目次

  1. 問い合わせが7倍 質も変わったホームページとは?
  2. 新規顧客にもつながるプレスリリース
  3. チームで売り上げを伸ばすデジタル営業
  4. 不況に強い会社の特徴とは?
  5. 成果はどう評価する?
  6. 田舎でよい人材を確保するには?
  7. 「売上10億円の壁を突き破る! 営業DXの強化書」2/7発売

 イベント前半では、缶メーカー・側島製罐(愛知県大治町)の石川貴也代表を迎えて、パネルディスカッションを実施しました。側島製罐では、ホームページの刷新によって、問い合わせが7倍に増えたといいます。

 石川さんはホームページについて、「見た目をよくすればいいというわけではない。重要なのは、社員が自社に誇りを持ち、お客さんの信頼を得られるようなものにすることです」と話します。そのために、自社の「経営理念」「強み」「弱み」について、徹底的に棚卸しをしました。

自社の取り組みについて話す石川さん(壇上左)

 その結果、側島製罐の新しいホームページは「製造業のホームページとしては変わったもの」になりました。通常、製造業のホームページは「自社製品」や「自社でできること」を大きく掲げます。しかし石川さんは自社の「想い」を前面に押し出しました。

 そのようなホームページにしたのには理由があります。缶業界において中堅の側島製罐は、大手に価格競争ではかなわないからです。

 現在のホームページになってから、問い合わせの数が増えただけでなく、その内容も変わったといいます。

 「以前は相見積もりの問い合わせしか来なかったのが、今は『こういう会社に任せたい』と弊社を指名していただけることが増えました」

 新規の顧客は、側島製罐をどのようにして知るのか。石川さんは「テレビや新聞などマスメディアを通して弊社を知る、というルートは大きい」と感じるそうです。

 「マスメディアに出るためにはどうすればいい?」という質問に対し、石川さんは「ひたすらプレスリリースを出します」とシンプルに回答。司会を務めたツギノジダイの杉本崇編集長は「業界紙以外のテレビや一般紙では、(側島製罐のような)BtoBの事例を取り上げることはハードルが高い。意識が消費者に向いているので、消費者に反響があるような『フック』がプレスリリースにあると、取り上げられやすくなります」と、メディア視点での意見を述べました。

自社の取り組みについて話す石川さん

 プレスリリースは、通常A4一枚で簡潔にまとめるのがセオリーです。しかし側島製罐のプレスリリースは「想い」の説明が長く続き、商品の詳細説明はわずか。それにもかかわらず、PR TIMESの「プレスリリースアワード2022」にて、インフルエンス賞を受賞しました。石川さんは「ずっと『ストーリー』を売り続けているんです。『作り手や想い』に軸足を置き、商品の裏側に常に『人』を感じさせたいと考えています」と話します。

 勉強会中盤では、広告代理店・シーエムスタッフ(名古屋市)の渡辺紀幸代表取締役を迎え、企業の営業支援を手掛けるカイロスマーケティング(東京都渋谷区)の佐宗大介代表取締役がナビゲーターとなって、「チームで売り上げを伸ばすデジタル営業」をテーマに話し合いました。

デジタル営業について話すシーエムスタッフの渡辺さん(壇上左)とカイロスマーケティングの佐宗さん(壇上右)

 シーエムスタッフでは営業の主軸を、3年前からインターネットにシフトしました。とはいえ、従来通りの飛び込み営業も続けており、ハイブリッド型で売り上げを伸ばしています。

 デジタル営業をはじめた背景には、飛び込み営業で仕事が取れる人材は限られていると感じたことがあるといいます。かつての営業方法では「リサーチ」「開拓」「仕事決定」「アフターサービス」まで、すべてを一人でこなす必要がありました。できる人はどんどん仕事をとってきますが、できない人は辞めてしまいます。

 そこで、シーエムスタッフではマーケターを増やし、Webを活用してチームプレーで営業をおこなうことにしました。積極的な営業方法である「プッシュ型」から、顧客から問い合わせをもらって営業につなげる「プル型」へリニューアル。出版社と組んでコンテンツマーケティングをおこない、見込み客にはメルマガ営業をかけてバックアップしています。

 営業のデジタル化のため、シーエムスタッフで導入しているのがカイロスマーケティングのCRM(顧客関係管理)ツール、「Kairos3」です。

「Kairos3」を提供するカイロスマーケティングの佐宗さん

「Kairos3」では、

  • Kairos3 Marketing…見込み客をネット上で抽出し良質なアタックリストを作る
  • Kairos3 Sales…日々の商談の対応を記録して可視化する
  • Kairos3 Timing…日程調整を効率化してワンクリックでアポをとる

という機能を提供。

 渡辺さんによると、Kairos3では顧客が自社コンテンツを見るとスコアが上がり、興味を持った顧客が一目でわかるため、「見込み客を絞り込みやすいこと」がポイント。またKairos3を選んだほかの理由として、

  • 海外のツールは自動化に振れすぎているため、日本企業の事情に合ったものがよい
  • 予算感がちょうどよい
  • UIの使い勝手がよい

などを挙げています。

 会場からは「できる営業マンも、デジタル営業にすぐになじめましたか?」と質問が出ました。渡辺さんは「できる営業マンは、『最新ツールは使うべき』と考えているものです」と回答。シーエムスタッフでは、まずは若手からツールを使い始めて、中堅へ広げていきました。

ツールの活用方法について話す渡辺さん

 渡辺さんは当初「成績上位のベテランは無理に使わなくてもよい」と考えていましたが、ベテラン従業員のほうから「新しい情報に触れたいし、仕事の効率が上がるなら使ってみたい」と言ってきたといいます。「半年後に全員使用できれば十分と考えていたのに、一カ月後には全員が使っていました」と振り返ります。

 勉強会の最後には、石川さん、渡辺さん、佐宗さんの3人でディスカッションをおこないました。年商10億の壁がなかなか越えられないという企業は少なくありません。そのためにどう組織をつくりあげていくかについて、意見を交わしました。

(壇上左から)カイロスマーケティングの佐宗さん、シーエムスタッフの渡辺さん、側島製罐の石川さん、ツギノジダイの杉本編集長

 シーエムスタッフの渡辺さんは「リーマン・ショックなど不況で多くの同業企業がつぶれるのを見てきたが、生き残れるかどうかには共通点があった」といいます。

 広告業界は、代表が「クリエイティブ出身」と「営業出身」に大きく分かれます。渡辺さんいわく、「仕事のないときには『営業の強い会社』が強い」とのこと。そのため、シーエムスタッフでは従来通りの営業も捨てず「ハイブリッド型」で行くのだといいます。「取りに行く営業」前提での仕組み化を考えています。

 会場の参加者からも、活発に質問の手があがりました。

 まず「従業員の成果はどう評価するか?」という質問に、側島製罐の石川さんは「弊社は評価はしません。過去の実績を評価して報酬を決めるのではなく、これから半年、一年後に社員がやりたいことと希望報酬を聞き、会社が投資する自己申告型報酬制度を導入したところです」と回答しました。

参加者からの質問の様子

 これを受け、渡辺さんは「石川さんのやり方は理想的でうらやましい」と述べました。シーエムスタッフのような広告業界では、そもそも一人ひとりの自由度が高いので、あまり自由を認めてしまうと際限がなくなって危険だといいます。トップは常に先を見て全責任を持って決めるべき、というのが渡辺さんの考え。「うちは民主主義は無理だけど独裁もダメ。中間を行きます。評価は数字化しているのではっきりと出ます」

 佐宗さんは「弊社は自社で評価の指標を0から作りました」といいます。「自分軸・他人軸」「現在軸・未来軸」をもとに組み合わせて評価するのだそうです。

 「情報をどこまで社員に開示するか?」という問いについては各社で意見が分かれました。石川さんは「基本的にすべて開示」、渡辺さんは「すべて開示は無理」と回答。

 佐宗さんは「上場に向けて銀行口座の預金を開示しました。やってよかったと感じています。というのも、社員が本当に頑張ってくれるようになったんです。質問内容も以前とは変わり、『経営が苦しい』という言葉も実感として理解されるようになりました」と自身の経験談を語りました。

 「売り上げアップと設備投資のどちらを優先すべきか?」については、「まずは売り上げが先で、利益が出たら設備投資に回す」というのが共通した意見でした。

 また、多くの中小企業が悩むのが人材採用です。特に山間部での雇用や、人材をどう若返らせるかについては、頭を抱える経営者が多いようです。

 「どんな田舎でも、魅力的な人や仕事があれば人は来る」というのが、3人の共通した意見でした。前職で地方創生に従事していた石川さんは「田舎には『いい仕事がない』というイメージがある」と話します。「いい仕事」には、給料や待遇だけでなく、やりがいや自分の役割があり、人生のビジョンと重なるものが必要です。

ディスカッションで話をする側島製罐の石川さん(左)と、ツギノジダイの杉本編集長

 「弊社は最寄り駅から徒歩20分ですし、駅も私鉄で1時間に4本しかないような田舎ですが、たとえば転職支援サイトのウォンテッドリーなどで弊社を知り、ビジョンに共感して人が来てくれて、一年で4人採用しました。そうして入ってきた人の活躍がすさまじいんです」と石川さん。「魅力的な人や仕事があれば人は来る」ということを自身で証明しています。

ディスカッションで話をするカイロスマーケティングの佐宗さん(左)とシーエムスタッフの渡辺さん

 まだまだ対話は尽きませんでしたが、勉強会はここで終了。このあとの懇親会に持ち越しとなり、夜遅くまで活発な情報交換が続きました。

 建設会社の役員は「メルマガから営業がどのような成果を上げてきたかを見えるようにするという流れが興味深かったので、実際に試してみたい」と意欲を見せました。

 出版印刷会社の代表は「Kairos3を実際に使っています。今日の話の中では、マーケターを増やすことと探し方についてが参考になりました」とのこと。

 製造業の部長は「営業にWebをどう生かすか、すごく勉強になりました。すぐにでもホームページのリニューアルに着手したいです」と笑顔で話しました。

名刺交換など会場で交流をする参加者

 佐宗さんは2月7日、著書「売上10億円の壁を突き破る! 営業DXの強化書」(ダイヤモンド社)を出す予定です。

 売上10億円に到達するためには、人材育成や新規顧客開拓といった課題を克服する必要があり、営業DXがどのように役立つのかについて記しています。