目次

  1. コンセプトとは
    1. コンセプトの使われ方
    2. コンセプトとテーマの違い
  2. コンセプトの具体例
    1. Apple「1000曲をポケットに」
    2. ダイソン「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」
    3. スターバックス「サードプレイス(第3の場所)」
    4. 吉野家「うまい、やすい、はやい」
    5. AKB48「いつでも会いに行けるアイドル」
    6. ディズニーランド「ファミリー・エンターテイメント」
  3. コンセプトが重要な理由
    1. 自身や自社の活動がブレずに明確になる
    2. 顧客や市場から見て特徴がわかりやすくなる
    3. 顧客満足度の向上につながる
    4. 売上の向上、事業拡大につながる
  4. コンセプトをつくる手順
    1. ステップ1「誰に」を明確にする
    2. ステップ2「何を(どのような価値を)」を定義する
    3. ステップ3「どのように」を定義する
    4. ステップ4「なぜ自社か」を整理する
    5. ステップ5「どこが新しいのか、他とどう違うのか」を明確にする
    6. ステップ6 キャッチコピー的な文章をつくる
  5. 日頃からコンセプトを考えるクセをつけよう

 コンセプト(Concept)とは、概念などと訳されますが、端的に言うと、「事業や商品・サービスなどの軸となる考え方」です。コンセプトがある/ない、コンセプトが明確/不明確 などのようにしばしば使われます。以下のようなフレーズを聞いたことがある人も多いでしょう。

 「今度の新商品は、コンセプトが明確でわかりやすい」
 「このキャッチコピーは、コンセプトが不明確で、言いたいことがわからない」

 「彼の活動は、コンセプトがブレておらず、一本筋が通っている」
 「今回の企画は、コンセプトがブレブレで、やりたいことが全くわからない」

 何かをつくるとき、宣伝広告などプロモーションを行うとき、イベントなどを開催するとき、その他さまざまな場面で、コンセプトがあるかないか、明確か不明確かで行動が左右され、結果が変わってきます。

 それほどコンセプトは重要とされていますが、いざ自分が作ろうと思ったときには、なかなかうまく作れないものです。そのようなコンセプトの事例やつくり方を、わかりやすく解説していきます。

 コンセプトはほとんどの場合、何かしらの対象があります。どのような対象があり、どのように使われるかを紹介します。

①ビジネス活動での例

 ビジネスにおいては、コンセプトは非常によく使われます。それだけコンセプトが大切ということになります。

事業コンセプト その事業自体のコンセプト。誰にどのような事業を行っているのかの軸となる方針。ミッションやパーパスなどとも連動する
商品コンセプト、企画コンセプト 商品の特徴などを明確に表す言葉やイラスト。商品開発では重要な軸となる方針
コンセプトモデル 最終の形態ではなく、商品開発などの初期の段階で、特徴やコンセプトを示したプロトタイプや試作品

②創作活動での例

 創作活動やクリエイティブな場面でもコンセプトはよく使われます。

コンセプトデザイン 最終デザインではなく、初期の段階で特徴や方向性を示したデザインやスケッチ
コンセプトスケッチ 初期段階でコンセプトをわかりやすくビジュアルで示したスケッチ
コンセプトムービー コンセプトを示した短い映像

③その他のコンセプトの例

 その他にも、コンセプトの例として以下のようなものがあります。

コンセプトカー 自動車メーカーが将来のデザインや技術、方向性を示すために作成する試作車
コンセプトショップ ある特定のアイデアや特徴に基づいて作られた店舗
コンセプトレストラン ある特定のテーマやアイデアで作られたレストラン
コンセプトオフィス 新しい働き方やオフィスのデザインを示したオフィススペース

 このように、コンセプトは主に新しく何かを創造するときや、新しい活動に対してよく用いられます。言い換えると、新しく何かを創ったり、新しい活動にトライしたりする場合には、コンセプトを明確にするとよいことになります。

 コンセプトとよく似た言葉として、テーマがあります。ほぼ同じ意味で使われる場合もありますが、使い分ける場合は、コンセプトが概念や大方針として上位にあり、その要素として主題となるテーマを設定することが一般的です。

 例えば、“ファミリー・エンターテインメント”を基本コンセプトとしているディズニーランドは「夢と魔法の王国」をテーマとし、さらに7つのテーマランドがあります。また「海」をテーマにしたテーマパーク、ディズニーシーには8つのテーマポートがあります。

 ただ、筆者としては、難しく考える必要はなく、使用用途によって“コンセプト”や“テーマ”などしっくりくるワードを使えばよいと考えています。

 ショップやレストランのコンセプトは、テーマに置き換えても問題ありませんし、事業コンセプトは、事業ミッションやパーパスにも置き換えても違和感がないことがよくあります。

 いずれのワードを使うにしても、大切なことは、

 ・自分や自社視点では、活動や商品・サービスの軸や方針が明確でブレない
 ・顧客視点では、その商品やサービスの特徴や誰に対してのものかがわかりやすい

 という2点にあります。

 商品やサービスでどのような「コンセプト」の事例があるか見てみましょう。以下は、よくコンセプトとして取り上げられる事例です。

コンセプトの具体例
Apple 1000曲をポケットに
ダイソン 吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機
スターバックス サードプレイス(弟3の場所)
吉野家 うまい、やすい、はやい
AKB48 いつでも会いに行けるアイドル
ディズニーランド ファミリー・エンターテイメント

 企業によっては明確にコンセプトという言葉は使っておらず、理念、ミッション・ビジョン、キャッチフレーズ、スローガンなどとして打ち出しているものもあります。

 商品コンセプトとして紹介される代表例の一つが、iPhoneの前進でもあるApple 初代iPod「1000曲をポケットに」です。 電機メーカーなどは音楽プレーヤーのHDDやメモリーの容量、いわゆるスペックを訴求していましたが、スティーブ・ジョブズはそうではなく、ユーザーにとっての真の価値として語ったこのコンセプトはとても有名です。

 ダイソンの掃除機も商品コンセプトの例としてよく紹介されます。従来の紙パックを使用した掃除機はゴミが溜まると吸引力が落ちてきますが、ダイソンの掃除機は紙パックを使用しないため、吸引力が落ちないところが最大の特徴です。

 ここで、「紙パックを使わない」と言うのではなく、本質の顧客価値を明確にし、「吸引力の変わらない、ただひとつの掃除機」というコンセプトで訴求したところはさすがです。

 スターバックスの例も有名です。スターバックスはカフェとしてコーヒーを販売しているように見えますが、スターバックスがコンセプトとして顧客に価値提供しているのは、「サードプレイス(第3の場所)」です。

 家庭(ファーストプレイス)や職場(セカンドプレイス)に続くくつろげる非日常な空間、一人でも友人とでも過ごせる空間を提供しているとしています。

 非常に明快なコンセプトの代表例が、牛丼チェーン吉野家の「うまい、やすい、はやい」でしょう。今でこそ松屋やすき家など牛丼チェーンが台頭していますが、吉野家のこのコンセプトは非常に明快なコンセプトで誰でもその特徴がわかる事例です。

 AKB48のコンセプト「いつでも会いに行けるアイドル」もよく取り上げられる事例です。それまでのアイドルはコンサート会場などでしか会えない遠い存在でしたが、AKB48は秋元康氏が会いに行きたくなったらいつでも会いに行けるアイドルとしてプロデュースし大成功した例です。コンセプトがとてもわかりやすく、AKB48のさまざまな活動につながっています。

 ディズニーランドは、ウォルト・ディズニー氏が抱く「あらゆる世代の人たちが一緒になって楽しめる“ファミリー・エンターテイメント”を実現したい」という思いが基本コンセプトとなっています。これに沿って数々のテーマパークやアトラクション、イベント・ショーなどがつくられています。

 ここまでコンセプトの具体例や事例を見てきましたが、なぜコンセプトをつくることが重要なのでしょうか。主な効果として、次のようなものが考えられます。

 事業や商品・サービスの企画、その他を推進する際は、常に順調に進むとは限りません。多くの場合、トラブルが起こったり、軌道修正が必要になったりします。

 コンセプトを明確にしておくと、方針がブレにくくなります。また、関係する部署も、コンセプトが明確なことで進む方向や目指す方向がわかりやすく、協力しやすくなるでしょう。

 逆にコンセプトがない、あるいは不明確だと、トラブルや予期せぬことが起こった場合に、方針がコロコロ変わってしまい、どこに向かっているのか右往左往してしまうことがよくあります。関係者も、方針が頻繁に変わってしまうと、安心して協力できなくなってしまいます。

 コンセプトが明確な商品やサービスは、「誰に提供しようとしているのか」「どのような特徴があるのか」「どこが他と違うのか」が明確なため、顧客や市場から見たときに当然わかりやすいものになります。ターゲット顧客がその商品やサービスを自分に対するものだと見つけやすくなり、見つけた後も、特徴が明確なために購入に結びついていきます。

 逆に、コンセプトが不明確な商品やサービスは、誰に提供しようとしているのか、どのような特徴を持つのかがわかりにくいものです。そのため、ターゲット顧客の目についてもらえず、また目についたとしても特徴がわからず購入に結びつかなくなってしまいます。

 宣伝や広告の段階でキャッチコピーとしてコンセプトをつくる場合もありますが、元の商品やサービスのコンセプトが明確な場合、さらに研ぎ澄ませたキャッチフレーズにしていくことで、より魅力あるコンセプトが目指せます。また、商品やサービスの特徴がそのコンセプトに沿っているため、顧客満足度の向上につながります。

 一方、元の商品やサービスのコンセプトが明確でない場合、いくら宣伝や広告で魅力的なキャッチコピーをつくったとしても、表面的なものになってしまいます。すると、顧客に伝わらなかったり、購入につながっても使ってみたらキャッチコピー通りのものではなかったりして、顧客満足につながりません。

 商品やサービスが溢れている現在、これまで触れてきたように、商品やサービスのコンセプトが明確になって初めて顧客の目に付き、選んでもらえるようになります。

 事業自体のコンセプトが明確になっていると、類似商品やサービスが現れた場合にも、その事業コンセプトに従い、商品やサービスを改良していくことで競争に勝つことができます。何より、顧客満足、そしてより社会貢献につながっていきます。

 事例であげたような明確なコンセプトを最初にひらめき、そこから新しい商品やサービスなどの構想を組み立てていくこともありますが、多くの場合、商品やサービスを考えながらコンセプトも整理していくことになるでしょう。

 では、どのようにコンセプトをつくっていけばよいのかの手順をみていきます。

コンセプトをつくる手順
ステップ1 「誰に」を明確にする
ステップ2 「何を(どのような価値を)」を定義する
ステップ3 「どのように」を定義する
ステップ4 「なぜ自社か」を整理する
ステップ5 「どこが新しいのか、他とどう違うのか」を明確にする
ステップ6  キャッチコピー的な文章をつくる

 よく言われるコンセプトのフレームワークは、「誰に」「何を」「どのように」です。これでもよいのですが、筆者はこれらに加えて、「なぜ自社なのか」「どこが新しいのか、他とどう違うのか」を加えてコンセプトを整理することをおすすめしています。

 初めに、ターゲットユーザー、「誰に」向けた商品やサービスなのかを明確にします。

 “To Me Message”という言葉がありますが、見込み顧客がその商品やサービスを見たときに、「自分が探していたものはコレだ!」「この商品は自分に合いそうだ!」と気づいてもらう必要があります。

 従って、まずはできる限り絞り込み、具体的なユーザー層を定義しましょう。例えば、「20代女性」など年代・性別だけではなく、「〇〇で△△な20代の女性」などできるだけ具体的に絞り込みます。いったん絞り込んだ後にまた対象を広げていっても構いません。

  また、対象外となるユーザーをあえて定義することで、ターゲットユーザーをより明確にすることにもつながります。

 「何を」は、具体的な商品やサービスを指します。商品やサービスだけでなく、それらが提供する顧客価値も含まれます。コンセプトをつくるときは、これらを具体的に定義しましょう。

 例えば、「小型のカメラ」とした場合は、カメラが小型になることによって対象顧客は何が得られるのか、どのような真の価値があるのかを定義します。

 ダイソンの掃除機も、紙パックを使わないことは手段であり、本質的な顧客価値ではありません。紙パックを使わないことにより、“吸引力が落ちない事実”が顧客価値になります。さらには、吸引力が落ちないことで「何がよいのか」まで定義できるとよいでしょう。

 「どのように」は、顧客への提供手段を指します。商品やサービスの場合はどのように顧客に届けるのか、モノを提供するのか、サービスとして提供するのか、対価はどのようにもらうのかなどを定義します。

 カーシェアリングなどは、顧客が車を「所有する」から「利用する」へと、この「どのように」が異なっている代表的な事例です。音楽などもCDアルバムを購入するから曲をダウンロードする形へ変化し、さらには曲ごとの支払いから月額聴き放題のように変化しているのも、この「どのように」がコンセプトとなっている事例です。

 「誰に」「何を」は他と同じで、この「どのように」で差別化し、コンセプトとしていくことも可能です。

 新規事業や異業種に参入する場合には、「なぜ自社か」が明確になっていると顧客や市場に伝わりやすくなります。自社のどのような強みや技術、特徴を活かしているのかを顧客視点で整理します。

 富士フィルムが化粧品事業へ参入した話は有名ですが、全くの異業種のように見えながらも、写真フィルムで培ったナノテクノロジー、コラーゲン研究やその他の自社技術が生かされているというストーリーで納得感があります。

 新しい分野への参入の場合は、この「なぜ自社か」のストーリーを整理してみてください。コンセプトにつながっていきます。

 「どこが新しいのか、他とどう違うのか」は、差別化のポイントを指します。

 まだ世の中にない新しい商品やサービスの場合は、それ自体が差別化になります。その際は、なぜ今まで実現されなかったのか、どこが新しいのかが明確にできるとコンセプトにつながります。

 一方、類似の商品やサービスが存在する場合は、他とどう違うのかを明確に言えるかが焦点です。逆に言うと、新しくない、他と違わない商品やサービスではコンセプトもつくれない、市場に出しても売れないものになってしまいます。

 商品やサービスの一部の機能や性能が優れているのではなく、類似のものがあったとしても、「コンセプト自体が新しい」「コンセプトが全く違う」といったように、いわゆる土俵を変えることができると訴求力が向上します。

 「誰に」「何を」「どのように」、そして「なぜ自社か」「どこが新しいのか、他とどう違うのか」を整理したら、必要に応じて短くて魅力のあるキャッチコピー的な文章をつくるとよいでしょう。これは、必ずしも短い文章にする必要はありません。そのうえで、コンセプトをどのように使用していくかでコンセプトの整理の仕方も考えます。

 例えば、筆者がソニーで商品企画を担当していたとき、コモディティ化が進み、差別化が非常に難しかった「記録メディア商品」の企画に携わった経験があります。“使いやすい”というキーワードは誰でも考えているため、そこに他の要素も加え、“使いやすい、選びやすい、運びやすい”という企画コンセプトをつくりました。

 そのうえで、エンドユーザーの使いやすさに加え、店頭での選びやすさにもこだわり、さらには、家電量販店などの販売店様や流通の人たちの輸送にまでこだわった仕様を工夫するなどして、シェアを伸ばしたことがあります。

 当然、新しい仕様の導入は簡単ではなく、社内外の関係部署の協力によって実現された企画ですが、コンセプトが明快だったことで、多くの協力が得られました。

 コンセプトは、急に言われてもよいものがすぐに思いつくわけではありません。

 コンセプトに悩まないようにするためには、日頃から世の中にある商品やサービスのコンセプトを見たり、そのコンセプトが何を意味しているのか考えたりするクセをつけるとよいでしょう。

 また、自分自身の活動にも簡単でよいのでコンセプトを考えてみるのも面白く、かつ効果的です。例えば、家族旅行なら「今回の家族旅行のコンセプトは家族でのんびりすること!」としたら、観光ばかりに時間をとられず、家族の時間をしっかりつくることに意識が向くと思います。

 友人との飲み会の幹事を任されたときは、何かコンセプトを設定してみる、お正月に自分自身の1年のコンセプトを設定してみるのもよいかもしれません。

 ぜひ、難しく考えず、日頃からコンセプトを考えてみてください。きっと仕事でもよいコンセプトにつながっていきます。