大手傘下に入っても貫く「らしさ」 アキダイ社長が引き継ぐノウハウ
年間300本以上のテレビ取材を受ける、東京都練馬区の食品スーパー「アキダイ」。社長の秋葉弘道さん(55)は、「ここで商売はできない」と言われた1号店の逆境をはね返し、年商約38億円のスーパーに成長させました。原動力になっているのは、おいしい食材を安く提供できる「仕入れ力」だといいます。2023年3月には、この仕入れ力を引き継いで店を守るため、大手スーパーによるM&Aを受けました。
年間300本以上のテレビ取材を受ける、東京都練馬区の食品スーパー「アキダイ」。社長の秋葉弘道さん(55)は、「ここで商売はできない」と言われた1号店の逆境をはね返し、年商約38億円のスーパーに成長させました。原動力になっているのは、おいしい食材を安く提供できる「仕入れ力」だといいます。2023年3月には、この仕入れ力を引き継いで店を守るため、大手スーパーによるM&Aを受けました。
1992年に開業したアキダイ1号店がなんとか軌道に乗ってから(前編参照)、秋葉さんは少しずつ店舗を拡大していきます。現在は東京都練馬区を中心に計7店舗を展開する、従業員数約200人、年商約38億円のスーパーに成長しました。
開業のころと同じく、現在も口コミが集客の要となっているアキダイ。しかし口コミだけでは、一度来た客も定着してくれません。リピーターを生み出しているのは、おいしくて新鮮な食材を安く販売できる「仕入れ力」だといいます。
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アキダイでは、各店舗からの発注をもとに、社長の秋葉さん自らが全店舗分の青果の仕入れを担当しています。秋葉さんはここで、若いころから培った目利き力や、市場の売り子との関係性をいかし、高い品質の商品を確保することができます。
また秋葉さんや各店舗の担当者が、仕入れと販売の両方にかかわる「仕入れから販売までの一貫責任体制」をとっています。そのため、自分が仕入れた商品が客にどう評価されるのかを肌身を持って感じることができ、翌日分の発注にフィードバックできるのだと言います。
「だいたいの大手のスーパーは、仕入れを担当するバイヤーと、売り場の担当者が分離しています。棚をあけないよう数量の確保を優先して、大量発注で仲卸から来たものを売るため、自分から欲しいものを迎えにいくわけじゃない。一方アキダイでは、仕入れから販売までを一貫してやっているから、お客さんの反応を見ながら、自分が好きなもの、本当に食べたいと思えるものを自信を持って売り場に並べることができます」
さらにアキダイには、柔軟な価格設定と店舗同士の在庫の融通で、商品を「売り切る力」があります。野菜が供給過多となって市場であまっているときも、アキダイはまとめて買い取ることが可能。卸売業者が困っているときに助けられることが、日々の価格交渉力につながっています。
トマトとカボチャについては、特に品質にこだわって、味の良いものを売るようにしているそうです。
「トマトは生で食べることが多いじゃないですか。美味しいトマトとまずいトマトの差が大きいんです。カボチャもまた美味しいものと、そうでないものの差が大きい。いつも美味しいものを食べてると、その味に慣れますから、美味しくないもの食べるとすぐに分かる。他の店で買ったお客さんから『やっぱり、ここで買うのが間違いないわ』って言ってもらうと、よし!って感じになりますね」
買った物が美味しければ、客はまた安心して買えるし、リピーターになっていきます。いかに美味しい物を揃えるかが、店にとっては重要で、安さだけを広告でアピールしても、次につながるとは限らないそうです。
「『自分がこの地域に住んでいたらどこで買い物するか、常に自問自答しな』と、自分にも従業員にも言い聞かせながら、店を運営しています」
仕入れ力と並ぶアキダイの強みが、従業員一人一人の接客力です。売り場では客と1対1の対面販売を重視。従業員が積極的に声を出し、おすすめ商品や味の説明、産地の状況などを伝えています。客への声掛けがしやすいよう、通路のレイアウトを狭くし、接客する姿が自分で見られるよう、売り場には大きな鏡を置いています。
「たとえばお客さんに『これ高いね』って言われたとき、『そうですよねえ』って言って終わるのは嫌なんです。『今高いのは、こういう気候でこういう理由があるんですよ。もう少ししたら産地が変わるから、値段も下がるかもしれないよ』と前向きな話をするようにしています」
こうした率直な説明やフレンドリーさが、客からの信頼につながっています。普段使いできる価格帯と品質の良さに加え、大手スーパーにはない客とのコミュニケーションが、アキダイ独自のポジションを生み出しています。従来の主な客層は高齢者や専業主婦(夫)でしたが、近年は料理を楽しむ20~30代の来店も増えているといいます。
秋葉さんは店を切り盛りする傍ら、野菜の不作や高騰時のニュースなど、メディアにも積極的に出演しています。テレビ取材は、年間300本以上にも及びます。スーパーや青果店は数ある中、なぜアキダイに取材が殺到するのでしょうか。
「うちは青果の仕入れから販売まで一貫してやっているぶん情報を多く持っており、メディアからのどんな質問にも答えられるんです。同時に4つくらいの市場を使っていて、仕入れ規模1日1000万円以上と大手並みなので、市場による違いも超えて、少なくとも関東エリアに関しては正確な状況をお話できます」
秋葉さんのキャラクターや、すぐに取材に応じる対応力に加え、アキダイの情報力も、テレビ局が信頼して取材できる要素になっているようです。
「青果業界を代表して話すことになるから、責任は大きいですよね。だから情報収集はしっかりするようにしています。それに加えて、うちと付き合いがある生産者の方も、テレビの取材があると知っているから、台風や豪雨、雹(ひょう)害があった際にうちに写真や動画を送ってくれます。生産者が『こんなになっちゃってバカ野郎』と嘆いても、誰も聞いてないじゃないですか。自分の痛みを世の中に知ってもらいたいという思いで情報をくれるんです」
アキダイを通じて、テレビ局は産地に行かなくても産地の情報が得られ、生産者にとっては、窮状を世間に発信できる機会にもなっています。アキダイが、情報のハブのような役割を果たしています。
「生産者さんの苦しさが分かるので、例えばキャベツに雹害があっても無駄にしないでちゃんとみんな食べましょうと、アナウンスするのも役目だと思っています」
仕入れに販売、メディア対応と、一人で八面六臂の活躍を見せる秋葉さん。しかし、自分にノウハウが集中して代えがきかず、後継者を育てられていないことこそが問題だと、悩み始めていました。
「『アキダイ=俺』みたいになっていることに、ずっと悩んできたんです。7年くらい前から、50歳になったらやめよう、どうやってやめようかなと考えていました。だけど、無責任にはやめられない。かといって後継者を育てるのは、そんな簡単なものじゃない。だから僕は、会社を守っていくために、M&Aを選びました」
2023年3月、神奈川県を拠点に食品スーパーを展開する「ロピア」の持ち株会社が、株式会社化したアキダイの株を取得する形で、M&Aが成立。アキダイはロピアの傘下に入りました。
「実はアキダイには以前から、大手スーパーによるM&Aのオファーがいくつか来ていました。ただ、経営は黒字だし、特に応じる理由はないと思っていたんです。しかし近年は、アキダイの若い従業員から、『秋葉さんがいなくなっちゃったら、アキダイはどうすればいいんですかね』といった声が出てくるようになりました。元気なうちにノウハウを伝えて、自分が引退しても若い従業員が前を向ける環境作りが必要だと考えたんです。そこで、条件のよかったロピアのM&Aを受けることにしました」
M&Aにあたって、秋葉さんは「既存の店舗を残す」「若い従業員を他県に単身赴任させない」といった条件を提示。店舗の運営は従来と大きく変わりませんが、秋葉さんはロピアグループの青果アドバイザーという役割に就任しました。ロピアから来た若い社員5人を預かって、仕入れを市場で直接教えるなど、自分の持っているノウハウや考え方を伝え始めています。
2023年7月には、スーパーアキダイ等々力店がオープンしました。ロピアグループのスーパーバリュー等々力店の売り場に、アキダイが加わったコラボ店です。
アキダイは店舗内で青果売り場を担当。入口の大型モニターには、旬の商品をおすすめする秋葉さんの映像が流れ、客を迎えます。売り場ではアキダイから来た従業員が果物を並べながら、「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」と声だしをしています。他の店舗と変わらぬアキダイらしさがあります。
M&Aが決まった時、アキダイのファンからは「これまでのアキダイらしさがなくなってしまうのでは」といった心配の声もありました。しかしM&Aから半年がたち、コラボ店もオープンした現在、そうした心配は「まったくなかった。店舗運営の決定権はすべてこちらで持っています」と秋葉さんは笑います。
「M&Aを決めたときは一つの区切りがついたようで、これまでの苦労が走馬灯のように思い出されました。でも、ノウハウの継承には時間がかかります。当面は、引退できそうにないですね(笑)」
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