省人化とは?企業が進める三つのメリットや具体的な方法、事例を解説
高齢化により若年層の人手不足が問題となっている環境で企業が生き残るためには、各従業員の能力を最大限に生かして組織全体の生産性を上げることが重要です。そのためには、少人数で業務を効率化させる省人化(読み方:しょうじんか)への取り組みが必要になります。この記事では、人材活用の専門家が省人化のメリットやデメリット、実現のための注意点をわかりやすく解説します。
高齢化により若年層の人手不足が問題となっている環境で企業が生き残るためには、各従業員の能力を最大限に生かして組織全体の生産性を上げることが重要です。そのためには、少人数で業務を効率化させる省人化(読み方:しょうじんか)への取り組みが必要になります。この記事では、人材活用の専門家が省人化のメリットやデメリット、実現のための注意点をわかりやすく解説します。
目次
省人化とは、「人を省く」という言葉どおり、機械・ロボット・IT技術・ツールなどを導入することで、人がおこなわずに済む方法を講じることです。
これまで人が対応していた業務を機械やツールに分担させられるため、経営者は貴重な人材をより有効かつ生産的に生かせます。
省人化とよく似た言葉に「省力化」と「省人化」があります。
省力化とは、人がおこなう作業の手順などを見直し、より少ない労力で効率的に実施できる方法に変えることです。省人化は作業をロボットやツールなどに代替させることに焦点を当てているのに対し、省力化は作業を効率化させることに焦点を当てています。
また、少人化とはある業務をより少ない人数でおこなえるようにすることです。少人化を進めるための方法の一つとして、省人化があるというイメージです。
省人化によってもたらされるメリットは、人員不足の解消だけではありません。ここでは、省人化の主なメリットを三つ紹介します。
これまで従業員がおこなっていた業務をロボットやツールなどに任せることで、従業員には本来持っている能力やスキルをより生かせる業務に従事してもらえます。
例えば、優れた接客スキルを持った店員がいる飲食店で、それまで食器洗いに多くの人員を割いていたとします。このとき、お店は省人化の取り組みとして食洗器を導入することで、本来の能力を発揮できる接客に従業員を配置できるでしょう。すると、顧客満足度は上がり、結果的に売り上げ増加につながります。
このように、省人化は事業や業務を縮小する意味での取り組みではなく、従業員の個性や能力に合わせた人員配置を可能にします。
省人化をおこなうことで、業務の生産性を向上させられます。
それまで人がおこなっていた業務を機械やロボットなどに任せると、人が対応するよりもスピーディーに業務を進行させられます。さらに業務を一定のペースで繰り返すこともできるため、結果としてその業務全体の生産性が向上します。
省人化には、ヒューマンエラーを減らす効果も期待できます。
通常、人が作業をする場合、何らかのヒューマンエラーが発生することは避けられません。どんなに細心の注意を払って業務にあたっても、さまざまな要因によって集中力が妨げられ、間違いを犯したり不十分な作業でエラーを起こしたりするものです。
その点、機械やロボットなどは、同じ作業の繰り返しや人が見落としがちな点に対して確実に対応できます。エラーがないかを確認する時間や、エラー対応に追われる時間を削減し、業務の効率化が実現します。
次に、省人化を進める際の主な注意点を二つ紹介します。省人化に取り組む前に確認しておきましょう。
省人化は、単に業務をおこなう人を機械やロボットと置き換えればよいという単純なものではありません。試験期間を設けずに省人化を導入してしまうと、組織全体の生産性が下がる恐れがあります。
なぜなら、省人化をおこなうことは、現在対象の業務をおこなっている人をその業務から外すことになるためです。いきなり実践すると組織内に以下のような混乱が生じてしまう可能性があります。
省人化を実践する際は、あらかじめ省人化の内容を予告したうえで試験期間を設けるようにしましょう。
対象となる従業員に目的や理由、今後本人に期待する役割などを明確に伝えることなく、一方的に省人化の実施を発表してしまうと、望まぬ人員流出を招く恐れがあります。その理由としては、以下の三つが挙げられます。
人手不足対策になり得る省人化が人員流出につながってしまっては本末転倒です。省人化を実施する際は、従業員への丁寧な説明が必要になります。
上述したように、省人化を進める際は意識しておきたい注意点があります。ここでは、その注意点をふまえ、現場に混乱が起きない省人化の進め方を紹介します。
初めに、省人化を進める目的を明確にし、その目的が単なる人員削減ではないことを従業員に広く周知します。そうすることで、社内全体で協力体制を構築できます。
目的の周知がなければ、これまで業務を担当していた当事者が評価の低さから省人化の対象とされたと誤解してしまったり、中途半端な噂や不安が社内に広まったりする恐れがあります。省人化にどのような結果を期待するのかを社内周知することは社内全体に安心感を与えるとともに、従業員同士の協力意識を養うのです。
また、目的が明確であれば、省人化の達成度も適切に判断できます。
目的が明確になったら、現行業務の中身を明らかにするための棚卸し(明文化)をおこないます。棚卸しを実施することによって、対象業務の見極めが可能になります。
棚卸しをおこなう際は、全部署の全業務を対象にすることが理想です。しかし、社員の業務量が膨大な場合は、業務の生産性に課題を感じている部署や人材不足が著しい部署の業務を優先して棚卸しに取り掛かります。
この洗い出しは時間と労力を要する作業ですが、これをおろそかにすると省人化のための機器ツール類を適切に判断できません。
省人化に取り組んだものの明確な成果を出せずに頓挫するケースの多くは、業務の洗い出しを怠ったことに起因しています。
したがって、省人化を導入する際は、従業員に現行業務の棚卸しをできるだけ詳細におこなわせることが大切です。
棚卸しを進めたら、省人化の対象業務の候補をリストアップしましょう。その際、代替機器やツールの候補も複数挙げる必要があります。
必ずしも大規模な機器やロボットなどの導入を考える必要はありません。コスト面にも配慮し、シンプルなツールや手順の入れ替えで省人化できないかも同時に検討します。
また、候補を検討する際は、社内で思いついた代替機器やITツールに限定せず、専門家の意見を取り入れながら有効なツールや手法を探すことが重要です。
候補のなかから省人化対象の業務および代替手法を仮決定し、トライアルを実施します。トライアル実施から本格実施へとスムーズに移行できるように、期間や確認すべき項目をよく検討し、万全の態勢でトライアルに臨みます。
トライアル段階では、代替手法がうまく機能しないことも想定されます。その場合に備えて、別の代替手法も用意しておきましょう。
各項目におけるトライアル結果を確認し、本格的な実施に向けてクリアすべき課題をリストアップします。
機器・ロボット・ITツールなどから課題クリアに最適な手段を選び、社内の各部署と連携して準備を進めましょう。
また、社内の混乱や関係部署の従業員の不安を招かないように、改めて省人化の実施目的を社内に周知します。このとき、本格的な省人化に移行するための流れを明確にすることが重要です。
同時に、省人化の関係部署に対するサポート体制や、そのサポートを担当するチームも決めていきましょう。
社内全体で本格導入の準備が整ったら、省人化を実施します。その後は実施の経過を見守り、必要に応じて実施の当事者および所属チームにサポートを提供しましょう。
導入後は定期的なミーテイングを実施して、目的に沿った省人化に取り組めているかを確認することが大切です。
また、導入後の成果や今後の計画に関しては随時社内へ報告し、その後の経営判断に生かせるよう文書化しておきます。
実際に省人化を実践している企業の事例を紹介します。省人化に取り組む際の参考にしてみてください。
パラディラボは、セルフサービスのフランス料理店「TOKIO フレンチルナティック」を経営する企業です。「フランス料理を日常に!」をコンセプトに、本格的なフランス料理を手頃な価格で提供しています。
セルフサービスとは真逆のイメージを持つフランス料理店でありながら、人件費などの店舗運営コストを抑えるために券売機システムを採用しました。注文を取る人と料理を運ぶ人を無くすことにより省人化と省力化に成功したのです。省人化に取り組み、ほかのフランス料理店にはない価値の提供を実現したことで、2014年のオープン以来人気店として親しまれています(参照:TOKIO フレンチルナティック こだわり|TOKIOフレンチルナティック )。
とある大阪のホテルでは、非対面でのセルフチェックインなどの導入によってフロント事務を削減し、省人化の運営を実現しています。
このホテルでは、セルフでのチェックインおよびチェックアウトが可能です。また、顔認証システムに登録すれば、深夜でもオートロックを利用して自由に出入りできるため、宿泊客はルームキーを持ち歩く必要がありません。
フロントスタッフは省人化と省力化によって確保できた時間を、利用客へのおもてなしに充てています。
省人化の取り組みを自社の強みとして、このホテルでは非対面でのシステムを宿泊客へのサービス向上につなげると同時に、対面でのサービスの充実も図っています。
政府は、中小企業の省人化・省力化の取り組みに対する支援をおこなっています。2023年度の補正予算では、「中小企業等事業再構築促進事業」を再編した「中小企業省力化投資補助事業」に、1,000億円の予算が組まれました(参照:令和5年度補正予算〈第1号〉の概要|財務省)。
規模に応じて付加価値や生産性の向上を図り、賃上げにつなげることを目的として再編された「中小企業省力化補助事業」では、IoTやロボットなどの汎用製品を「カタログ」に掲載し、簡単に選択・申請できるようになすることで、中小企業の省人化を促進しています。
また、内閣府が発表した「デフレ完全脱却のための総合経済対策」では、「地方・中堅中小企業を含めた持続的賃上げ、所得向上と地方の成長の実現」が5本の柱の一つに位置付けられました。具体的な対策には、賃上げ傾向の継続を目的とした「省人化と省力化への投資に対する支援」が含まれています。
省人化は「人を減らすこと」と誤解されやすい言葉です。しかし、実際は機械やロボットなどの導入により、業務の量と質を維持する、あるいは向上させるとともに、最適な人員配置によって個々の能力を最大限に発揮させるための取り組みを指します。十分な検討をおこなったうえで計画的に実践すれば、顧客満足度を向上させながら少ない人数で付加価値を付けるビジネスモデルも作成可能です。
自社の事業内容に合った手段と方法を見付けられれば、従業員と顧客、そして経営者自身も納得のいく省人化を実現できます。
この記事の内容を参考に、現場の従業員の意見にも耳を傾け、他社との差別化を可能にする省人化に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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