目次

  1. そもそも社長とは
  2. 社長になるために必要なもの
    1. 他人にない「強み」があるか
    2. マーケティング能力があるか
    3. 変化をポジティブに考えることができるか
    4. 頼れる仲間がいるか
    5. 偶然の幸運を引き寄せることができるか
  3. 社長になるための勉強方法
    1. 商工会・商工会議所に入会する
    2. 書籍を読む
    3. YouTubeで学ぶ
  4. 社長になるための具体的な四つのステップ
    1. 提供したい商品やサービスを定める
    2. マーケティング理論で分析する
    3. 創業計画書でシュミレーションを行う
    4. 行動あるのみ
  5. 社長としての哲学

 「社長」とは、会社や組織のトップに立つ責任者のことです。起業家と社長を混同して考えている人も多くいるかと思いますが、両者の違いを端的にいうと、起業家は「ビジネスを始める人」で、社長は「ビジネスを運営する人」といえるでしょう。

 起業家は、新しいビジネスやプロジェクトを始める人を指し、新しい会社を作ることが多いですが、必ずしもその会社の社長になるとは限りません。一方で社長は、会社の運営や管理を行い、会社の方向性や戦略を決定します。

 一般的な社長のなり方としては、自分で起業をしてそのまま運営していく「起業パターン」と、従業員から社長になる、家族のあとを継いで社長になるという「事業継承パターン」があります。フランチャイズで開業して社長になるという方法も、広い意味で言えば前者の「起業パターン」です。

 社長のなり方は細かく見れば多岐にわたりますが、大きく分ければ「起業パターン」と「事業継承パターン」の2種類であることを覚えておいてください。

 社長になるために必要なものは、起業パターンと事業継承パターンで異なりますし、業種によっても変わってきますが、ここではどのケースであっても必要なものを、具体例を交えてお伝えしていきます。

社長になるために必要なもの
・他人にない「強み」があるか
・マーケティング能力があるか
・変化をポジティブに考えることができるか
・頼れる仲間がいるか
・偶然の幸運を引き寄せることができるか

 参考にしているのは、LinkedInの共同創業者であるリード・ホフマンが著者の一人である『スタートアップ的人生(キャリア)戦略』です。

 社長としてトップに立って会社を運営していく際に、何かしらの「強み」が必要になります。強みはハード面とソフト面に分けられます。

 ハード面の例としては、「資金がたくさんある」「魅力的な施設や機材をもっている」などがあります。特に起業をして社長をする場合は、このハード面の強みがあると、精神的にゆとりを持って運営できます。また、資金力があれば、会社を買収して社長になることも可能です。

 一方、ソフト面に関しては、頭にある知識や情報、鍛え上げたスキルやマネジメント能力、自身の評判などが強みとなります。

 Googleを起業したラリー・ペイジは、6歳のころからプログラミングを始めていて、スタンフォード大学ではコンピューターサイエンスの博士課程に在籍をしていました。Googleの特徴であるページランクという検索エンジンシステムは、彼がコンピューターサイエンスを強みにしていたからこそ生み出されたものです。

 マーケティングとは、消費者のニーズや欲求を理解し、それに合った商品を開発、価格設定、プロモーション、そして販売するプロセス全体のことを指します。機能性の高い商品やサービスを作ることができたとしても、販売場所や販売方法が悪ければ決して売れません。

 マーケティングの失敗例として有名なのが、ユニバーサルスタジオジャパンです。オープン当初は「ハリウッド」をテーマにしたテーマパークで、思うように集客ができていませんでした。年々来場者数が減っていった理由の一つとして、ハリウッド映画に焦点を当てすぎて、小さい子供を連れて遊べるようなアミューズメントパークになっていなかったことが挙げられます。

 USJの立て直しとして起用されたのが、有名なマーケターである森岡毅さんです。テーマを「あらゆる世代が訪れることのできる、エンターテイメントのセレクトショップ」へと方向転換し、スヌーピー、セサミストリート、ハローキティなどのコンテンツを一か所に集約したエリアやハリーポッターのエリアを作成したことで、業績はV字回復しました。

 消費者目線で商品やサービスをきちんと考えて、適切な場所や適切なタイミングでそれらを届けられれば、売上を伸ばすことができます。このマーケティング能力は、社長に欠かせないものです。

 21世紀は変化の激しい時代です。想像できなかったことが次々と起こっています。近年の例でいえば、ChatGPTの登場が挙げられるでしょう。

 ChatGPTを使えば、文章作成や文章の要約、翻訳などが一瞬にしてできてしまいます。また、ChatGPTに英文の添削をお願いすると、ものすごく自然な英語の文章を教えてくれます。さらに最近では文章を打ち込むと、その文章にあった動画や画像、ウェブページなどを作ることもできるようになってきています。

 5年前、10年前にこのようなものが登場することを想像した人はどのくらいいたでしょうか。このChatGPTの登場によって、新たなビジネスが生まれると同時に、いくつかの会社が倒産へと追い込まれています。

 このように社会の変化が激しい時代には、その変化に応じてビジネスモデルを修正したり、会社のあり方を見直したりすることが社長にとって必要不可欠になります。

 例えば、時価総額日本一のトヨタ自動車も、社会の変化に応じてビジネスを変えてきた有名な会社の一つです。一般的に「トヨタ」は車を製造する会社として有名ですが、もともとは機械で布を作る、繊維工場の会社でした。

 1931年に満州事変が起こり、日本は外国車の輸入に規制をかけました。当時トヨタの2代目の社長であった豊田喜一郎さんは、外国車輸入規制がチャンスだと思い、自動車部門を社内に立ち上げようとします。

 ですが当時、自動織機でのビジネスが絶好調だったために、トヨタの創業者である豊田佐吉さんは喜一郎さんの考えに大反対をしました。当時の従業員も自動車産業への進出に対して疑いを持っていて、さらに銀行も最初はお金を貸すのを断ったそうです。

 それでも喜一郎さんは自動車産業のこれからの未来を考えて、周囲の反対を押し切り、自動車の製造を始めました。社長である喜一郎さんが、「外国車の輸入規制」という社会の変化をしっかりと捉え、自動車製造というビジネスを新たに始めたおかげで、トヨタは今もなお時価総額ナンバーワンの企業となっています。

 成功した社長のドキュメント番組や自伝を見たりすると、社長があたかも自分ひとりの力で成功した、孤独のヒーローのように見えてしまうことがありますが、どんな社長であっても会社や自分を助けてくれる仲間がいます。

 自社の従業員は当然のことですが、取引先の人、同級生、元同僚、ライバル企業など、人を信じて頼ることができる人こそ、大きな成功を手にできます。

 アップルで有名なスティーブ・ジョブズも、一人でアップルを創業したわけではありません。そもそも彼はエンジニアではないので、コンピューターを作ることはできません。ジョブズは、友人でありコンピューターを作ることができるステファン・ウォズニアックを巻き込み、アップルコンピューターを作りました。

 社長には「強み」が必要と書きましたが、自分が持ち合わせていない「強み」に関しては、人に頼ることで、会社を成長させていくことができます。

 近年、ビジネスパーソンが「セレンディピティ」という言葉を口にするようになりました。この言葉は、「偶然の幸運」を意味します。

 「偶然の幸運を引き寄せることができるか」という見出しを見て、矛盾を感じられた方もいるかと思いますが、実は偶然の幸運は引き寄せることができるのです。

 偶然の幸運をもたらしてくれるものは何か。それは「人脈」です。恥ずかしながら、筆者は独立して初めてこの事実に気づくことができました。

 人に会って、相手に好かれるようにふるまう。そうすると予想もしなかった幸運、仕事の案件などを得られる可能性があるのです。

 社長になるために必要なことを効率よく勉強するには、実際の社長から直接学んだり、要点を絞って学んだりすることが重要です。具体的には、以下のような勉強法が挙げられます。

社長になるための勉強法
・商工会・商工会議所に入会する
・書籍を読む
・YouTubeで学ぶ

 各自治体に、商工会または商工会議所があります。基本的に、自身で起業した方や親の後を継いで社長になった方が入会していますが、これから起業しようと考えている人も入会できる場合があります。

 私が住む埼玉県朝霞市では、45歳までの方は商工会の青年部に参加することができ、起業を考えている人や、これから後を継ぐ人達が入会されています。会員が交流できるイベントが多くあり、社長になるために必要なものを実際の社長から直接学ぶことができます。

 現在書店には、社長になるための本がたくさん置かれています。ビジネスモデル、マーケティング、マネジメント・リーダーシップ、財務・会計、雇用など、社長になるために学ぶべきことは多岐に渡りますが、すべての知識を本で身につける必要はありません。会計や雇用に関する本を読んでも、なかなか理解できない場合は、専門家に頼ればよいだけです。

 起業パターンで社長になる場合は、どのようにお金を稼ぐかというビジネスモデルやマーケティングに関する本は読んでおいた方がよいでしょう。オススメの本は『知識ゼロでも今すぐ使える!ビジネスモデル見るだけノート』です。世の中にある企業が、どのようにしてお金を稼いでいるのかを、わかりやすいイラストと文章で学ぶことができます。

 一方、事業継承で社長になる場合は、すでにいる従業員をどのようにマネジメントしていくべきかを書籍を通じて事前に学んでおく必要性があります。オススメの本は、『とにかく仕組み化―人の上に立ち続けるための思考法』です。

 組織をマネジメントしなければいけない社長に必要なものは、「カリスマ性」よりも、ルールやマニュアルをきちんと作るという考え方です。その大切さを、この本は教えてくれます。

 近年、社長自らがYouTubeチャンネルを開設することが増えてきています。社長になった経緯や経営のノウハウ、さらには社長になってからの失敗談など、有益な情報を学ぶことができます。

 なかには月額会員制のオンラインサロンをやっている社長もいるため、YouTube動画で語られている以上のことを勉強したい場合は、オンラインサロンに入会するのもよいかと思います。

 オススメのYouTubeチャンネルは『M&A CAMP』です。有名企業の社長へインタビューしている動画が多く、経営者のぶっちゃけ話が聞けて勉強になります。

 ここでは、起業パターンで社長になる具体的なステップをお伝えします。

社長になるための四つのステップ
1.提供したい商品やサービスを定める 自分の強みを生かして商品を開発したりサービスを提供したりする
2.マーケティング理論で分析する ブルーオーシャン戦略やSTP分析を用いて商品やサービスを磨いていく
3.創業計画書でシュミレーションを行う 創業計画書でシミュレーションを行い、ビジネスの全体像を描く
4.行動あるのみ とにかく行動を起こして認知度を上げる

 起業するうえで一番最初に考えなければいけないことは、「自分自身がどんな商品やサービスを提供するか」です。例えば、筆者は起業をする前に学校の教員として働いていました。「教材作成」や「教える」という技術を強みとしているため、教育コンサルティングを軸としてサービスを提供しています。

 基本的には自分の強みを生かしながら、商品を開発したり、サービスを提供することをオススメします。

 どんな商品やサービスを提供するかをある程度決めたら、マーケティング理論でそれらを分析してみることをオススメします。有名なマーケティングの理論である、ブルーオーシャン戦略やSTP分析などは、インターネットで調べれば簡単に学べます。

 それらのフレームワークを使って、自分で考えた商品やサービスを磨いていくと、ターゲットに刺さる可能性が高まります。

 日本政策金融公庫の公式サイトにある「創業計画書」を書いてみることをオススメします。創業計画書は、金融機関から必要な資金を借りる際に提出するもので、各項目をきちんと記載していくと、自分の考える事業がしっかりと計画されたものになります。

日本政策金融公庫の創業計画書
日本政策金融公庫の創業計画書(公庫の公式サイトから https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/riyou/sougyouji/)

 「事業の見通し」では、売上予想をしたり、仕入高や経費等を見積ったりしながら、利益を計算しましょう。日本政策金融公庫からの借入をしないにしても、起業前に創業計画書でこのようなシミュレーションを行うことで、自分が行おうとしているビジネスの全体像を描けるようになります。

 商品やサービスを提供できる準備が整ったら、仕事を受けるためにとにかく行動を起こしましょう。知り合いに自分が新しく始めたビジネスを伝えたり、SNS広告やチラシなどで商品やサービスの宣伝をしたりして、とにかくいろいろな人に活動を知ってもらうことが大切です。

 AIDMAやAISASといった消費者の購買行動プロセスを説明するモデルがありますが、どちらもまずは自分の商品やサービスを知ってもらうところから始まります。認知度を上げるためには、行動を起こすことが不可欠だと覚えておいてください。

 社長になるための方法には「起業パターン」や「事業継承パターン」がありますが、共通する役割として、最終的な意思決定をする点が挙げられます。最終的な意思決定には、社長の「哲学」があらわれます。

 社長の哲学とは、ビジネスや組織運営に対する根本的な価値観や信念です。会社でどのような社会課題を解決するのか、従業員をどのように扱っていくのか、顧客に対してどのように接していくのか、最終的には社長が判断を下し、責任をとっていかなければいけません。

 それゆえに、単に経営の具体的な方法を学ぶだけではなく、人から慕われるような価値観も醸成していく必要があります。

 ビジネスとは「助け合い」です。自分の利益だけでなく、他者の利益もしっかりと考えられる社長になれれば、社長として成功できるはずです。