目次

  1. 物流業も取り組む「地場シフト」と労働時間管理
  2. ゆるかった労働時間管理レベルを上げた
  3. 経営陣の「自分が走ればどうにかなる」も改革へ

 2024年4月からの規制で、トラック運転手らの時間外労働に年960時間の上限が適用され、拘束時間は原則として、1日あたり13時間以内、1カ月あたり284時間以内となります。他業種に比べて長時間労働が慢性化していたドライバーの健康を守るための規制強化ではありますが、輸送能力の不足が懸念されています。

 関西地方でコンビニやスーパーへの配送を担う運送会社のAさんは、一部のドライバーで、月の拘束時間の上限を超えてしまう可能性があるといいます。

 「ドライバー1人あたりの拘束時間を減らすためには、たとえばこれまで5人で回していたところを6人に増やす必要があります。とはいえ増やすドライバーは誰でもいいわけではなく、様々なコースや届け先に対応できるスキルが必要になる。人材育成も間に合わないところがあって、単に頭数を増やすだけでは対応できないのがしんどいですね。現実的にはトラックの稼働台数を減らして、余剰人員をあてることしかできなさそうだな、と悩んでいます」

 規制にあわせて仕事をこなすとなると、ある程度受注量をおさえることも必要になりそうです。関西地方の別の運送会社のBさんも、売り上げ減少を承知のうえで、規制への対応を進めてきました。

 「遠方への長距離輸送で無理なルートはもうやめて、近場への輸送を増やす『地場シフト』をここ数年で進めてきました。これまでドライバー1人で回していたところの人手を増やす、という対応もしています。売り上げは下がってしまいますが、致し方ないですね」

 甲信越地方で産業廃棄物の運送を手掛ける会社のCさんは、労働時間の削減を優先する方針を、ドライバーの採用時に説明しているといいます。

 「一人当たりの休みを増やして残業時間を削減するため、3人のドライバーを最近新たに雇いました。面接では、多少給料が下がっても早く家に帰れる仕事がいい、という人を選びました。ドライバー1人あたりの稼働時間は減らしていかないといけない以上、他の運送会社さんから来てくれる人には『いままでのような稼ぎ方はできません、すみません』と伝えています。稼ぎたいというタイプの人は僕のやろうとしている経営の方向には合わないので、お断わりしました」

 2024年度からの規制強化を前向きにとらえる声もありました。関東地方の運送会社のDさんは、それまでゆるい部分があった社内の労働時間の管理を、規制強化を機に改善したといいます。

 「正直数年前までは、労働時間の管理はあってないような状態でした。しかし2024年問題の話題が出てきて、『2024年問題がやばいらしい』という雰囲気が社内やドライバーに広がってきたことで、その流れにうまくのって、社内の勤怠管理のレベルを一段も二段もひきあげることができました。規制強化のいい側面だったんじゃないかと感じますね」

 Bさんも、この意見に同意しました。「規制強化が決まったビフォアーアフターでみると、業界のデジタル化も相当進んだと思います。それなりに大きな会社なのに紙だけで仕事を回していたり、メールアドレスもなかったりする会社が以前はありましたが、そうした世界からだいぶ前進しましたね」

 勤怠管理の厳格化は喜ばしいものの、幹部へのしわ寄せが増えている側面もあるといいます。Bさんは自分たち幹部が、ドライバーの労働時間を基準内に抑えるための「バッファー要員」になっていると打ち明けました。

 「ドライバーの労働時間が今月は基準超過しそうだとなると、私が直接現場に出て運転をします。親族の協力も得てなんとか人手不足を解消しようとする体制になってしまっていますね。ただこれではさらに不測の事態がおきたときに対応できないので、何かあってもまわる体制をしっかり組んでいかないといけないと思います」

 関西地方の運送会社のEさんも、その悩みに共感しました。

 「労働時間の短縮でドライバーが足りないとなると、『自分が走ればどうにかなるやん』っていう考えがやっぱり頭に出てきます。でもその考え方で今を乗り切って生き残っても、この先選ばれる企業になれるかっていう疑問はあります。労働時間の削減っていうのは2024年にクリアしないといけない最低条件ではあるので、その先を見据えて役職者の教育もしていかないといけないですよね」

後編「2024年問題で物流業界の若手幹部が語る、値上げだけが正義ではない」では、荷主への値上げ交渉や、違反企業がどうなるかについての意見交換の様子をお伝えします。