空き家対策の連続起業家、本業の「オークマ工塗」に固執しない多角化経営
会員数1.3万人以上、リフォームを手がけた空き家・古民家は約1900軒に上る「全国古家再生推進協議会」の大熊重之理事長は、不動産賃貸やリフォームなど不動産関連の会社を次々と起業しています。大熊さんの本業は、機械部品の塗装などを手がけるオークマ工塗(大阪府東大阪市)です。しかし、本業だけにこだわらず粗利の高い事業を増やす経営戦略で、会社を成長させています。
会員数1.3万人以上、リフォームを手がけた空き家・古民家は約1900軒に上る「全国古家再生推進協議会」の大熊重之理事長は、不動産賃貸やリフォームなど不動産関連の会社を次々と起業しています。大熊さんの本業は、機械部品の塗装などを手がけるオークマ工塗(大阪府東大阪市)です。しかし、本業だけにこだわらず粗利の高い事業を増やす経営戦略で、会社を成長させています。
目次
大熊さんの本業は、機械部品塗装のオークマ工塗です。それ以外に設立した会社は、不動産賃貸会社やリフォーム会社など5つあり、グループ全体の売上は約7.4億円(2022年度)に上ります。
オークマ工塗1社、一事業のみであった10年前と比べると、440%にまで成長しています。また、グループ全体で30件ほどの不動産を保有することで、資産額も562%に伸びています。
オークマ工塗のルーツをたどると、父の正明さんにあります。塗装職人だった正明さんは1959年に独立し、機械部品の塗装などを手がける大正インダストリーを設立します。
幼いころから工場に遊びに行っており「父親も含め、塗装職人の姿に憧れていた」と話す大熊さんは、自然な流れで家業に入ります。
大熊さんには兄がおり、事業を継承する際には2人代表となりましたが、事業継承後の業績は芳しくありませんでした。
「仲が良かったばかりにお互いが遠慮してしまったのです」
↓ここから続き
5年ほどすると大熊さんは家業と同じく、自動車や機械部品の塗装を手がける別の塗装会社、オークマ工塗を立ち上げます。
職人の技術が生きる小物部品の手吹き塗装などで存在感を示していき、家業以外からの受注も増えるなど、事業は成長していきます。
一方で創業から2年ほど経ったころ、大熊さんはこのまま塗装仕事をがんばり続けているだけでは、さらなる成長を得ることは難しいだろう、と考えます。塗装仕事はいわゆる地場産業。営業範囲が限られていることが理由でした。
そこで現場に立つことはやめ、空いた時間を活かし中小企業の経営者が集まる勉強会やコミュニティに積極的に参加。他の経営者の意見に耳を傾けるようになっていきます。そうした異業種経営者の出会いから新たに会社を立ち上げ、オリジナル商品を開発します。
オリジナル商品に関しては、自社単独で取り組んだこともありました。しかし、ノウハウや資金の観点から難しいと判断。モノを売るのではなく、時間やノウハウを売るビジネスがよいのでは、と発想をシフトしていきます。
たとえば価格は通常の3倍になりますが、90分で塗装を仕上げるサービスです(現在は終了)。塗装技術を同業者に指導するコンサルティングサービスも展開します。
発想の転換により事業はさらに伸び、従業員は20人ほど、売上高2億円ほどにまで成長します。ところがリーマンショックにより売上の3割を失います。大熊さんは再び、新たなアイデアを考えます。
塗装ロボットの導入です。
「どうせ使えない」との理由で、当初は全職人から反対されますが、「職人の負担軽減や業務効率化、品質の安定などに寄与することを確信していた」と話す大熊さんは、トップダウンで導入を決行します。費用は経産省の「ものづくり補助金」を活用することで抑えました。
導入すると予想どおり生産効率が高まり、利益率はアップ。職人さんたちの負担も減り、現在は3台にまで増えています。
しかし、塗装業ならではの課題が再燃します。いくら利益率を高めても、塗装業はあくまで下請け業務のため、価格や納期といった仕事の決定権が自社にはないことでした。
「会社が大きくなればなるほど、このような課題もリスクもより大きくなるだろう。そこで塗装会社を大きくすることをやめ、別の事業に着手することで、成長しようと考えました。経営者としては、本業を成長させない会社ってどうなんだろう、と悩みましたが……」
しかし、社員教育という観点からも、それぞれの事業の経営を社員に任せることは、一番の教育方法だとも考えました。
そんななか、マンションやアパートといった賃貸物件の壁を塗料でリフォームすれば、従来よりも安価なリフォームビジネスになるのではないかといったアイデアを経営者仲間から提案されます。
新規事業であれば、業態や業種のこだわりはありませんでした。一方で、単にリフォーム塗装を専門業者として請け負うのではなく、時間やノウハウを意識したビジネスにしたいと当初から考えていたと、大熊さんは振り返ります。
そうして生まれた事業が、リフォーム職人を育成するスクールの運営です。ただ、実際に取り組んでみると誤算もありました。機械部品の塗装とはノウハウが違っていたことです。
そのため当初は自社の職人を講師とする。その後は自社でもリフォームを担う会社を設立し、そこに塗装職人を移すとの考えは白紙となりました。そこで、住宅リフォーム塗装のノウハウを持っている職人を講師として迎え入れ、スクールを開講します。
さらに設立したリフォーム会社のスタッフに、卒業生を雇用するアイデアを思いつき、実行していきました。
当初は月4人ほどの受講者しかいませんでしたが、チラシを配ったりセミナーを実施したりすると、仕事を探していたハウスクリーニング事業者を中心に、生徒が集まりはじめます。
しばらくすると塗装だけでなく、床、クロス、キッチンといった他のリフォーム依頼も舞い込みます。再び、該当スキルを持つ人材を講師として迎え入れ、スクールの内容を拡大。受講生は200人弱にまで伸び、受講料も内容が充実にするつれ利益も生まれやすくなってきました。
一方で、課題もありました。そもそもリフォーム費用が安価であるから、ニーズがあるわけです。つまり利幅が少ない、営業の割に合わないビジネスだと、次第に思うようになっていきました。受講生の大半が職人であり、営業がそもそも苦手との課題もありました。
そんな折、一軒家のリフォーム依頼が舞い込みます。アパートのリフォームと比べると、一軒あたりの規模が大きいため、顧客数が少なくても利益は多く出やすいと考えたのです。また、空き家対策は社会問題でもありましたから、解決に寄与するとの大義もありました。
大熊さんはスクールの内容を刷新し、一軒家のリフォーム事業に絞ります。営業が苦手な人でも受注できる仕組みとするため、空き家をどうにかしたい人とリフォームを担う工務店などの業者をつなぐマッチングサービスを構築し、一般社団法人全国古家再生推進協議会(以下、全古協)を設立しました。
大熊さんは、空き家物件保有者の気持ちを理解しようと、自ら物件を購入します。すると、経営に資する大きな気づきを得ます。資産でお金を稼ぐ、との発想です。
「築年数の古い空き家の賃貸業の利回りは10%を超えるのが大半で、他の投資商材と比べてかなり高かったのです。また、現在の事業との兼業が容易で、安定した収益をもたらすことを知り、大きな魅力だと感じました」
改めてほかの会社の財務状況などを確認すると、大会社の多くは、本業とは別に、資産運用でも稼いでいることに気づき、中小企業でも不動産を保有していたことで倒産を逃れた、といったエピソードがあることを知ります。
そこでマッチング対象を投資家にも広げます。あわせて、不動産投資をしたい人を会員として迎え入れ、同じく地域の工務店にも安価で実施できる戸建住宅のリフォームノウハウを提供する講座を開設。両者から年会費や成約があった際の手数料をもらうようなビジネスモデルに刷新しました。
大熊さんはさらに、地域の工務店の気持ちも理解しようと、一軒家のリフォームを専門に手がける会社も設立。さらに不動産投資を手がける新会社も設立するなど、ビジネスの多角化だけでなく、それぞれの粒度を高める取り組みを積極的に行うことで、利益率を高めていきました。
アイデアはどこから出てくるのか、改めて大熊さんに聞きました。
「とにかく人と会うこと。それも同業者ではなく、異業種の方たちと会うことが大事だと考えています。また、常日頃からチャレンジングな気持ちでいることでしょうか」
オークマ工塗は「チェンジ&チャレンジ」とのスローガンを掲げており、そのようなマインドで多くの人と会うことを意識しています。そのかけ合わせが、現在の姿なのではないか、と大熊さんは言います。
実際、塗装ロボット、オリジナル商品の開発、ものづくり補助金、賃貸物件のリフォーム業ならびにセミナーの生徒集客などは、異業種の人たちとの交流から発生したアイデアだそうです。
うまくいったビジネスを自社で独占するのではなく、他にも広める。利他の心があるからこそ人が集まってくるし、自社の事業が順調に拡大しているのだと取材を通じて感じました。
一方で、旨味がないと感じた事業はスパッと切る経営判断も、学ぶべき点であると言えるでしょう。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。