目次

  1. リソース・ベースド・ビュー(RBV)とは
    1. ポジショニング・ビューとの違い
    2. コア・コンピタンスとの違い
  2. RBVで活用するフレームワーク「VRIO分析」とは
  3. RBVで活用するその他のフレームワーク
    1. SWOT分析
    2. バリューチェーン分析
    3. PESTEL分析
  4. リソース・ベースド・ビューを活用するメリット
    1. 競争優位性の源泉を特定できる
    2. 効率的なリソース配分ができる
    3. 長期的な戦略の策定ができる
  5. リソース・ベースド・ビューの課題と効果的な活用のポイント
    1. リソースの特定と評価が難しい
    2. 市場環境の変化への対応が遅れやすい
    3. 過度な内部焦点化による機会の見逃し
  6. リソース・ベースド・ビューを効果的に活用した企業事例
    1. 地方のパン屋
    2. 地方の宿泊施設
  7. リソース・ベースド・ビューによって自社の競争優位性を明確にしよう

 リソース・ベースド・ビュー(RBV:Resource Based View)とは、企業の競争優位は内部リソースとその能力に依存するという考え方で、B・ワーナーフェルト氏によって1984年に提唱された経営戦略の理論です。

 リソース・ベースド・ビューでは、企業が持つ独自の資産である技術スキルやノウハウ、組織力や生産設備などの内部リソースが、競争上の優位性を生み出す源泉であるとします。そのうえで、それら内部リソースの効果的な活用によって長期的な成長戦略を構築します。

 リソース・ベースド・ビューと似たような言葉に、ポジショニング・ビューがあります。

用語 観点
ポジショニング・ビュー 企業が市場内でどのように位置付けられるかに焦点を当てる
リソース・ベースド・ビュー 市場で競争優位性を築く企業の内部リソースに焦点を当てる

 ポジショニング・ビューは、企業が市場内でどのように位置付けられるかに焦点を当てる考え方です。リソース・ベースド・ビューとは、競争優位性の分析で着目する方向が異なります。

 ポジショニング・ビューでは内部リソースではなく、市場構造・競争環境・顧客のニーズなどに適応し、競合他社との違いを明確にすることを重視しています。

 リソース・ベースド・ビューは内部から外部へのアプローチを取るのに対し、ポジショニング・ビューは外部から内部という視点で分析をおこないます。

 コア・コンピタンスも、リソース・ベースド・ビューの関連用語として、よく取り上げられる言葉です。

用語 観点
コア・コンピタンス 企業が持つ特定の重要なスキルや知識に焦点を当てる
リソース・ベースド・ビュー 市場で競争優位性を築く企業の内部リソースに焦点を当てる

 コア・コンピタンスは、企業が競争相手よりも優れている独自の中核的な技術や能力を指します。リソース・ベースド・ビューは、競争優位性に関わるすべての内部リソースに着目している点が異なります。

 コア・コンピタンスは企業の根幹をなす能力であり、保護・育成することで持続可能な競争優位を築き、新たな市場機会を生み出すことを目的とします。

 リソース・ベースド・ビューが企業の内部リソース全般を分析の対象とするのに対し、コア・コンピタンスはより特定の重要な能力や技術などに注目します。

 リソース・ベースド・ビュー(RBV)では、企業の競争優位が内部リソースによって生み出されると考えられています。この理論のなかで、VRIO分析は重要なツールとして使用されます。

 VRIO分析は「Value(価値)」「Rarity(希少性)」「Imitability(模倣不可)」「Organization(組織化)」の頭文字を取ったもので、企業が持つリソースがこれらの特性をどのように満たしているかを評価するフレームワークです。

 それぞれの要素の有無によって競争優位性が評価できます。例えばVRIOのすべてが揃っていれば「持続的な競争優位性」があり、長期的な事業の存続が期待できます。

経済的な価値がある? 希少性がある? 模倣困難性がある? 組織運営は適切? 優位性
NO NO NO NO 競争劣位
YES NO NO NO 競争均衡
YES YES NO NO 一時的な競争優位
YES YES YES NO 潜在的な競争優位
YES YES YES YES 持続的な競争優位

 VRIO分析の目的は、企業が持つリソースや能力を評価し、それがどのように持続可能な競争優位を生み出す可能性があるかを判断することです。例えば、地方のカフェ店舗がVRIO分析をおこなう際の具体例は以下の通りです。

評価の内容 具体例
Value(経済的価値) リソースが市場で価値を持ち、顧客のニーズを満たすか 地元の特産品を使用したユニークなメニューがある
Rarity(希少性) リソースが市場で珍しく、競合他社が持っていないか 地域で唯一、独自の豆配合と焙煎・抽出をおこなうスペシャリティコーヒーを扱う
Inimitability(模倣困難性) 他の企業がそのリソースを容易に模倣または取得できないか 25年にわたる経験と知識を持つバリスタやシェフが在籍している
Organization(組織) リソースを最大限活用し、効率的に組織化できるか フィードバックを受けて、継続的にサービスを改善する企業文化がある

 VRIO分析でリソースの戦略的価値を明確にし、四つの要素を総合的に分析することで、企業は自社の強みと機会を特定して戦略的な決定を下せます。

 リソース・ベースド・ビュー(RBV)には、VRIO分析以外にもいくつかの重要なフレームワークがあります。

 これらのフレームワークは、企業の内部リソースと外部環境の両方を総合的に評価し、戦略的な意思決定を支援するためにRBV理論内で広く使用されます。

フレームワーク 評価の方法
SWOT分析 「Strengths(強み)」
「Weaknesses(弱み)」
「Opportunities(機会)」
「Threats(脅威)」
バリューチェーン分析 「主要活動」と「支援活動」
PESTEL分析 「Political(政治的)」
「Economic(経済的)」
「Social(社会的)」
「Technological(技術的)」
「Environmental(環境的)」
「Legal(法的)」

 それぞれの分析について紹介します。

 SWOT分析は、企業の「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」を評価します。

 自社内部の強みと弱みを特定し、これらを外部環境の機会や脅威と関連付けることで、企業がどのように競争優位を築くかを明らかにします。これにより、企業の内部リソースと外部環境の両方を考慮した戦略立案が可能になります。

 バリューチェーン分析は、企業の活動を「主要活動」と「支援活動」に分け、それぞれの活動がどのように価値を創造しているかを評価します。

 企業の生産活動のコストと価値を評価し、最も価値を生み出す活動と改善の余地がある活動を明らかにし、競争優位性を強化するための戦略を策定できます。

 PESTEL分析は、外部環境の「Political(政治的)」「Economic(経済的)」「Social(社会的)」「Technological(技術的)」「Environmental(環境的)」「Legal(法的)」の要素を評価します。

 企業が直面する外部環境の変化を理解し、内部リソースや能力にどのような影響を及ぼすかを分析することで、外部環境の変化に対応した戦略立案が可能になります。

 リソース・ベースド・ビューを経営に活用することで、さまざまなメリットを得られます。ここでは、三つの主要なメリットを紹介します。

 リソース・ベースド・ビューは、企業が持つ独自のスキル・専門知識・顧客関係などの無形資産を評価し、競争優位性の源泉の特定に役立ちます。

 大企業に比べて組織力が劣る中小企業では、内部リソースを活用した独特な顧客サービスの提供、特定の年齢層や趣味嗜好を持つ人といったターゲットの絞り込みなどにより、収益を高めるための事業に注力しやすくなります。

 リソース・ベースド・ビューは、企業が持つ内部リソースを最適に活用し、無駄な投資を避けるための指針を決められます。

 中小企業では限られたリソースを効率的に配分し、強みを生かすことが特に重要です。リソース・ベースド・ビューによる分析を通じて、どのリソースが最も価値を生み出しているかを理解し、それらに焦点を合わせることで、限られたリソースを最大限に活用できます。

 リソース・ベースド・ビューは、内部リソースの分析を通じた長期的な視点での戦略策定にも役立ちます。

 特に中小企業では、短期的な利益よりも持続可能な成長と競争優位を構築することが重要です。リソース・ベースド・ビューによって競争優位性を把握することで、より自社が注力すべき核となるリソースを特定し、将来的にどの分野に焦点を当ててどのように成長していくかを計画できます。

 リソース・ベースド・ビューは多くのメリットがありますが、課題も抱えています。ここでは、代表的な課題と効果的な活用のポイントを合わせて紹介します。

課題 効果的な活用のためのポイント
リソースの抽出と評価が難しい 客観的な評価基準を設定し、可能な限り具体的なデータや指標を用いてリソースを評価する

 リソース・ベースド・ビューでは企業が持つ内部リソースを正確に特定し、その価値を評価する必要がありますが、これが難しい場合があります。特にのれん(自社の持つブランド価値や技術力)などの無形資産や企業文化など、非物質的なリソースの評価は困難です。

 この課題に対処するには、売上高・市場シェア・顧客満足度・特許数などの客観的な評価基準を設定し、可能な限り具体的なデータや指標を用いてリソースを評価することが重要です。

課題 効果的な活用のためのポイント
外部環境の変化への適応が遅れやすい 外部環境の変化を監視し、内部リソースを調整する

 リソース・ベースド・ビューは主に内部リソースに注目するため、外部環境の変化に対する適応能力が低いという課題があります。

 これに対処するためには、外部環境の変化を敏感に察知できるよう市場や業界の動向を継続的に分析しましょう。その際、SWOT分析やPESTEL分析のように外部環境にも焦点を当てたフレームワークの活用が有効です。

 また、多様なスキルを持つ従業員の育成や異なる視点を持つチームを形成するなど、内部リソースの調整も検討しましょう。

課題 効果的な活用のためのポイント
内部リソースに焦点を当て過ぎて機会を見逃す 外部との連携やパートナーシップを積極的に構築する

 リソース・ベースド・ビューを重視するあまり、過度に内部リソースに焦点を当てると、外部リソースの活用が遅れて新しい機会を見逃すリスクがあります。

 これを克服するには、内部リソースの活用や強化のみに注力するのではなく、外部との連携やパートナーシップ締結などで、自社で不足しているリソースを補う視点も大切です。新たな技術や市場の動向を常に監視し、外部の機会を取り入れる柔軟性を持ちましょう。

 リソース・ベースド・ビューを効果的に活用した中小企業の事例を、二つ紹介します。自社に取り入れる際の参考にしましょう。

 ある地方のパン屋では、材料費の高騰と競合店舗の増加によって収益が停滞していました。

 無添加生地を使ったパンの提供という「Value(経済的価値)」と、経験豊富で高い技術を持つベーカリーシェフという「Inimitability(模倣困難性)」はありましたが、差別化が難しいため「Rarity(希少性)」を伸ばすための改善に取り組みました。

 また、接客が好評という「Organization(組織)」のさらなる向上を目指して、接客レベルの均一化にも取り組みました。

 結果的に、特定のパンの限定生産やメニューの絞り込み、開店時間の短縮によってプレミアム化させ、店舗運営コストを下げながら売上アップに成功しました。

 温浴施設を備えたある地方の宿泊施設では、コロナ禍による訪問客減少と競争の激化に直面し、経営の改善が求められていました。

 宿泊施設の「Value(経済的価値)」には地元食材を使った食事とサウナ施設がありましたが、セットサービス展開だけでは限界があり、より客単価を増やすために宿泊利用者とサウナなどの温浴施設の利用者の増加を目指しました。

 周囲にライバルとなる温浴施設が多く、「Rarity(希少性)」と「Inimitability(模倣困難性)」が課題でした。これらをより高めるために、既存の人気サウナであるミストサウナに加えて、競合施設にはない新しいサウナ設備の導入に取り組み、宿泊パックサービスの見直しなどをおこないました。

 テレビやYouTube、漫画などによるサウナ人気の高まりもあり、一般客の利用増加につながっています。

 リソース・ベースド・ビューは、企業の競争優位は内部リソースと能力に依存するという考え方で、VRIO分析などのフレームワークの活用によって競争優位性を明確にできます。

 リソース・ベースド・ビューの活用によって、内部リソースの最適な配分や長期目線での経営戦略策定ができるといったメリットがあります。

 ただし、内部リソースの活用だけでは市場の変化への適応が遅れ、機会の見逃しにつながるリスクもあるため、外部リソースの活用やパートナーシップの締結などにも柔軟に取り組みましょう。