目次

  1. 本の紹介者
  2. 中堅・中小企業23社の倒産事例で失敗をパターン化
  3. ポジティブな未来だけではなくネガティブな未来も

野村亮太さん

大学卒業後PR会社に就職、シンガポール大学でのMBAを経て2013年に家業の樹脂押出成形メーカー、ノムラ化成に入社、直後からタイ法人のK.U. Nomura Thai Ltd.に赴任し2020年からはManaging Directorを務める。元々社内の業務改善に活用していたGoogle Cloudのツール「AppSheet」のノウハウを社外に提供する新事業を立ち上げ。

 日経トップリーダーのシリーズ「破綻の真相」で掲載された中堅・中小企業23社の実例を通じて経営における「失敗の定石」を引き出すことを目指してまとめられた一冊です。

 後継ぎは多くの場合、先代から続く古いモノ・コトを刷新したい、今の時代に合ったものに変革していきたい、そして会社を成長させたいと願いながらも簡単にはいかない現実と日々向き合い戦っているはずです。

 先輩アトツギの華々しい事例をはじめとした様々な成功例に「いつか俺も」「私も」と心の中でこぶしを握り締めるのではないでしょうか。しかし「将来自分の失敗が原因で会社を潰すかもしれない」とネガティブな未来を想像する人は決して多くはないと思います。

 まさに私はそんな風に想像したこともなかったのですが、自分が責任者を務めるタイ法人の業績が自らの判断ミスがきっかけで落ち込んだ際、これまでになくシリアスに経営というものを考えることになり貪るように読んだのが本書でした。

 ここで紹介される23社の破綻事例を見ると、長い時間があったにも関わらず打ち手を欠いて後戻りできなくなる、ひとつの誤った判断をしてしまい一気に崩れてしまうなどといった背景が見えてきます。

 またこれをいくつかにパターン化することで一定の「失敗の定石」を導き出そうとしており、読者が自分や自社の様々な状況を重ね合わせることができます。

 “成功事例は、再現性が低いものです。なぜなら、成功はいろいろな条件の組み合わせだからです。 ~中略~ 対して、失敗事例は再現性が高い。「こうした局面で、こんな判断をしたから会社が傾いた」という情報は、自社にそのまま置き換えても、おそらく高い確率で当てはまります”(本書より抜粋)というのはなるほどもっともだと思いました。

 後継ぎの我々は会社の命運を左右するような経営判断を迫られることが将来必ずあります。そんな時に「こういう風に失敗して倒産した会社もある」と知っておくだけで一歩引いて状況を俯瞰できるかもしれません。

 幸い当社タイの業績はその後回復していきましたが、「このまま行くと本気でヤバイ」と思わせてくれた本書には感謝しています。皆さんのお手元にも置いていくことをお勧めする一冊です。