目次

  1. 「中小企業が安心してM&Aに取り組めるように」
    1. 譲り渡し側・譲り受け側双方に中立な立場で利益調整
    2. 「御社を買いたい会社がある」事実にもとづかない営業を禁止
    3. 仲介手数料の明示
    4. 専任条項やテール条項の不正利用も禁止
    5. 執拗な営業行為の禁止
  2. 「規程のブラッシュアップ続けたい」

 M&A仲介協会によると、中小企業のM&Aが増加傾向にあるなか、中小企業庁登録のM&A支援機関数が2900件を超えるなど、M&A専門業者の数も大幅に増えています。

 M&Aの営業活動や契約をめぐってはツギノジダイの取材などでも中小企業から困惑する声が寄せられています。

  • 十分な根拠なしにM&Aと比べて親族内承継を低く評価するダイレクトメールを送付してきた
  • 断っているのに何度もM&Aの営業電話がくる
  • 「御社を買いたい会社がある」と営業受けたのに聞いてみるとそんな事実はなかった
  • M&A仲介契約時の説明が不十分で、終了後もテール条項で手数料を払い続けなくてはならない

 こうしたなか、M&A仲介協会の荒井代表理事は「中小企業が安心してM&Aに取り組める」よう業界自主規制ルール3規程(広告・営業規程、コンプライアンス規程、契約重要事項説明規程:PDF方式)を設けたと説明します。

 3規程をもとにM&A仲介協会の加盟企業が守るべき行為について荒井代表理事が説明しました。

オンラインインタビューに答えるM&A仲介協会の代表理事を務める荒井邦彦ストライク社長(ストライク提供)

(利益相反事項への対処)
倫理規程第三条 会員は、利益相反のおそれがあるとして想定される事項がある場合には、これを顧客に開示しなければならない。また、仲介者として譲り渡し側·譲り受け側双方に対して中立の立場を取り、公正な利益の調整を図らなければならない。
(顧客利益の最大化)
第四条 会員は、M&A仲介業務の遂行にあたり、顧客の希望に従って譲り渡し側·譲り受け側双方の意向の調整を適切に行うなど、顧客の正当な利益の最大化に努めなければならない。

 M&Aの仲介は、譲り渡し企業と譲り受け企業に同じアドバイザーがつく「両手取引」となるケースが多く、利益相反が起こりやすい構造となっています。

 荒井代表理事によると、譲り渡し企業は1回限りの取引となる一方で、譲り受け企業は今後も顧客となりうるため、アドバイザーが譲り受け企業にのみ有利な条件を提示しないよう倫理規程に明記しました。

 また、譲り受け候補となる企業をその気にさせようと、相場よりも大幅に高い価格を提示することも禁止しているといいます。

 こうした課題については、広告・営業規程でも触れています。

(営業及び広告)
倫理規程第七条 会員は節度と品位をもって営業活動を行わなければならず、いやしくも虚偽又は誤解を与える可能性のある広告を使用して、依頼者を自社に不当に誘引する行為をしてはならない。

 たとえば、具体的な買い手がすでに見つかっているかのように装い「御社を買いたい会社がある」という営業DMを送る行為などを禁止することを想定しているといいます。

 営業については、以下の行為も、広告・営業規程のなかで禁止しています。

  • 故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為
  • 正当な理由なく、仲介契約に定めていない費用又は追加報酬を要求する行為
    M&A 仲介業務において、参考資料ではない確定的なバリュエーションを実施する行為
  • 譲り受け側によるデュー·デリジェンスの実施を妨げる行為、又はその内容·結果等を左右する行為

(適切な報酬及びその説明)
コンプライアンス規程第五条 会員は、報酬基準を定めなければならない。
会員は、報酬基準(報酬基準額、報酬率及び報酬の発生時点、最低手数料を含む。)をウェブサイトにおける企業概要等において一般に公開しなければならない。これを変更した場合も同様とする。
会員は、仲介契約を締結するにあたっては、事前に報酬基準を説明し、具体的に算出した報酬の推定額を提示しなければならない。ただし、報酬の推定に当たって実施したバリユエーション(企業価値評価·事業価値評価)については、確定的な評価を実施したものではないこと、一方当事者の意向を考慮した場合はその旨、セカンドオピニオンを求めることができる旨、を明示するものとする。

 M&A仲介手数料についても、仲介会社ごとにルールが異なっており、わかりにくいため、ウェブサイトだけでなく、仲介契約を結ぶまえに報酬基準を説明することをコンプライアンス規程に盛り込みました。

(仲介契約の不当利用に関する禁止行為) 営業・広告規程第十五条 会員は、次の各号に掲げる行為をしてはならない(※抜粋)。
専任契約であることを不当に利用して、他の支援機関からのセカンドオピニオンの取得を妨げる行為
テール条項を不当に利用して、依頼者に対して実質的にマッチング相手を紹介していないにもかかわらず、手数料を請求する行為
なお、実質的に紹介しているとは、最低でも企業概要書の提示が行われた場合をいう。
依頼者の自由意思で親族内承継や従業員承継へ切り替えることを不当に制限し又は躊躇させる行為。具体的には、親族内承継や従業員承継に切り替えた場合には報酬が発生する旨仲介契約に定める行為や、仲介契約に含まれるテール条項を不当に利用して、親族内承継や従業員承継が行われた場合に、報酬を請求する行為。

 実質的にマッチング相手を紹介する行為とは、譲り受けを希望している企業に候補リストとして見せるだけでは”紹介”したことにはならず、企業概要書(秘密保持契約を締結した後に見せる譲り渡し側についての重要な企業情報が記載された資料)を譲り受け候補企業に見せて”紹介”することとする方針です。

 また、譲り渡しを希望する企業からは、M&A仲介企業との専任条項を含む仲介契約を結んだが、具体的な提案がなく本当に譲り受け候補の企業に紹介してくれているかわからないという声も出ています。そこで、今回、M&A仲介契約は途中解約できることも明示しました。

(専任条項に関する事項)
契約重要事項説明規程第九条 会員は、専任条項を設ける場合、仲介契約の契約期間を最長でも6ヵ月から1年以内を目安として定めなければならない。
会員は、専任条項を設ける場合、依頼者の利益の保護の観点から仲介契約又は本規程その他協会が定める規程における義務の履行に関してその本旨に従った履行をしない場合には、依頼者が任意の時点で仲介契約を中途解約できることを明記する条項等を設けなければならない。
会員は、前項の場合以外の場合であっても、依頼者が任意の時点で仲介契約を中途解約できることを明記する条項等を設けるよう努めなければならない。

(特定広告·営業勧誘停止の措置)
広告・営業規程第十八条 会員は、第五条第二項第二号又は第十四条第三号に関して、依頼者が仲介契約を締結しない旨の意思又は営業目的の特定広告を引き続き受けることを希望しない旨の意思を表示した場合には、停止措置を取らなければならない。
ただし、依頼者も一定期間の経過により広告·勧誘等を受けることの意思が変化することも十分考えられ、依頼者が将来にわたってすべての広告·勧誘を拒否した場合など、明確な意思の表示があった場合を除き、将来にわたって当該依頼者への広告·勧誘等がすべて禁止されるものではない。
この場合において、会員は、特定広告又は営業の勧誘の継続がどの程度の期間にわたり禁止されるかは、個別の事例ごとに組織的に慎重に判断しなければならならず、広告·勧誘等を再開した場合に、依頼者が仲介契約を締結しない旨の意思を改めて表示したときは、停止措置をとらなければならない。

 M&Aは考えてないと断っても執拗に営業電話がかかってくるという意見も中小企業側から出ています。こうした声を反映して、広告・営業規程に特定広告·営業勧誘停止の措置を盛り込みました。

 荒井代表理事は、度を過ぎた営業行為があった場合、M&A仲介協会の苦情相談窓口に連絡してほしいと説明しています。

 倫理規程は2024年1月1日に施行、業界自主規制ルールのうち、総則的部分に関して2024年1月1日に施行、その他は2024年4月1日までの間に順次実施する予定です。

 M&A仲介協会に加盟している仲介企業は12社にとどまりますが、荒井代表理事は「加盟していない仲介企業も含めて一緒にルールを守っていけるよう働きかけたい」と話しています。

 今後について「この3規程が完全なものではなく、M&Aの顧客企業からの改善要望を受け付けながらブラッシュアップを続けたいと考えています」とも話しています。

 M&A仲介協会は、苦情相談窓口を設置しており、具体的な案件について、相談や苦情を受理した場合、対象となるM&A仲介企業を除く形で対応を検討するとしています。