創業者で代表取締役の娘である池田亜弓さんが取引先金融機関の担当者とともに今後の販路開拓につながるビジネスアイディアを求め、事務を担当している母親と一緒にガキビズへ相談に訪れました。
池田さんが初めて相談に訪れたのは2021年2月、事業承継の覚悟を決めた様子が印象的でしたが、同時に親子での考え方の相違や小さな電気屋の将来に戸惑いや不安も残っている「後継ぎ」が持つ苦悩の一面も見えていました。
大手家電量販店やネット通販の台頭で、店の売上を伸ばすことに苦慮しながらも池田さんは、「生まれたときから両親が楽しそうにお客さんと話している姿を見てきたこの店を無くしたくはない」と思っていたそうです。改めて会社の歴史や事業内容に加え、仕事への取り組み方や池田さんの思いを中心に話を聞きました。
最初は「小さなお店がこれからも続けられるのか」「生き残る方法があるのだろうか」「自分たちの強みがわからない」と、覚悟した家業に対して半信半疑なところがありました。
しかし、フジタデンキだからこそできることは必ずあるし、顧客がフジタデンキを選んでいる理由からヒントを探ろうと提案し、最近の問い合わせを教えてもらったり、過去に電話で受けた依頼内容を書き込んだ手書きノートを見せてもらったりすることにしました。
そこには、「エアコンの効きがなんとなく悪い」、「電気が点かなくなった」、「パソコンの使い方がわからない」などの緊急ではないけれど生活の困っているという連絡に対して、可能な限り早く現場に駆けつけて目視の上で問題解決を図っていました。そのスピード感含め、自身は普通で当たり前のことと感じていました。
家族経営だからこその連携力の高さ、まるで自分たちの家族の困りごとかのような親身さ、些細なことでもスピードを持って駆け付ける丁寧さには驚きました。この当たり前が家電量販店やネット通販との差別化になると丁寧に説明し勇気付け、売り物は電化製品とその知識だけでなく、自分たちのサービスや思いもが売りになるのだと気付いてもらうことができました。
強みの見える化 自社サイトの情報発信から
強みになり得ることが見えてきた中で、やっていること・やっている人をもっと見える化し必要な方に伝えていくことを提案しました。しかし、池田さんは昔からやっていることで今さら表立って言うことでもないし、商売は謙虚にというモットーの中で自分たちが表に出るようなことではないという親世代との考え方の相違にぶつかります。
両親が情報発信の必要性を感じてはいなかったため、サイトやSNSを活用していませんでした。
ただ、両親は池田さんへ事業承継を進めるなかで、高齢化していく既存客だけではなく、次世代の顧客を新たに開拓していく必要はどこかで感じていたようです。
そこで、両親にサイトなどの情報発信の取り組みを納得し、応援してもらうためにも、その目的やメリット・デメリットをしっかりと伝え、コスト的にも作業的にも負担を限りなく小さくした形で提案を行い、無料でできる親しみの持てる自社サイト作りのサポートを進めていきました。
お客さんの家に入って作業することが多いため、池田さんの丁寧さやきめ細かさに加えて、女性がやっている電気屋というのもお客さんに安心感や親近感を与えられるのではないかと考えました。
どんな人がやっているのか誰が来るのかわかるように自社サイトで働いている皆さんの顔出しを提案しました。しかし、なかなかそこは首を縦に振ることはなく、数ヵ月悩んだ末に登場をしてくれました。
そして、訪問した初めてのお客さんから「こういう人が来てくれるとわかって頼みやすかった」という反響が得られ、やって良かったと実感できたそうです。最近では「もっと自身の人柄がわかる内容で発信をしないと」と池田さんは話しています。
「わざわざ電話してまで」を感じさせない新サービス
電化製品などは些細な事が大きな生活トラブルに発展することもありますが、電化製品のちょっとした不調や気になる点があっても、いつか誰か来た時にでも聞いてみようと考え、お店やメーカーにわざわざ電話してまで聞くことではないしこんなことで来てもらうのは申し訳ないとお客さん自身が判断し、放置してしまうケースも少なくないそうです。
しかし、フジタデンキにとって、このような問い合わせと解決は当たり前のことでした。そこで「わざわざ」を感じさせずに困りごと解決を躊躇させないもっと身近な電気屋になろうと、ガキビズとともに新サービスの打ち出しを検討していきます。
新サービスを検討するにあたって、サービス内容、キャッチコピーやネーミング、周知方法などディスカッションを重ね、誕生したのが「家電レスキューFAST」です。
自宅で起こる電化製品のちょっとした問題や疑問に特化をした相談窓口を設け、より気軽に相談できるように世代を越えて利用されているLINEアカウントも開設しました。
当たり前をサービス化して得られた手応え
配布しているチラシにサービスのことをテスト的に小さく掲載したところ早速、「自宅テレビのリモコンが効かないんだけど」とLINEで相談があり、すぐに訪問をしてトラブル対応にあたったそうです。
結局、テレビの本体が原因で修理不可の故障であったため、お代を頂戴することはなかったのですが、お客さんから「新しいテレビを買う相談したいので見積もりをLINEで送ってほしい」となり、見積もりを提示してご購入に至ったそうで、いままでやっていた当たり前のことを新サービスとして打ち出したことでの展開に期待を感じられるようになりましたと池田さんは話してくれました。
また、各メディアへ生き残りに向けて地域密着の新サービスを誕生させたことや事業承継や奮闘について情報発信したところ、新聞メディアで紹介されるなどサービスやお店の認知度向上につながりました。新聞を見て、問い合わせが寄せられたり、店に訪問するきっかけになったりと、地域の方に必要とされているお店だと再認識して自信になったそうです。
時代の変化のなかで先代経営者に知ってほしいこと
自信がついたことで、お店を成長させて将来的には若手社員を雇って、地域の女性のパート先として選んでもらえるお店にしたいと意気込む池田さん。さらに新しい挑戦を続ける後継ぎになる娘さんの姿を見て、先代の両親もきっと変化を認めてよかったと思っていただけたのではないでしょうか。
事業承継に第三者が関与する意味、後継ぎの挑戦が先代のいままでのモットーや考えとはあたり前に違う時代変化の中にいること、後継ぎをさせたい・育てたい先代経営者にこそ読んでほしい支援事例として執筆しました。
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