「早く生み早くコケる」ノボル電機3代目が挑戦し続けた商品開発

日本に3社しかない 「拡声音響装置」製造メーカーの3番手であるノボル電機(大阪府枚方市)代表取締役社長の猪奥元基(いおく もとき)さん(41)。BtoC市場参入のために「不器用なガジェット」というブランドコンセプトを固めてから新製品の本格的な開発に乗り出しました。その過程でクラウドファンディングの活用方法やSNSでの発信、ブランドイメージを大切にした販売方法などたくさんのことを学んだといいます。
日本に3社しかない 「拡声音響装置」製造メーカーの3番手であるノボル電機(大阪府枚方市)代表取締役社長の猪奥元基(いおく もとき)さん(41)。BtoC市場参入のために「不器用なガジェット」というブランドコンセプトを固めてから新製品の本格的な開発に乗り出しました。その過程でクラウドファンディングの活用方法やSNSでの発信、ブランドイメージを大切にした販売方法などたくさんのことを学んだといいます。
目次
猪奥さんはみんなで手がけた新製品を販売するため、ブランドコンセプトを細部まで反映したブランディングに取りかかりました。
まずは「ノボル電機製作所」のロゴを作り、ポストカードと名刺を作成。続いて、プロのカメラマンに依頼し、製品写真を大量に撮影してもらいました。そのデータを使ってチラシやポスター、ホームページを制作。
さらには実際に顧客が商品に触り、音を聞けるように、東京営業所を改装してショールームにしました。
「作りたいものを作ってからブランディングするのではなく、ブランディングしてから作りたいものを決めることが大切だと思います。
当社の場合はブランドコンセプトに沿ったモノづくりをしていくことで、継続的なブランドイメージを作れました。そのため、新商品が加わっても一体感のあるブランディングができたのです。
ブランティングによってメディア露出が増え、結果的に売上にもつながっています」
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ブランディングとあわせて、クラウドファンディングにも挑戦しました。
「製品開発で多額の投資をしていたため、宣伝広告費にお金をかけられる状況ではありませんでした。でも、認知は取りたい。そこで、企画段階から考えていたクラウドファンディングに挑戦しました」
2021年9月に第1弾としてスピーカーを出品。すると、3日で目標達成、2ヶ月で792%となる158万4420円の支援を受けました。
続いて、2023年2月には第2弾に挑戦。猪奥さんがもともと作りたかった、アンプとスピーカーのホームオーディオを出品しました。評判はさらに良く、3日で前回を超える支援を得、2ヶ月で1755%となる351万1900円 を達成できました。
「クラウドファンディングは、正直しんどいですね。私たちの商品が世の中にどのくらい受け入れられているかがリアルタイムで数字として表れるので、ずっとハラハラしていました。
でも、世の中に広く認知してもらえ、かつマーケティングデータを得られる手段としてこれほど有用な仕組みはないと思います。次回また新しく商品をリリースする時も、クラウドファンディングを行うつもりです」
順調に結果を出してきた猪奥さんが「販売面で一番苦労した」と話すのは、SNSでの発信です。
「SNSをはじめた当初は、個人としても法人としてもSNSを一切やっていませんでした。何も分からなかったので、『何を投稿するか』を考えるだけでも苦痛でしたね。
セミナーに参加したり、関連する書籍を読んだり、先輩経営者に現実的なアドバイスをもらったりしながら、なんとか日常的に更新できるようになりました」
今はインスタグラムやFacebook、X(旧Twitter)、自社ホームページでのブログなどから発信を行っています。
猪奥さんが先輩経営者から教わったSNS成功の秘訣は『あきらめずに続けること』。この言葉を信じて「インスタに力を入れたり、伸び悩んだときにはXに力を入れたりして、試行錯誤してきました。ブログも、月に1本は会社のトピックを上げるように心がけながら更新しています」。
社長になりたての頃に集中して取り組んでいた、プレスリリースの作成経験も役立っているといいます。
これらの地道な努力が実り、WEBメディアへの掲載やテレビ番組出演など、メディアに取り上げられる機会が増えてきました。
「メディアやSNSから商品を知ってホームページを見ていただき、検索して取材された記事を読むことが積み重なって、『ノボル電機製作所』という聞いたこともないブランドの信頼感につながり、お客様が購入してくださっているのだと思います。
SNSやメディア掲載ですぐに反応があった実感はあまりありませんが、時間をかけながら巡り巡っていくものだと考えています」
現在「ノボル電機製作所」のスピーカーやアンプは、大都市圏の雑貨量販店、家電量販店、独立系インテリアショップなど約35店舗で販売されています。
主な購入者はデザイナーや、ガジェット・音響・産業設備好きの30~40代男性。自宅のインテリア兼音響オーディオ機器として使われることが多いそうです。
「自社ECサイトや商品を取り扱っている会社のオンラインショップでも購入していただけます。実店舗とオンラインの購入比率は8:2くらいでしょうか。
パッと見て一目ぼれで買ってくださる方もいらっしゃいますが、音の質感が特長的な商品ですし安いものではありませんので、やっぱり実物を見て、実際に音を聞いてから購入を決められるお客様が多いです。取り扱い店舗を増やしていくことが今後の課題ですね」
ただし、どこでどう売るかについては、細心の注意を払っています。
「成功されている先輩企業が販売場所や販売方法にすごくこだわっているのを見てきたので、ブランドイメージを守れる場所や方法で販売することを大事にしています」
クラウドファンディングで結果が出てきた頃から、新製品開発に反対していた従業員たちにも変化がありました。猪奥さんが知らぬ間に商品を自費で購入していたり、「記事読んだよ」「放送見たよ」と言ってくれたりするなど、愛社心を感じる場面が増えてきたといいます。
「何より『社長がこんなアホなことしているんだから、自分ももっと何かやってやろう』と新しい開拓先にチャレンジする営業担当者や、『●●ショップへは売らないのか?』『拡声器が使われているアニメもあるし、もっと何かできるんじゃないか?』という意見が上がってくるなど、社内で新しいチャレンジの芽が出てきていることがうれしいです」
これまで投資のみで約1千万円、人件費まで入れると数千万円の開発投資をしてきました。回収は、まだまだこれからです。
「数年かけて、当社の売上の数割を占める柱の一つに育てたいと思っています」
BtoC市場への参入と新製品開発の経験から猪奥さんが学んだのは「早く生み、早くコケることの大切さ」です。
「もし本命である第2弾のホームオーディオを、第1弾のスピーカーを経験せずに発売してコケていたとしたら、ダメージは半端なかったと思います。でも、第1弾で展示会やクラウドファンディングに出品し、販路開拓やメディア対応などさまざまな経験を積めたため、第2弾では第1弾よりもずっと状況に応じた判断ができるようになりました。
もちろん、途中で廃案にしている企画もたくさんありますし、右往左往したことも多くあります。でも、それまで知らなかった情報を知れたことや、失敗したからこそ分かるようになったこともたくさんあるんです。
例えば、第1弾は“音圧”を売りにしていました。しかし、購入者様やクラウドファンディングの支援者様からのお声を聞くと、“音圧”ではなく“音質”に魅力を感じてくださっていることが分かりました。そこで、第2弾の製品開発は“音質”に振り切ったものに変更。その結果、第2弾の方が発売期間は短いにも関わらず、第1弾を超える売上を上げることができました」
「まずは自社や自分の裁量の中でやれることを見つけて、はじめの一歩をどう踏み出すか。そして、失敗したら軌道修正しながら、チャレンジを続けていくことが大切だと思います。
また、会社として売り上げがどのくらいであれば継続し、どのくらいになれば退くのか。失敗しても起き上がれるように、撤退線を見極めておくことも大事ですよね」と猪奥さんは話します。
守るべきものは守り、時代のニーズとともに変革を起こしながらモノづくりを続けるノボル電機。“保守力”と“革新力”のある両利きの会社として、これからも新たな挑戦を続けます。
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