目次

  1. 創業70年の古びた写真館に新規事業のタネはあるか?
  2. ネガティブにしか見えないことすら「強み」に
  3. 大ヒット商品、トレンドの掛け算で
  4. 「事業アイデアを量産できる”ひらめき”プログラム」開講します

 「お待たせしました、こちらへどうぞ」

 その言葉で待合室の席を立って相談ブースにいるこちらに向かってきたのは、女性2人でした。お話を伺うと78歳、72歳の姉妹で、相談内容は、昭和26年創業の写真館を廃業したい、というものでした。

相談に訪れた大須賀姉妹

 理由は業績不振。写真館、つまりフォトスタジオのキャッシュポイントであるお宮参り、七五三、成人式の前撮りの3つのどれもが、「こんなおばあちゃんに撮ってもらうより、今風のスタジオで撮ってもらうほうがみんないいみたい」と、振わなくなっているというのです。

 さて、もしあなたがオカビズの相談員だとして、上記のような相談を受けたら、どうしますか。

 本人たちの希望どおり、廃業の手続きについてアドバイスを始める……と思ったなら、少しだけ立ち止まってみましょう。なぜならこの後の対話を通して、この写真館は新規事業を生み出し、大復活を遂げるからです。

愛知県岡崎市のトータルフォトスタジオのホタルヤ

 結論を述べる前に、まずはこのとき相談に来た大須賀姉妹が運営していた写真館、ホタルヤの現状をまとめてみます。

  • 戦後間もない昭和26年創業の写真館
  • 岡崎市の中心部からは少し離れた美合というまちにある
  • 代表である大須賀予偲子さんは当時78歳
  • お宮参り、七五三、成人式の前撮りなどの記念写真は、大手フォトスタジオチェーンが優勢

 この状況を逆転できる新規事業につながる「強み」を見つけてください、というのがこの第1回のお題です。ぜひ一度考えてから、読み進めてください。

 「なんで写真を始めたんですか?」

 廃業相談であることはわかっていたものの、長く続けてきたお二人に自然と敬意がわいてきた私は、これまでの歩みを聞きはじめていました。オカビズで相談に乗ってきて見えてきたのは、どんな事業も、思いがあって始まっているということ。そして、そこにこそ「強み」は隠れていることが多いのです。

 最初はぽつり、ぽつりと話していた大須賀姉妹も、聞いているうちにどんどんのってきました。

 半世紀を超えるその物語を聞いてわかったのは、大須賀さんのフォトグラファーとしての実績の高さでした。

 大須賀さんは、ただ写真館をやっていたわけではありませんでした。数々の受賞歴を誇るうえに、この岡崎という土地でも、商工会議所の歴代会頭の写真を担当するなど、非常に重要な仕事をしてきたのでした。

 大須賀さんが運営してきたホタルヤがたどってきた物語を聞くうちに、これほどの実績の方が今も現役で写真を撮っていることは、実はすごいんじゃないかと思えてきました。

 大須賀さんは、高齢を理由に廃業を検討していたのですが、実は私からはまったく逆の光景が見えはじめていました。つまり、大須賀さんの「高齢」が強みになる可能性です。

 では、どのような「見方」をすれば、高齢という通常はネガティブにしか見られないものを強みにしたビジネスが可能になるのでしょうか。

大須賀姉妹とオカビズの秋元祥治氏

 オカビズの相談員として必要なことは、普段から、ありとあらゆるものを観察することです。観察こそが、「ひらめき」の源泉となるからです。

 習慣としていることが8つあるのですが、その一つが「たまに本屋で30分」。文字通り、本屋さんに赴いてじっくりと観察をするというものです。

 実際のところ、本屋という場所は「セグメントの切り方」の見本市です。並んでいるものはすべて、世の中にある何らかのニーズを反映しています。そんな本屋で過ごす習慣を持つと、自分ではまったく気づいていたなかったニーズに、強制的に気づかせてくれるという効果を発揮してくれるのです。

 そんな本屋で、当時勢いがあったのが、「終活」というジャンルです。「エンディングノート」といった納得できる「終わり」に向けてのグッズから、生前整理や遺言にまつわる書籍が一定の面積を占めるようになっています。

 大須賀さんの話を聞いたとき、これだ、と思いました。故人を見送る際、最も急いで準備をしなくてはならないために妥協しがちな「遺影」を、信頼と実績ある大須賀さんに元気なうちに撮ってもらう。もっといえば、高齢のフォトグラファーだからこそ、高齢者から安心してもらえるはずだと考えました。

 これこそが、後に「生前遺影」としてヒットするアイデアの誕生です。

生前遺影撮影サービスのチラシ

 これにより、大須賀さんのホタルヤは売上が急拡大。新聞、テレビをはじめメディアにも多数取り上げられたことで、新商品である「生前遺影」だけでなく、一般撮影の受注も伸びたのです。そして、大須賀さんは再び写真館を継続していく意欲を取り戻していきました。

 新しいビジネスのヒントを探すとき、一番おろそかにされるものが「自分たち自身」であることは、非常に多いのです。すでに持っているものを「強み」と読み換えたとき、世界にまだない、オリジナルなアイデアへと昇華する可能性はまだまだたくさんあります。これまで数千のアイデアを見てきたオカビズからすると、すべてが宝の山に見えているといっても過言ではありません。

★やってみよう★

・あなたのビジネスにおいて、足を引っ張っていると思っている資産、つまり弱みをリストアップしてみよう。
・書店で大きく展開されているジャンルや、自分の興味を引くキャッチコピーなどから、今求められているトレンドを見つけてみよう。
・自社の「弱み」を、トレンドとの掛け算で「強み」に変えることはできないか、具体的なアイデアを書き出してみよう。

 本連載で秋元氏が述べた「強み」に気づいてリフレーミングする手法や、トレンドと紐付けるための8つの「ちいさな習慣」について、2024年4月から体系立てて学べるスクールをオンラインで開講する予定です。

 全5回で20万円 (税込22万円)。

 ご関心のある方は、ツギノジダイの問い合わせフォームからお問い合わせください。登録いただいたアドレスに講座詳細やお支払いについてのご案内を差し上げます。