目次

  1. イノベーションとは?意味をわかりやすく解説
  2. イノベーションが必要といわれる理由
    1. 市場競争の激化
    2. 急速な技術進化
    3. 市場環境の変化
  3. イノベーションの四つの類型と具体例
    1. 構築的革新
    2. 革命的革新
    3. 間隙創造的革新
    4. 通常的革新
  4. イノベーションを起こし続けている企業の特徴
    1. 新しいものを創造しようとする社風がある
    2. アイデアを発想し、実現できる人材がいる
    3. トップが本気である
  5. イノベーションに取り組む際に企業が意識すべきポイント
    1. 市場を創造する
    2. 失敗を恐れない
    3. 正解を求めない
  6. イノベーションは結果である
    1. イノベーションを目指さない
    2. イノベーションがすべてではない
  7. 迷わず新しいことを試してみましょう

 イノベーションとは、革新的な技術やアイデアによって今までにない非連続な変革をもたらすことをいいます。

 一般的にイノベーションは「技術革新」と定義されますが、必ずしも技術だけを対象にしているわけではなく、アイデアによって生まれたイノベーションや既存技術の組み合わせによるイノベーションなども多くあります。また社会に対してインパクトのある変革のみでなく、企業内といった組織内部においての変革も意味することがあります。

 イノベーションという言葉は、オーストリアの経済学者ヨーゼフ・シュンペーター氏の著書『経済発展の理論(1912年)』のなかで提唱されました。シュンペーター氏はイノベーションを5種類に分類しています。

ヨーゼフ・シュンペーター氏が提唱する5種類のイノベーション
プロダクト・イノベーション 従来とは異なる画期的な新商品やサービスの開発
プロセス・イノベーション 生産工程や流通などでの革新的な仕組みや方法の導入
マーケット・イノベーション 既存の商品、技術やサービスを元に全く新しい市場への参入
サプライチェーン・イノベーション 商品の原材料の見直しや供給ルートの新しい開拓
オーガニゼーション・イノベーション 組織や体制の変革

 企業が競争に勝ち抜いて生き残っていくためには、イノベーションの考え方を理解するのみならず、マインドを持つことが極めて重要です。

 一方で、イノベーションという言葉にとらわれすぎてうまく進めない企業や組織も多くあります。自社の技術や強みを生かし、世の中に新しい価値となる商品やサービスを生み出すことが結果的にイノベーションにつながります。

 イノベーションという言葉は、ビジネスを中心にさまざまな分野に浸透しています。ここでは、イノベーションがあらゆる企業で必要といわれる理由について解説します。

 商品やサービスがあふれる現代において、自分たちが考えていることは他社も皆同じように考えています。誰でも思いつく改善点を積み上げていくだけでは競争に負けてしまいます。

 そのため、他社では実現できないスピードで進めるか、他社では考えつかないことを創造する取り組みが求められます。このように非連続な革新を起こしていかなければ、企業は勝ち残れません。

 筆者もソニーの商品企画を担当していたとき、商品企画会議の席上で部門の役員から「アイデアはいい。ただお前たちみたいな凡人が考えていることは100人考えているんだ、半分のスケジュールでやれ!」と言われ、死に物狂いで商品化しました。それでも競合他社によく似た商品を一歩先に発売され、悔しい思いをした経験があります。

 IT技術・AI・素材からデバイスまで、技術の進化は恐ろしいほど急速になっています。そしてこの進化は今後さらに加速するでしょう。技術の進化を見越して商品やサービスを開発しなければ、市場に導入したときには陳腐化してしまっていることも少なくありません。

 ただ社会のトレンドを予測し、それに追従しているようではイノベーションは起こせません。技術の進化を予測するのではなく、自らが進化を起こして新たな時代を創るマインドこそが大切です。このようなマインドがイノベーションを生み、企業の成長や社会の発展につながります。

 技術の進化に加えて、市場環境も大きく変化しています。予測不可能な変化として一般的に挙げられるものには以下があります。

  • 環境問題
  • 少子化による労働人口の減少
  • 働き方の変化
  • 消費者の思考の変化
  • パンデミックや災害

 このような時代の変化に対応していくためにも、企業はさまざまな変革にチャレンジしていく必要があります。しかし、このような時代の変化は今に限った話ではありません。例えば『ストーリーとしての競争戦略』によると、1964年の日本経済新聞の記事で以下が述べられているといいます。

いよいよ日本経済は先の見えない時代に突入したという感がある。今こそ激動期だという認識が大切だ。これまでのやり方はもはや通用しない。過去の成功体験をいったん白紙に戻すという思い切った姿勢が経営者に求められる。

引用:楠木建 著『ストーリーとしての競争戦略』p.10 東洋経済新報社

 ビジネスの世界はいつの時代も激動期です。変化を恐れずに、時代の流れの先を見ながら自社を変革していきましょう。

イノベーションの四つの類型
イノベーションの四つの類型:著者作成

 イノベーションは技術および市場へのインパクトが革新的か保守的かによって、構築的革新・革命的革新・間隙創造的革新・通常的革新の四つのタイプに分類されます。

イノベーションのタイプ 具体例
構築的革新 電気、パーソナルコンピューター
革命的革新 アナログからデジタルへの移行、モバイル通信の進化(5G通信など)、介護用ロボット
間隙創造的革新 ウォークマン、スマホ
通常的革新 技術の進化や生産方法の改善で既存商品を安価で販売する行為

 なお、イノベーションは破壊的イノベーションと持続的イノベーションに分類されることがあります。構築的革新・革命的革新・間隙創造的革新は破壊的イノベーションに、通常的革新は持続的イノベーションにあたります。

 構築的革新は、技術が革新的で、まったく新しい市場を生み出すタイプです。もっとも非連続な革新になります。トーマス・エジソンによる電気の発明やパーソナルコンピュータの発明、一般大衆向けの自動車T型フォードなどが事例として挙げられます。

 構築的革新は、顧客や市場が想像していないような革新となります。たとえば、ヘンリー・フォード氏の自動車の発明に対する以下の言葉は有名です。

If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses. 顧客に何がほしいかを尋ねたら、もっと早い馬車が欲しいと答えただろう。

 まさに構築的革新を象徴する言葉です。

 革命的革新は、技術が革新的である一方、市場自体は既存価値の置き換えとなるタイプです。主な事例として、以下のケースが挙げられます。

  • アナログからデジタルへの移行
  • モバイル通信の進化(5G通信など)
  • 少ない量で汚れが落ちる花王の洗濯洗剤アタック
  • 介護用ロボットなど

 そのほか、自動車のハイブリッド化やEV化なども革命的革新にあたるでしょう。Chat GPTなどの生成AIもこの革命的革新に分類されると思います。これだけ技術が進化した今、もうこれ以上発展する余地がないように思えるときもあるかもしれません。ですが「人間の欲求は永遠に続き、それをテクノロジーが便利にしていく」といわれるように、今後も技術は永遠に進化し、さらに便利な世の中になっていくでしょう。

 間隙創造的革新は、技術自体は革新的ではないものの、新しい市場を創造するタイプです。ソニーのウォークマンや日清のカップヌードルなどが例として挙げられます。スマートフォンなどもこのタイプに分類されます。

 「イノベーションは組み合わせ」によって起こるとよくいわれますが、この間隙創造的革新はそれにあたります。技術的なハードルは高くなく、アイデア次第でイノベーションを起こせるタイプです。

 通常的革新は技術が既存の延長に近く、市場に対しても革新的とはいえないものの、高い価値を実現するタイプです。「技術の進化や生産方法の改善によって、既存商品を安価で高品質に提供できるようになる」ことなどがこのタイプにあたります。1980年代の日本企業は、このような通常的革新を得意としていました。

 企業にとって「イノベーションを起こす」ことはもちろん大切です。しかし「起こす」という意識だけでは、いわゆる一発屋で終わってしまう恐れがあります。

 より大切なのは、小さくてもよいので「イノベーションを起こし続ける」ことです。では、どのような企業がイノベーションを起こし続けているのか、イノベーションを起こし続けている企業の特徴について筆者が考えるポイントを挙げます。

 人に性格があるように、企業には社風があります。イノベーションを起こし続けている企業には「新しい何かを創りたい」「市場に何かを提案したい」という社風があります。

 イノベーションでよく取り上げられるアップルやアマゾンも同様です。イノベーションを起こし続ける多くの中小企業も、新しいものを生み出すことを自社のミッション(使命)とし、チャレンジし続けています。

 筆者がかつてソニーの商品企画部に配属となったとき、当時の副社長で部門のトップでもあった大曽根幸三氏から会議で以下のように言われました。

ソニーらしい商品、まだ誰もやっていない世界初か日本初だけを企画しろ! それ以外はダメだ。

 この言葉はいまだに忘れられません。大曽根氏だけでなく、ソニーには「新しいものを創るのがソニーの役割」という社風が会社全体にありました。

 イノベーションには斬新なアイデア発想が不可欠です。しかし、アイデア発想だけではイノベーションは生まれません。さまざまな難題を乗り越えて、そのアイデアを実現できるかどうかが鍵となります。

 また、イノベーションにつながるような新規性の高いアイデアは、往々にして周囲の人から反対されます。大曽根氏も初代ウォークマン開発時の以下のようなエピソードを挙げています。

 試作機を手に盛田昭夫会長の部屋を訪れた井深氏(井深大名誉会長)は、「歩きながら聴けるステレオのカセットプレーヤーがあったらいいと思うのだが」と提案した。盛田会長も気に入り、ウォークマンの本格的生産に乗り出すことになった。
 ところが社内からは相当な反対意見が出てきた。録音・再生ができてこそのテープレコーダー、録音ができなくては買う人がいるわけがない、と言うのだ。騒いでいるだけならいいが、ご丁寧に市場調査会社に何百万円も払って調査を依頼し、その調査結果を手に「これを見てもらえれば、売れる可能性がまったくないことがわかるはずです」と言ってきた。
 冗談ではない。ウォークマンはまだできていない、この世にないものだ。まだ存在しないものを、いったいどうやって調査したというのか。

引用:石田修大 著『急ぎの仕事は忙しいヤツに頼め ソニー元副社長・大曽根幸三の成功金言53』p.56、57(括弧内筆者)角川SSC新書

 イノベーションにつながる商品やサービスを立ち上げるためには、無数の未知なる課題が立ちはだかります。なぜなら、苦もなくできるものであればすでに誰かがすでにやっているはずだからです。

 イノベーションを起こし続けられる企業の特徴や条件は、周囲の反対を説得し、普通では超えられない壁や難題を克服しながらアイデアを実現できる人材がいることです。このような人材が集まり育つためには、その企業ならではの社風が必要となります。

 イノベーションにつながる商品やサービスの開発にはリスクがつきものです。多くの関係者が反対し、市場調査してもよい結果が得られない企画もあるでしょう。このような企画に対しても、トップはリスクをとれるか否かを最終的に決定します。

 トップが本気でなければ、いくら斬新な企画が提案されたとしても世に出ることはなく、イノベーションにはつながりません。イノベーションを起こし続けている企業は、トップ自らが先頭に立ってチャレンジしているか、社員のチャレンジをトップが判断しリスクを負っているかのどちらかです。

 例えば「ソニーのウォークマンは最終的には盛田昭夫氏の判断で発売につながった」と大曽根幸三氏は述べています。以下はそのときの開発秘話です。

録音できないただの再生機なんて売れっこないと直属の上司をはじめ社内のあちこちから中傷され、つらかった。あまりにも四面楚歌なので設計の仲間と、「本当に売れなかったら東芝か松下電器産業にでも入るか」と話したほど。しかし幸い、“上の上”が味方についていた。盛田さんが「俺が会長の首を賭ける。売れなかったら辞めてもいい」と言ってくれたのです。

引用:「首」賭けたウォークマン開発秘話|東洋経済オンライン

 このソニーの事例のように、トップが本気であることもイノベーションを起こす企業の特徴です。

 企業がイノベーションに取り組むうえでは、意識しなければならないポイントがいくつかあります。ここでは、特に重視したい点を三つ紹介します。

 「市場は探るな、創造せよ」という大曽根幸三氏の言葉があります。加えて、以下のようにも述べています。

 市場は調査するものではなく、自ら創り出さねばならない。こんなものがあったらいいな、こんなことができたら便利なのだがという夢から始まり、それを商品化して、新しい市場を創り上げる。

引用:石田修大 著『急ぎの仕事は忙しいヤツに頼め ソニー元副社長・大曽根幸三の成功金言53』p.57 角川SSC新書

 また、経営コンサルタントの山口周氏は著書『ニュータイプの時代』で「未来は予測せずに『構想』する」とも述べました(同書p.62)。

 さらに同氏は、次のような重要な考えも述べています。

 今、私たちが暮らしている世界は偶然の積み重ねでこのようにでき上がっているわけではありません。どこかで誰かが行った意思決定の集積によって今の世界の風景は描かれているのです。それと同じように、未来の世界の景色は、今この瞬間から未来までのあいだに行われる人々の営みによって決定されることになります。
 であれば本当に考えなければいけないのは、「未来はどうなるのか?」という問題ではなく「未来をどうしたいのか?」という問題であるべきでしょう。

引用:山口周 著『ニュータイプの時代』p.65 ダイヤモンド社

 この考え方はとても重要です。なぜならば、市場調査やリサーチや書籍で得られる未来の予測は他社も同じように得られるからです。その未来の予測で得られた情報に合わせるのではなく、その予測情報をもとに自分たちはどのような未来を創造するのかという視点で考えることが大切になります。

 アマゾン創設者のジェフ・ベゾス氏は「イノベーションのために失敗は受け入れる」としたうえで、以下のように述べています。

私たちは、より大きな失敗をしなければなりません。でなければ、失敗はプロジェクトを進める起爆剤たりえません。 もしAmazonが、より大きな失敗をしていなければ、それは長期的には危険な兆候です。

我々が他より際立っているところは失敗についてだと思う。我々は世界一失敗している企業であるし、実例を挙げるとキリがない。失敗と発明は切っても切り離せないものだ。発明のためには実験が必要だが、何が正解かやる前からわかっているようなものなどを実験とは言わない。

引用:『SUMMIT ONLINE』p.19、20|Amazon

 また、ソニーには「失敗は闇へ葬れ」という語録があります。ソニーも思うように売れない商品をつくってしまい、多くの事業撤退、すなわち失敗を経験しています。これらの企業以外にも、イノベーションを起こしている多くの企業において失敗は大切なこととされています。言い方を変えると、失敗を失敗ととらえていないということです。

 失敗したときのリスクを考えながら慎重に進むことは大切ですが、失敗を恐れて新たなチャレンジをしないことの方が企業にとって大きなリスクとなります。失敗を恐れず、チャレンジしていきましょう。

 正解を過度に求めないことも大切です。筆者は多くのプロジェクトに関わってきましたが、なかなか前に進めないといったことも経験しています。「企画している新しい商品やサービスが本当に売れるのか」「イノベーションにつながるか」といったことを意識しすぎたためです。つまり、結果が出るかを確かめようという気持ちが強すぎたのが原因となっていました。

 本当に売れるか、イノベーションにつながるかどうかを考えることが悪いわけではありません。しかし、それはあくまで結果であり、やってみなければわからないものです。誰にもわからないからこそ、イノベーションにつながる可能性があるのです。

 先述した山口周氏は著書のなかで次のように述べており、筆者はこの言葉に強く共感しています。

イノベーションそのものをマネージすることはできない

引用:山口周 著『外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』p.212 大和書房

 何かに取り組む際には、以下の点に意識を向けて失敗を恐れずチャレンジしましょう。

  • どのようにして自社の技術や強みを生かして世の中に新しい価値を創り出すか
  • どんな世の中をつくっていきたいのか

 そうすることで、いくつかの結果がイノベーションにつながっていくのだと感じています。

 最後にイノベーションがすべてではないことをお伝えしたいと思います。より正確に述べると、イノベーションという言葉にとらわれすぎないことが大切です。

 イノベーションを起こすことを目標に活動するのはよいことですが、イノベーションそのものを目的にしてしまっては本末転倒となり、前に進めなくなってしまいます。

 アップル日本法人リアルディアの元代表取締約社長である前刀禎明氏は、以下のように述べました。

そもそも、イノベーションを起こしている企業は「イノベーションを起こすこと」を目指していません。

引用:GAFAは「イノベーション」なんて目指してない、日本企業の現状認識は間違いだらけ|ビジネス+IT

 筆者も、この言葉に強く共感します。イノベーションを起こしているといわれる企業の多くが、イノベーションを起こすことを意識していても、目的にはしていません。

 大切なことは「自社の世の中に対する価値は何か」「何のための事業か」を明確にすることです。自社のミッション・ビジョン・バリューやパーパスを明確にし、そこに向かって新しい価値を創造していくことが結果としてイノベーションにつながります。

 イノベーションを起こさなければ企業は生き残れないといわれることがあります。しかし、そのようなことは決してありません。イノベーションに当たるような事業や商品を世に出していない企業でも、社会に素晴らしい価値を提供し続けている企業はたくさん存在します。

 また、社外への商品やサービスあるいは社内の業務改革であっても、自社がイノベーションと定義付ければそれはイノベーションといえます。言葉そのものの意味にとらわれ過ぎず、改善が必要なものは改善を続け、改革が必要な場合は大小を問わず改革にチャレンジし、企業を成長させていきましょう。そのような姿勢が社会貢献につながっていきます。

 新規事業開発を進めてみたいという企業から「当社には新規事業開発の経験が全く無いのですが、できるでしょうか?」という質問を受けることがよくあります。確かにセンミツ(千に三つ)といわれるほどに、新規事業開発を成功させるのは簡単ではないかもしれません。

 ただし、筆者はそのような質問に対して、「本気でやりたいと思っているなら必ずできますよ」とお答えしています。筆者自身も本気でそう思っています。

 大企業も中小企業も、創業するきっかけは新規事業開発です。大手企業も、最初は小さな新規事業から始まっています。そして、どの企業も必ず何か新しい事業や活動自体はおこなっているはずです。

 もし新規事業開発の進め方がわからなかったり大きな課題にぶつかったりしても、少しでも先に進んでみることを強くおすすめします。そのチャレンジと経験が担当者および企業にとっても貴重なリソースとなり、確実に次のチャレンジにつながります。

 そうして生まれた商品やサービス、事業がイノベーションにつながっていくのだと思います。ぜひ、迷わず新しいことを試してみてください。