターゲットを特定し、そのなかでどのように競争優位性を築くかを考える必要があります。

 STP分析は、その戦略を練るためのフレームワークとして有効です。分析の最後に行われるのがポジショニングで、ターゲットとする市場に対してどのような立ち位置を取るかを決める工程になります。

 STP分析に関する詳しいことは、下記で紹介していますので参考にしてください。

 ポジショニングは、マーケティング戦略を考えるうえで非常に重要なプロセスです。具体的にどのような重要性があるのか、詳しく解説します。

 市場には、商品やサービスに関する情報があふれています。そこで消費者は購買プロセスを単純化するため、自ら頭のなかで商品やブランドを整理し、それぞれを位置づけています。

 企業側が特定のポジショニングを狙っているかどうかに関わらず、消費者のなかでは製品・サービスは位置づけられているのです。ポジションは、購入決定のたびに評価されることはあまりなく、一度決まると簡単には動きません。

 その位置づけを、偶然に任せるのは得策ではないでしょう。企業は、自社が最も優位性を発揮できるようなポジションを定め、それを狙ったターゲットに理解してもらうことで、選ばれる理由を明確にできます。

 ポジショニングが決まれば、単に商品を差別化するだけでなく、決めたポジションにふさわしいサービスや顧客へのアプローチなどの戦術を考えやすくなります。

 決めたポジションを確固たるものにするために、競争優位性をもたせる要素を具体的に考えていくことができます。具体的には、以下のような要素です。

  • 売る場所
  • 届けるスピード
  • アフターサービス
  • 顧客と接する従業員のキャラクター性

 やみくもに付加サービスを考えると競合と似たようなものになってしまいがちですが、狙うポジションにあわせて考えれば、他社とは違う「自社だからこそ価値のあるアイディア」が出てきやすくなります。

 ポジショニング戦略を成功させるには、適切な差別化要因を選択することが重要です。とはいえ、簡単ではありません。ここでは、成功している事例と、失敗と考えられる事例を紹介していきます。

 スターバックスは、ビジネスパーソンをターゲットに「人々の心を豊かで活力あるものにするために」というミッションを掲げ、低価格競争が進んでいたカフェチェーンにおいて、高めの価格設定で独自のポジションを築いています。

 バリューの文言「誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくります」という言葉にあるように、自宅・職場以外のサードプレイスとしての場所を提供し、そのために居心地のよさ、Wi-Fiなどの環境整備にもこだわって、長期にわたって人気を維持しています。

 また、そのポジショニングに共感してリピートしてくれるコアなユーザーとの絆を強めるために、ロイヤリティプログラムを充実させるなど、ポジショニングに沿ったマーケティング戦略を展開することで、その地位をさらに強固なものにしています(参照:Our Mission and Values|スターバックス コーヒー ジャパン)。

 スシローは、現在1,000店舗以上を展開する巨大すしチェーンで、筆者も好んで利用しています。デジタルを活用して快適な顧客体験と生産性向上を同時に図り、優れたサプライチェーン戦略のもと、安価でおいしいお寿司を提供しています。現在は海外でも100店舗近くを展開し、勢いは止まりません(参照:2022年12月22日第8期 株主通信|FOOD & LIFE COMPANIES)。

 このスシローが一時期、やや高めの値段設定でオシャレ路線のお寿司屋さんを展開していたことをご存じでしょうか。

 「ツマミグイ」という名前で、中目黒や赤坂などに数件だけ店舗がありました。シンプルでオシャレな店内で、一口サイズのお寿司屋や、洋風にアレンジした海鮮料理などが提供されていました。しかし、この店舗はわずか一年ほどで閉店しています。

 従来のスシローの店舗とは異なるポジショニングを狙って、新規店舗を出店したものの顧客の需要を喚起することはできなかったようです。

 ポジショニング戦略を成功させることは、容易ではありません。成功には他社との競争環境、顧客ニーズの有無、自社の強みや戦略との整合性などがポイントになりますので、この記事で詳しく説明していきます。

 ここでは、ポジショニングの手順を詳しく解説します。

 前述のとおり、ポジショニングはSTP分析の一貫として行うことが一般的です。

 はじめに行うのがセグメンテーションです。セグメンテーションとは、大きな市場を何らかの基準によって区分けし、グループに細分化することを指します。

 年齢・性別などの属性、国や地域など地理的な要素、価値観やライフスタイルなど、自社のビジネスにふさわしい括り方を見つけ、分けていきます。分けられた市場は、セグメントと呼ばれます。分け終えたら、それぞれのセグメントのニーズや、規模などを一覧にまとめていきます。

 次に行われるのが、ターゲティングです。ターゲティングとは、細分化した市場のなかから、自社が狙うべき市場(セグメント)を決めることです。

 分けたセグメントの魅力度を評価し、どのセグメントに対して商品・サービスを提供することが自社にとって最も適しているか決めていきます。その際には以下のような視点でターゲットを選んでいきます。

  • セグメントの規模
  • セグメントにおける競争環境
  • 自社のビジネスの狙いとリソース

 上記のようにして、まずはセグメンテーションで市場を分け、ターゲティングで狙う市場を決めていきます。

 ポジショニング戦略を考える際には、位置づけを図式化した「ポジショニングマップ」を作ることをおすすめします。ポジショニングマップは、縦軸・横軸に象限を作り、そこに競合他社および自社の位置を置いて、それぞれの位置づけを視覚的にイメージしやすくするものです。

 ここでは、ポジショニングマップの作成手順を解説していきます。

①ターゲット顧客が、購買において重要だと考える要素を列挙する

 ポジショニングマップは、ターゲット顧客にとって、商品やサービスを選ぶ基準になっている事柄を軸に作る必要があります。そのために、まずは顧客の購買決定要因(Key Buying Factor、KBFと略して呼ばれることもあります)を洗い出していきます。

 購買決定要因は、商品・サービスの特徴やスペック、価格、付帯サービスなど業界によってさまざまです。また同じ業界でも、ターゲットとする顧客によって重要視する点は変わってくることに注意が必要です。

 ポジショニングが、ターゲティングの後工程に位置づけられているのは、あくまでターゲットにおいて重要なファクターを考慮してポジショニングを決める必要があるからです。

②競合分析をおこなう

 続いて、競合となりうる商品・サービスを特定し、上記で列挙したKBFにおいてどのような特徴をもっているかを調べます。市場にいるプレイヤーがそれぞれがどのように顧客に価値を与えているかを正しく理解することはとても重要です。

 調べたものは、一覧表にしておくと実際にマッピングを検討する際にスムーズです。なお、競合分析の詳しいやり方は、下記記事でも紹介していますので参考にしてみてください。

③マッピングの軸を決める

 最初に挙げたKBFの中から、特にターゲットにとって重要なものを抽出します。マッピングする際の軸に使用されるものになります。

 ここでよくある失敗は、競合との違いを示したいあまり、顧客にとって相対的に重要度の低い軸をとってしまうことです。そうやって作られてしまったポジショニングは、差別化はできていてもニーズのないところに自社を位置づけてしまいがちになるので、注意しましょう。

 マッピングは、この図のように、縦軸・横軸に相反する二つの言葉をいれて四象限をつくるものが多く用いられます。この場合、縦軸と横軸は関連性の低いものを入れることを意識します。

マッピング例①2軸で左右・上下に相反する言葉を入れたマッピングフレーム
マッピング例①2軸で左右・上下に相反する言葉を入れたマッピングフレーム(筆者作成)

 必ずしもこの形である必要はありませんので、その他にも有用とされるマッピングの例をいくつかご紹介します。

マッピング例②価格帯とベネフィットの両面からマッピングするフレーム
マッピング例②価格帯とベネフィットの両面からマッピングするフレーム(『Principles of marketing』 p.219をもとに一部筆者加工)
マッピング例③縦軸・横軸を用いず4象限に分けて整理するマッピングフレーム
マッピング例③縦軸・横軸を用いず4象限に分けて整理するマッピングフレーム(筆者作成)

④競合の位置づけをマップに配置する

 マッピングの軸ができたら、先ほど行った競合分析に基づいて、競合他社が取っているポジションに印をおいていきます。多くの競合がいる場合、それらの微妙な位置関係を整理するのは難しいので、一度で完璧に配置しようする必要はありません。

 一旦はざっくりとおいてみて、後から全体を見渡しながら調整することをおすすめします。同僚や関係者とディスカッションしながら作成するのもよいでしょう。

⑤自社が狙うポジションを決め、それに基づくマーケティング戦略を立てる

 最後に、自社が目指すべきポジションを決めていきます。既に多くの強力プレイヤーがいる場所を避け、自社が優位性をだしやすいポジションを探すことで、他社との差別化を狙います。

 気をつけたいのは、単に空白の場所を選べばよいわけではないことです。ほかに競合がいない場合、そのポジションでのビジネス展開に根本的な困難が隠れていることはよくあります。必ず事前に調べてみましょう。

 また、空白であっても自社の強みを生かせないポジションを取る場合も、注意が必要です。ビジネスを成功させるには大きな追加投資が必要になることもあり、利益を圧迫する懸念もあります。さらに、そもそもの企業のブランドイメージに反しているポジションを取れば、既存の事業にダメージを与えることにもつながりかねません。

 これらのことに注意して、競合と差別化できそうなポジションを決めたら、そのポジションを確固たるものにするためのマーケティング戦略を考えていきます。

 ポジションを決めても、顧客にわかってもらわなくては意味がありません。提供する商品・価格・販売場所・プロモーション(マーケティングの4Pと呼ばれる四つの要素)の全てが一貫して、ポジションを体現するように戦略を考えていきます。

 ポジショニングは一度作ったら終わりではありません。決めたポジションで成果につながらなければ、その原因をつきとめ、ポジショニング戦略を見直すことも重要です。

 市場環境が変わったり、新たな競合が出現したりすると、もともとのポジションを維持することが困難になり、必ずしも利益につながらなくなるケースが出てきます。その場合は、自社が狙うポジションを見直して変更する「リポジショニング」も検討していく必要があるでしょう。

 一方で、ポジショニングそのものが問題なのではなく、その魅力をしっかりターゲットに伝達できていないためにうまく成果が出ないケースもあります。その場合は、ポジショニング自体を見直すのではなく、それに基づいたマーケティング施策を見直しましょう。

 ポジショニングを成功させるためのポイントは、主に次の二つです。

  • 自社ならではの勝ち筋が見えるポジションを選ぶ
  • ポジショニングに沿ったマーケティング戦略を実行する

 最後に、ポジショニング戦略を成功させるためのチェックリストも用意していますので、ぜひ参考にしてみてください。

 競争相手と差別化することのみに重点を置いてポジショニングを決めてしまうと、失敗につながりやすくなります。

 顧客にとって相対的に重要度の低い軸をもとに考えてしまうことで、ニーズの低いポジションを選んでしまうのがよくある失敗例ですが、それ以外に、自社の強み・戦略との整合性も大事になります。

 例えば、安価でスピーディなサービス提供を戦略の軸としていた会社が、新規事業では高級で丁寧なサービスをするポジションをとることとした場合、もともとの強みは活かしづらくなります。

 昔から高級路線で確固たるポジションを築いてきた企業がライバルだった場合には、競争に勝つために新たに人材を確保したり、ノウハウを仕入れたりといった準備が欠かせません。そのために、投資が必要になる場合もあるでしょう。

 逆に、その企業の強みである「安価でスピーディなサービス提供ができる整備されたオペレーション体制」を活かして、別の商材においても同様のポジションで差別化ができれば、競争相手は簡単に真似できず、優位に立つことができるでしょう。

 マップに空白があるかだけでなく、自社の戦略に沿ったポジションを選ぶことは成功において重要な要素になります。

 ポジショニングを決めたものの、マーケティング戦略は昔からのお決まりの方法でやっている、という例もよく見ます。ブランドは顧客の頭のなかで作られるものであるので、一方的に企業が決めても、それが顧客にしっかり伝わらなければ成果につながりません。

 ポジショニング戦略をサポートするためには、マーケティング活動はすべて同じ方向性である必要があります。提供する商品・サービスだけでなく、購買体験やアプローチ方法もポジショニング戦略を支援するものに変えていくことが大切です。

 また、せっかく時間をかけて築いたポジショニングは、残念ながら放っておくと失われてしまいます。望ましいポジションを築いたら、継続して維持できるようにマーケティングを実行していきましょう。

 ポジショニング戦略のポイントをチェックリストにしました。これらを満たしているものは失敗しづらいとされていますので、参考にしてみてください(参照:『Principles of marketing』 p.218)。

  • 顧客にとって重要なベネフィットをもたらす位置づけか
  • 競合他社が提供していないか、あるいは自社がより特徴的な形で提供できるか
  • その位置づけの違いは、消費者に理解してもらうことが可能か
  • 消費者はその違いを得るために、支払う余裕があるか
  • 競争相手が、容易に真似できないか
  • 企業はその差別化を、採算の取れる形でビジネスにできるか

 現代では、市場には商品やサービスの情報が溢れています。選ばれる明確な理由をわかりやすく伝達しなければ、市場で生き残るのは難しくなります。

 ポジショニング戦略によって自社が競争的優位に立てる位置を定め、そのポジションにあった商品・サービスを提供し、それをしっかりと顧客に認識してもらえるよう活動をすることが大事です。