目次

  1. リスクヘッジとは
    1. リスクヘッジの「リスク」とは
    2. リスクヘッジとリスクマネジメントの違い
    3. リスクヘッジとリスクテイクの違い
  2. ビジネスシーンでのリスクヘッジの使い方・例文
  3. ビジネスシーンにおけるリスクヘッジの具体例
    1. ミス・トラブルに対するリスクヘッジ
    2. 情報漏洩に対するリスクヘッジ
    3. 人材流出に対するリスクヘッジ
  4. リスクヘッジの進め方
    1. リスクの特定
    2. リスクの影響把握
    3. 対策の立案
  5. リスクヘッジ能力を高める方法
    1. 勝つことよりも負けないことを重視する
    2. 多角的な視野を持つための意見交換をする
    3. 仮説思考を身につける
  6. リスクヘッジは必須のスキル

 リスクヘッジとは、将来起こりうる危機や障害を予測して、それを回避するための対策を講じることです。主に金融分野(資産運用)で使われている用語で、資産価値の一方的な下落を最小限に食い止め、安定した運用をするための対策を意味しています。

 しかし現在では、リスクヘッジは資産運用における一手法に留まらず、一般的なビジネス用語として浸透しています。ビジネス全般でリスクヘッジという言葉を使用するときには、文字通りリスク(潜在的に起こりうる危機や障害)のヘッジ(防止策)を意味します。

 リスクヘッジの「リスク」とは、現在起こっている危機や障害のことではありません。将来、潜在的に起こりうる危機や障害のことです。

 資産運用では「価格が不確実に変動するリスク」のことを意味しているというのは既に説明した通りです。では、ビジネス全般で使われるリスクヘッジの「リスク」とは何を指しているのでしょうか?

 この場合には、限定的にリスクの対象を捉える必要はなく、ヒト・モノ・カネ・情報の全てがリスクの対象になりえます。例えば、以下のようなリスクが考えられます。

ビジネスにおけるリスクの例
業務遂行上のミス・トラブルによるリスク
人材が流出することによるリスク
情報漏洩によるリスク
製品・サービスの品質によるレピュテーション(評判)のリスク
原材料費の高騰のリスク

 つまり、現在置かれている状況をふまえて、「将来、潜在的に起こりうる危機や障害」の全てがリスクの対象となります。

 リスクヘッジに似た用語として、リスクマネジメントがあります。リスクマネジメントは企業活動の一環として、リスクを組織的に管理することを意味しています。

 プロジェクトマネジメントの知識体系をまとめた参考書「PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)」では、リスクマネジメントのプロセスを「リスクマネジメントの計画」「リスクの特定」「リスクの定性的・定量的分析」「リスク対応の計画」「リスク対応策の実行」「リスクの監視」と定義しています。

 このように、プロジェクトにおけるリスクマネジメントは、プロジェクト全体のリスクを幅広く洗い出して、それらに対する対策をまとめ、計画し実行する活動です。他方、リスクヘッジという用語には、ある状況における特定のリスクに対して対策を講じるというニュアンスが強く含まれています。

 つまり、リスクヘッジはリスクマネジメントに包含されており、特定のリスクに対する回避策を検討するときに使われるというわけです。

 リスクヘッジと反対の概念として、リスクテイクという言葉があります。リスクヘッジはリスクを回避して、大きな成果を得るよりも安定的に事業、サービス、活動を行うことを目的としています。他方、リスクテイクはあえてリスクをとり、大きな成果を得ることが目的です。

 このように、リスクヘッジとリスクテイクは、目的が異なります。結果として、リスクを「回避するのか」「許容するのか」というリスクへの対応の仕方が変わるのです。ただし、リスクテイクをするときの留意点は、「リスクが顕在化したときにその結果を許容できるか」をあらかじめ検討しておく必要があるということです。

 例えば、失敗したら会社が倒産するほど費用をかけてプロダクトをローンチする場合、「会社が倒産する」という結果を許容したうえでリスクテイクする必要があります。「会社が倒産する」という結果を許容できないのであれば、リスクが大きすぎることになり、リスクテイクをしない判断が妥当です。

 ビジネスシーンでリスクヘッジという言葉を使うときの使い方について、例文や言い換えを交えて紹介します。

リスクヘッジをする
意味 将来起こりうる危機や障害を回避するための対策をすること
例文 プレゼンの際、資料を投影するためのモニターが使えなかったときを想定して、紙の資料を用意するリスクヘッジをする
言い換え プレゼンの際、資料を投影するためのモニターが使えないことを想定して、紙の資料を用意するという代替策を講じる
リスクヘッジを図る
意味 将来起こりうる危機や障害を回避するために、いろいろと考えながら計画すること
例文 年に一度の大規模なカンファレンスを自社主催するにあたり、不測の事態が起こらないようにリスクヘッジを図る
言い換え 年に一度の大規模なカンファレンスを自社主催するにあたり、不測の事態が起こらないようにリスクへの対策を計画する
リスクヘッジのために
意味 リスクヘッジを目的として、何かを行う場面で使われる言葉
例文 特定の地域の原材料が高騰するリスクがあるので、リスクヘッジのために仕入先の地域を分散させる
言い換え 特定の地域の原材料が高騰するリスクがあるので、リスクに備えて仕入先の地域を分散させる
リスクヘッジが不十分
意味 将来起こりうる危機や障害を回避するための対策が不十分なこと
例文 社員がSNSを使用することに対するリスクヘッジが不十分であったため、会社のレピュテーションを下げた
言い換え 社員がSNSを使用することに対するリスクへの対策が甘かったため、会社のレピュテーションを下げた

 ここからは、代表的な三つのビジネスシーンにおけるリスクヘッジの具体例について紹介します。

ビジネスにおけるリスクヘッジの具体例
ビジネスにおけるリスクヘッジの具体例(デザイン:中村里歩)

 それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

 一つ目は、ミス・トラブルに対するリスクヘッジです。人が作業するうえで、ミスが起こることは避けられません。また、製品やサービスを提供していると、クレームなどからトラブルに発展する場合もあります。そのため、ミスやトラブルは起こるものとして、リスクヘッジを図ることが大切です。

ミス・トラブルに対するリスクヘッジの例
人為的なミスを起こさないように業務プロセスを自動化する
検査する工程を必ず入れるなど、ミスを想定した業務プロセスにする
クレームに対する窓口や対応方針を策定し、重大なトラブルに発展しないようにする

 二つ目は、情報漏洩に対するリスクヘッジです。現代は情報を抜きにしたビジネスは考えられません。逆にいうと、会社はさまざまな情報を保有しており、それらの情報が漏洩するリスクが常にあるということです。

 また、重大な情報漏洩を起こすと会社のレピュテーションを著しく下げ、経営状態を悪化させることにも繋がりかねません。ですから、現在は情報漏洩に対するリスクヘッジは、必須であると心得ましょう。

情報漏洩に対するリスクヘッジの例
会社から貸与したモバイルパソコンなどのデバイス以外で業務を遂行させない
モバイルパソコンなどのデバイスを暗号化し、紛失しても情報漏洩しないようにする
情報漏洩が発生したときの窓口や対応方針を策定することで、情報漏洩が発生したときの影響を極小化する 

 三つ目は、人材流出に対するリスクヘッジです。今は、転職をするのが当たり前の時代です。つまり、優秀な人材であったとしても会社を去っていく可能性が常にあります。人材流出に対するリスクヘッジは、安定的に事業を運営するためには必須といえます。

人材流出に対するリスクヘッジの例
業務を属人化させずに、誰でも遂行できるように業務プロセスを可視化・標準化する
人材の採用・育成の機能を充実させて、人材を補えるようにする
会社のサービスやプロダクトのコアなノウハウを人材に依存しないようにする(設備や特許など流出しない資産をコアにする)

 リスクヘッジを進めるには、「リスクの特定」「リスクの影響把握」「対策の立案」という三つのステップを踏む必要があります。

 リスクヘッジの第一歩は、リスクを特定することです。実際に危機や障害となってあらわれた事象に対して、再発するリスクがある場合にはリスクの特定がしやすいでしょう。他方、難しいのは、今まで一度も顕在化していないリスクの特定です。

 このような顕在化していないリスクを特定するためには、経験者の知見を活用したり、行程を細分化したり、想像力を働かせてリスクを洗い出したりすることが求められます。

 リスクの特定と同時に考えるべきは、リスクが顕在化したときにどのような影響があるのかを把握するということです。以下のようにヒト・モノ・カネ・情報のどこに影響が及ぶかを検討すると網羅的にリスクの影響を把握しやすくなります。

 人材流出を例に考えてみましょう。

人材流出のリスクを考えるときのポイント
ヒト: 人材が流出し、人材不足になる
モノ: 人材不足によりサービス提供スピードやサービス品質が低下する
カネ: 売上の減少、および採用にかかる費用が増加する
情報: 会社にとって留保しなければならないスキルやノウハウが流出する

 会社の経営に対する影響がそれほど深刻ではないと判断できるときには、簡易な対策で十分かもしれません。しかし、影響が深刻なレベルのときには、対策を精緻に検討することが必要です。

 最後のステップとして対策を立案します。対策には二つの方向性があります。一つはリスクが顕在化しにくいようにすることです。「業務プロセスに検査工程を組み込む」「貸与したデバイス以外で作業しない」といったことが該当します。

 二つ目は、リスクが顕在化してしまった後の対策です。「クレームや情報漏洩が発生したときの窓口や対応方針をあらかじめ決めておく」などが該当します。このように「リスクが顕在化しにくいようにする対策」と「リスクが顕在化した後の対策」の両方を検討するようにしましょう。

 企業がリスクヘッジを進めるためには、社員のリスクヘッジ能力を高めることも並行して行う必要があります。ここでは、リスクヘッジ能力を高める方法とポイントを三つ説明します。

リスクヘッジ能力を高める方法
勝つよりも負けないことを意識する 死守すべき防衛ラインを決め、その防衛ラインを破る可能性があるリスクを把握する
多角的な視野を持つための意見交換をする 多角的な視点を養うために、他者との意見交換やディスカッションを行う
仮説思考を身につける リスクや不確実性に対して仮の答えを持ち、それに基づいて行動・検証する

 これらのポイントを実践することが、リスクヘッジ能力を高め、ひいては安定した成果を得るための礎となります。それぞれについて、詳しく見ていきましょう。

 リスクヘッジ能力を高めるためには、まず「勝つ」ことよりも「負けない」ことを重視する必要があります。「勝つ」という姿勢には、負けるリスクをはらんでいます。ビジネスにおける負けは、市場からの撤退や会社の倒産に繋がりかねません。

 ですから、派手に「勝つ」よりも絶対に「負けない」ことが求められます。仕事をするときには、死守すべき防衛ラインを決め、その防衛ラインを破る可能性があるリスクを把握し、リスクヘッジする必要があります。

 リスクヘッジ能力を高めるためには、自分や自組織だけの単一の視点にとらわれず、多角的な視野を持つことが重要です。単一の視点だけでは、リスクに気が付くことができない場合があるからです。

 多角的な視点を養うためには、他者との意見交換やディスカッションが必要です。異なる立場や専門知識を持つ人々との意見交換は、自身の見解を広げるのに役立ちます。結果、さまざまな視点からリスクを考え、適切な対策を講じることのできる力がつきます。

 リスクヘッジ能力を高めるためには、仮説思考を身につけることも重要です。仮説思考とは、リスクや不確実性に対して仮の答えを持ち、それに基づいて行動することです。

 仮説が間違っていれば、修正して仮説の精度を高めていきます。これを繰り返していけば、やがてリスクの要因や影響を正しく予測し、対策を講じることができるようになります。

 将来の危機や障害を予測して、それを回避するリスクヘッジは、変化の激しい現代のビジネスにおいて不可欠なスキルです。

 リスクの対象は、「業務遂行上のミス・トラブル」「人材流出」「情報漏洩」など多岐にわたります。これらのリスクに対するリスクヘッジのステップは、「リスクを特定」し、「リスクの影響を把握」し、「対策を立案」することです。

 また、リスクヘッジを進めるためには、個人のリスクヘッジ能力の向上が不可欠です。リスクヘッジでリスクを最小限に抑えながら、安定した成果を得る礎を築きましょう。