目次

  1. 売上予測とは
    1. 売上予測とは
    2. 売上予測と売上目標の違い
  2. 売上予測の重要性
    1. 経営戦略や販売戦略の指針
    2. 生産調整や在庫管理の指針
    3. 予算配分と人員配置
    4. 利害関係者や株主との信頼構築
  3. 売上予測を計算する方法
    1. 売上予測に必要なデータ
    2. 過去の実績をもとに予測する方法
    3. 営業パイプラインから予測する方法
    4. 商談ステージに基づいて予測する方法
    5. テスト市場の分析結果から予測する方法
  4. 売上予測の精度を高めるためには
    1. 前提となる市場や販売方法を特定する  
    2. 正確な販売実績データを収集する
    3. 影響を与える要因を把握する
  5. 売上予測に役立つツール
    1. ExcelやGoogleスプレッドシート
    2. SFA・CRM・MAツール
  6. 売上予測を活用した事例2つ
    1. 居酒屋の事例
    2. 美容室の事例 
  7. 正確な売上予測の作成に取り組んでみましょう

 売上予測とは、企業が経営判断をする際に重要にしている指標です。そこで、売上予測とはなにか、どのような役割があるかを解説します。

 売上予測は、過去の売上実績や顧客動向などの客観的なデータをもとに、将来における特定期間の売上を予測することです。

 売上予測はヒトやモノ、カネといった経営資源の適切な配分や、事業の目標設定に大きな影響を与えます。上場企業の場合には、投資家に対する事業成長に関する説明にも利用されます。

 そのため、売上予測は企業の経営戦略を立てるうえで欠かせない指標であるとともに、投資家や金融機関などに対しても重要な役割を果たしています。

 売上予測は過去の実績や、保有している見込顧客、市場動向など客観的な数値に基づいて、将来の売上を予測するものです。その目的は将来の売上を可能な限り正確に予測することにあります。

 一方、売上目標は主観的な要素や経営者や営業責任者の要望、期待などをもとに、達成したい目標を設定するものです。通常は、前年や前月を上回る数字を設定します。

 売上予測と売上目標の違いを以下の表にまとめました。

項目 売上予測 売上目標
定義 データや市場動向をもとに、未来の売上を予測する 目指すべき売上の目標値を設定する
数値の根拠 データや市場動向などの客観的な数値 主観的な要素や経営者などの要望、期待なども加味される
ねらい 正確性を重視し、現実的かつ達成可能な将来の売上を予測する 達成したい目標を設定し、達成するための戦略を検討する
算出方法 データを用いて統計的に算出される 統計的に算出しない場合がある。人によって計算結果が変動する可能性もある
希望的観測 含まない 含む

 売上予測は企業の経営判断や生産調整、在庫・人員管理、資金調達、プロモーション戦略の策定など企業の意思決定において重要な役割を果たします。

 また、売上予測の精度が高いことで、将来の市場動向や経営環境の変化に対する準備ができ、企業の競争力を向上させることにもつながるでしょう。具体的には以下のような項目に影響を与えます。

 売上予測は、経営戦略や販売戦略の指針に活用できます。

 たとえば小売店の場合、店舗で新しい商品を投入する際の販売戦略やプロモーション活動計画に活かせます。高い売上が予測される場合、将来得られる利益を使い、広告などによる露出を強化したり、SNSでのプロモーションを増やしたりすることが可能になるということです。

 また、「売上予測が高い=需要が高い」ということでもあるため、広告やSNSでのプロモーションを増やすことで、さらに需要を引き出し、販売機会を増やせるでしょう。

 逆に売上予測が低い場合、プロモーションの範囲を制限したり、広告予算をほかの有望な地域の店舗や商品に再配分したりすることになります。

 売上予測の精度は、生産調整や在庫管理に大きな影響を及ぼします。正確な予測ができれば必要な生産量や在庫を適切に把握でき、余剰や不足を避けることが可能になります。

 たとえば、売上予測の見積りが低かった場合、在庫の余剰を防ぐために生産量を減らすことになります。しかし、その売上予測が誤っていた場合、在庫が足りなくなり、販売機会を逃す可能性があります。

 逆に、売上予測を誤って高く見積り、生産量を増やした場合、余剰の在庫が発生し、在庫処分のための割引販売などが必要になるかもしれません。

 売上予測が高い事業に対しては、営業人員や生産量を増やすなど予算を多く割り当てることで、さらなる売上の向上を見込めます。営業人員が増えれば、顧客に対するフォローアップ時間を増やしたり、新規顧客の開拓も可能です。生産量を増やすことで需要が予想以上に伸びた場合でも対応できます。

 一方、売上予測が低い事業に対しては、人員をほかのプロジェクトに移動させることで、成長が見込める事業にリソースを集中できます。また、プロモーション予算を削減することで、企業全体の収益性を高められるでしょう。

 新しい市場に進出する際は、市場の潜在性を評価し、マーケティング予算や人員配置を最適化するための根拠になります。

 正確な売上予測は、企業が市場動向を適切に把握し、管理能力や健全性の高さを示しています。

 このため、正確な売上予測を継続的に公開することは、利害関係者や株主からの信頼を獲得しやすくなります。資金調達時においても、正確な売上予測は企業の価値や投資可能性を明確に示せるため、資金調達を円滑に進められるでしょう。

 売上予測を計算する方法をご紹介します。

 売上予測に必要なデータは、特定の企業や業界、ビジネスモデルなどによって異なります。代表的なものを、以下の表にてご紹介します。

売上予測に必要なデータ 概要
見込客から受注成約への転換率(受注成約率) 見込客が最終的に製品やサービスを購入する確率
案件化してから受注するまでの期間 案件が成約に至るまでの時間や売上サイクルの長さ
商談数と営業パイプラインごとの通過率 ・営業商談の数
・営業パイプライン(初回説明→提案→見積もり→受注)の転換率(通過率)
過去の月別、四半期別、年別の売上 売上の季節変動や売上の増減傾向を把握するのに有用
過去の商品やサービスの売上 商品やサービスの需要、市場での位置付けを把握できる
月次経常収益(MRR)、年次経常収益(ARR)、顧客生涯価値(LTV)、契約期間、更新率、解約率など SaaSなどサブスクリプションモデルでの売上予測に有用
社会動向や市場動向など 市況見込み、品目別支出見込み、コロナ前回帰シナリオなど
外部環境データ、市場調査など 市場調査の結果、市場シェア、競合他社の動き、業界の動向など

 過去の実績をもとに売上予測を計算する方法は、過去の売上データに売上成長率を掛け合わせ予測値を導く方法です。

 計算には、過去の売上データ(過去の売上平均や、前年同月の売上)と売上成長率を利用します。

 具体的には、以下のように予測値を計算します。

【一昨年の売上が1,000万円、昨年の売上が1,100万円の場合】
・売上成長率は年10%
(1,100万円−1,000万円)÷1,000万円×100=10%
・今年の売上予測:1,210万円
1,100万円+(1,100万円×10%)=1,210万円

 昨年は、一昨年の売上に対して10%増加(110%)しています。今年も昨年と同じく10%の増加が見込まれることから、今年の売上予測は1,210万円になります。

営業パイプライン
営業パイプライン・筆者作成

 営業パイプラインとは、「①初回説明→②提案→③見積もり→④受注」などの営業プロセスをフェーズ分けしたものです。

 営業パイプラインから売上予測するには、次のフェーズにどれだけ進んでいるか(通過率)や、進むまでの所要時間を過去の実績をもとに算出しておきます。それらの数値をもとに売上予測を計算します。

 営業パイプラインから売上予測を計算する方法をご紹介します。以下は、ある企業の営業プロセスをフェーズごとに分け、それぞれの通過率と通過件数を計算した表です。

フェーズ 次のフェーズへの通過率 現在の件数
初回説明の商談件数 100件
初回説明 75% 75件(100件×75%)
提案 40% 30件(75件×40%)
見積もり 20% 6件(30件×20%)
受注 50% 3件(6件×50%)

 過去の実績から各フェーズへの通過率を計算しておくことで、初回の商談件数から受注件数を予測できます。この企業は初回商談数が100件あれば、最終的な受注予想は3件ということです。商品価格が1件100万円だった場合、300万円の売上予測が計算できます。

 ただし、これは初回商談数から始まる場合の売上予測です。実際、リピート購入の場合は、初回説明のフェーズを通らずに受注するでしょう。そのため、より正確な売上予測をするには複雑な計算が必要になります。

商談ステージ
商談ステージ・筆者作成

 商談ステージにもとづいて売上予測する方法は、商談ステージ(商談の進行度)ごとの成約確率(受注確度)を算出する方法です。

 過去の商談データから受注確度を設定し、予想取引金額を掛け合わせることで売上を予測します。商談ステージには、「提案」「見積もり」「客先検討状況」「受注」などがあります。

 成約確率は、競合との比較状況や顧客内での検討状況、稟議状況、受注時期などをもとに、高確度、中確度、低確度の3つに分類するのが一般的です。過去のデータによって、超低確度を設定してもよいでしょう。

 具体的には、顧客別に商談ステージの受注確度を割り当て、商談数と成約確率、単価を掛け合わせ、売上予測を計算します。顧客別に商談ステージや成約確率を定めるため、営業パイプラインをもとにした売上予測より正確に計算できます。

 具体的な計算方法は以下のとおりです。

顧客 商談ステージ 受注確度 成約確率 取引金額 売上予測
A社 提案 超低確度 10% 1,000,000 100,000
B社 提案 低確度 30% 500,000 150,000
C社 見積もり 低確度 30% 1,500,000 450,000
D社 見積もり 中確度 50% 300,000 150,000
E社 客先検討 高確度 50% 200,000 100,000
F社 客先検討 高確度 80% 800,000 640,000
合計 1,590,000

 受注確度は、競合との比較状況や顧客内での検討状況、稟議状況などをもとに個別に設定します。

 テスト市場の分析結果を用いた売上予測は新規事業や新商品、新サービスを開始する際に有効な手法です。

 具体的には新商品や新サービスなどを特定のグループやエリアの人に提供することで、テスト市場での売上や顧客の反応などを分析し、新市場での売上を予測します。

 手順は以下のとおりです。

手順 概要
①データの収集 テスト市場での製品の売上、顧客の反応、製品の知名度や受容度など、関連するデータを収集する
②売上のスケーリング テスト市場と実際の市場規模が異なる場合に計算する。
・テスト市場の人口:10,000人
・実際の市場の人口:1,000,000人
・テスト市場の売上:100,000円
・実際の市場の売上予測:10,000,000円
実際の市場での売上予測は、(実際の市場の人口÷テスト市場の人口)×テスト市場の売上で計算する
③製品の受容度を考慮 実際の市場における受容度を考慮し、売上を補正する。
・実際の市場での売上予測:10,000,000円
・実際の市場での受容度の予測:80%
・補正後の売上予測:8,000,000円
補正後の売上予測は、実際の市場での売上予測×受容度で計算する

 実際は、市場における競合状況や季節性、プロモーション活動など、テスト市場で考慮されていない要因も考慮に入れることで、売上予測の精度を向上させられます。

 売上予測の精度を高めるには、以下の3つのポイントが重要になります。

  1. 前提となる市場や販売方法を特定する
  2. 正確な販売実績データを収集する
  3. 影響を与える要因を把握する

 順にご紹介します。

 売上予測をする際は、前提となる市場や販売方法を特定しておくことが重要です。新しい市場や新しい販売方法で拡大を図るのか、既存の市場や既存の販売方法での成長を目指すのかが明確でないと売上予測の精度が低下します。

 売上予測の制度が低下する理由は、市場や販売方法によって、売上の増減や変動要因が大きく異なるためです。たとえば新市場の場合、市場規模や競合他社の状況、顧客ニーズなどを詳しく調査し、それにもとづいて計算します。一方、既存市場の場合は、過去の売上データやトレンドを分析する必要があります。

 売上予測の正確さを高めるためには、詳細かつ正確な販売実績データが必要です。このデータは売上予測の基盤となるため、日頃から適切に管理しておきましょう。

 データが不正確な場合や、極端にかたよりのあるデータの場合、売上予測の計算モデルが正しかったとしても、出てくる分析結果は無意味なものや、極端に偏った精度のものになってしまいます。

 具体的な管理方法としては、ExcelやCRM(顧客関係管理)、SFA(営業支援システム)、MAツール(マーケティング自動化ツール)といったセールスツールがおすすめです。

 ただし、重要なのはどのツールで管理しているかではなく、詳細かつ正確な最新の販売実績データが管理されているかです。

 売上予測をする際は、売上に影響を与える要因を把握し、売上予測に反映する必要があります。もし、大きな影響を与える要因がある場合は、事業戦略を検討しなおす可能性もあるでしょう。

 なお、売上予測に影響を与える要因には、自社でコントロールできる内部要因と自社でコントロールできない外部要因があります。

 主な内部要因は以下のとおりです。

  • 営業担当者の採用や離職
  • 販売ルールやプロモーション・キャンペーンなどの変更
  • 市場や販売方法の変更

 自社ではコントロールできない、主な外部要因は以下のとおりです。

  • 競合他社の開発状況やプロモーション方法
  • 景気動向や経済状況
  • 法改正

 景気動向の変化は、顧客の購買力に直接影響を与える可能性があります。また、法改正によって規制の強化や緩和が行われると、売上予測に大きな影響を与えます。

 売上予測は多くのデータを扱うため、そのデータを容易に管理できるツールが役立ちます。売上予測に役立つツールをご紹介しましょう。

 販売データをExcelやGoogleスプレッドシートで管理している企業は多くあるでしょう。

 Excelには、TREND関数という将来の販売量を予測できる関数や、FORECAST関数という将来の売上予測を計算できる関数が用意されています。また、Excelには予測ワークシートを作成する機能があります。

売上予測
売上予測・著者作成

 使い方は、もとになる毎月の売上データをシートに入力します。売上データを選択し、画面上部の「データ」タブの「予測シート」ボタンをクリックすると、「予測ワークシート」が表示され、売上予測を確認できます。

 シンプルな売上予測であれば、この機能を使うことで売上予測を高めることが可能です。詳しい使い方は、「Windows 版 Excel で予測を作成する」記事をご参照ください。

 SFAやCRM、MAツールを活用すると、顧客関係や営業活動データの一元管理が可能となります。

ツール 特徴
SFA(Sales Force Automation) 営業プロセスを効率化するツール。顧客情報の管理、営業案件の追跡、営業成果の分析などに重点を置いている
CRM(Customer Relationship Management) 顧客との関係を管理するツール。顧客データ収集や分析、顧客との関係性管理、マーケティング活動などを統合管理できる
MA(Marketing Automation) マーケティング活動の自動化を支援するツール。見込み顧客管理、メールマーケティング、広告やキャンペーンの管理など、マーケティング活動を支援することに重点を置いている

 とくにSFAでは、リードや商談の進捗を一貫性を持って管理することで売上予測が容易になります。リードの動向を元に売上の可能性を算出することや、商談の段階ごとの成約確率を設定することで、売上予測の精度を向上できます。

 売上予測を活用した事例を2つご紹介します。

 地域で3店舗を展開している居酒屋の事例です。

 新鮮な魚介類を提供しており、地元客に人気があります。反面、魚介の仕入量調整が難しく、売れ残りも発生していました。

 売れ残りを減らし利益を上げるために、この居酒屋では過去3年間の客数や売上記録などをもとに、客数と注文される料理の種類や量の予測モデルを作成しました。

 週末など、客数が増える日の予測精度をあげることを意識した結果、売れ残りの量を減らし、利益を上げることにつながりました。

 都心部にある美容室の事例です。

 数名の美容師が在籍しており、週末には予約が集中する反面、平日は顧客がばらつくことが多く、美容師のシフト調整が課題となっていました。

 販売管理システムを導入しているため、過去の予約データやキャンセル率、季節のかたより、地域のイベントなどの情報を加味し、週ごとの予約数見込みから美容師の需要を予測しています。

 これにより、美容師のシフト調整の課題が解決し、さらに、売上予測と美容師に支払うコストも見込めるようになりました。

 また、必要な美容師の人数を把握できることで、予約をせずに来院する顧客の需要にも応えられるようになりました。

 売上予測は、ヒト・モノ・カネといった経営資源の効果的な配置を始め、キャッシュフローや在庫管理の適正化につながります。また、企業の経営戦略を立てるうえで欠かせない指標です。

 まずは、現状のデータを把握・分析し、ITツールを活用しながら、正確な売上予測の作成に取り組みましょう。売上予測の精度を高めることで、市場動向や経営環境の変化に対応し、市場での競争力を向上できるでしょう。