未利用魚のえそがスナックやラーメンの出汁へ 椙八商店6代目流の6次産業
山口県萩市で、漁業から加工販売まで「6次産業化」を長く続けきた創業43年の「椙八商店」は、未利用魚を活用した商品開発をきっかけに、道の駅や全国の有名ラーメン店に出汁として活用されるなど販路の開拓を進めています。原動力は、2016年に家業を継ぐためにUターンしてきた椙八商店6代目の椙本将司さん。その背景には「好漁・不漁に左右されず、漁師が楽しく漁を続けられる未来を作りたい」という思いがありました。
山口県萩市で、漁業から加工販売まで「6次産業化」を長く続けきた創業43年の「椙八商店」は、未利用魚を活用した商品開発をきっかけに、道の駅や全国の有名ラーメン店に出汁として活用されるなど販路の開拓を進めています。原動力は、2016年に家業を継ぐためにUターンしてきた椙八商店6代目の椙本将司さん。その背景には「好漁・不漁に左右されず、漁師が楽しく漁を続けられる未来を作りたい」という思いがありました。
目次
山口県萩市は、海の資源が豊かな日本海に面し、豊富な魚種を獲ることができる場所です。
萩市の越ヶ浜地区に位置する椙八商店は、国が2011年に6次産業化を推進する以前から、漁業から加工販売までを行っていたパイオニアです。自社で漁船、漁場、加工場を持つことから「網元」と呼ばれており、釜揚げしらすやちりめんふりかけ、干物などを製造しています。
椙八商店の6代目となる椙本さんは、2016年に事業承継のため東京から萩市へUターンしました。漁師として魚を獲り、加工品製造も行う中、最初に直面した課題は、海水温の上昇による亜熱帯系魚種の増加や、ニーズの高い特定魚種であるマアジやカタクチイワシなどを獲り続けたことによる不漁が続いていることでした。
獲った魚を加工・販売まで手掛ける椙八商店の主力商品は、獲った魚をそのまま卸して販売するよりも約2倍近い価格で買ってもらえるため、今までのような大量漁獲と大量販売の方法を続けていくのではなく、少ない量でも利益を上げる商売へ切り替えていくべきではないかと考え、2020年に販路開拓や新商品開発の相談にはぎビズを訪れました。
販路開拓において大切なのが、自社の強みを正しく認識することです。
椙八商店は日本国内でも珍しい底引き網漁を行っています。椙八商店の底引き網漁では、海底をゆっくりとしたスピードで曳いていくため、時間はかかりますがしらすなどの繊細な魚も生きた状態で浜にあげることができます。
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そのため、新鮮な状態で加工でき、釜揚げにしたときもふっくらと歯ごたえのある食感を実現。県内外にも人気の主力商品となっています。
自ら漁に出ることで生きたままの新鮮な状態で加工できるという強みを理解し、きちんとお金を払ってもらえる顧客がついている販路を選びたいことを伝え、健康意識が高く良いものにはお金を払う顧客が利用する小売店にターゲットを絞り、営業活動を開始しました。
営業経験がなかった椙本さんは、営業先をネット検索しアタックリストを作成。全国を端から端まで1件ずつ電話でアプローチします!と意気込み、「萩市の漁師が浜から電話しています」という独自の営業トークでバイヤーの興味をひき、健康意識の高い顧客が利用する食品セレクトショップへの販路開拓に成功しました。
さらに地域の特産品販売に力を入れている道の駅にも販路を拡大。商品の魅力を伝えるべく、筆者とともに手書きのPOP作成や棚を木製に変えるなどの視覚的に訴えるVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)を実施。商品の魅力を伝える努力をし続けたことで、前年比120%の売上UPにつながりました。
着々と販路拡大を実現していましたが、手数料が発生する小売販売だけでは大きな利益確保には繋がらないと気づいた椙本さん。
そこで目をつけたのが、今まで廃棄していた未利用魚でした。特に「えそ」と呼ばれる魚は、上品な味わいから高級蒲鉾の原材料として販売を行なっていました。
そんな「えそ」も、中途半端な大きさのものは売れないため、廃棄せざるを得なかったのです。椙本さんはこの廃棄していたえそに着目。自社の加工技術をもとに、骨まで乾燥させ丸ごとスナック感覚で食べられる「エソスナック」の試作品を作りました。
はぎビズでも様々な方への試食を実施し、6フレーバーから青のり味に決定。おやつとしてもお酒のおつまみとしても楽しめるヘルシーなスナックが完成しました。
幅広い顧客をターゲットにできること、椙八の加工技術が生きた商品であること、今後の営業活動を円滑にしたいことから、エソスナックの役割は椙八商店の認知拡大のための広報宣伝商品としての位置付けを行い、どう猛な見た目で知られる「えそ」のインパクトのあるパッケージデザインが完成しました。
メディアでも取り上げられ道の駅にも導入が進み、結果として初対面の方への営業時に「知っているよ」という声をかけられるようになり、主力商品であるベーシックなちりめん商品は萩市内の大型福祉施設や保育園などへの定期的な導入も決定。
県内へも目を向けた販路拡大に成功しました。その他魚種の未利用魚についても、今後市場拡大が見込まれるラーメン業界の出汁製品としての道を筆者が提案し、SNSで発信したことがきっかけで全国の有名店との直取引が決定。新たな販路開拓に成功しています。
商品ごとの役割を考えた新商品開発や、販路開拓後の売り場の魅力化、地元企業への地道なアプローチを続けることで、着々と事業を拡大してきた椙本さん。
海が荒れる冬は漁に出る回数も減ることから、年間売上の平準化を目指すための新たな事業の柱を探し始めました。
ちょうどその時、椙八商店がある越ヶ浜地区のお祭りである椿まつりへの出店があり、来場者数の減少や、名物であった「椿まんじゅう」という椿の形をした大判焼き屋さんが廃業し出店者数も減少していることが気になった椙本さん。
「地元のお祭りを自分たちで盛り上げたい」という思いが芽吹き、椿まんじゅう屋さんを探し出し、まんじゅうの型やレシピを譲り受ける交渉をスピーディに行い、祭りでの椿まんじゅう製造販売を実現しました。
椿まんじゅうを通じ、購入客と直接会話をする機会が増えたことで、改めて顧客第一主義の大切さを認識。キッチンカーを購入し、椿まんじゅうを主軸としたイベント出展も行い、冬季の新たな事業の柱を見つけることに成功しました。
自社ブランドの販路開拓、未利用魚活用の新商品開発、異分野への挑戦。椙本さんがUターンしてわずか数年で様々な事業展開に取り組む礎となってきたのは、「好漁・不漁に左右されず、漁師が楽しく漁を続けられる未来を作りたい」という思いからです。
5代目であり現社長の椙本久繁さんは、様々な挑戦を繰り返す6代目をトップダウンで指導することを一切せずに見守ってきました。それは6代目の思いへの共感や「自分が成し得なかった他分野への進出を実現してほしい」という願いからです。
「人を巻き込めるほどの魅力的な人間に成長し、思う形の会社を作ってもらいたい」と話す久繁さんの言葉には、椙八商店の社長として、また将司さんの父としての両方の目線が入り混じっています。
親族内承継は距離が近すぎるが故の過干渉になることで綻びがでることも多くあります。しかし、今回は、6代目の目指す未来への思いを挑戦する熱量に変え続ける姿勢と、5代目社長の後継を信じて見守る覚悟により、異業種への進出にまで取り組めた好事例です。
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